こんにちは。らっしゅです。
先週はフルスポイラーが公開されていなかったこともあって概要を説明するだけに留まりましたが、今週は『カラデシュ』の全貌が明かされているため、実際にいくつか環境初期に見られるであろうデッキタイプや環境の仕組みについて考えていきましょう。
- 2016/9/21
- USA Standard Express vol.81 -『カラデシュ』注目カードとサンプルデッキ-
- Kenta Hiroki
Kenta Hirokiによる前環境のまとめと新環境の解説記事です。環境のローテーションによる変化が丁寧に説明されています。スタンダード環境の基礎を整理したい方は、まずこの記事から読むことをおすすめします。
【話題1】新環境の仕組み
ローテーション明けの新環境は、誰にとっても新鮮かつ未知なる環境ですが、そこを切り拓くヒントがまるでないわけではありません。知る人ぞ知る、というには広く知られすぎている情報ではありますが、環境初期ならではの定石があるのです。
- 2016/04/08
- 高橋純也のデッキ予報 vol.6 -《徴税の大天使》前線北上中-
- 高橋 純也
以前にこの記事でも触れましたが、改めて全部読むのは酷だと思うので、簡単に要約するとこんな感じです。
・前環境から継続したデッキタイプがいる
・「環境初期は攻撃的なデッキから」という格言がある
・守備的なデッキは適切に構築できない
・「環境初期は攻撃的なデッキから」という格言がある
・守備的なデッキは適切に構築できない
この3つの中で重要なのは”「環境初期は攻撃的なデッキから」という格言がある”です。
これはとても簡単な理屈で成り立っています。環境初期はあらゆる時点において「最もデッキやカードについての情報が少ない」ため、相手の戦略に対応するコントロールなど、守備的なデッキを構築することが難しいからです。
成熟した環境終盤では、あらゆるデッキやカードに対する応手は用意されるものの、未熟な環境初期においては、いかなるデッキやカードに対しても適切な応手が存在しません。そのため、基本的には相手の戦略に応じる余地の少ないデッキ、つまりは攻撃的なデッキが環境初期を席巻するのです。
他のデッキタイプが登場するのは、攻撃的なデッキの評価やリストが整理されてからになります。その後の環境の動きをまとめると、以下のような展開がよく見られます。
◆ 環境初期のフローチャート
・Step1: 環境の最高速を定義する攻撃的なデッキの登場
環境最速のデッキが判明する
↓
・Step2: 定義された速度帯のミッドレンジが登場
最高速のデッキにギリギリ対応できる「最も遅いミッドレンジ」が判明する
↓
・Step3: Step1,2で登場したデッキに対応したコントロールの登場
ミッドレンジとコントロールが優位な環境になる
↓
・Step4: Step3に有利なミッドレンジの登場
・Step1: 環境の最高速を定義する攻撃的なデッキの登場
環境最速のデッキが判明する
↓
・Step2: 定義された速度帯のミッドレンジが登場
最高速のデッキにギリギリ対応できる「最も遅いミッドレンジ」が判明する
↓
・Step3: Step1,2で登場したデッキに対応したコントロールの登場
ミッドレンジとコントロールが優位な環境になる
↓
・Step4: Step3に有利なミッドレンジの登場
わかりやすく『イニストラードを覆う影』環境の事例を当てはめてみましょう。まずはStep1として最高速の「白系人間」が登場し、次にそれに対抗できるStep2として「白黒エルドラージ」や「バントカンパニー」が登場しました。しばらく後のプロツアー『イニストラードを覆う影』では、Step1,2を倒すべく、Step3にあたる「赤緑《紅蓮術師のゴーグル》」や「黒系コントロール」が活躍しました。そして最終的な勝者は、御存知の通り、Step3に強いStep4である「緑白トークン」だったのです。
このお約束の流れは、「新環境には情報がなく手探りから始まる」という前提が保たれる限り、今回の『カラデシュ』環境はもちろん、これ以降の未来においても続きます。新しいカードセットが発売されて気になるカードや戦略が見つかったなら、まずは「その環境の攻撃的なデッキがどれくらい早いのか」を考えてみることをおすすめします。その早さに応じた構築さえすれば、「為す術もなくボコボコにされて楽しめなかった」なんてこともないはずです。
それでは流れを確認したところで、さっそく『カラデシュ』の入った新環境のデッキを見ていきましょう。
【話題2】『カラデシュ』から登場したアグロデッキ
