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【コラボ企画】初公開!「マジック:ザ・ギャザリング」の人気キャラが「デュエル・マスターズ」に参戦!!コラボカードを携え挑む兄弟戦争の結末に刮目せよ! https://t.co/H8dxjUOemr #mtgjp #デュエマ pic.twitter.com/NG27Vhgsjy
— マジック:ザ・ギャザリング (@mtgjp) 2016, 1月 21
やー驚いたわこのニュースには。『デュエル・マスターズ』(以下DM)にコラボ企画でジェイスとボーラス様が登場! DMのルールは一応把握していますが、どちらも良い感じに元カードの能力が再現されていると思います。フレイバーテキストもジェイスが《解明》、ボーラス様が《ボーラスの奴隷》と、しっかり良いところを押さえてありますね!
そしてこのボーラス様、躍動感があると同時に何がレアかって、「火を吐いている」ところ! 第29回にも書いていましたが、メインカラーが黒青寄りなのであまり火を吐かない(たまに吐く)んですよね。珍しく、と言っては失礼かもしれませんがドラゴンらしい格好良さに溢れていると思いませんか。
毎度どうも若月です。いきなりボーラス様の話ばかりでしたが、今回はジェイスの話です。『マジック・オリジン』で明らかになった過去、『戦乱のゼンディカー』『ゲートウォッチの誓い』での役割を追いつつ、まもなくやって来る『イニストラードを覆う影』に備えていきましょう!
1. ジェイスの故郷
『マジック・オリジン』にて、ジェイスの生い立ちと生まれ故郷の次元が明らかになりました。ジェイスの故郷については2009年1月発売の小説「Agents of Artifice」にて少し語られていたのですが、その世界が具体的に何処なのかは今回ようやく判明しました。「ヴリン/Vryn」、聞き慣れない名前ですが、こちら『プレインチェイス2012』の次元カードとして以前に登場していました。
この凄く不思議で綺麗な風景に、初めて見たときから心惹かれたのを覚えています。そしてこの輪は一体何なのだろうかと疑問に思いました。よく見ると煙突が立っていて煙が出ているので中に人が住んでいるのか、だとしたら何故こんな奇妙な形の構造物内に住んでいるのか。
アート以外の情報が出たのは『マジック・オリジン』が初めてだったかと思います。公式記事「The Worlds of Magic Origins」に次元の詳細が説明されていました。翻訳しましょう。
公式記事「The Worlds of Magic Origins」より引用
(掲載:2015年7月9日)
対立する勢力が巨大な、マナを流す「魔道士輪」の支配を巡って争う世界。
ヴリンで最も重要かつ特徴的なものは魔道士輪のネットワーク、遠方地域から政治的中心地である中核府へとマナを流す巨大構造物である。この次元の魔道士輪の古さや起源はわかっておらず、多くが破損状態にある。
(略)
アンプリン同盟、もしくはアンプリン中核府はヴリンの優勢な勢力である。魔道士輪ネットワークの連結部を支配しているため、彼らは一大陸分のマナと豊富な資源を手にしている。
トロヴィア人分離主義者はヴリンの反体制勢力である。一般的には、彼らはアンプリン同盟からの政治的独立を求めて戦っているとされている。実際には、その戦いは魔道士輪の支配を巡るものである。
(掲載:2015年7月9日)
対立する勢力が巨大な、マナを流す「魔道士輪」の支配を巡って争う世界。
ヴリンで最も重要かつ特徴的なものは魔道士輪のネットワーク、遠方地域から政治的中心地である中核府へとマナを流す巨大構造物である。この次元の魔道士輪の古さや起源はわかっておらず、多くが破損状態にある。
(略)
