「神無き祭殿」。神とは。
こんにちは、若月です。
Zendikar Expeditions版《神無き祭殿》。初めてこの画像を見た時は震えました。神とは。そうかゼンディカーで神っていうとそうなるのか! どれもこれも美しいZendikar Expeditionsですがこうきたか!! 旧ゼンディカーの「トレジャー」は、世界に隠された貴重な宝物をイメージしたものでした。もしかしたら今回は、「ゼンディカーにはまだこんなに美しい場所も存在するんだよ」というフレイバーなのかもね。そしてこの路線で行くと「寺院の庭」や「繁殖池」も名前からして怖いんじゃ……と思いましたが大丈夫だった。
さて予告通り、今回はゼンディカー世界の神話とエルドラージとの関係について、旧ゼンディカー時代から面白い話が沢山あるのでそれをまとめました。そしてその神々と密接に関わるプレインズウォーカーについても一緒にお届けします。
1. 神とエルドラージ
神と世界が密接に関わる世界といえばテーロス、ですがゼンディカーにもその世界の神への信仰がありました。ゼンディカーの人型種族でも、マーフォークとコーには緩やかな信仰体系が存在しました。空と海と大地を統べる三柱の神々。そして両種族は認めなかったでしょうが、それぞれには明らかな類似がありました。
マーフォークの神 | コーの神 |
エメリア/Emeria 空、風、雲の神。 女性神 | カムサ/Kamsa 風の女神、「世界の息」。 女性神 |
ウーラ/Ula 水の領域の神。 男性神 | マンジェニ/Mangeni ※ 海の神、「世界の血液」。 男性神 |
コーシ/Cosi 他のあらゆる領域を統べるペテン師の神。 男性神 | タリブ/Talib ※ 大地の神、「世界の肉体」。 男性神 |
※MangeniとTalibはカードに未登場のため、これが正式訳かどうかは不明
先日《ウーラの寺院の探索》を使用したとても楽しそうなデッキが話題になりましたね。マーフォークの神格であるエメリア・ウーラ・コーシは旧ゼンディカーブロックの結構多くのカードに名前が登場していましたので、聞き覚えがあった人も多いかと思います。とはいえ物語そのものとこれらの神々に然程密接な関係はありませんでした、『エルドラージ覚醒』までは。不気味な気配が漂っていた「エルドラージ」の姿が現れてくるにつれ、更に不気味な真実もまた明らかになりました。
というわけで、先程の表の左側にもう一列を付け加えてみましょう。
エルドラージ | マーフォークの神 | コーの神 |
エムラクール/Emrakul | エメリア/Emeria 空、風、雲の神。 女性神 | カムサ/Kamsa 風の女神、「世界の息」。 女性神 |
ウラモグ/Ulamog | ウーラ/Ula 水の領域の神。 男性神 | マンジェニ/Mangeni 海の神、「世界の血液」。 男性神 |
コジレック/Kozilek | コーシ/Cosi 他のあらゆる領域を統べるペテン師の神。 男性神 | タリブ/Talib 大地の神、「世界の肉体」。 男性神 |
マーフォークの神とエルドラージの名には明らかな類似が見られます。エルドラージが目覚め、その名が知られるにつれて、ゼンディカーの人々は理解しました。自分達が今まで信仰していたものは全くの紛い物だったと。
何故そんなことになってしまったのか? ゼンディカー出身のプレインズウォーカー二人がその原因を語ってくれています。
公式記事「まどろみから目醒めて」より引用
彼女はエルドラージの牢獄を監視するためにコーを鍛えた。彼らを率いて、次元を横断する長期の巡礼へと連れ出した。ナヒリは彼らへと、面晶体の連結構造の力が集中する点を示し、彼らの中の石鍛冶へと、牢獄の壁を試す方法を伝えた。それらが――彼女はそれらを「神」と呼んだ、コー達が理解しやすいようにと――神々が目覚めず、世界は破壊されないことを確実にするために。
(略)
それは彼女の過ちだった。彼女が最初にコジレックを神と呼んだのだ。そして事実コー達はその言葉を覚えていた、その神々が世界を壊すという警告以上に。
彼女はエルドラージの牢獄を監視するためにコーを鍛えた。彼らを率いて、次元を横断する長期の巡礼へと連れ出した。ナヒリは彼らへと、面晶体の連結構造の力が集中する点を示し、彼らの中の石鍛冶へと、牢獄の壁を試す方法を伝えた。それらが――彼女はそれらを「神」と呼んだ、コー達が理解しやすいようにと――神々が目覚めず、世界は破壊されないことを確実にするために。
(略)
それは彼女の過ちだった。彼女が最初にコジレックを神と呼んだのだ。そして事実コー達はその言葉を覚えていた、その神々が世界を壊すという警告以上に。
公式記事「海を落ちて」より引用
あの神々は神々などではなかった。詐欺師コーシの正体は恐ろしい皮肉とともに明かされた。神は偽物だった――エルドラージの巨人コジレックの記憶が、馬鹿者達の囁きの伝言ゲームによって歪んだのだ。エメリアとウーラも、同様に、巨大で奇怪な偽りだったと証明された。
