みなさんお久しぶりです。以前、レガシーの連載コラム【のぶおの部屋】を書かせていただいていた、斉藤 伸夫です。
皆さまのお陰で好評のまま終えることができた本シリーズですが、不定期連載という形で復活となります。今までに紹介していなかったアーキタイプや、自分が紹介したいアーキタイプあった際に、インタビューをして掲載していきたいと思いますので、改めてよろしくお願いいたします。
さて、大きいイベントといえばやはりグランプリ!今年4月に、【国内で初めてのレガシーGP】が京都で行われ約2,000人ものプレイヤーが集まりました。
【トップ8】を見ると全員が《渦まく知識》を使い、そのうち7人が《Force of Will》で妨害をするという逆風の中、手札破壊を妨害の中心に据えたコンボデッキで見事入賞したプレイヤーがいました。実は、そのプレイヤーに強烈に惹きつけられ、どうしてもインタビューしたくなってしまったのです。今回はその方を紹介したいと思います。
■ ゲストの紹介
斉藤 「というわけで、今回インタビューさせていただく方を紹介します。佐渡 海 (東京)さんです。
彼は、ドイツ人と日本人のハーフであり、母国ドイツでは2014年5月に行われた【Bazaar of Moxen 第9回】でTop16入賞を、2014年6月の【Prague Eternal】では見事優勝を飾りました。
去年ドイツから帰国し、【東京MTG】のスタッフとしてもマジックを盛り上げてくださっています。
そして記憶に新しい【GP京都】に置いてもその実力のままにベスト4入賞という偉業を成し遂げた最高峰の“ANT”プレイヤーです。今日はANTの魅力と強さを惜しみなく聞かせてください!」
佐渡 「はい。よろしくお願いします!5年使い続けているANTのことを伝えられたら嬉しいです!このコラムはドイツにいた頃から読んでいて、ぜひ出たいと願っていました!」
■ ANTとは?
斉藤 「こちらが一般的なANTのレシピになります。」
1 《島》 1 《沼》 2 《Underground Sea》 1 《Badlands》 1 《Tropical Island》 1 《Volcanic Island》 4 《汚染された三角州》 4 《沸騰する小湖》 -土地(15)- -クリーチャー(0)- |
4 《ギタクシア派の調査》 4 《渦まく知識》 4 《思案》 4 《陰謀団式療法》 4 《暗黒の儀式》 3 《強迫》 2 《定業》 4 《陰謀団の儀式》 4 《冥府の教示者》 1 《Grim Tutor》 1 《苦悶の触手》 1 《炎の中の過去》 1 《むかつき》 4 《ライオンの瞳のダイアモンド》 4 《水蓮の花びら》 -呪文(45)- |
3 《外科的摘出》 2 《闇の腹心》 2 《蒸気の連鎖》 2 《紅蓮破》 2 《突然の衰微》 2 《防御の光網》 1 《虐殺》 1 《巣穴からの総出》 -サイドボード(15)- |
斉藤 「それでは基本的な内容からお聞かせください。まず、ANTとはどんなデッキなのでしょうか?」
佐渡 「《むかつき》(Ad Nauseam)と《苦悶の触手》(Tendrils of Agony)の頭文字をとってANTと呼ばれている、瞬殺コンボデッキです。」
名前にもなっている《むかつき》をマナ加速からプレイすることによって大量のカードを手札に加え、ストームをためてから《苦悶の触手》を打つことによって勝利するデッキになります。デッキの大半はマナ加速・ドロースペル・サーチカードなどの低マナのカードから構成されており、《むかつき》とも相性がよいです。《むかつき》を通すだけの1枚コンボでもあります。また、最近では《炎の中の過去》のおかげでライフも関係なく勝ちにいけるため1ターンキルが可能なだけでなく、ロングゲームになっても勝てるようになりました。」
斉藤 「《むかつき》に比べて《炎の中の過去》の方が確実に勝てるため、こちらで勝つことの方が多いくらいですよね。」
佐渡 「そうですね。色としては青黒にタッチ赤(《炎の中の過去》)&タッチ緑(《突然の衰微》)が主流の形ですが、《オアリムの詠唱》のために白を足したり、柔軟性を増す《燃え立つ願い》と追加のマナ加速である《炎の儀式》を使用するために赤を濃くするパターンもあります。」
■ なぜANT?
