高橋純也のデッキ予報 vol.22 -《ドロモカの命令》季節内変動-

高橋 純也

高橋 純也



 こんにちは。らっしゅです。

 「バントカンパニー」一色かと危惧された【プロツアー『異界月』】では多彩なデッキたちが活躍しました。「昂揚」に「現出」に《約束された終末、エムラクール》と、食指が動くアイデアがいたるところで見かけられましたが、それらがすべてこれからも生き残れるデッキとは限りません。

 【プロツアー『イニストラードを覆う影』】以後に「黒緑コントロール」や「赤緑ゴーグル」が姿を消したように、プロツアー『異界月』の後にも生存競争は続くことでしょう。はたして生き残るのはどのデッキなのか。これからの数週間は彼らの本当のポテンシャルが試されるのです。

 さて、プロツアー『異界月』から一週間が経ち、先週末には早速2つのグランプリが開催されました。今週の連載では【グランプリ・リミニ2016】【グランプリ・ポートランド2016】の結果とともに、デッキたちの進退を見ていくことにしましょう。

 この連載では、登場人物の紹介を省いて話題を進めることがあります。「あれ?このデッキってなんだっけ?」と手が止まってしまった方は、【Kenta Hiroki】の連載をご覧ください。現環境に登場する様々なデッキが丁寧に解説されています。




【話題1】夢は醒め。再びの「バント」祭り

 プロツアー『異界月』における最大のトピックは、「バントカンパニー」のシェア率でした。【先週の記事】でも簡単に触れましたが、「バントカンパニー」のシェアはわずか20%程度に留まったのです。20%というと小さくはない数値なのですが、彼らの前評判と比較すると、それは意外なほど少ない結果だったといえます。


集合した中隊


 しかし、これはプロプレイヤーたちの「バントカンパニー」への評価が世間よりも低かったのではなく、プロツアーという特殊なトーナメントならではのメタゲームが原因にありました。事前の情報で「バントカンパニー」が極端に目立ったため、それを対策したデッキが蔓延することを想定した“一歩先を見据えた環境”が繰り広げられることとなったのです。

 「黒緑昂揚」や「現出」の流行。《約束された終末、エムラクール》を巡る戦い。それぞれプロツアー『異界月』を象徴する出来事でしたが、どちらも特殊な舞台ゆえのイベントだとも考えられていました。はたして、プロツアーという色眼鏡が外された後に「バントカンパニー」は復権するのか、それともプロツアーの展開をなぞるのか。今後の環境の姿は、その片鱗さえ見えませんでした。

 さて、夢から醒めて一週間が経ち、世界では2つのグランプリが開催されました。

 まずはそれらのメタゲーム・ブレイクダウンを見てみましょう。



※画像は【Magic: the Gathering 英語公式ウェブサイト】より引用させていただきました。

 上の図はグランプリ・リミニ2016の【2日目のメタゲームブレイクダウン】です。2日目の参加者の32%が「バントカンパニー」、そこに続くのは15%の「青赤《熱病の幻視》」でした。


熱病の幻視




Lukas Blohon「青赤《熱病の幻視》
グランプリ・リミニ2016(5位)

9 《山》
3 《島》
4 《シヴの浅瀬》
4 《さまよう噴気孔》
3 《高地の湖》
1 《ガイアー岬の療養所》

-土地 (24)-

4 《嵐追いの魔道士》
4 《熱錬金術師》

-クリーチャー (8)-
4 《焦熱の衝動》
2 《稲妻の斧》
4 《焼夷流》
4 《苦しめる声》
4 《集団的抵抗》
4 《癇しゃく》
2 《極上の炎技》
4 《熱病の幻視》

-呪文 (28)-
3 《ヴリンの神童、ジェイス》
3 《黄金夜の懲罰者》
3 《騒乱の歓楽者》
3 《払拭》
2 《ナヒリの怒り》
1 《稲妻の斧》

-サイドボード (15)-
hareruya



 「青赤《熱病の幻視》」が2番手だったのは、開催直前にSNSで評判が広まった影響が大きかったそうです。同時に対抗策も話題に上がり、《護法の宝珠》《安らぎ》も広く使われたとか。もちろん「昂揚」や「現出」には滅法強いデッキタイプなので、プロツアーを踏襲した環境を想定するならば悪くないデッキではありますが、「バントカンパニー」に弱い以上、あくまでも一過性の流行だとされています。