アンプリン同盟、もしくはアンプリン中核府はヴリンの優勢な勢力である。魔道士輪ネットワークの連結部を支配しているため、彼らは一大陸分のマナと豊富な資源を手にしている。
トロヴィア人分離主義者はヴリンの反体制勢力である。一般的には、彼らはアンプリン同盟からの政治的独立を求めて戦っているとされている。実際には、その戦いは魔道士輪の支配を巡るものである。
つまりこの輪は我々の次元で言うところの送電線みたいなもののようです。この世界では何か特別な意味があるのか、『マジック・オリジン』のヴリン関係カードにはしばしば「輪」のモチーフが見られます。
『デュエルズ・オリジン』のジェイスステージ、一面の相手がこの《魔道士輪の暴漢》なのですがのっかけら強敵で……っていうかこちらのデッキが弱くて苦労させられました。
『統率者』シリーズほどメジャーではありませんが、『プレインチェイス』シリーズ(2009年版・2012年版)は背景世界好きにはたまらないセットです。この連載でも過去何度か取り上げてきましたが、何といっても「次元カード」。これまでマジックに登場してきた様々な特徴的で魅力的な次元世界が大判の美麗なアートで表現されています。
せっかくですので今回も私のお気に入りをひとつ紹介。
この深い青色に見覚えはありませんか? ここは《涙の川》の次元。公式記事「The Planes of Planechase」によれば、この次元Arkhos(アーコス)は「夜と昼が一風変わった独特の法則で混ざり合う、夢のように朧な世界」。このように『プレインチェイス』シリーズに登場していながらも詳細がわかっていない、ですが気になる次元はまだ数多くあります。
ちなみにプレインチェイス戦で遊ぶときには「次元ダイス」をどんどん振って積極的にプレインズウォークしていくのが楽しいですよ。《アガディームの面晶体原》でエルドラージ・トークンを出して即逃げろ!
2. ジェイスオリジン
さすがにこの連載では過去何度もジェイスを扱ってきましたし、メインではなくとも結構な頻度で言及してきました。こんな感じで。
【第3回】-ジェイスの初登場から旧ゼンディカーブロックまで
【第20回】-『ラヴニカへの回帰』ブロック主人公としてのジェイスの動き
【第20.5回】-『ラヴニカへの回帰』ブロック後日談
【第26回】-『基本セット2015』におけるガラクとの関わり
【第31回】-デュエルデッキの背景話(VSチャンドラ、VSヴラスカ)
【第36回】-『戦乱のゼンディカー』序盤時点でのジェイス
【第40回】-『ゲートウォッチの誓い』序盤時点でのジェイス
【第20回】-『ラヴニカへの回帰』ブロック主人公としてのジェイスの動き
【第20.5回】-『ラヴニカへの回帰』ブロック後日談
【第26回】-『基本セット2015』におけるガラクとの関わり
【第31回】-デュエルデッキの背景話(VSチャンドラ、VSヴラスカ)
【第36回】-『戦乱のゼンディカー』序盤時点でのジェイス
【第40回】-『ゲートウォッチの誓い』序盤時点でのジェイス
さすがに多いなあ! 『ローウィン』にて最初の5人が登場して以来、ジェイスは青を代表するプレインズウォーカーであり続けています。そんなジェイスについての説明なんて今さらという気もしますが、長く登場し続けているだけあって彼にも様々な変化がありました。『ゲートウォッチの誓い』ファットパック付属小冊子には「誓い」サイクル4人について短い解説があり、これが現在のジェイスをシンプルながら良い感じに説明していたと思うので訳します。
『ゲートウォッチの誓い』ファットパック付属小冊子より引用
ジェイス・ベレレンは常に最良の行動を追い求める聡明な精神感応者です。その強烈な好奇心と無類の創造的才能は彼の最大の長所です。
ジェイス・ベレレンは常に最良の行動を追い求める聡明な精神感応者です。その強烈な好奇心と無類の創造的才能は彼の最大の長所です。