あの神々は神々などではなかった。詐欺師コーシの正体は恐ろしい皮肉とともに明かされた。神は偽物だった――エルドラージの巨人コジレックの記憶が、馬鹿者達の囁きの伝言ゲームによって歪んだのだ。エメリアとウーラも、同様に、巨大で奇怪な偽りだったと証明された。
上はナヒリ、下はキオーラです。ナヒリがゼンディカーの人々へとエルドラージのことを語り継がせようとした時に、「理解しやすいように」それらを神と呼んだのでした。それが目覚めたら世界は破壊される、そんな神として。ですが人々がそれを伝えていくうちに、それらがもたらす破壊よりも「神」だという側面だけが残された……のでしょう。尤もテーロス世界のように、信仰心(信心)がその神の姿を形作るというわけではないようですが。
また、神々との類似性とは別に、エルドラージそのものの伝承もまたゼンディカーには多少残されていました。そしてそれらを研究する者達は、エルドラージは世界の外から来た存在とだいうことに気付いていました。旧ゼンディカーブロックの物語にて、ニッサ&ソリンと共に旅をした《遺跡の賢者、アノワン》もその一人です。
「ああ、奴らを止めねばらなんというのは同感だ」 アノワンが言った。「ゼンディカーから追い出すことで、止める」
ニッサは心臓が跳ねたのを感じた。「どういうこと?」 彼は別の次元のことを言っているのだろうか? どうやって次元渡りのことを知ったのだろうか?
その吸血鬼は空を見上げた。「書物で読んだ、奴らはこの地の存在ではないと。つまりそれは、奴らは別の何処かからやって来たに違いないということだ。そしてその場所へ帰すべきだ。こことは違う、ゼンディカーではない所から旅をしてきたと主張する存在について私は読んだことがある。そういった書物が存在する」
「あなたはそれを信じるの?」
アノワンは肩をすくめた。
ニッサは心臓が跳ねたのを感じた。「どういうこと?」 彼は別の次元のことを言っているのだろうか? どうやって次元渡りのことを知ったのだろうか?
その吸血鬼は空を見上げた。「書物で読んだ、奴らはこの地の存在ではないと。つまりそれは、奴らは別の何処かからやって来たに違いないということだ。そしてその場所へ帰すべきだ。こことは違う、ゼンディカーではない所から旅をしてきたと主張する存在について私は読んだことがある。そういった書物が存在する」
「あなたはそれを信じるの?」
アノワンは肩をすくめた。
――小説『Zendikar: In the Teeth of Akoum』チャプター8より訳
旧ゼンディカーブロックで「考古学者」らしい知識を披露していたアノワン。今回《精神背信》のフレイバーテキストで生存が確認されましたがお元気でしょうか。
このアノワンだけでなく、公式記事でプレインズウォーカー達に関わる多くのキャラクターがエルドラージを、そしてギデオンやジェイスやニッサを「ゼンディカーの外から来た者/外へ行ける者」だと気づいています。そんな彼らを余所者だとして反発するか、滅亡する世界の希望を託そうとするかはまたそれぞれで……。
2. 三大エルドラージ
エルドラージについて、最近の公式記事「戦乱に向けて その1」に極めて重要になると思われる記述がありました。
エルドラージをメカニズム的に定義することの問題を理解するため、『エルドラージ覚醒』を振り返る必要がある。当時のリード・デザイナーだったブライアン・ティンスマン/Brian Tinsmanは、エルドラージを生命にすると決めた。クトゥルフ神話の長年のファンだったブライアンは、古の、巨大な、異質な、世界を喰らう何かをデザインすることになった。さて、どうやって古のものだと示す? 彼は、マナが色に分かれる前の存在であると示すため、無色に決めた。
エルドラージは「マナが色に分かれる前の存在」。さらっと書いてありますがこれ、それこそ「大統一理論」的な、多元宇宙世界の創造に関わって来る話じゃないですか……。私達はマジックの基礎を成す5つのマナとその性質を理解していますが、全ての世界で必ずしもその理論が発達している、解明されている訳でもありません。例えば「断片」だった頃のアラーラ世界はそれぞれ3つのマナしか存在せず、もう2つについては知られていませんでした。また古代のドミナリア、あのヨーグモスが生きていた時代においては「世界を司るエネルギーは5つの異なるタイプに分けられる」という理論はまだ登場したばかりでした。
そう考えると、今回登場した「欠色」、色は持たないものの色マナを必要とするエルドラージは太古の血統からは遠ざかった、現代の多元宇宙の影響を受けながら生まれてきたエルドラージなのでしょうか。そしてエルドラージ達が何もかもを食らうのは、その「マナが色に分かれる前の存在」に何もかもを戻すため……と考えるのは単純すぎますかね?
