モダン環境は、新たな局面を迎えた。
《ギタクシア派の調査》と《ゴルガリの墓トロール》の禁止。それは長く続いた3ターンキル時代の終わりを告げていた。
そう……Super Crazy Zooは死んだ。タダでライフを支払うことができる上に墓地も肥やせる《ギタクシア派の調査》は、《死の影》と《強大化》を同時に活用するこのデッキにとってなくてはならない存在だったのだ。
かつて私は、以下のように述べた。
いつの日か自分の作ったデッキが世界を席巻し、挙句そのデッキのキーパーツが禁止・制限リストに載るという、最高の栄誉を得るその日まで。
だらだらクソデッキ vol.6 -Super Crazy Zoo-より引用 |
そこにきてこの禁止改定である。3月には『モダンマスターズ 2017年版』のプレビューとして《死の影》までいただいて、ある意味では、宿願を果たしたと言ってもいいのかもしれない。
しかし私は、これらを受けても自分がまだ満足していないことに気が付いていた。
《ギタクシア派の調査》の禁止は、もちろんSCZの存在も理由の一つではあるのだろうが、それよりはむしろ「3ターンキルをするようなオールインデッキ群」として、感染やSuicide Blooと一緒くたにされた上での判断の結果に (おそらく) 他ならない。
つまり《第二の日の出》のように、「このデッキがダメ」というものではなかったのだ。
ならば「Super Crazy Zoo」は、私の製作したデッキの中では最も成功したデッキであることは間違いないとはいえ、きっとまだ不十分だったのだろう。
《死儀礼のシャーマン》と《血編み髪のエルフ》が入ったジャンドのように。《ウギンの目》が使えたころのエルドラージのように。そのデッキそのものがあまりに手が付けられないが故の禁止というものを、やはり私は目指していきたい。
そしてそのためには、真の意味で環境を支配するような圧倒的な一強デッキを製作する必要がある。
はたしてそんなことが可能なのだろうか?
否、可能かどうかは問題ではない。やるのだ。
ゼウスへの道のりは遠く、険しい。しかしデッキを作り続けていれば、いつかはたどり着くはずだ。
だからそう、懲りずにモダンに新たな風を吹かせに行こう。
■ 1. 妄想編
クソデッキ、いきなり行き詰まる。
そもそも「Super Crazy Zoo」は、「1ターン目に《わめき騒ぐマンドリル》を出す」という、モダン環境の速度の限界に挑戦したデッキだった。
そしてそれ故に、《通りの悪霊》や《ミシュラのガラクタ》といったモダン環境のバグ、すなわち「ゼロ」を掘りつくしてしまったのだ。
《稲妻》、《思考囲い》、《血清の幻視》、《野生のナカティル》……モダン環境は1マナのカードを中心に回っている。だからこそ「ゼロ」はそれらに一歩先んじるものとして、活用していること自体に大きな価値があった。
だが今では《死の影》ジャンドをはじめとして、多くのデッキが当たり前のように「ゼロ」を使いこなし、モダン環境の高速化に一役買ってしまっている。
しかしこの状況を何とかしたくても、「ゼロ」の先はもうない。いや正確には「力線/Leyline」という最後の砦は残されているのだが、力線を出しただけでゲームに勝てるなら苦労はしない。
かくして私は自らが招いた「ゼロ」だらけのモダン環境を前に、作るべきデッキを見失ってしまったのだ。
「ゼロ」を超えるコンセプトとは何か。
その禅問答のごとき課題を前に、私の心は折れかかっていた。
そんなとき。
twitterのタイムラインに流れてきたある一つの動画が、私の目に留まった。
それは「《予想外の結果》を打って《引き裂かれし永劫、エムラクール》などのデカブツを (偶然) プレイして勝利する」だけという、ある意味潔い、しかし膨大な労力がかかっているであろう動画だった。
なぜなら、《予想外の結果》で当たりが出る方が珍しい。だとすればこの動画の裏に一体どれだけの敗北を積み重ねる必要があるのか、想像するだに恐ろしいからだ。