ジェイスについて詳細に語ったのは【第20回】、『ラヴニカへの回帰』ブロックストーリーまとめが最後。そしてこのごろはずいぶんと善寄りといいますか正義のヒーローらしくなり、物語では「その強烈な好奇心と無類の創造的才能」をもってラヴニカの平和を維持し、ゼンディカーではウラモグやコジレックを対処しようとしています。そんなわけで今回は『マジック・オリジン』以降のジェイスについて詳細に触れていきますよ。
ジェイスの過去が語られた公式記事「ジェイスの『オリジン』:欠けた心」によれば、このジェイスは13歳。プレインズウォーカーとして覚醒する以前、彼はヴリンという次元に住む1人のありふれ……てはいない少年でした。類稀な精神魔法の使い手であるジェイス、その才能は早くに開花していました。ですが子供の頃は自分の能力をしっかりと理解も制御もできておらず、ときに自身と他者の思考の境界すら曖昧だったようです。
それ故に、ジェイスは同じ年の友人達とは距離を置いていました。ですがあるとき、彼らの苛めがエスカレートし、「輪」の上から落とされそうになった所で友人の精神を操って助かり、ですがその友人の精神は壊れてしまうという事件がありました。
それから程なくして、ジェイスは自身の能力を制御し鍛える訓練をしてくれるという教師に紹介されます。ヴリンに長く続く戦争の調停者であり、ジェイスと同じテレパス能力を持つ者。
それがジェイスの師匠、アルハマレットです。上で「輪のモチーフ」の話をしましたがこのアルハマレットの首周りもそれですね。
こちらも初登場は小説「Agents of Artifice」、ジェイスが親友カリストへと自身の過去を打ち明ける中で言及されました。なので私も名前と存在自体は知っていたのですが、まさかスフィンクスだったとは。正直『マジック・オリジン』で一番驚いたのはそれでした。ちなみにその小説から師匠の描写を読み返してみたところ、確かに種族は書いてなかったわ。やられた。
自分の能力を制御できる、そして周囲の疑念の視線から離れられる。ジェイスはアルハマレットの下で弟子として学ぶことに同意します。両親も息子がその才能を伸ばせること、また決して裕福とは言えない「輪」での生活から将来を約束された環境へと送り出せることに安堵したようでした。ジェイスは「きっと帰ってくる」と約束し、親元を離れました。
その後2年、ジェイスはアルハマレットを信頼する師匠として能力の制御だけでなく様々な魔術や学問を身につけ、成長していきました。またその訓練の最中、ジェイスの「プレインズウォーカーの灯」が点火していたようです。ようです、というのはどうやらアルハマレットはその際のジェイスの記憶を消去していたらしく、後にジェイスは興味と、自身の能力を試すべく師匠の心を読んだ際にそれを知ってしまいます。
ジェイスは他の多くのプレインズウォーカーのように、何か肉体的精神的な激しいショックで「灯」が点火したというわけではないらしく、《ヴリンの神童、ジェイス》の「変身条件」がとても緩いのはそれの再現なのかな、と思っています。記事では「プレインズウォークしかけたジェイスをアルハマレットが霊気の触手で引き戻す」という場面があり、そんな技が使える師匠も只者ではないことがわかります。
記憶を消されていたことを知り、ジェイスの中に師匠への疑念が生まれます。ですがこの疑念を持ったままではいずれそれは自身の態度に表れる。彼はスフィンクスの目には見えない小さな文字でメモ書きを残し、そして丁寧に自身の記憶を消去しました。