と気になることは沢山ありますが、ひとまずは三大エルドラージとゼンディカー世界との関係についてそれぞれ掘り下げてみましょう。
■ エメリア/エムラクール
おなじみの最強エルドラージです。神としての名は「エム/Em」だったり「エメリア/Emeria」だったり、特に過去の資料には表記にぶれがありますが正しいのはどちらなのか。別にどちらでも間違いではないようです。とはいえ最近の記事やカードではエメリアで統一されているのでエメリアで進めましょう。
多くの人が気付いているように、《見捨てられた神々の神殿》の中央に立つエメリアのシルエットは、《引き裂かれし永劫、エムラクール》プレリリース版の「正面顔」と非常に似通っています。記事冒頭に挙げたZendikar Expeditions版《神無き祭殿》もエムラクールの正面姿のように見えません?
しかしエムラクールのデザインの禍々しさったら。ウラモグとコジレックはまだ頭と腕と胴体があって、人っぽい姿をしているじゃないですか、一体どうやったらこんな化物が出てくるのか……アーティストさんって本当に凄いですよね。女神エメリアにもしっかり触手がついているのにちょっと笑います。彫像作った人は「これ何だろう」と思わなかったのでしょうか。
そして旧ゼンディカーブロックの天使の多くに幾つもの「ひらひら」がぶら下がっています。
これ、エメリアの「触手」を模しているんでしょうね……。そう、エルドラージとゼンディカーの天使には切り離せない関係がありました。
ゼンディカー世界の天使も他の世界のそれと同様、白マナの体現であり、その色が司る善や正義を執行する存在です……が、かつてエルドラージと戦った時、天使達は上手くやれませんでした。悪を滅する天使のオーラも、色を持たないエルドラージには何ら通用しませんでした。とはいえエルドラージもまた、天使を完全に滅ぼすことはできませんでした。エルドラージは天使を隷属させ、その頭上の「光輪」を目の高さまで引き下げました。エルドラージの暴虐が彼女らの目に入らぬように、その犠牲者を目にして助けに向かうことのないように。
エルドラージが封じられて数千年が経ても、隷属の証は彼女らの身体に残り続けています。そして彼女らの視界を塞ぐ光輪の意味は、エルドラージそのものと同じように時と伝承を経て変化しました。ゼンディカーの人々はそれを、公平と平等の証と捉えるようになりました。
では、光輪に目を塞がれていない天使は一体?彼女らはエルドラージに抵抗し、それらの破壊の記憶や自由意思を保ち続けた「高位」の天使です。そして今なお視界を光輪に塞がれている天使達も、もはやエルドラージの道具としてではなく、世界を守るために戦っています。
ところで、エルドラージに性別は無いと明言されています。ですがゼンディカーの神話においてエムラクール=エメリア・カムサは共に「空の女神」。そのためエムラクールは実際に「女性扱い」されているのを時折見ることができます。
(原文)
Emrakul, the largest of the Eldrazi titans, flies by altering gravity around herself.
(訳)
巨大エルドラージでも最大のエムラクールは彼女の周囲の重力を捻じ曲げて飛行する。
Emrakul, the largest of the Eldrazi titans, flies by altering gravity around herself.