護法の宝珠安らぎ


 もう一方のグランプリ・ポートランド2016も【似た分布】をしていました。集計方法が異なり、こちらは初日のTop100の分布をとっています。結果は35%が「バントカンパニー」で、それを12%の「黒緑昂揚」と10%の「青赤《熱病の幻視》」が追いかける形です。

 どちらのトーナメントにおいても「バントカンパニー」が30%以上のシェアを持っていたことに加えて、リミニでは6人、ポートランドでは3人がトップ8に入賞しています。数だけでなく成績もよく、「バントカンパニー」はプロツアー以後も変わらず最強の一角を担うことになりそうです。



【話題2】「バントカンパニー」が抱える2つの悩み

 こうして再び環境を率いることになった「バントカンパニー」ですが、デッキの構造には、まだいくつかの課題を抱えています。ここでは先週末にスポットライトの当たった2点を紹介しましょう。

1.《ドロモカの命令》の評価

 前環境の「緑白トークン」と「バントカンパニー」の流行から、スタンダードを代表するカードという印象も強い《ドロモカの命令》に陰りが見えます。強力な2マナのインスタントに何が起こったのでしょうか?この評価を揺るがす背景には1つの大きな変化がありました。


ドロモカの命令


 それは“プロアクティブなアプローチを取るデッキが減ったこと”です。

 「え?」って方も多いと思うので解説すると、前環境は基本的に「緑白トークン」との戦いが前提にありました。そこで注目されたのがプロアクティブという概念です。環境には《破滅の道》のようにプレインズウォーカーを除去するカードはありましたが、「緑白トークン」のように多角的な攻撃手段の一種としてプレインズウォーカーを使うデッキに対して、除去では後手後手の対応となり有効ではありませんでした。そこでプレインズウォーカーが出る前に対応しよう、と《森の代言者》のような軽量クリーチャーたちが注目を集めたのです。

 こうしてプレインズウォーカーへの対抗策として軽量クリーチャーが注目されたことで、似通ったサイズのクリーチャー戦で強力な《ドロモカの命令》は、ほぼ無駄にならない軽量除去として安心してメインボードに採用されていました。

 しかし、『異界月』を迎えた新環境では有力な追加戦力を得られなかった「緑白トークン」は少数になり、それに伴って環境のプレインズウォーカーの枚数もぐっと減ることになりました。《呪文捕らえ》に弱い《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》の枚数は大幅に減り、めぼしいものといえば《最後の望み、リリアナ》くらいです。

 こうした変化から軽量クリーチャーでプロアクティブに戦うべき相手を見失ったデッキたちは、《衰滅》や「現出」といったデッキのコンセプトを後押しするカードを代わりに採用しはじめました。



Robert Santana「ジャンド昂揚」
グランプリ・ポートランド2016(優勝)

6 《森》
4 《沼》
1 《山》
4 《燻る湿地》
1 《燃えがらの林間地》
4 《進化する未開地》
4 《ラノワールの荒原》

-土地 (24)-

3 《巡礼者の目》
2 《巨森の予見者、ニッサ》
1 《精神壊しの悪魔》
3 《墓後家蜘蛛、イシュカナ》
2 《膨らんだ意識曲げ》
1 《約束された終末、エムラクール》

-クリーチャー (12)-
3 《焦熱の衝動》
3 《ウルヴェンワルド横断》
4 《闇の掌握》
3 《コジレックの帰還》
2 《餌食》
3 《衰滅》
3 《発生の器》
3 《最後の望み、リリアナ》

-呪文 (24)-
3 《精神背信》
2 《棲み家の防御者》
2 《知恵の拝借》
2 《ムラーサの胎動》
1 《竜使いののけ者》
1 《約束された終末、エムラクール》
1 《強迫》
1 《焦熱の衝動》
1 《究極の価格》
1 《衰滅》

-サイドボード (15)-
hareruya



 たとえば「ジャンド昂揚」はこうした変化の最先端にいます。以前までの環境であれば《森の代言者》《不屈の追跡者》から構築が始まるようなデッキタイプでしたが、それらは全体除去との噛合せが悪いため、「昂揚」のアドバンテージと全体除去で戦うというデッキコンセプトを優先するために採用されていません。

 このような変化から環境のクリーチャーのマナ域とサイズは、次第に広がりを見せることになったのです。マナ域が広がることは除去呪文の機会損失を生み、サイズの広がりは《ドロモカの命令》という呪文である必然性を奪います。