そしてあるとき、師匠から与えられた任務先にて、ジェイスは自身が利用されていたことを知ります。アルハマレットに操られて両陣営に情報を渡し、その記憶は削除されていた。戦争を長引かせ、調停者としての仕事を終わらせないために。ジェイスは師匠の下に帰ると任務の報告をするのではなく、挑戦を申し出ます。「君は不快なことを学んでしまった、そう取っていいのだね」と返答したアルハマレットは、どうやら状況を把握したようでした。
互いの精神を破壊し合う戦い。まるで嵐に翻弄されるようにジェイスは激しく揺さぶられ、師匠の精神魔法に多くの記憶を消されてしまいます。故郷の名を、両親の顔を。ですがジェイスはアルハマレットにもっと酷いものを忘れさせます――「呼吸の仕方」を。
息をすることを忘れ苦しむ師匠の顔が、ジェイスがその世界で見た最後のものでした。彼は無意識にヴリンを離れ、そして、あの都市世界へとやってきました。
様々な種族が入り乱れる雑多な人混み、どこまでも続く都市。突然どこからともなく降ってきたジェイスについても「イゼットの可哀想な実験体でしょう」とさほど気にされてもいない様子。ジェイスは辺りの人々の思考を読み、ひとまずの安全や食事を確保できる場所を探し出します。ある女性が時折、路上生活の子を保護してくれていると知り、彼はそこへ向かいました。
まだ15歳のジェイスにとって、彼女は見惚れるほどに綺麗な年上の女性として映りました。ラヴニカに来て初めて親切に接してくれた相手だったんですね。そりゃあ今も大切にするわけだ。
そしてこのラヴニカからジェイスの、今へと続く長い物語が始まるのでした――その欠けた心に知識欲と好奇心を焚き付けられて。
3. 戦乱前夜
ジェイスは『ラヴニカへの回帰』の物語を経て、ギルド間不戦協定魔法「ギルドパクト」の顕現としてラヴニカの平和を調停する役割を担うことになりました。調停者。それは奇しくも師匠と同じ地位でもあります。
【第39回】からの繰り返しになりますが、このフレイバーテキストからはジェイスが真摯に職務へと向き合っていることがわかります。そして複数の公式記事にて、副官の《第10管区のラヴィニア》に支えられて日々「調停者」として働く姿が描かれています。
ちなみに何故彼女が副官になったのか? ギルドパクトの魔法は元々アゾリウス製であり、ラヴニカで法を司るギルドはアゾリウス。官僚的に淡々と、ですが有能にジェイスへの請願をさばく彼女は実際良い人材だと思いますよ。
あるとき、意外な人物がジェイスへと接触してきます。『ドラゴンの迷路』の物語にて「暗黙の迷路」を巡って争った人物であり、彼と同じプレインズウォーカー。ラル・ザレック。
2人は友人同士とはとても言えないながら、その「正体」という共通の秘密を持っていました。イゼット団のとある実験計画により、ジェイスがプレインズウォーカーだと発覚してしまう可能性がある。ラルはそう伝え、ジェイスを連れ出します。プレインズウォーカーという存在がニヴ=ミゼットに知られたなら、あの虚栄心の強いドラゴンがどのような行動を起こすか、ラルはそれを怖れていました。
ラルにとってジェイスは「暗黙の迷路」にて敗北した苦々しい相手。ですがその素性を隠してラヴニカに生きる者同士、共感する所は多くあるのでしょう(そして赤は「共感」の色でもあります)。謎の目的地へと向かう途中、ラルはジェイスへと身の上やラヴニカという世界への愛着を語っていました。
公式記事「電光虫プロジェクト」より引用
(掲載:2015年5月27日)
「俺はイゼットを見出し、その全てを学んだ――ギルドに入って働くために、ニヴ=ミゼット自身の方程式に基礎をおく嵐の魔術を。俺の人生で一番幸せだった日は、イゼット団に入り、ギルド魔道士になれた日だ」
「でも、君はただのギルド魔道士じゃない。君はプレインズウォーカーだ」
「俺の灯は、これまでやってきた事を失うもう一つの道筋を寄越したに過ぎない。俺は第十地区の嵐魔道士だ。俺はな、心の底からラヴニカ人なんだよ」
(掲載:2015年5月27日)
