こんにちは。らっしゅです。
先週末の【プロツアー『異界月』】は最高に面白かったですね。「現出」に「昂揚」という『異界月』以降の環境ならではのデッキタイプが活躍していましたし、有名なプレイヤーばかりが顔を揃えたプレーオフには興奮しました。
【お祝い】ルーカス・ブロホン/Lukas Blohon選手、プロツアー『異界月』優勝おめでとうございます! https://t.co/V1qBDxSqhC #mtgjp #PTEMN pic.twitter.com/7ZfbRyvaea
— マジック:ザ・ギャザリング (@mtgjp) 2016年8月8日
今週の連載では、プロツアー『異界月』で起こったあれこれについて話していきたいと思います。メタゲームとデッキ選択、「現出」というアーキタイプなど、「バントカンパニー」一色だったこれまでとは大きく様変わりしたプロツアーならではの環境を見ていきましょう。
この連載では、登場人物の紹介を省いて話題を進めることがあります。「あれ?このデッキってなんだっけ?」と手が止まってしまった方は、【Kenta Hiroki】の連載をご覧ください。現環境に登場する様々なデッキが丁寧に解説されています。
- 2016/8/11
- USA Standard Express vol.78 -プロツアー『異界月』 etc.-
- Kenta Hiroki
【話題1】3つのレベルと2つの壁
環境に登場するデッキたちには、それぞれ存在する理由や背景があります。それをわかりやすく層化したものがレベル分けです(詳しくは【vol9】をご覧ください)。個々のデッキの強弱ではなく、それぞれの関係性によって分類されたもので、各レベルを隔てる壁を知ることで環境の姿が見えてきます。
レベル1をレベル2が。そしてレベル2をレベル3が。こうした食物連鎖はプロツアー『異界月』でも見られました。
レベル1: 環境の前提となる主流のデッキタイプ
→「バントカンパニー」
壁1: 中長期戦の強さ
レベル2: レベル1を攻略するデッキタイプ
→「黒系コントロール」「黒緑昂揚」
壁2: 《約束された終末、エムラクール》を制する工夫
レベル3: レベル2を攻略するデッキタイプ
→「緑系昂揚」「各種現出」
→「バントカンパニー」
壁1: 中長期戦の強さ
レベル2: レベル1を攻略するデッキタイプ
→「黒系コントロール」「黒緑昂揚」
壁2: 《約束された終末、エムラクール》を制する工夫
レベル3: レベル2を攻略するデッキタイプ
→「緑系昂揚」「各種現出」
簡単にまとめるとこのような構図になります。
・レベル1について
プロツアー『異界月』においてレベル1に相当するデッキタイプは「バントカンパニー」でした。ただ、プロツアー前に一世を風靡したことで敬遠されたのか、使用率は1位ながらも約20%と下馬評を裏切る結果に落ち着いています。【プロツアー『イニストラードを覆う影』】ではレベル1にあたる「バントカンパニー」と「白系人間」が合わせて約45%もいたことを思うと、今大会は混戦模様だったことが窺えます。
・レベル2について
レベル1の「バントカンパニー」を攻略する鍵は、中長期戦における強さが握っています。「バントカンパニー」と同じ時間帯で打ち勝つことは難しく、早い時間帯では《衰滅》への脆弱性などのリスクがあるため、遅い時間帯に勝機を見出したデッキが研究された結果です
優勝したLukas Blohonの「黒白コントロール」やSamuel Pardeeの「黒緑昂揚」などはレベル2に相当するデッキタイプです。豊富な除去で消耗戦に持込み、決定力の高いカードで蓋をします。この蓋をするカードとして注目を集めたのは《約束された終末、エムラクール》でした。
「黒緑昂揚」は、《ウルヴェンワルド横断》によるサーチがあるため、気軽に《約束された終末、エムラクール》を組み込めるデッキとして評価されました。特に【Face-to-face Games】謹製のものは、Top8にSamuel Pardee、8勝2敗以上にOliver TiuとMike Sigristを送り込んでいます。
・レベル3について
終盤最強とされる《約束された終末、エムラクール》を巡る戦いを制する工夫を取り入れたものがレベル3のデッキたちです。《ニッサの巡礼》と《老いたる深海鬼》の2つのアイデアは、Reid Dukeや行弘 賢の「緑赤昂揚」、East-West BowlsやOwen Turtenwaldの「ティムール現出」を筆頭に、週末を通してよく見かけました。
《ニッサの巡礼》などのマナランプによって、相手よりも早く確実に《約束された終末、エムラクール》に辿り着くか。それとも、《老いたる深海鬼》で《約束された終末、エムラクール》を使うデッキタイプの重い構造を咎めるのか。どちらもレベル2のデッキタイプを倒す上で効果的な方法です。