6 《平地》 4 《山》 4 《霊気拠点》 4 《秘密の中庭》 4 《感動的な眺望所》 -土地 (22)- 4 《発明者の見習い》 4 《スレイベンの検査官》 4 《模範的な造り手》 4 《屑鉄場のたかり屋》 3 《模範操縦士、デパラ》 3 《ピア・ナラー》 -クリーチャー (22)- |
4 《石の宣告》 4 《発明者のゴーグル》 4 《密輸人の回転翼機》 4 《高速警備車》 -呪文 (16)- |
『カラデシュ』で手に入れた強力な1マナ域をフィーチャーしたアグロデッキです。《発明者の見習い》と《模範的な造り手》は「アーティファクトをコントロールしている」という条件付きではあるものの、その条件さえ満たせば《密林の猿人》や《野生のナカティル》と遜色ない打点を叩き出します。
ただ、この条件はとても厳しく、しっかりと2ターン目から誘発させる (90%以上) には、最低でも15枚ほどの軽量アーティファクトが必要になるのです。《スレイベンの検査官》の手がかりトークン、《密輸人の回転翼機》の8枚は簡単に用意できますが、残りの2スロットには、まだ選択の余地が残されています。
上のリストでは《発明者のゴーグル》を試しています。1マナ域の8枚と噛み合うと強力ですが、それを除けば水準以下の装備品です。装備品にも関わらず中長期戦に強いわけでもないので、デッキから抜けるのは時間の問題かもしれません。
とにかく1マナ域が強力ということで序盤を持ち味にした構築にしてみましたが、もっと重く中盤も戦える形にも可能性が残されています。かつての『ローウィン』期のスタンダードにおける「キスキン」のように、粘り強く、戦線を横に広げるような構築です。
かつての《黄金のたてがみのアジャニ》《雲山羊のレインジャー》の黄金パターンを踏襲した、《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》《発明の天使》には期待がかかります。《密輸人の回転翼機》や《高速警備車》を意識した「インスタントの単体除去呪文」が人気を集める可能性は高く、単体除去に強い「戦線を横に広げるトークン戦略」はきっと日の目を見るでしょう。
「白赤アグロ」は他にも工匠型、《永遠の見守り》を入れたウイニー型、《空中対応員》を入れたミッドレンジ型など様々な構成が考えられます。おそらく最速は上に挙げたタイプですが、現実で流行していく形がどれになるかは気になります。
【話題3】対抗馬となるミッドレンジたち
4 《森》 4 《島》 2 《沼》 4 《霊気拠点》 4 《花盛りの湿地》 4 《植物の聖域》 -土地 (22)- 4 《査問長官》 1 《首絞め》 4 《秘蔵の縫合体》 4 《憑依された死体》 1 《縫い翼のスカーブ》 1 《墓後家蜘蛛、イシュカナ》 4 《老いたる深海鬼》 1 《膨らんだ意識曲げ》 -クリーチャー (20)- |
4 《ウルヴェンワルド横断》 4 《過去との取り組み》 2 《集団的蛮行》 4 《コジレックの帰還》 4 《発生の器》 -呪文 (18)- |
ほぼ旧環境そのままの「現出」です。青緑赤の「ターボエムラクール」は《ニッサの巡礼》の喪失が致命的でしたが、青緑黒の「現出」は《ヴリンの神童、ジェイス》と《群れの結集》を失ったものの、デッキの核である《憑依された死体》+《秘蔵の縫合体》のエンジンは健在です。
代わりの墓地肥やしとして採用されたのは《査問長官》です。さきの2枚には性能では及びませんが、1ターン目に登場したときの爆発力には凄まじいものがあります。今回のリストでは採用していませんが、《密輸人の回転翼機》の搭乗要員にもなるので、これからは「現出」から「ゾンビ」まで広く見られるカードになるかもしれません。
6 《山》 4 《沼》 4 《燻る湿地》 4 《秘密の中庭》 4 《乱脈な気孔》 2 《感動的な眺望所》 1 《鋭い突端》 -土地 (22)- 1 《激変の機械巨人》 4 《害悪の機械巨人》 4 《焼却の機械巨人》 -クリーチャー (20)- |
4 《安堵の再会》 4 《蓄霊稲妻》 2 《闇の掌握》 2 《集団的蛮行》 3 《光輝の炎》 1 《破滅の道》 1 《無許可の分解》 4 《復元》 1 《末永く》 4 《先駆ける者、ナヒリ》 -呪文 (18)- |
《復元》から《機械巨人/Gearhulk》を釣り上げるコンボコントロールです。《安堵の再会》や《先駆ける者、ナヒリ》のルーティングで墓地に落ちた《機械巨人/Gearhulk》を4~5ターン目に叩きつけます。
とにかく《先駆ける者、ナヒリ》が強いデッキです。対処が難しい「機体」や《熱病の幻視》を壊し、ルーティング能力で《機械巨人/Gearhulk》を墓地に送り込んでくれます。