「俺はイゼットを見出し、その全てを学んだ――ギルドに入って働くために、ニヴ=ミゼット自身の方程式に基礎をおく嵐の魔術を。俺の人生で一番幸せだった日は、イゼット団に入り、ギルド魔道士になれた日だ」
「でも、君はただのギルド魔道士じゃない。君はプレインズウォーカーだ」
「俺の灯は、これまでやってきた事を失うもう一つの道筋を寄越したに過ぎない。俺は第十地区の嵐魔道士だ。俺はな、心の底からラヴニカ人なんだよ」
本当に心からラヴニカという世界、イゼットというギルドを愛しているんだなあと読んでいるこちらまでぐっとくる描写でした。何ていいますか、ラルはとても良いキャラなんですよ。イゼット団に所属するエリート、でもそれは彼自身がそうありたいと努力してきたからこそ。青赤というその色のままに冷静と情熱を併せ持ち、あと典型的なツンデレ。
こんなこと言いつつラヴニカ大好きイゼット大好きなんだから。
プレインズウォーカーは故郷にいようとも異邦人、何にも縛られない存在。そしてジェイスは故郷の名も、両親の顔すらも忘れさせられています。「きっと帰ってくる」という約束も、恐らくは叶わないのでしょう。その一方でラルは故郷を故郷として愛し続け、その世界で生き続けている。嫉妬ではないにせよジェイスにも思う所があったのか、彼も自分がラヴニカへと抱く思いを口にします。
公式記事「電光虫プロジェクト」より引用
(掲載:2015年5月27日)
「俺は故郷を覚えてない」 何も訊かれていないのに、ベレレンは静かに言った。
「何の話だ?」
「君はラヴニカで育ったと話してくれただろ。俺の、子供の頃の記憶はもう大体が無い。ぶつ切れの、少しの印象だけだ。俺が覚えていることのほとんどはここで、ラヴニカで始まってる。君のようにここに起源を持つわけじゃないし、確かに沢山の、他の次元にも行ってる。だけど俺だって、自分の心底はラヴニカ人だと思ってるよ」
(掲載:2015年5月27日)
「俺は故郷を覚えてない」 何も訊かれていないのに、ベレレンは静かに言った。
「何の話だ?」
「君はラヴニカで育ったと話してくれただろ。俺の、子供の頃の記憶はもう大体が無い。ぶつ切れの、少しの印象だけだ。俺が覚えていることのほとんどはここで、ラヴニカで始まってる。君のようにここに起源を持つわけじゃないし、確かに沢山の、他の次元にも行ってる。だけど俺だって、自分の心底はラヴニカ人だと思ってるよ」
さてまあ、ラルがジェイスを連れ出したのは、彼が発見した「奇妙なほど規則的にラヴニカを出入りしているプレインズウォーカー」を見せるためでした。毎日決まった時間にやって来てボロスと接触し、決まった時間に離れる。ですがその日に限って時間になっても対象は現れず、仕方なく2人はニヴ=ミゼットの実験への対処法を話し合いました。
後日、まさにそのプレインズウォーカーがジェイスを訪ねてきます。ラルが説明していたように長身で逞しく、鋭い目つきをした人間男性。そう、我々はよく知るあのプレインズウォーカーでした。ラヴニカとゼンディカーを行き来しながら、二つの世界で戦い続けていた鉄人。
この「正体不明のプレインズウォーカー」を巡っては当時、様々な憶測が出されていました。ボロスと関わりのあるプレインズウォーカーと言えばギデオン、だけど記事の描写からはテゼレットやダク・フェイデンも当てはまるのではないか……と。まあ、本命?のギデオンでしたね。
当初プライベートを邪魔されたジェイスは冷たくあしらおうとしますが、彼が伝えてきたのはゼンディカー世界の惨状でした。文明の中心地、海門がエルドラージの攻撃に陥落した。知らなかったとはいえ、エルドラージを解放した責任の一端は自分にある。それはジェイスの心にずっと引っかかっていたことでした。直ちに彼はゼンディカーへと向かうことに同意し、本人曰く「引き継ぎをして、資料を持って」翌朝旅立ちました。でも『統率者2015』の公式記事「一族の値打ち」を読むに、出発ギリギリまで大変だったようですが。これラヴニカに帰ってきたらきっと大変なことになってるぞ。