最終的にTop8に残ったのは、レベル1の「バントカンパニー」が2名、レベル2の「黒白コントロール」「黒緑昂揚」が計2名、レベル3の「緑赤昂揚」「ティムール現出」が計4名でした。これだけ見るとレベル3の勝利にも思えますが、【2日目のメタゲームブレイクダウン】を見る限りではレベル2の「黒緑系昂揚」が49人中42人が2日目に進出していますし、2日目進出率が53%しかなかった「バントカンパニー」が最終的に成績上位者に幾人も顔を覗かせています。
誰が勝者で誰が敗者だったのか。結果を知っている今になっても、答えが見えてこない複雑なトーナメントでした。
ここからはあくまでも仮説なのですが、この複雑な結果は、今回のプロツアー『異界月』がプレイヤー間の情報格差の大きいトーナメントだったことが原因かもしれません。
プロツアーの前哨戦として最も説得力を持っているのは前週に開催されるSCGOですが、今回の【SCGO Baltimore】では、「バントカンパニー」以外に有力なデッキリストは一切登場しませんでした。この結果は、プロチームの練習に参加していない、あるいはする伝手のないプレイヤーからすると、新環境の情報がほぼ0に等しかったことでしょう。
さらに、今回のプロツアーは直前の週に【グランプリ・シドニー2016】が同じ会場で開催される都合から、2週間前から現地で調整するプロチームは普段よりも多かったと聞きました。プロチームはこれまで以上にみっちりと練習し、そうでない参加者はほぼ状況がわからない環境で戦ったことになります。
要するに、デッキタイプの勝者敗者というよりは、個々のプレイヤー同士のデッキとプレイスキルの練度に差が開きすぎていたために、プロチームとそうでないものの差が結果を左右したのではないか、という推測です。これは、かつてないほど濃いTop8の面子、唯一情報が行き渡っていた「バントカンパニー」の初日通過率がとても低かった、という結果からも推察できます。
(かねこ)明日は朝8時からプロツアー『異界月』のニコ生です!栄光のプロツアーサンデー、チャンピオンになるのは誰だ!?お楽しみに! https://t.co/cCFvBtNxpY #mtgjp #PTEMN pic.twitter.com/LPcRp6u9JM
— マジック:ザ・ギャザリング (@mtgjp) 2016年8月6日
これが真実かを証明する手立てはないので、どこまでいっても僕の妄想に過ぎません。ただ、あまりにも綺麗に格差を生む条件が揃っていたため、ちょっとした話題として取りあげてみました。
努力したものが相応に報われて、強いものが実力通りに勝利する。これは彼らのファンとしてはとても喜ばしいことで、これだけは真実であって欲しいものです。
【話題2】「黒白コントロール」について
「実力通りに勝利することが喜ばしい」といった舌の根も乾かぬうちに、こんな話題を出すのもどうかとは思うのですが、優勝した「黒白コントロール」は本当に強いのか、というお話です。
間違いなくLukas Blohonはプロツアー王者にふさわしい実力者なのですが、彼が使った「黒白コントロール」があのTop8を勝ち抜くほどのポテンシャルを持っていたかどうかには疑惑がかかっています。
その理由は、単純に《約束された終末、エムラクール》に弱いデッキタイプだからです。
今回のプロツアー『異界月』を象徴する1枚である《約束された終末、エムラクール》をどう使うのか、あるいはどう立ち向かうのか。これはレベル2、レベル3に属するデッキタイプにとっての命題でした。
しかし、理論上において「黒白コントロール」は、レベル1の「バントカンパニー」との相互関係は強いものの、レベル2やレベル3の使う《約束された終末、エムラクール》には一方的に蹂躙されるデッキタイプなのです。
《強迫》《精神背信》《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》《無限の抹消》など、マッチアップを左右するカードはあるものの、肝の《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》がサイドボードにしかない以上は、勝機を見出すことすら難しい問題です。
ここ数回のプロツアーを優勝したのは、例外なくメタゲームの中心に位置するデッキとして活躍してきたデッキでした。【プロツアー『戦乱のゼンディカー』】では瀧村 和幸さんの「アブザンアグロ」が、【プロツアー『イニストラードを覆う影』】ではSteve Rubinの「緑白トークン」が。この流れに沿って「黒白コントロール」も環境を牽引するのか、という問いには、「いいえ」と答えます。
「アブザンアグロ」や「緑白トークン」と事情が違うのは、隙のないグッドスタッフだった彼らと比較して、「黒白コントロール」は環境の姿によって強弱が変動しやすいデッキタイプだからです。