けれどもそういった理性的な判断ができてもなお、この動画には人を惹きつけるだけの魅力があった。
その魅力とは何なのか。そこに「ゼロ」を超えるためのヒントが隠されていると睨んだ私は、動画を参考にしつつ早速自分でもモダンの《予想外の結果》デッキを組んでみることにしたのである。
はたしてそこには、新世界への扉があった。
《予想外の結果》でめくれるのは予想内の土地。ドローするたびに手札に吸い付くエルドラージたち。ろくなアクションもとれないこちらを対戦相手が3~4ターンのうちにボコしてくる様は、マグロ漁業そのものであった。
つまりは、想像以上の弱さだったのである。
だが収穫もあった。どんなシチュエーションでも《予想外の結果》から《引き裂かれし永劫、エムラクール》をめくれば勝ててしまうというのは、平たく言ってマジックへの冒涜以外の何物でもなかった。
何せこのデッキを使っていて、《予想外の結果》でたまたま《引き裂かれし永劫、エムラクール》をめくられた対戦相手から「え、どうやってライブラリー操作したの?」とか「クレイジー」といったチャットが飛んできた回数は一度や二度ではない。
そう、このデッキは対戦相手を不快にさせることにかけては超一流だったのだ。
ここにきて私は、「ゼロ」を超える力……その答えが既に自分の手の中にあることに気が付いていた。
「ゼロ」を超えるのは「無限大の可能性」……つまり「ランダム」だ。
対戦相手が「ゼロ」を使うなどして3ターン目までに積み上げた様々な準備、確実な勝利に向けられた伏線の数々を、「ランダム」の力によって台無しにする。それは言ってしまえば完璧なる思考の放棄であった。
通常、マジックのゲームやマッチの勝敗はダイスロールなどのゲーム外の方法に委ねてはならない。それはゲームの勝敗はゲーム内のルールによって決するべきだからだ。
だが、「ランダム」を使えば合法的にダイスロール (のようなこと) を行うことができるようになる。《予想外の結果》で強力なカードがめくれれば勝ち、そうでなければ負け。それ以外の事象はゲームの勝敗に一切関係がなくなる。すなわち、どんなに強いデッキ相手にも一定の勝率を担保できるようになるのだ。
けれどもそれでは、5割以上は絶対に勝てないのではないか?と思うかもしれない。
しかし、この時点でもはや私の目的は、「ランダム」にめくれたカードを見て歪む対戦相手の顔が見られれば何でもいいという風に、完全にすり替わってしまっていたのである。
そう、もはや《死の影》には勝てない。ならばどうするか?(もちろんゲームのルールの範囲内で)対戦相手に不快な負け方を経験させることに全力を注ぐしかない。
こうしてフォースの暗黒面に囚われた私は、また例によって無限の一人回しに突入し……そしてついに、完成形に辿り着いたのだ。
■ 2. 爆誕編
クソデッキ、ランダムを支配する。
思えばこの連載が広く知られるきっかけとなったバトルワームもまた、「ランダム」をテーマにしたデッキだった。
さらに半年ほど前にもバトルクールというクソデッキをリリースしたばかりだ。
その記事の中でも述べたことだが、既に私の中で決定事項として、「マジック:ザ・ギャザリング2 (ツー)」のテーマは「ランダム性を支配する」である、というのがある。
科学は日々進化し、人間の領域は宇宙にまで広がろうとしている。だがそんな中で人間の手が届かない、神に残された最後の聖域が「ランダム」だ。
そう、マジックであってマジックにあらず。ゲーム性のネクストレベルに達するためには、あえて一旦マジックであることを放棄し、神の領域である「ランダム」に身を委ねることが必要になってくるのだ。
それは言わば「マジックやりましょう。先手後手はダイスロールで」と言ってくる対戦相手に対し、「いいですよ。ただし勝敗は
それではお見せしよう、これが全ての勝敗を神に委ねる祈りのデッキ……ネクストレベルめんこだ!!
