(vol.15を読んでない方はこちらからご覧ください)
- 2017/05/25
- だらだらクソデッキ vol.15 -ネクストレベルめんこ-
- 伊藤 敦
選択の分岐は、どこにあったのだろうか?
何をしていれば、より良い結末を迎えることができたのだろうか?
止め処ない自問に、自答する術を私は持たない。
だがいずれにせよ、こういったことを考えるのはいつもいつも、全てが終わってしまったあとなのだ。
世界を変えるアイデアだと、本気で思っていた。
あのSuper Crazy Zooを超えるデッキを、ついに生み出してしまったのだと。
だがそれは、幻想だったのかもしれない。妄想だったのかもしれない。
それを証明する機会は、もはや失われた。否、自ら抛り去ったというのが正しい。
もし私が、いま少し賢明だったなら。あるいは、もう幾許かだけ冷静だったなら。
先日のグランプリ・神戸2017。そこで優勝はできないまでも、フィーチャーマッチに映ることくらいはできたはずだと思う。
しかし現実には大会は既に終わり、私の2勝3敗ドロップという成績は、何らの波紋をもこの世界に与えることはなかった。
だから今できるのは、書くことだ。
どのようにしてデッキを作り、そしてどのような失敗を犯したのか。
それをこうして書き記すことだけが、私の行いに意味を与えるのだから。
■ 1. 妄想編
クソデッキ、天啓を得る。
時は5月19日(金)。プロツアー取材から帰ってきた私は、どうにかめんこ以外で気に入るデッキがないかとモダンのデッキリストを片っ端から漁っていた。
そして、「そのデッキ」と出会った のである。
Modern Constructed League(5-0)
『アモンケット』で《療治の侍臣》を得たことで誕生したこのデッキは、しかし『アモンケット』発売後しばらくはレシピが固まりきらず、既存の「無限頑強」とのハイブリッドこそ存在したものの、モダン環境においては猛威を振るうというほどではなかった。
そんな状況において、おそらく洗練された形として初めて世に出てきた純正の「ドルイドコンボ」が、このレシピだった。
そしてこれを見た私は《改革派の結集者》の上手な使い道に感心し、週刊デッキウォッチングで紹介したりもしたのである。
だが他方で、改めてこのレシピを見直してみたとき、何か強烈な違和感を覚える自分がいた。
そこでその原因について考えてみると、それは「ドルイドコンボ」が抱える本質的な弱点にあるという結論に至ったのである。
《臓物の予見者》+《シルヴォクののけ者、メリーラ》+《台所の嫌がらせ屋》の「無限頑強」とは異なり、「ドルイドコンボ」はこれら2枚を戦場にただ揃えればいいというものではない。
別途勝ち手段が必要になるのは別論、これら2枚で無限マナを生み出すのにさえ、とある重大な制約が課せられているのである。
その制約とは、言わずもがな召喚酔いだ。
そう、「ドルイドコンボ」で無限マナを出すためには、《献身のドルイド》が戦場に出た状態でアンタップステップを迎えなければならないのである。
それはクリーチャー主体のコンボデッキとしては致命的とすら言えるほどの弱点 だった。
何せ少し想像すればわかると思うが、《療治の侍臣》が戦場にいる or 出せる状態で、ラストターンのトップデッキが《献身のドルイド》、もしくは《集合した中隊》や《召喚の調べ》といったそれを戦場に出せるカードだったとしても、どうやってもコンボを決めることができず、相手にターンを渡す羽目になってしまうのである。
もし相手がストームだったなら、あるいはタイタンシフトだったなら。いやモダン環境に存在するどんなデッキを相手にしていたとしても、その1ターンで勝負の趨勢は変わってしまうことだろう。
さらに、そのような制約があるのにもかかわらず、マナカーブのトップが一見合理的な、しかし実際にはめくれ具合に依存するランダムカードである《集合した中隊》というのも気になった。
このカードは3マナのクリーチャーがタフで、一定以上の確率で何がめくれようと 盤面にインパクトをもたらせるという場合には非常に頼もしいカードなのだが、ライブラリーの中の特定のクリーチャーを探すというのには、たとえ《永遠の証人》で使いまわせるとしても、その不確実性ゆえにモダン環境のスピードには全く合致していないように思えたのだ。
だが、そういった違和感がなんだというのだろうか?
既に『アモンケット』の発売から1か月近くが経過している。《療治の侍臣》コンボは発売当初からかなり話題になっていたし、このレシピとて、世界中のプレイヤーたちが試行錯誤をした結果、ようやくある程度洗練された形として成ったものなのである。
そこには、イノベーションの余地など残されていないと考えるのが通常だ。
しかし。
それでも私は、自分の目で確かめずにはいられなかった。
誰しも簡単に思いつく可能性だが、あまりに単純かつ馬鹿らしくて、真面目に検討する気も起きないようなその仮説を。
カードの単体の性能に「A」という不足があるとき、プレイヤーは「『A』がないから弱い」と考えがちだ。
だが、デッキビルダーは違う。
「このカードが『A』を持ったら最強だから、『A』を持たせるデッキを作ればいい。」
(だらだらクソデッキ vol.9 -ジャイアンツ-より引用)
ならば「速攻」を持たせればいいのではないか?