斉藤 「なんでANTを使おうと思ったのですか?ドイツに一時帰国した頃はマッドネスのようなテンポよりのデッキを使う印象が強かったので、コンボを使っていて驚きました。」
佐渡 「5年前にストームを使っていたCarsten Kotter先生(※)に何度も負けて、その後彼に回し方を教わるのをきっかけに使い始めました。それまで、コンボに強いといわれるデルバーを使っていたのにも関わらず全然勝てないので不思議でした。ANTというデッキを試しに借りた時の初手がとても強いと驚き、ANTの練習を決意しましたね。このデッキは回し方が上手くなったら、強くて楽しくて止まらないデッキですよ!」
斉藤 「Carstenさんとは一緒にマジックをやるような仲だったのですね。自分も、海外の記事でよく参考にさせていただいています。」
佐渡 「はい。彼もベルリンに住んでいて、僕の家や大会で一緒にレガシーを楽しんでいました。」
斉藤 「ストームコンボは難しいと言われるアーキタイプですが、ビートからコンボに変更して苦労したことはないのですか?」
佐渡 「最初の3か月くらいは本当に負けまくりましたね。結果も散々で、一度は諦めようかとCarstenに相談しましたが、『半年以上信じて使い続けたらうまくなるデッキだよ』という彼の言葉を信じ練習し続けました。半年では足りませんでしたが、使い始めてから2年間かけて、各カードの使い方-《むかつき》を使う上でのライフ管理、《冥府の教示者》の使い方、手札に来た《炎の中の過去》や《苦悶の触手》の扱い方など-に徐々に慣れていきました。」
佐渡 「2014年に入ってから急に勝てるようになってきたので、大規模な大会で使う自信がつき、実際にANTで参戦してみたところ【Bazaar of Moxen 第9回】・【Prague Eternal】と立て続けに入賞することができました。」
斉藤 「とても長い時間をかけたのですね。まさに『継続は力なり』といったところでしょうか。」
斉藤 「レガシー環境でのANTの強みはどんなところですか?」
佐渡 「青くないデッキや黒が濃くないデッキと当るとBye(不戦勝)みたいなものなので、長いラウンドやる上で負担が軽いマッチが一定数あるのが強みですね。また、キルターンが非常に早いので、多少の妨害は《強迫》などで乗り越えて瞬殺できるのも強みだと思います。」
■ 一般的なレシピとの違いは?
斉藤 「では、佐渡さんのレシピを教えてください。」
佐渡 「こちらがGPで使用したレシピになります。」
1 《島》 1 《沼》 2 《Underground Sea》 1 《Bayou》 1 《Tropical Island》 1 《Volcanic Island》 4 《沸騰する小湖》 3 《汚染された三角州》 1 《溢れかえる岸辺》 -土地(15)- -クリーチャー(0)- |
4 《ギタクシア派の調査》 4 《渦まく知識》 4 《思案》 4 《暗黒の儀式》 3 《陰謀団式療法》 3 《強迫》 2 《定業》 1 《汚物の雨》 4 《陰謀団の儀式》 4 《冥府の教示者》 2 《炎の中の過去》 1 《苦悶の触手》 1 《むかつき》 4 《ライオンの瞳のダイアモンド》 4 《水蓮の花びら》 -呪文(45)- |
4 《突然の衰微》 3 《夜の戦慄》 2 《ザンティッドの大群》 2 《蒸気の連鎖》 2 《狼狽の嵐》 1 《クローサの掌握》 1 《巣穴からの総出》 -サイドボード(15)- |
斉藤 「一般的なレシピと比較してどのようなチューンを施したのか教えてください。」
佐渡 「ANTはここ近年のレガシー環境では、メインの58枚は確定していると思っています。残りのフリースロットの2枚に個人差があらわれます。そこに僕は、《汚物の雨》と2枚目の《炎の中の過去》を入れました。《炎の中の過去》に関しては2014年10月からずっと愛用している枠です。このカードは相手からのハンデスやカウンターに強く、1枚で勝てるカードという強みをもっています。」
佐渡 「《汚物の雨》に関しては、2~3ターン目の比較的早いタイミングに打つとしても黒マナをたくさん発生させてくれる上に《陰謀団の儀式》のスレッショルドの手助けまでもしてくれますし、4ターン目以降には《暗黒の儀式》を越えるマナを生み出してくれるスーパーリチュアルですよ!」
斉藤 「次に、サイドボードを見てみましょう。サイドはメタに合わせた好みが出ていますね。」
佐渡 「はい!そうなんです。《狼狽の嵐》と《クローサの掌握》が珍しいと思います。
ANTというデッキのサイドは《蒸気の連鎖》2枚、《突然の衰微》2~4枚はマストですが、それ以外は比較的自由のきくデッキだと思います。《突然の衰微》は今回は4枚ですが、3枚にして《クローサの掌握》を2枚することもあります。《翻弄する魔道士》で《突然の衰微》とコールされた時に《相殺》に干渉するスペルが足りないのは悲しいですからね。」
佐渡 「また《狼狽の嵐》は、コンボデッキ、ハンデス・《もみ消し》デッキ、URデルバーなどに対してコンボスタートするターンまでの時間を得るためのカードとして選択しました。この選択は本当に正解でした。」