1 《平地》 1 《島》 1 《沼》 1 《血の墓所》 1 《繁殖池》 1 《神無き祭殿》 1 《神聖なる泉》 1 《つぶやき林》 1 《草むした墓》 1 《聖なる鋳造所》 1 《蒸気孔》 1 《寺院の庭》 1 《湿った墓》 3 《湿地の干潟》 3 《霧深い雨林》 2 《溢れかえる果樹園》 1 《悪臭の荒野》 1 《内陸の湾港》 1 《陽花弁の木立ち》 1 《森林の墓地》 -土地 (25)- 4 《引き裂かれし永劫、エムラクール》 3 《約束された終末、エムラクール》 -クリーチャー (7)- |
4 《集団的蛮行》 3 《探検》 4 《予想外の結果》 2 《裂け目の突破》 4 《天才の煽り》 3 《輝く根本原理》 4 《睡蓮の花》 3 《連合の秘宝》 1 《精霊龍、ウギン》 -呪文 (28)- |
3 《龍王ドロモカ》 3 《紅蓮地獄》 3 《至高の評決》 2 《対抗突風》 1 《すべてを護るもの、母聖樹》 1 《古えの遺恨》 1 《仕組まれた爆薬》 1 《大祖始の遺産》 -サイドボード (15)- |
ネクストレベルめんこ
神にもできることとできないことがあると思う(マジレス)
3マナ以下で対戦相手に干渉するカードは《集団的蛮行》のみでたったの4枚。さらにようやく4マナに辿り着いても4マナのカードも《予想外の結果》4枚だけ、それ以降は各マナ域に聖闘士 (セイント) が待ち受ける十二宮編方式。マナカーブは、これ以上なく完璧に破綻していた。
だが、実際のところマナカーブなんてものはこのデッキには関係がないのだ。
なぜなら、すべてのカードは《予想外の結果》ガチャの景品として採用されており、「めくれたときにゲームに勝てるかどうか」しか関係がないからである。
つまりマジックのカードを強い順で上から入れただけなのだが(そりゃエムラクールは7枚入るよ)、それでも一応、《予想外の結果》ガチャの景品やその他のカードについて、採用理由を解説しておこう。
これらは神への祈りだ。
《予想外の結果》をプレイするときは、ライブラリーの中に眠る彼らの鼓動を感じ、「ハイ!ニィ!ヤッ!」の掛け声とともに思いきってトップをめくると、少しだけ大宇宙の知識が深くなったような錯覚を覚えるだろう (めくれる確率には全く影響がありません)。
紹介した動画でも採用されていたが、このカードはめくれた中で一番唱えたいカードを必ず唱えることができるので、要するに《予想外の結果》の単発ガチャが5倍ガチャに変貌するのだ。なのでやっぱり当たらないこともある
また、《睡蓮の花》の「待機」が明ける4ターン目までに「白白黒黒」を用意しておけば手札からもプレイできるので、手札に来たときは土地の置き方に気を配ると良いだろう。
エムラクールを7枚も入れている以上、手札に大集合してしまうのは避けられない。だがそんなときでも彼女たちを有効活用してくれるのがこれらの裏技スペルたちだ。
特に《天才の煽り》は手札に何もなくても捨てる種を引いてこれるので、相手のライフが15点以下の場合は、諦めずにハーフラインからのジャンプシュートを狙ってみると意外と相手のゴールにシュゥゥゥーッ!!できるかもしれない。
手札破壊と除去のモードを使い分けることができるので、モダンの2マナ以下のカードの中で、コンボだろうとビートだろうとありとあらゆるデッキに対して最も時間を稼いでくれるカードだ。捨てるゴミもいっぱい手札に来るし
また、相手のライフを《天才の煽り》の15点ダンクの射程圏に入れるために、2点ドレインは地味に馬鹿にならない能力と言える。
■ 3. 実戦編
クソデッキ、マジックオンラインのフレンドリーリーグに出場する。
(中略)
ありったけの2-3
ありったけの1-4
ありったけの0-5
……それは、ただひたすらに苦行だった。
■ 4. 後悔編
クソデッキ、グランプリ神戸出場を決める……?