(訳)
巨大エルドラージでも最大のエムラクールは彼女の周囲の重力を捻じ曲げて飛行する。
公式ウェブサイトの「Card of the Day」2015年8月28日より。上の画像は当日のスクリーンショットですがアーカイブはこちら(「AUGUST 2015」をクリックして下さい)。知識として知ってはいてもこの「宇宙しいたけ」の画像とともにこう書かれるとやはり妙な感じ。
■ウーラ/ウラモグ
神話によればウーラは「ハリマーの深海に棲まう『純粋な』マーフォーク」。ウーラとゼンディカーとの関わりは実のところ、もう二体に比較するとあまり書かれてきませんでした。海を統べる神ということでしたが、何故ウラモグが海と関連づけられたんでしょうね。空を飛ぶエムラクールが空の女神になったのはまだわかりやすいんですが。下半身の触手がイカやタコを連想させたから? なおゼンディカー最大の都市であり目下ギデオン達ゼンディカー軍が取り返そうとしている「海門」の灯台にはかつて名高い研究機関があり、ウーラを信奉するマーフォークが沢山働いていました。
そのように『戦乱』以前の情報は多くありませんが、三大エルドラージのうち、現在ゼンディカー世界でその姿を見かけるただ一体がウラモグです。エムラクールとコジレックはどこへ? それはわかっていません。その質問に対する回答もされていません。ともかく現在ゼンディカー世界にいる巨大エルドラージはウラモグだけらしいということで、今世界に満ちているエルドラージはほとんどがウラモグの血統です。
せっかくなので、各血統の大まかな見分けかたを書いておきましょう。
ウラモグ:のっぺらぼうの白い骨の顔、二股に分かれた腕
エムラクール:格子状の肉構造
コジレック:頭上に浮かぶ黒曜石の鋭い刃
『戦乱のゼンディカー』のカードにはしばしば「白亜の荒廃」と表現される、脆く白い多孔質の構造が見られます。大地にも、生物の身体にも。
デュエルデッキ版《弱者の消耗》をウェブサイトで初めて見たのは、まだ『戦乱のゼンディカー』の絵も多くは出ていない頃だったと思います。この乾ききった、吸い尽くされきった様相にぞくりとしました。これはウラモグの血統のエルドラージが大地や生物から生命力を、マナを吸い取った残骸です。そしてウラモグ御自らが大地のマナを吸いながらゆっくりと前進する様子も早速公式記事にありました。
公式記事「信者達の巡礼」より引用
ウラモグはその触手の塊を伸ばし、地面の一塊を掴み、そして、おぞましくも、引きずるように前進した。ウラモグが移動する音はジェイスの魂を凍りつかせた――それは生きた大地がその精髄を吸い尽くされる音だった。獰猛で荒々しいマナが永遠に沈黙させられる音だった。肥沃な地が乾いた骨と化す音だった。
ほんの一瞬だったが、ジェイスは想像した。ウラモグの巨体の下で自身が分解され、体組織が切り離され、肉が剥がれて浮かび離れてゆく、まるでゼンディカーの浮島のように――
ウラモグはその触手の塊を伸ばし、地面の一塊を掴み、そして、おぞましくも、引きずるように前進した。ウラモグが移動する音はジェイスの魂を凍りつかせた――それは生きた大地がその精髄を吸い尽くされる音だった。獰猛で荒々しいマナが永遠に沈黙させられる音だった。肥沃な地が乾いた骨と化す音だった。
ほんの一瞬だったが、ジェイスは想像した。ウラモグの巨体の下で自身が分解され、体組織が切り離され、肉が剥がれて浮かび離れてゆく、まるでゼンディカーの浮島のように――
何とも暴力的かつ圧倒的に。こんな存在にとても敵うはずもない、ジェイスと共に心からそう思いました。更に恐ろしいことにウラモグが現在向かう先は海門……でもこの先のウラモグの運命は既に示されているんですよね。
とはいえこれはあくまで封じ込めただけであって、It is done.というわけではないんでしょうなあ。
■ コーシ/コジレック
空の神、海の神と来て大地の神、それはわかりますが何故同時に「ペテン師の神」なんでしょう?