軽量除去をふんだんに採用したボードコントロールは、アグロの多い環境初期に頼りになるデッキタイプです。不安定な《復元》エンジンを使わずに、安定感のある《ゴブリンの闇住まい》を採用してもいいでしょう。
7 《森》 7 《平地》 4 《梢の眺望》 4 《要塞化した村》 2 《霊気拠点》 1 《ウェストヴェイルの修道院》 -土地 (25)- 4 《導路の召使い》 4 《森の代言者》 3 《空中対応員》 2 《折れた刃、ギセラ》 4 《大天使アヴァシン》 2 《新緑の機械巨人》 -クリーチャー (19)- |
2 《石の宣告》 4 《ニッサの誓い》 2 《停滞の罠》 4 《ゼンディカーの代弁者、ニッサ》 4 《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》 -呪文 (16)- |
《搭載歩行機械》と《ドロモカの命令》を失った「緑白トークン」です。《折れた刃、ギセラ》と《空中対応員》でアグロデッキに強い構成になっています。
《新緑の機械巨人》と《導路の召使い》はお試しで使っているカードで、特に前者は破格の強さを持っています。「緑白トークン」では絆魂持ちを強化する程度と持て余し気味なので、もっと攻撃的なミッドレンジこそが《新緑の機械巨人》のいるべき場所だと思われます。半ば速攻に近い効果を持っているため、赤緑系のミッドレンジなどで活躍しそうです。
《折れた刃、ギセラ》は強力であるものの、これまで使われてこなかった背景には《反射魔道士》の存在がありました。戦場に出たときの効果を持たない4マナのクリーチャーは格好の餌食だったのです。しかし、これからは少し事情が変わってくるかもしれません。
これまで《反射魔道士》は主に《集合した中隊》とともに使われてきたため、あまりにも出てくる確率が高いカードだったのです。しかし、《集合した中隊》がローテーション落ちした今でも《反射魔道士》を使うデッキはあれども、それがプレイされる確率は以前よりもぐっと低くなっていくでしょう。
このことから《反射魔道士》に弱いカードたちは、《反射魔道士》の出現頻度が下がったことで、過剰に評価を下げられる必要はなくなったのです。《折れた刃、ギセラ》や《放浪する森林》など、ハイスペックであるものの、登場時の効果を持たないがゆえに避けられていたカードたちが脚光を浴びる日も遠くないでしょう
【まとめ】まだまだ未知なる新環境!
さて、こうして新環境の仕組みと、いくつかのデッキリストを見てきました。「赤系バーン」「赤緑エネルギー」「《霊気池の驚異》」「バントフラッシュ」「スピリット」「ジャンド昂揚」「ゾンビ」など。ここで紹介しきれなかったデッキはたくさんありますが、とりあえず簡単なまとめにはいりましょう。
・軽量クリーチャー+「機体」という多軸の攻撃手段を持つアグロデッキがいる
・《ヴリンの神童、ジェイス》や《ニッサの巡礼》を失った「現出」系は不安定になった
・「機体」に対抗できるインスタントの除去は強い
・《反射魔道士》に弱いカードの評価は高まった
・《新緑の機械巨人》は強い
・《ヴリンの神童、ジェイス》や《ニッサの巡礼》を失った「現出」系は不安定になった
・「機体」に対抗できるインスタントの除去は強い
・《反射魔道士》に弱いカードの評価は高まった
・《新緑の機械巨人》は強い
まだデッキ同士の関係性が明らかでないので、見た目上のわかりやすい内容しか話すことはできませんが、まとめた内容はおおよそ間違っていないでしょう。
『イニストラードを覆う影』環境は「緑白トークン」が、『異界月』環境は「バントカンパニー」が独走する代わり映えのない環境が続きましたが、心機一転した『カラデシュ』環境の行方はどうなるのでしょうか。どのような環境でも面白いことは面白いのですが、最適の選択肢が見えず、誰もが悩み模索するような環境のほうが個人的には好みです。
半年以上も《反射魔道士》+《集合した中隊》によって凝り固まっていた構築制限が緩和されたため、いくらか環境及びメタゲームは流動的になりそうな気配はあります。この予感は当たってくれますように!
これが最終回なので、皆さんと一緒に『カラデシュ』環境を見て回れないことだけは心残りですが、これからが最高に面白くなる新環境を思う存分楽しめることを願っています。
それでは、連載開始から約半年間、お付き合いいただきありがとうございました。またどこかで!
この記事内で掲載されたカード
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