予告通り環境分析第3回となる今回は、青系アーキタイプの解説を行いイニストラード環境を締めくくりたい。
(※編注:緑白人間について解説されているpart1は【こちら】、緑黒昂揚や黒赤吸血鬼などの黒系アーキタイプについて解説されているpart2は【こちら】をご覧ください)
■ 青系アーキタイプの種類
話を分かりやすくするために敢えて乱暴な表現を使うが、基本的に現環境の青は好んでやるものではない。
その理由の大部分は青の「殴れなさ」にある。他の環境である程度複数の色で分担してカード枠を割いているマニアパーツを青が一手に引き受けているため汎用的なビートパーツがその分減っているのだ。
では青が肯定される特例的な状況は何か。これは大まかに2パターンに分かれる。一つは環境最強色の緑を強く主張した結果、緑のポジションは主張できたが上下に白黒赤の密集地帯ができてしまった場合の緑青。
これは生物の7割以上を緑の優秀なビートパーツでまかないつつ、厳選された青のビートパーツとスペルで緑を補佐する戦略が基本になる。「デカイ緑と飛んでる青」という分かりやすく優秀な生物のラインナップで相手にプレッシャーをかけ、それを「ジャイグロとバウンス」というテンポに特化したスペル構成でバックアップする、他の環境でもよく見たいわゆる典型的な青緑の動きだ。オプションとして若干の「調査」要素が足されることも珍しくない。
そしてもう一つのパターンは特定レア依存型になる。
3-0が狙えるデッキパワーを前提条件にした場合、青が肯定されるレアはそう多くはない。というかわずか3枚である。
その筆頭は《氷の中の存在》である。この場合カラーコンビネーションは赤青、全体のバランスはスペル14~16枚、生物9~7枚の専用デッキを目指すことになる。青系アーキタイプの中でも最も”リミテッドのベーシックセオリー”からの逸脱度が高いトリッキーなデッキである。
2枚目は《驚恐の目覚め》だ。ここから狙うのはもちろん「由緒正しい異端」ライブラリーアウト戦略である。
推奨されるカラーコンビネーションは青緑か青黒のどちらかになる。「どちらかってどっちだよ」という突っ込みは当然あると思うのだが、意識してもらいたいのは「ライブラリーアウトの最高型は青緑なのだが、青緑の最高型はライブラリーアウトではない」という事実である。
ライブラリーアウト戦略で青緑が推奨される理由は大きく2点。《束の間の記憶》のために「調査」パーツの優先度が上がるという点と《継続する調査》の起動マナだ。しかし環境最強色である緑が空いているポジションにいるなら、レア1枚に引きずられずに殴り殺しに行った方が良い。
反面、青黒がベストになるポジションはライブラリーアウトに特化する必然性が最も高い。除去と接死で相手のエースアタッカーを捌いて《驚恐の目覚め》を《かそけき翼》などで使いまわして相手と別の軸で勝つプランは3-0が狙えるポテンシャルがある。
では結局ライブラリーアウトは青黒がベストかというと話はそう単純でもない。緑ができないということは上が緑をやっているということで、黒緑が白緑に次ぐ環境の有力アーキタイプである以上は少なくない確率で黒も上に塞がれてしまう。
その場合、青黒ライブラリーアウトが欲しい黒のパーツは全て汎用パーツであり、全ての黒系アーキタイプと優先度に差が少ないため、上が現環境の有力アーキタイプである黒緑をやっていた場合は青黒で1色かぶりよりも青緑で1色かぶりの方がベターになってくるのだ。層の厚い緑で被るのはある意味しょうがないが、環境3番手の色である黒で被るのは可能な限り避けたい。
前提が若干複雑になってきたのでシンプルにピックの指針だけまとめると以下のようになる。
3枚目は《ゲラルフの傑作》だ。
こちらは前述の2枚と違って変にデッキを偏ったチューンにする必要がない。カードが強すぎるため、青緑のようなベーシックなビートで運用しても赤青のようなスペル過多のデッキで運用しても変わらず強い。
同様に《秘密の解明者、ジェイス》もボーっと強い系のカードだが、青緑で運用する場合と青赤で運用する場合で強さが大きく変わるため《ゲラルフの傑作》には及ばない。(もちろん青緑においてのそれの方が強い)
次に具体的なカード優先度についてだが、ここは最もクセの強い赤青についてカードの優先度を具体化していきたい。
■ 赤青コモン優先度ランキング
1位 《癇しゃく》
異論をはさむ人はいないだろう。ベスト「マッドネス」カード。
2位 《ただの風》
場に干渉できる「マッドネス」カードは偉い。
同率3位 《ガツタフの放火魔》《薄暮のニブリス》
《ガツタフの放火魔》は重要度はそれほど高くないが、これ以外のパーツが他のアーキタイプと競合しないため高い優先度で評価してあげるくらいで丁度いい。2枚目以降は大きく優先を下げる。
《薄暮のニブリス》はあまり遅く流すと下方向の緑が青をつまみ始める可能性があるので位置取りの意味で評価を高める。アーキタイプの動きに合ったカードではあるが軸にはならない。
5位 《火の猟犬》
必須パーツその1。コモン枠の赤青のフィニッシャーはこのカードになる。レアが対処されたときの二の矢として必ず2枚欲しい。競合は少ないはずなので、この位置で評価すれば十分に確保できるはずだ。
適切なデッキに組み込まれた《火の猟犬》は《ガツタフの放火魔》などよりもはるかに高い打点を叩き出す。
同率6位 《目録》《放たれた怒り》
アーキタイプの動きの軸になるのは《目録》だが、競合の多さから《放たれた怒り》とは優先度はほぼ拮抗している。