本人のカードもですが、《コジレックの審問》でおなじみのコジレック。優秀なハンデス呪文として主にモダンで活躍しています。そしてコジレックと言えばやはり外せない、あの衝撃的なプレビュー記事。ウギン回でも取り上げましたが、見たことのない人は是非一度こちらを。
「The Secrets of the Eye(目の秘密)」
http://archive.wizards.com/Magic/magazine/article.aspx?x=mtg/daily/arcana/396
にょろにょろ。「衝撃的なカードプレビュー」としては2007年元旦に公開された《神の怒り》が《滅び》に変化するアニメーションとこれが双璧だと思っています。あれはもう見られないのが本当に惜しい。
さて、「何故ペテン師?」とゼンディカー人も思ったのかどうかは定かではありませんが、コーシはもう二体に比較するとあまり「良くない」神として伝わっていました。彼は誘惑や策略や欺きを用いて混沌を振りまき、何か不運なことが起こったならそれはコーシの仕業なのだとされてきました。そのためか表向き、コーシの信者を自称する者はほとんどいませんでした。ですが信奉者は確かに、脈々と存在しました。今回カード化されたこんな人も。
A Planeswalker’s Guide to Zendikar Introductionより抜粋・訳
「我らが種族だけが大地を動く乱動を感じることができる。マーフォークだけがこの荒々しい大地をなだめ、鎮めることができる。だが私の同族はそのような力の源を誤解している。彼らは空のエムや海のウーラに信仰を捧げている。だが私にはわかる、この力はペテン師コーシからのものだと」
「我らが種族だけが大地を動く乱動を感じることができる。マーフォークだけがこの荒々しい大地をなだめ、鎮めることができる。だが私の同族はそのような力の源を誤解している。彼らは空のエムや海のウーラに信仰を捧げている。だが私にはわかる、この力はペテン師コーシからのものだと」
――タジームの凪魔道士、ノヤン・ダール
ノヤン・ダールさん! 旧ゼンディカーブロックからかなり多くのカードのフレイバーテキストに登場していて遂に御本人がめでたくカード化されたノヤン・ダールさんじゃないか! ちなみにどれほど登場していたかといいますと、
えらい多いな! あーこう性格悪い青の呪文(語弊)に沢山出てきてるあたり確かにコーシの信者だわ。すごく納得。
また、コーシと関係のある……というか関係がないでもない意外な有名カードとして、《溶鉄の尖峰、ヴァラクート》があります。トーナメントで大活躍し、モダンでも禁止解除を経て主に「風景の変容」デッキで使用されていますよね。
ヴァラクートのある火山島一帯は「タリブの王冠(Crown of Talib)」と呼ばれているのだそうです。上の表にも書きましたがタリブ=コーシ=コジレック。なるほど《見捨てられた神々の神殿》のコーシは冠のようなものを被っています。
コーシは神話でもまさに「トリックスター」的な存在で、もう二柱の神に悪戯をしかける物語が数多く伝えられていたようです。そしてその物語は人々へ暗に教えていました、神々を怖れないように、信頼しないように。恐怖の存在であったエルドラージはいつしか崇拝の対象になってしまったのですが、コーシの物語は「それらは崇めるべきではないもの」なのだと伝えていたのかもしれません。
キオーラが言ったように、ゼンディカーの神々は偽物でした。ただしコーシだけは少なくとも、信仰の通りの存在でした。嘘つきの神は自身の素性をも偽っていた。それはある意味、本物だということだったのでしょうから。
3. 生足魅惑のマーフォーク
そうキオーラ。ゼンディカーの神々……エルドラージと最も関わりが深いプレインズウォーカーは間違いなく彼女でしょう。ゼンディカー生まれのゼンディカー育ち、かつ幼い頃から「神話」を聞いて育ちました。
キオーラが初めて私達の前に登場したのは2011年5月の公式記事「グランド・マナ・ツアー」。『デュエルズ・オブ・ザ・プレインズウォーカーズ2012』に登場する新プレインズウォーカーとして紹介されました。
このアート! 当時記事を読んで「ほー!」と感銘を受けたのを今でも覚えています。何といってもこの波の描写! 世界的に有名なあの浮世絵「神奈川沖浪裏」じゃないですか!! ちなみに有名な絵だけあってか、キオーラだけでなく過去にも《不屈の自然》《水流破》といったカードであの波のモチーフが見られます。
そんな初代キオーラのアート指示も以前公開されていました。
公式記事「Kiora Package」より抜粋・訳
色:青、少々緑
場所:荒れ狂う海の只中、岩の上に立って
様子:新たなプレインズウォーカーのキャラクター、キオーラを見せるように。深淵の力を操る、美しい女性のマーフォーク。彼女は一見穏やかで冷静だが、その瞳には熱く荒々しいものがある。キオーラは海の巨大生物を尊ぶ―クラーケン、リバイアサン、その他暗い深みに棲むもの達を―何故なら彼女にとって、それらは最も根気強い力にすら耐えるものが存在しうるという証拠なのだから―時、水、捕食、そして暗黒にも。
中心となるもの:マーフォークのプレインズウォーカー、キオーラ
雰囲気:彼女は穏やかで賢く見えるが、その夢は奇怪で想像の彼方にある。
メモ:「髪」は長く、トウギョ(ベタ・スプレンデンス)の長いヒレのような材質で。
色:青、少々緑
場所:荒れ狂う海の只中、岩の上に立って
様子:新たなプレインズウォーカーのキャラクター、キオーラを見せるように。深淵の力を操る、美しい女性のマーフォーク。彼女は一見穏やかで冷静だが、その瞳には熱く荒々しいものがある。キオーラは海の巨大生物を尊ぶ―クラーケン、リバイアサン、その他暗い深みに棲むもの達を―何故なら彼女にとって、それらは最も根気強い力にすら耐えるものが存在しうるという証拠なのだから―時、水、捕食、そして暗黒にも。