そう、クーガー兄貴も言っていた。「ドルイドコンボ」には、情熱思想理念頭脳気品優雅さ勤勉さ、そして何よりも速さが足りないのだ。
そのシンプルな結論に至った私は、早速モダンでクリーチャーに「速攻」を持たせるカードを検索した。
そしてついに、運命の邂逅を果たしたのである。
このカードを発見したときの衝撃がわかるだろうか?
私はその瞬間に本気で、「モダン環境に革命が起きる」とさえ思ったのだ。
その理由は、このカードが土地だったからである。
検索する前、私はせいぜい《稲妻のやっかいもの》くらいを思い浮かべていた。なので、仮に《献身のドルイド》に「速攻」を持たせることができたとしても、結局《集合した中隊》や《召喚の調べ》のお世話になる必要があるだろう、と想像していた。
だが、土地がコンボパーツとなれば話は別である。
この土地を置いたなら、次のターンにはコンボが決まる可能性がある。それは3ターンキル、否最速2ターンキルすらも可能ということを意味しているのだ。
しかもこの土地の存在によって、手札状況が整うまで、あるいは相手が隙を見せるまで、 コンボを手札に溜めておくことが可能となったのである。その上、相手がこの土地によって何が起こるかを想像できなければ、メインは「ドルイドコンボ」と気づかずに隙を見せる可能性が高くなる。
そう、それは「ドルイドコンボ」にすべての弱点を克服させ、かつこれ以上なくコンセプトに合致した、まさしく最強のカードだったのだ。
■ 2. 爆誕編
クソデッキ、速さの限界を超える。
《献身のドルイド》、《療治の侍臣》、そして《山賊の頭の間》。
完成したトライアングルを手に、私は飽くなき無限の一人回しへと突入した。
残る課題は《集合した中隊》の排除。より軽いマナで、どうやってコンボパーツを揃えるのか。
しかしこれについては、私は既に答えを持っていた。
先ほどの旧式の白緑「ドルイドコンボ」が採用していない、そして今のモダンならば当然のテクニック。それは前回言及した、いわゆる「ゼロ」だ。
すべては伏線。「ドルイドコンボ」、《山賊の頭の間》、「ゼロ」……クーガー兄貴もびっくりのRadical Good Speedがそこにはあった。
Super Crazy Zooを製作した私だからこそたどり着けた境地。
それではお見せしよう。これが私のグランプリ出場デッキ、「エターナル・デボーテ」だ!!
「エターナル・デボーテ」
美しい……。
無限の一人回しの結果、「美」が生まれた。 3000人のGP参加者の中で最も美しいデッキ だと確信を持って言えるほどだ。
とはいえレシピを見ただけだとデッキの動きが何もわからないと思うので、ごく簡単に説明しておこう。
どんなデッキなの?
このデッキは《献身のドルイド》、《療治の侍臣》、《山賊の頭の間》、そして「無限マナからの勝ち手段」という4種類のカードを、何が何でも手札に揃えるということを目標に作られている。
《寺院の庭》《森》《山賊の頭の間》と場にあるとき、3マナしかないものの、《森》と《山賊の頭の間》から《献身のドルイド》を出すと、「速攻」ですぐにマナが出せるので、《療治の侍臣》も同一ターンに場に出せる。
そしてこの時点で(緑)が無限マナになるので、あとは《召喚士の契約》で《薄暮見の徴募兵》をサーチし、場に出して能力を好きな回数起動することで (もしくは「昂揚」した《ウルヴェンワルド横断》で直接) 《歩行バリスタ》を手札に入れ、「X=1億」でプレイすれば勝利となる。
何ターン目に決まるの?
上記のパターンによる3キルが通常だが、1ターン目に《山賊の頭の間》を置いた場合、「速攻」の《献身のドルイド》は(緑)(緑)を即座に生み出せるので、これを《魔力変》で(白)含みに変換してやれば、《療治の侍臣》を出して2キルも可能となる。
この《魔力変》は余った《召喚士の契約》から《野生の朗詠者》を持ってくることでも代用が可能なので、「コンボ2枚+フィニッシャー+緑の出る土地+《山賊の頭の間》+マナ変換カード」の6枚縛りとはいえ、意外と起こりうるパターンである。
何がすごいの?
クリーチャーを使ったオールインコンボということで、デッキの性質は青赤ストームや純鋼ストームに近い。
しかしこのデッキはそれらとほぼ同等のスピードを保ちながら、《否定の契約》を4枚積むことが可能となっているのである。
これはクリーチャーを出したターンにはコンボが決まりづらい青赤ストームや、20枚程度の装備品をデッキに搭載しなければならない関係上スロットの制約が著しい純鋼ストームにはないメリットだ。
圧倒的なコンボスピードに加えて《否定の契約》……それはいわばレガシーの「The Spy」をモダンに持ち込んだに等しい。
加えて出発前に「Reckless Fire」を聴いてテンションを高めた私に死角はない。
モダン環境に革命を起こすこの「最強のドルイドコンボ」で、今度こそ私自身がグランプリの優勝トロフィーを持ち帰る!