 こうして“本当に《ドロモカの命令》は4枚採用すべきなんだろうか?”という疑念が話題になっているのです。



Paul Rietzl「バントカンパニー」
グランプリ・ポートランド2016(8位)

5 《平地》
4 《森》
1 《島》
4 《大草原の川》
3 《梢の眺望》
4 《進化する未開地》
3 《ヤヴィマヤの沿岸》
2 《伐採地の滝》

-土地 (26)-

4 《薄暮見の徴募兵》
4 《無私の霊魂》
4 《森の代言者》
4 《反射魔道士》
4 《呪文捕らえ》
4 《不屈の追跡者》
2 《巨森の予見者、ニッサ》
1 《異端聖戦士、サリア》
2 《大天使アヴァシン》

-クリーチャー (29)-
4 《集合した中隊》
1 《オジュタイの命令》

-呪文 (5)-
2 《ヴリンの神童、ジェイス》
2 《ドロモカの命令》
1 《節くれ木のドライアド》
1 《巨森の予見者、ニッサ》
1 《異端聖戦士、サリア》
1 《老いたる深海鬼》
1 《意思の激突》
1 《石の宣告》
1 《否認》
1 《次元の激高》
1 《悲劇的な傲慢》
1 《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》
1 《実地研究者、タミヨウ》

-サイドボード (15)-
hareruya



 「俺のデッキ強すぎてアンフェアなんだけど」と発言して先週末を騒がせたPaul Rietzlの「バントカンパニー」は、思い切って《ドロモカの命令》0枚まで減らしています。これは極端ながらも合理的な選択です。最近は先手後手を問わずに《ドロモカの命令》を同型でサイドアウトする戦略が流行しているため、本当にメインボードから《ドロモカの命令》が必要なマッチアップは少ないと考えられるからです。

 《石の宣告》と枚数を散らす形や、Paul Rietzlの大胆なアイデアも登場したため、評価が定まるにはまだ少しの時間が必要なのかもしれません。



2.同型戦の打開策

 これは前環境から引き続いての課題ですが、あまりにも時間がかかりすぎるという問題です。以前と比較すると膠着することは減ったものの、一度膠着すると微動だにしないことは変わりません。特に《変位エルドラージ》がマイナーになった現在、同型戦はタイムアウトのリスクを抱えています。

 改めて話題に取りあげたのは、先週末のグランプリ・リミニ2016の決勝戦のGame1だけで1時間もかかったからです。決勝戦で時間制限がなかったからだとは思いますが、一度膠着すると打開策がないことを如実に表した結果なのは違いありません。これからも同型の戦いが多く発生する可能性がある以上は、何かしらの簡単な突破口を作る必要はありそうです。

 現状では同型対策というと《大天使アヴァシン》ですが、《異端聖戦士、サリア》《変位エルドラージ》に再び白羽の矢が立つのも遠い将来の話ではないのかもしれません。


大天使アヴァシン異端聖戦士、サリア変位エルドラージ




【話題3】評価が変わったデッキたち

 プロツアー『異界月』から2つのグランプリを跨いで、デッキたちの評価には多少なりの変化がありました。ここでは主なるものを見てみましょう。

■「黒白コントロール」 評価: ダウン


Travis Woo「白黒コントロール」
グランプリ・ポートランド2016(準優勝)

8 《沼》
5 《平地》
4 《コイロスの洞窟》
4 《放棄された聖域》
4 《乱脈な気孔》
1 《荒廃した湿原》

-土地 (26)-


-クリーチャー (0)-
4 《闇の掌握》
4 《精神背信》
2 《究極の価格》
3 《骨読み》
2 《破滅の道》
1 《苦渋の破棄》
3 《衰滅》
1 《次元の激高》
3 《リリアナの誓い》
3 《最後の望み、リリアナ》
4 《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》
2 《灯の再覚醒、オブ・ニクシリス》
2 《死の宿敵、ソリン》

-呪文 (34)-
3 《強迫》
2 《ゲトの裏切り者、カリタス》
2 《無限の抹消》
2 《死の重み》
1 《荒廃した湿原》
1 《保護者、リンヴァーラ》
1 《苦渋の破棄》
1 《骨読み》
1 《衰滅》
1 《次元の激高》

-サイドボード (15)-
hareruya



 先週末のグランプリポートランド2016の配信内で話題になったのが、同時に開催されていたグランプリリミニ2016における「黒白コントロール」や「《約束された終末、エムラクール》系」のデッキの不振についてでした。これらのプロツアーを彩ったデッキたちが振るわなかった原因は、端的に「青赤《熱病の幻視》」の流行にあると話されていました。