最強に思われた神の領域「ランダム」だったが、やはりモダン環境でおふざけはそう簡単には通用するはずもなく。
この「ネクストレベルめんこ」は、大方の予想通りに私のマジックオンライン資産を高速で溶かしていった。
もちろん普通のデッキでは考えられないほどのスペクタクルやドラマを生み出してくれたり、時にはこれ以上なく爽快な勝利をもたらしてくれることもあった。
「2代目ものの王道」
※画像をクリックすると拡大します
「《否認》構えが見え見えだぜ」
※画像をクリックすると拡大します
「《アトランティスの王》は疲れからか黒塗りのエムラクールに(ry 」
※画像をクリックすると拡大します
だがそれは全体のうちのほんの一部であり、そして残りのほとんどは、私が遠洋でマグロ漁業に勤しんでいる間に対戦相手が好き勝手に動いた挙句、めんこが外れて負けるのである。
とはいえ、まあそれだけなら問題はない。「やっぱりクソデッキだったよ」と諦めて次のデッキ作りに励めばいいだけの話である。
しかしここにきて、私はある重大な決断を迫られることとなった。
それは、プレイヤー参加が決まっていたモダンのグランプリ・神戸2017のデッキ選択だ。
グランプリに出るとなれば、勝率の高いデッキを選ぶ以外にない。なにせByeを持っていないとはいえ、うっかり2敗以内にでも入ればプロツアーの参加権利が手に入るのである。
しかし、前回スラムダンクで出場したグランプリ・静岡2017春の1回戦目のフィーチャーマッチの経験が、「本当にそうか?」と疑問を投げかけていた。
そして冷静に自分を見つめなおしてみたとき、抑えようとしても抑えきれない衝動が自分の中にあることに気が付いたのである。
再びあのフィーチャーエリアで、クソを回したい。
そしてその結果、「ネクストレベルめんこで出場してフィーチャーで華々しく散るというのもアリなのでは……?」とすら思うようになっていたのだ。
だが、めんこで出れば0-5は確定である。フレンドリーリーグですら負け越すようなデッキが、グランプリに出場する猛者たちに通用するはずもない。
かといってもし私が「エルドラージトロン」や「グリクシスシャドウ」で出場したら、たとえある程度勝ったとしても、私の中に何らかの「しこり」が残ってしまうだろう。
こうして「めんこでおふざけをする」「既存のデッキで手堅く勝ちにいく」という二択の間で板挟みになった私は、ちょうどプロツアーの取材が迫ってきたこともあり、とりあえず一週間前までは考えるのをやめることに決めたのであった。
ナッシュビルから帰国した私は、保留した選択と再び向き合うこととなった。
そうしてもうめんこでいいかと思いつつも、わざわざ神戸まで負けに行くのもそれはそれで嫌だったので、最近勝っているデッキを調べているとき……。
雷に打たれたかのような衝撃が、私を襲った。
「めんこでおふざけをするか」「既存のデッキで手堅く勝ちにいくか」という二択に抗う、第三の選択を発見したからだ。
それは、SCZを作ったときと同じかそれ以上の興奮だった。
そしてその時点で、めんこなどというクソデッキの記憶は彼方に消え去り、無限の一人回しが始まることになる。
二択を覆す第三の選択。
それは、「既存のデッキを凌駕する最強デッキを組み上げて出場する」というものに他ならない。
つまりは言ってしまえば、そう。
天啓が、舞い降りたのだ。
→グランプリ神戸後にあがる (予定の) vol.16に続く。
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- だらだらクソデッキ vol.14 -Sram Dunk-
- だらだらクソデッキ vol.13 -百八式波動球-
- だらだらクソデッキ vol.12 -バトルクール-
- だらだらクソデッキ vol.11 -Tide Walk-
- だらだらクソデッキ vol.10 -Temur New Generation-
- だらだらクソデッキ vol.9 -ジャイアンツ-
- だらだらクソデッキ vol.8 -ハサミ死霧変異バーン-
- だらだらクソデッキ vol.7 -ザ・ワールド-
- だらだらクソデッキ vol.6 -Super Crazy Zoo-
- だらだらクソデッキ vol.5 -マルドゥ剣心-
- だらだらクソデッキ vol.4 -モダン×ティボルト×エキサイティン-
- だらだらクソデッキ vol.3
- だらだらクソデッキ vol.2
- だらだらクソデッキ vol.1