中心となるもの:マーフォークのプレインズウォーカー、キオーラ
雰囲気:彼女は穏やかで賢く見えるが、その夢は奇怪で想像の彼方にある。
メモ:「髪」は長く、トウギョ(ベタ・スプレンデンス)の長いヒレのような材質で。
そして2013年に公式からの「クリスマスプレゼント」として《荒ぶる波濤、キオーラ》が公開されたのは覚えている人も多いかと思います。
あの浮世絵の英語タイトルは「The Great Wave off Kanagawa」。初代キオーラのカード名に「Wave」がきちんと入っているのはもしかしてこれリスペクトだったりするのでしょうか。青いプレインズウォーカーは沢山いますが、今のところ「海」をフィーチャーしているのはキオーラただ一人ですね。青の大切な成分なのに意外です。
キオーラは巨大海洋生物を操るプレインズウォーカーとして登場しました。リバイアサンやクラーケンといった「青のデカブツ」には昔から根強いファンがいます。個人的な話になりますが、まだネットも発達していない頃、基本セット第5版のパックを開けて初めて《リバイアサン》に出会った時の衝撃は今でも覚えています。とてつもないサイズ、とてつもないデメリット、でもこれを使えたら正直……すごくない? 結局使いこなせませんでしたが……。
さて過去数度書いてきましたが、物語でキオーラはエルドラージに対抗する力=巨大海洋生物を求めてテーロス世界を訪れました。そして現地のマーフォークから「タッサの使い、もしくは現身か何か」と勘違いされるも、その立場を利用して探索を続け、ですがやがてそのタッサ本人の怒りを買うことになります。ついには一対一の戦いとなるも神には敵わず、ですがキオーラは《タッサの二叉槍》を掴んでプレインズウォークし、戦利品を持って逃げることに成功しました。
そしてつい先日公開の公式記事「故郷の海」にて、物語でもキオーラはゼンディカーに帰ってきました。期待した通りに今回も明るくて可愛らしかった! この記事はなかなか盛りだくさんで、キオーラと妹トゥーリの幼少期や、プレインズウォーカーとして覚醒した経緯までもが語られていました。それにしても肉親が生きていて、しかも普通に顔を合わせられる間柄のプレインズウォーカーはなにげに初でしょうか?
そんなタッサの二又槍をしっかり持っているのが今回のキオーラです……が。
《深海の主、キオーラ》
プレインズウォーカー ― キオーラ
2緑青 +1:クリーチャーを最大1体と土地を最大1つ対象とし、それらをアンタップする。
-2:あなたのライブラリーの一番上から4枚のカードを公開する。あなたは、その中のクリーチャー・カードを最大1枚と土地・カードを最大1枚あなたの手札に加えてもよい。残りをあなたの墓地に置く。
-8:あなたは「クリーチャーが1体あなたのコントロール下で戦場に出るたび、クリーチャー1体を対象とする。あなたは『その戦場に出たクリーチャーはそれと格闘を行う。』を選んでもよい。」を持つ紋章を得る。その後、青の8/8のタコ・クリーチャー・トークンを3体戦場に出す。
忠誠度:4
プレインズウォーカー ― キオーラ
2緑青 +1:クリーチャーを最大1体と土地を最大1つ対象とし、それらをアンタップする。
-2:あなたのライブラリーの一番上から4枚のカードを公開する。あなたは、その中のクリーチャー・カードを最大1枚と土地・カードを最大1枚あなたの手札に加えてもよい。残りをあなたの墓地に置く。
-8:あなたは「クリーチャーが1体あなたのコントロール下で戦場に出るたび、クリーチャー1体を対象とする。あなたは『その戦場に出たクリーチャーはそれと格闘を行う。』を選んでもよい。」を持つ紋章を得る。その後、青の8/8のタコ・クリーチャー・トークンを3体戦場に出す。
忠誠度:4
《タッサの二叉槍》成分はどこだ。公式記事「プレインズウォーカーのための『テーロス』案内 その1」によりますと、《タッサの二叉槍》は「潮汐を操り、海に渦潮を起こす」とあります。確かに記事では渦潮を起こしてエルドラージに対処したり、コーシの伝承を語りながら舞台効果的に波を操っていました。こんなカードもあります。
公式記事「Mファイル『戦乱のゼンディカー』編・パート1」にありましたが、同型再販に近いこの二枚。両方ともタッサの二又槍の力が示されているカードです。思えばキオーラはタッサと戦った時、実際に《大地への縫い止め》を食らうも、そこからこの槍を掴んで逃げたのでした。プレインズウォーカー・カードだけがそのプレインズウォーカーの能力を表しているわけではない、ということですね。
キオーラはコーシの信者、とは行かないまでも、ゼンディカーのマーフォークの三神の中ではコーシを好んでいました。そして「騙された」ことを恨みながらも、それこそがコーシなのだとも思っています。ゼンディカーの多くの人々もそれは同じでしょう。
妹と再会の約束をし、コーシの信者達を引き連れ、ウラモグを止めるべく彼女もまた海門へと向かいました。海門にはエルドラージと戦う多くのゼンディカー人が、そして未だ彼女の知らぬプレインズウォーカーが待っています。中でもギデオンはテーロス出身。キオーラの持つ二又槍関係でその世界の話が交わされたりするのでしょうか。是非して欲しいですよね。
4. 特別企画 『戦乱のゼンディカー』 物語的注目カード10選
このサイトでは新セットが出る度に津村さんが「注目カード20選」を書いてくれています。そこで私も倣って注目カードを10枚選んでみることにしました。ただしこの記事ですので、トーナメントでの活躍は一切考えず、「ストーリー的に注目のカード」「フレイバーテキストが面白いカード」という題目です。それではカード番号順にどうぞ!