ただし《目録》は2枚目以降も採用の価値があるが、《放たれた怒り》は1枚でいいので2枚目以降の優先度に差をつけることを忘れずに。
8位 《苦しめる声》
各種の果敢クリーチャーやそれに準ずる能力の生物を多く採用する赤青においてはインスタントとソーサリーの差はとても大きいのだが、ソーサリーであってもこのカードはキープ基準を大幅に緩めるカードなので1枚は欲しい。2枚目の《目録》よりも優先する。
9位 《かそけき翼》
必須パーツその2。《火の猟犬》による突然死を演出する1枚。
オプションとして《血狂いの吸血鬼》につけて雑に勝つのもアリだが、《火の猟犬》に比べて対処されやすいので過信は禁物。
10位 《苛虐な魔道士》
やっと出てきた2マナ生物。赤青は通常のデッキと異なり生物の層が薄いので2マナを厚く取る意味が少ない。
11位 《縫合の刻み獣》
継続的にプレッシャーをかける青緑では部類の強さを見せるが、赤青では「取れたら取る」程度のゆるい評価で構わない。
ブロッカーを退ける観点では2ターン疑似除去的な動きをするが、アタッカーを止める点では1ターンのみなので、基本戦略の差を意識して使い分けよう。
12位 《ジェイスの精査》
《回答の強要》との評価の分かれ目は、1ターン相手のアタッカーを退かすよりも相手のコンバットトリックへの回答として機能する方が重要だからである。
13位 《回答の強要》
上記のような理由で《ジェイスの精査》を優先するが、実際この2択になることはまれなのでほぼ同程度の優先度と思っても構わない。
競合が少ないので優先を低くしているが、軽いドロースペルは需要があるのでパックからの出が偏った場合は適宜優先度を上げて完成形に近づける努力をしよう。
14位 《収まらぬ思い》
条件がない場合は2マナのドロースペルは《苦しめる声》《ジェイスの精査》《回答の強要》だけで埋めるつもりでドラフトしてよいが、《無謀な識者》がある場合は《収まらぬ思い》に枠を割いて合計6~7枚程度を目安に採用してよい。
15位 《灰と化す》
若干低めの優先度に感じる人もいるだろうが、赤青はスペルの手数が重要なので重い除去の枚数は少なくて良い。
16位 《血狂いの吸血鬼》
デッキの動きには比較的しっくりくるのだが、赤黒での優先度と差がありすぎて採用することはまれ。
17位 《セルホフのランプ灯し》
早い巡目のピックを《ガツタフの放火魔》に費やしたくない場合は5マナ域としてこのカードを採用する。激烈に安いので意識せずともとれるはずだ。2枚まで採用可。
18位 《シルブールリンドのカミツキガメ》
上記と同じく黙ってても回ってくるカード。採用は1枚まで。
19位 《両手撃ち》
刺さる相手には劇的に刺さるのでディスカード手段が豊富な赤青においてはメインから採用する価値がある。
20位 《存在の否定》
カウンターを構えてスカっても《目録》などでテンポ損が回避できるのでそれほど悪くはないカードなのだが、パーツが大量に集まる青においては確保したうえで入れないことの方が多い。
21位 《アドレナリン作用》
《放たれた怒り》との組み合わせは勿論強力だが、赤青は生物が少ないので生物がいる前提でないと機能しないカードに割く隙間は極力少なくしたい。
■ 《癇しゃく》よりも優先するアンコモン
1位 《稲妻の斧》
《癇しゃく》よりも明確に優先する唯一のアンコモンである。
2位 《無謀な識者》
《癇しゃく》との評価は拮抗している。初手なら文句なく《癇しゃく》を優先しても構わない。
2枚目の《癇しゃく》と比べた場合、《ただの風》と《癇しゃく》の合計枚数が3枚以上なら《無謀な識者》を優先していい。3枚目の《癇しゃく》と比較する場合はこちらを優先する。
■ 冒頭言及した3種以外で《稲妻の斧》よりも優先するレア
テキストを読むだけでピックが終わるカードばかりだが、唯一試さないと強さが分かりにくいカードとして《熱病の幻視》については注意してほしい。1枚で勝ち手段たりえるポテンシャルがあるカードだが、あまりに専用パーツなので流して帰って来る可能性もあり《稲妻の斧》を取って流す選択肢も否定できない。
9《島》 8《山》 -土地 (17)- 1《エルドワルの照光》 1《苛虐な魔道士》 1《氷の中の存在》 1《無謀な識者》 2《火の猟犬》 1《逸脱した研究者》 -クリーチャー (7)- |
1《稲妻の斧》 2《ただの風》 2《回答の強要》 1《アヴァシンの裁き》 1《ジェイスの精査》 1《苦しめる声》 2《癇しゃく》 1《集中破り》 1《目録》 1《放たれた怒り》 1《悪魔と踊る》 1《熟読》 1《潮からの蘇生》 -呪文 (16)- |
※生物の少なさに一見するとこれで勝てるのか不安になるが、騙されたと思って一度試してみてほしい。リミテッド観が広がるはずだ。
※《火の猟犬》が取れない赤青は話にならないと言っていいだろう。だからと言って(言うまでもないが)《火の猟犬》が取れたからという理由で赤青に走らないように。
以上、環境における青の立ち位置と赤青における具体的なカード優先順位をお届けした。
リミテッドのデッキとしては珍しくデッキの構成に意外性が満載のサンプルになっていると思う。
青が肯定されるタイミングが訪れたときに、この記事の内容を思い出してもらえれば幸いだ。
それではよいリミテッドライフを。
この記事内で掲載されたカード
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