■ 3. 実戦編
クソデッキ、グランプリ神戸に出場する。
◆第1回戦 VS アブザン昂揚
1戦目 手札破壊を打たれず、相手は先手で《残忍な剥ぎ取り》→《ヴェールのリリアナ》という動き。返しでコンボが決まれば良かったのだがコンボパーツが揃っておらず、ターンを返すと手札破壊を打ち込まれた上で除去も構えられて負け。
2戦目 手札破壊の返しで《強き者の優位》を置いたが《タルモゴイフ》のクロックが早く、コンボパーツが揃う前に負け。
××
◆第2回戦 VS グリクシスコントロール
1戦目 緑マナを引けば即勝ち条件の《山賊の頭の間》キープ。4ターン引けずに負け。
2戦目 コンボ始動に合わせたフルタップ《コラガンの命令》を《否定の契約》で弾いて勝ち。
3戦目 相手の動きが芳しくなく後手4キル。
×〇〇
◆第3回戦 VS グリクシスシャドウ
1戦目 相手ワンマリ、先手T1T2に手札破壊を打ち込まれて《献身のドルイド》2枚を抜かれるが《ニッサの誓い》が3枚目の《献身のドルイド》をもたらして後手3キル。
3戦目 除去2枚を潜り抜けられずに負け。
〇××
◆第4回戦 VS タイタンシフト
1戦目 先手4キル。
2戦目 相手事故ってて《強き者の優位》貼って悠々コンボ決めて勝ち。
〇〇
◆第5回戦 VS エスパーシャドウ
2戦目 除去2枚を乗り越えられずに負け。
3戦目 同上。
〇××
■ 4. 後悔編
クソデッキ、サイドプランを練り込めず。
実はこのデッキ、メインボードの完成度を100とするならサイドボードの完成度は10……すなわちメインボードを「美」とするなら、サイドボードは「糞」であった。
そうなった原因はもちろん私の怠慢にある。
というのも、このデッキのメインボードを一人回しした回数は無限回だが、サイドボード含めてマジック・オンラインで実戦に投入した回数はたったの2回だったからだ。
世界で私しか使ったことのないコンボデッキのサイドボードが、実戦練習抜きで完成するはずもない。
もちろんそれには理由がある。このデッキはマジック・オンラインで1ゲーム勝とうとするたびに400回近いクリックが必要になるので、2マッチプレイしただけで右手が破壊されそうになったからだ。
それに加えて、この世界の最先端のアイデアをグランプリ前に広めたくないという気持ちもあった。
だが今にして思えば、右手が腱鞘炎で死のうと、十数人が《山賊の頭の間》のアイデアを知ろうと、構わずサイドボードの構築に邁進するべきだったのだ。
とりわけ、相性的に不利だとわかっていたにもかかわらず、対《死の影》デッキのサイドプランを練り込めずに適当に《神聖の力線》を入れたのは猛省すべき点だった。「開始時以外で手札に来て困るデッキに力線/Leylineを入れてはいけない」という基本原則を失念していたと言うほかない。
グランプリが終わり、私はようやくマジック・オンラインを起動して、サイドボードを完成させた。
GP参加前の段階で《死の影》系に関するサイドボードとして「プロテクション(黒)」が解答となりうることには気づいていた。そのため、《大貂皮鹿》4枚と《秘教の処罰者》1枚をとるかどうかは最後の最後まで悩んだ部分だった。
だが3/3という微妙なクロックの低さと、《死の影》ジャンドには効かないことを理由に不採用としてしまっていた。
《ミラディンの十字軍》は、《瞬唱の魔道士》にブロックはされるものの、《大貂皮鹿》よりクロックが高く、《タルモゴイフ》も止められるので、ほとんど上位互換と言っていい性能だった。これを採用していれば、GPの1・3・5回戦目はまた結果が違ったかもしれない。
また、アグロや《死の影》系にサイドインできない除去にスロットを割いていたのは意味不明だった。自分で10点以上余裕でライフを支払うので、《四肢切断》である必要は全くない。アグロ対策も薄かったので、おそらく《クァーサルの伏兵》は良いサイドボードとなるだろう。
結果はふるわなかったが、本当に世界を変えうるデッキを思いついたとき、何が障害になるのかについて大きな学びを得たのは良い経験となった。
次に私が同じようなアイデアを思いつけるのがいつになるかはわからないが……。
そのときはきっと、今回よりは。
上手くやれることだろうと、信じている。
「エターナル・デボーテ」75枚デッキごと販売中!
※一人回しが止まらなくなる中毒性の高いデッキなので用法・容量を守ってご使用ください。
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- だらだらクソデッキ vol.15 -ネクストレベルめんこ-
- だらだらクソデッキ vol.14 -Sram Dunk-
- だらだらクソデッキ vol.13 -百八式波動球-
- だらだらクソデッキ vol.12 -バトルクール-
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