■ 1.《陰惨な殺戮》
《陰惨な殺戮》フレイバーテキスト
ギデオンの海門への到着は虐殺を防ぐには手遅れだったが、それでも生き残った人々を比較的安全な場所に誘導することはできた。
ギデオンの海門への到着は虐殺を防ぐには手遅れだったが、それでも生き残った人々を比較的安全な場所に誘導することはできた。
壊滅した海門へギデオンとジェイスが到着する所から、『戦乱のゼンディカー』の物語が始まりました。「物語の結末」が描かれたカードはそれなりにありますが、「開幕」が描かれたものは珍しいかもしれません、特に近年は。そして「陰惨な殺戮」というカード名。過酷にも程があるスタートです。
■ 2.《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》
前回さんざん書いたでしょ! そしてこの項目でプレインズウォーカー扱うのは逆にちょっと違わないか?と思うけれどまだ書いていないことがあったんです!
「例え故郷にいようとも異邦人」なのがプレインズウォーカー、とは過去数度書いてきました。彼らは本質的には何にも属さない存在。それが「同盟者」という、ゼンディカーの一員という肩書を得て、更に離れることはない、最後までここにいると誓った。苦境の人々の力になるべく次元を渡り歩いてきたギデオン、時には自分の生きたいような場所で生きてもいいんだよ……それでもこの先も弱者のための戦いに身を投じるのが彼なんだろうな、とも思うのだけどね。
■ 3.《石術師の焦点》
ここでナヒリの名が出てきています。カード化は『統率者2014』という特殊セットながらきっちりメインストーリーに関わり続け、思えば《ウギンの構築物》のフレイバーテキストでも言及されていました。
エルドラージを対処するために極めて重要な存在なのですが、ナヒリの行方はやはり知れないままです。ですが逆にここまで「行方不明」を強調されると、それはつまり今後しっかり語られるってことなのかな? ソリンと何があったのか、むしろそのへんすごく楽しみじゃない? じゃない?