今回の《約束された終末、エムラクール》との関係性もそうですし、《衰滅》や《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》なども環境によって評価を大きく変えるカードなので、多角的な攻撃手段に満ちたスタンダード環境を安定して勝ち続けるだけの基礎体力が足りません。
面白みのない答えにはなりますが、これまで通りに万能な「バントカンパニー」が環境を引っ張っていくことになるでしょう。《衰滅》の有無によって「バント人間」や「白系人間」が登場し、そういった早いデッキタイプが歯止めを掛けないかぎり、延々と遅くなり続ける環境が続くと思われます。
【話題3】これからに注目したい2つのデッキ
プロツアー『異界月』で活躍の片鱗が見られた、これからに注目したい2つのデッキを最後に紹介したいと思います。
■ 「ジャンド昂揚」
6 《森》 4 《沼》 1 《山》 4 《燻る湿地》 1 《燃えがらの林間地》 4 《進化する未開地》 4 《ラノワールの荒原》 -土地 (24)- 2 《巨森の予見者、ニッサ》 2 《巡礼者の目》 2 《精神壊しの悪魔》 3 《墓後家蜘蛛、イシュカナ》 2 《膨らんだ意識曲げ》 1 《約束された終末、エムラクール》 -クリーチャー (12)- |
4 《焦熱の衝動》 3 《ウルヴェンワルド横断》 4 《過去との取り組み》 1 《究極の価格》 3 《コジレックの帰還》 3 《衰滅》 3 《発生の器》 3 《最後の望み、リリアナ》 -呪文 (24)- |
3 《ナヒリの怒り》 2 《棲み家の防御者》 2 《精神背信》 2 《餌食》 2 《知恵の拝借》 1 《竜使いののけ者》 1 《約束された終末、エムラクール》 1 《究極の価格》 1 《衰滅》 -サイドボード (15)- |
Team Eurekaが持ち込んだ「黒緑昂揚」の亜種。細部の枚数はともかくとして、「黒緑昂揚」と「バントカンパニー」に対して構造的に強いことが魅力的なデッキです。異なる2つのデッキタイプと戦える理由は《膨らんだ意識曲げ》にあります。《コジレックの帰還》による全体除去の追加が「バントカンパニー」との戦いを助け、「黒緑昂揚」に対しては《約束された終末、エムラクール》に次ぐ決定打となるのです。
また、緑系の中速デッキならば仕方がなく採用していた《森の代言者》をカットしていることも面白い選択です。相手の《森の代言者》を抑える目的でも採用されていましたが、このデッキでは《コジレックの帰還》で巻き込むことができるため、さほど苦にならないことが強みになっています。
■ 「青赤《熱錬金術師》」
9 《山》 3 《島》 4 《シヴの浅瀬》 4 《さまよう噴気孔》 3 《高地の湖》 1 《ガイアー岬の療養所》 -土地 (24)- 2 《ヴリンの神童、ジェイス》 4 《熱錬金術師》 3 《氷の中の存在》 -クリーチャー (9)- |
3 《焦熱の衝動》 2 《稲妻の斧》 2 《払拭》 4 《焼夷流》 2 《苦しめる声》 2 《非実体化》 4 《集団的抵抗》 4 《癇しゃく》 4 《熱病の幻視》 -呪文 (27)- |
3 《黄金夜の懲罰者》 2 《稲妻織り》 2 《騒乱の歓楽者》 2 《否認》 2 《ナヒリの怒り》 1 《払拭》 1 《引き裂く流弾》 1 《焦熱の衝動》 1 《呪文萎れ》 -サイドボード (15)- |
Pedro Carvalhoが9勝1敗と好成績を残した「青赤《熱錬金術師》」は、《約束された終末、エムラクール》を中心に環境が動くならば注目すべきデッキです。
以前から環境が遅ければ最強の1枚だった《熱病の幻視》は、長期戦が主流だったプロツアー『異界月』でも活躍しました。《ドロモカの命令》に弱すぎることがこの手のデッキの弱点でしたが、《ドロモカの命令》の数が減れば一気に強力なデッキになります。
これからの環境がどのように姿になるかは未知数ですが、もしも《ドロモカの命令》が少なくなれば、そのときはこのデッキを使うべきでしょう。
【まとめ】まだまだわからない新環境
プロツアーを終えるとなんとなく環境の姿は見えてくるものですが、今回のプロツアー『異界月』は、これからの環境がどのように進行するかさえあやふやに思えるような結果でした。
果たして《約束された終末、エムラクール》を巡る戦いは、プロツアーの外でも行われるのか。
結局は敗北しなかった「バントカンパニー」のこれからは?
安定性にかけるが、爆発力はピカイチの「現出」の将来は?
まだまだ気になる話題は盛り沢山。まずは今週末に開催される【グランプリ・ポートランド2016】と【グランプリ・リミニ2016】という2つの大型グランプリの結果からが本番になりそうです。プロツアーが終わって尚ワクワクできる環境は久しぶりかもしれません。
それではまた来週お会いしましょう。
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