斉藤 「ANTからカウンターが飛んでくるということ自体珍しいため、よく嵌りそうですね。特に《狼狽の嵐》は、コンボが苦手とするカウンターやハンデスと守りに使う時はとても強いですからね。」
斉藤 「最近《ザンティッドの大群》の採用が増加しましたが、どのような意図でサイドに増えたのですか?」
佐渡 「GPに向けてオムニテルは必ず上がってくると予想していました。そのオムニテルに強いリアニメイトや青いクロックパーミも増えるでしょうから、それらのデッキに強い《ザンティッドの大群》をとりましたね。特に、青単に近いデッキにはとても効果的です。」
斉藤 「実際にGP京都TOP8に2人を輩出したオムニテルは、《ザンティッドの大群》をカウンターできるカードが《Force of Will》くらいですからね。」
斉藤 「3枚も入っている《夜の戦慄》が目をひきますが、《夜の戦慄》を選択した理由も教えてください。」
佐渡 「《夜の戦慄》はデス&タックスやマーベリックのような《スレイベンの守護者、サリア》などのヘイトベアで攻めてくるデッキ対策のためにいれました。GPでは思ったより使う機会の少ないカードでしたが、ヘイトベアを多用するデッキにはメイン戦で理不尽に負けることもあるため、サイド後のゲームを必ず取れるようにということで入っています。」
斉藤 「同じカードが3枚と多めに取られていますが、《虐殺》などのようなもっと広く見れるカードを選択せずに、《夜の戦慄》に統一した理由はあるのでしょうか?」
佐渡 「はい。《スレイベンの守護者、サリア》を入れたいデス&タックスなどのマッチでは1枚貼れれば有利な上、2枚貼るとだいたい相手のクロックがなくなるため、『1枚引きたい、2枚以上引いても大丈夫』ということから3枚と多めに採用しました。1枚引けてしまえば《冥府の教示者》で2枚目をサーチしてきてしてくることも可能ですし、2枚場に出すことによってほとんど勝ちとなります。《虐殺》との比較ですが、デス&タックスは《Karakas》と《霊気の薬瓶》があることが多く、《スレイベンの守護者、サリア》などを《虐殺》から逃がした上ですぐに《霊気の薬瓶》から出てくる動きをしてくるため《虐殺》では完全な対策とはいえず、《夜の戦慄》を優先しました。」
■ メタに合わせた変更点
斉藤 「では、今後メタにあわせてデッキを変えるとしてどうするか教えてください。」
佐渡 「パターン分けして、順にあげていきます。」
◆ビートが増えた場合
元から有利なことが多いですが、ビートと対峙するときは速度を上げるとさらに簡単なマッチになることが多いです。デッキ自体のスピードをあげるために、《むかつき》の2枚目を入れ、《むかつき》からめくれても強いマナ源である《金属モックス》も1枚いれるでしょう。抜くカードとしてはスピードの落ちる原因となる《炎の中の過去》1枚と《定業》1枚を抜きます。
サイドカードとしては、ハンデスをかわす《師範の占い独楽》や相手の生物を一掃できる《紅蓮地獄》とかがおすすめです。
◆テンポが増えた場合
メインはこのままで十分強いのでいいと思います。もしバーンよりのテンポデッキが増えるようであれば、《むかつき》を《巣穴からの総出》に変更します。
サイドカードとしては《Hymn to Tourach》型デルバーには《狼狽の嵐》をさらに1枚。RUGデルバーのようなカウンター戦略には《花の絨毯》を用意します。《花の絨毯》は特に強力で1ターン目に設置できてしまうととても有利に運ぶことができますし、カウンターを強要させることもできて強いです。
◆コンボが増えた場合
メイン戦については特にスピードを重視して対ビート戦同様に、《むかつき》の2枚目・《金属モックス》を採用します。変わりに《陰謀団の儀式》と《炎の中の過去》2枚目を減らすことになるでしょう。
サイドの選択としてはハンデスとも相性のよい墓地対策となる《外科的摘出》や《根絶》。リアニメイトやスニークショーに強い《Karakas》も候補ですし、オムニテルやハイタイドなどのコンボには《ザンティッドの大群》の増加もとても有効的です。
◆コントロールが増えた場合
メインには、《翻弄する魔道士》や《相殺》などのパーマネントに干渉できるように《撤廃》を1枚くらい積むのは候補になります。
サイドプランとして、こちらへの妨害手段を打破できる《突然の衰微》に加えて《クローサの掌握》の2枚目の増加もありですね。また《苦悶の触手》の2枚目や《闇の腹心》・《若き紅蓮術士》などの生物プランも軸を変えた戦い方としては有効です。
コントロールはミラクルが多いですが、エスパーベースのコントロールデッキが増えた場合にはヘイトベアをしっかり除去しながら行動のとれる《虐殺》がとても強いカードになります。
次回はANTの弱点やサイドボードの考え方、テクニックを紹介するといったプレイ編をお届けします。
では、次回プレイ編でお会いしましょう。
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このシリーズの過去記事
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