 ポートランドではTravis Wooがクリーチャーレスの形で準優勝しましたが、どうやら環境は徐々に都合の悪い方向へと転がりつつあるようです。現環境でとても強力な《精神背信》を無理なく採用できることは強みなので、それを活かして中盤に寄せた構成の発見に期待がかかります。



■「現出系」 評価: ダウン


Oliver Tomajko「ティムール現出」
グランプリ・ポートランド2016(8位)

6 《森》
3 《島》
1 《山》
1 《燃えがらの林間地》
1 《進化する未開地》
4 《シヴの浅瀬》
4 《ヤヴィマヤの沿岸》
2 《伐採地の滝》
2 《ウギンの聖域》

-土地 (24)-

4 《原初のドルイド》
3 《ヴリンの神童、ジェイス》
3 《巡礼者の目》
2 《巨森の予見者、ニッサ》
3 《墓後家蜘蛛、イシュカナ》
2 《不憫なグリフ》
4 《老いたる深海鬼》
1 《約束された終末、エムラクール》

-クリーチャー (22)-
2 《ウルヴェンワルド横断》
4 《群れの結集》
4 《過去との取り組み》
4 《コジレックの帰還》

-呪文 (14)-
3 《焦熱の衝動》
2 《現実を砕くもの》
2 《否認》
2 《即時却下》
1 《ウギンの聖域》
1 《エルドラージの寸借者》
1 《絡み草の闇潜み》
1 《約束された終末、エムラクール》
1 《侵襲手術》
1 《深海の主、キオーラ》

-サイドボード (15)-
hareruya



 《老いたる深海鬼》を中心とした「現出系」は、プロツアー『異界月』で様々な雛形が登場し、プロツアー以後が楽しみなデッキだとされていましたが、墓地利用するデッキならではの不安定さが解消されずに評判を落としています。主流の青緑ベースのティムールでは、最高の回りをしたときにはあらゆるデッキを圧倒するものの、《コジレックの帰還》が墓地に落ちるかどうかなど、勝敗を左右する内容において不安定さを抱えていることが問題です。


老いたる深海鬼コジレックの帰還


 これが「ジャンド昂揚」であれば、豊富な除去によって《コジレックの帰還》+「現出」が揃うまでゲームを長引かせることができますが、青緑という色選択だとそれもかないません。爆発力は申し分ないデッキタイプですが、ある程度落ち着いた環境で勝ち残るのは、かつての「緑白トークン」のように安定したデッキたちです。《老いたる深海鬼》《コジレックの帰還》のパッケージは強力ですが、それを支えるためのアイデアは足りていません。それが見つかるまでは我慢の時間が続きそうです。



■「ジャンド昂揚」 評価: アップ

 上で紹介した「ジャンド昂揚」はプロツアー以降に評価をあげたデッキの筆頭です。“「バントカンパニー」に強い”という特徴がプロツアー以降の環境にマッチしています。

 「青赤《熱病の幻視》」や《約束された終末、エムラクール》同型に弱いことは玉に瑕ですが、現在環境を支配しつつある「バントカンパニー」に対して有力な対抗勢力として注目されています。一度グランプリを制したものの、本領発揮はこれからのデッキです。


膨らんだ意識曲げ約束された終末、エムラクール発生の器




【まとめ】「バントカンパニー」を乗り越えよ

 異端のプロツアー『異界月』を経て、はたして「バントカンパニー」は健在でした。

 2つのグランプリのデッキ分布と結果からも、これからの環境は「バントカンパニー」とどう戦うかが焦点となります。これは他のデッキはもちろんのこと、「バントカンパニー」自身にも課せられた問題です。

 どこまで「バントカンパニー」を意識して、その他にはどの程度気を配るのか。少しでも油断すると「青赤《熱病の幻視》」のように隙間を突いたデッキタイプが登場することがわかった今は、そのバランスにはより気をつける必要があります。

 現状では安定性とデッキの完成度において「バントカンパニー」が一歩先んじていますが、その優位は前環境から雛形が用意されていたから生じたものに過ぎません。これから他のデッキがどれだけ追いつくことができるかが試されます。たとえば不安定さゆえに微妙な評価を受けている「現出系」などは、安定性こそ手に入れれば一気に輝くデッキタイプです。

 「バントカンパニー」以外は団子状態の環境から抜け出すのは一体どのデッキなのでしょうか?

 それではまた来週お会いしましょう。



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