■ 4.《マラキールの解放者、ドラーナ》
《マラキールの解放者、ドラーナ》フレイバーテキスト
「我は奴隷として生きはせぬ。自由になるつもりなら、我と共に戦うがよい。」
「我は奴隷として生きはせぬ。自由になるつもりなら、我と共に戦うがよい。」
公式記事「血の記憶」はドラーナ様の超かっこいい「主役回」でした。吸血鬼の血の長でも《ゲトの血の長、カリタス》はエルドラージに堕ちるも、ドラーナは自由のために戦い続けています。そして巨大な種父を倒す戦いの中、ゼンディカーの吸血鬼はエルドラージによって創造されたことが明らかになりました。あー、上でナヒリとソリンについて書いたけれど、つまりソリンが勝手に吸血鬼を作り出してしまったことで仲違いした、という説は無くなるな。
記事ラストでドラーナ軍も海門へ向かいました。さすがのギデオンも吸血鬼と共に戦ったことは無い気がします。ここにも楽しみな出会いがまた一つ。
■ 5.《溶岩足の略奪者》
《溶岩足の略奪者》フレイバーテキスト
エルドラージとの戦いで最初に面晶体の潜在能力に気付いたのはゴブリンであった。たまたま先が尖っていて便利だったのだ。
エルドラージとの戦いで最初に面晶体の潜在能力に気付いたのはゴブリンであった。たまたま先が尖っていて便利だったのだ。
個人的に『戦乱のゼンディカー』一押しのフレイバーテキストがこれです。きっとそのへんに転がっていた面晶体を彼らが武器として利用したのが始まりだったんでしょうね。ゼンディカー世界のゴブリンはそれなりに知能があるようですが、この「たまたま先が尖っていて便利だった」というフレーズがゴブリンらしさを醸し出していて非常にナイスだと思います。
■ 6.《オンドゥの勇者》
どことなくボロス魂を感じるギデオンの台詞。ですがミノタウルス。ギデオンの故郷であるテーロスにおいてミノタウルスはほとんど知性のない、人も襲って食らう獣です。一方でラヴニカのミノタウルスは都市生活を営む何十もの種族の一つ。ボロスでは兵士を務め、ギルドパクト庁舎にきちんと請願にも行きます。ベテランのプレインズウォーカーであるギデオンのこと、同じ種族でもその世界によって姿形や性質は異なるとは理解していると思いますが、それでも驚いたんじゃないですかね。
■ 7.《彼方より》
エルドラージのモチーフは「クトゥルフ+ギャラクタス」。宇宙的恐怖を描いたクトゥルフ神話体系、その創設者H・P・ラヴクラフトの著作にまさしく「彼方より」という短編が存在します。原題も「From Beyond」。幸運にも我が家にあったので読み返しました。ライブラリからエルドラージ・カードを探してくるこの能力が、通常人間には見えない、見てはならないものに触れるという元ネタのフレイバーなのかしら、と半ば無理矢理解釈してみた。
■ 8.《墓所からの行進》
《墓所からの行進》フレイバーテキスト
ゼンディカーの至るところから、すべての階層の人々が、1つの共通の大義を掲げ戻ってきた。
ゼンディカーの至るところから、すべての階層の人々が、1つの共通の大義を掲げ戻ってきた。
この絵に描かれているのは人間、コー、マーフォーク、エルフ、ゴブリン、吸血鬼、ありとあらゆる同盟者種族です。カード能力の通りに。海門を奪還すべく進軍する同盟者達、という場面でしょうか。ちなみにカードサイズですとわかりにくいですがアートの中央、ちょうど影がかかる付近にギデオンもしっかりいます。
■ 9.《待ち伏せ隊長、ムンダ》
初の伝説コーにして初の伝説同盟者。初めて登場したのはカードよりも先、2015年7月掲載の公式記事「限界点」でした。コーはだいたい2/2サイズくらいの細身の種族ですが彼は3/4と一回り大型。カード能力の通り素早く逞しく統率力に優れ、そして『戦乱のゼンディカー』の物語が始まる以前からギデオンとは戦場で共に戦ってきたようです。最近の公式記事「ニッサの探求」ではそれを嬉しそうにニッサに自慢して(そしてだいたいスルーされて)いました。なんか昔のクラスメイトが有名人になったのを自慢する人のようでウザくも微笑ましかった。
■ 10.《連結面晶体構造》
《連結面晶体構造》フレイバーテキスト
最後の面晶体を定位置に設置すると、ウラモグは無限循環する拘束エネルギーに閉じ込められた。
最後の面晶体を定位置に設置すると、ウラモグは無限循環する拘束エネルギーに閉じ込められた。
実は『戦乱のゼンディカー』ファットパック小冊子には物語のあらすじも載っていまして、驚いたことにこのカードに至るまでが説明されていました。詳しくは今後のUncharted Realmsで語られるのでしょう。たまに重要情報が載っているファットパック小冊子は背景ストーリー好きには割と必須アイテムです。今回は「これまでのあらすじ」やらウラモグだけでなくコジレックとエムラクールについても書かれていたりの大盤振る舞いでした。
そしてよく見るとこの面晶体、魔法でビシッと並んでいるわけではなく縄で縛って繋げて並べてあります。そのあたりゼンディカー軍が手間暇かけた感があって頑張った! すごい頑張った!!
そんなふうにウラモグが拘束された所で、また次回。
(終)
※今回の記事、エルドラージとゼンディカーの神々の関係についてはこちらの記事を参考にさせていただきました。
「Gods and Monsters」
http://archive.wizards.com/Magic/magazine/Article.aspx?x=mtg/daily/stf/82
「The Defiance of Angels」
http://archive.wizards.com/Magic/magazine/article.aspx?x=mtg/daily/stf/86
「世界を食うもの」
http://archive.wizards.com/Magic/tcg/article.aspx?x=mtg/tcg/riseoftheeldrazi/flavor3
この記事内で掲載されたカード
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