4. 再びのゼンディカー
そしてギデオンと共にゼンディカーへと降り立ったジェイス。2人の目の前に広がったのはエルドラージに荒らされた海門の惨状でした。
生存者と合流すべく、ジェイスはギデオンとともにエルドラージの群れの中を進みます……ですがここで彼の弱点が露呈します。戦闘ではなく謎解き役として呼ばれたとはいえ、ジェイスが得意とする精神攻撃は心のないエルドラージには効かず、眠らないので睡眠の魔術も効かず、目を持たないので幻影も効かない。エルドラージに対してジェイスの能力はこれでもかってほどに相性が悪いのでした。自分へと向かってきた落とし子をかろうじて念動力で遠ざけられる程度という。
公式記事「隠れ家での殺戮」より引用
(掲載:2015年10月1日)
そしてジェイスはよろめき、小さな悲鳴を上げた。脚に病的な青い触手が巻き付いていた。ギデオンは最初のエルドラージを宙に持ち上げ、それを触手の一体に叩きつけた。
「大丈夫か?」 彼はジェイスへと尋ねた。
ジェイスは頷き、その瞳が青い光にひらめいた。念動力の一撃らしきもので打たれ、また別の落とし子が慌てて離れた。
(掲載:2015年10月1日)
そしてジェイスはよろめき、小さな悲鳴を上げた。脚に病的な青い触手が巻き付いていた。ギデオンは最初のエルドラージを宙に持ち上げ、それを触手の一体に叩きつけた。
「大丈夫か?」 彼はジェイスへと尋ねた。
ジェイスは頷き、その瞳が青い光にひらめいた。念動力の一撃らしきもので打たれ、また別の落とし子が慌てて離れた。
オリジンジェイスが大活躍している現スタンダードとのあまりのギャップ。これには多くの人が苦笑していました。どうにか生き残った同盟者達と合流すると、ジェイスはすぐに《遺跡潜り、ジョリー・エン》と共に《ウギンの目》を目指します。目的はエルドラージを封じる要、面晶体のネットワークを学ぶため。ですが道中《永代巡礼者、アイリ》率いるエルドラージ信者達とその先にいたウラモグに遭遇し、ジョリーを一人引き返させて単身ウギンの目へと向かうことになってしまいました。
記事には早くから登場していた2人は今回『ゲートウォッチの誓い』にてカード化されました。特にアイリは旧ゼンディカーからのキャラクター、《エルドラージの碑》や《エムラクールの手》のフレイバーテキストに登場していました。元から三神の敬虔な信者だったようで、神の真の姿が明らかになった今もそれは変わることなく……。彼女が「同盟者」でないのはそういうわけで。
そして現地では《面晶体の掘削者、ザダ》に助けてもらいながら……って女の子にばっかり遭遇してるな君は……ウギンの目へとどうにか辿り着き、その中ではさらに驚きの出会いが待っていました。
エルドラージの封印がいかにして、誰によって解かれたのか、ウギンはサルカンとソリンそれぞれからの話を聞いて把握していました。とはいえウギンはジェイスを非難するようなことはせず、ここを訪れた目的を尋ねます。ジェイスが求めてきたのはエルドラージの対処法、面晶体ネットワークの使用法。2人のやり取りはカードでも表現されています。
《面晶体の記録庫》フレイバーテキスト
ウギンは言った。「おぬしは面晶体の本来の目的を理解し始めておる。エルドラージを封じることができるのだ。」
「それで、前回はどうなったのですか?」ジェイスが訊いた。
ウギンは言った。「おぬしは面晶体の本来の目的を理解し始めておる。エルドラージを封じることができるのだ。」
「それで、前回はどうなったのですか?」ジェイスが訊いた。
一見ウギンを煽っているようにも思える《面晶体の記録庫》の台詞、ですが記事ではそんなことはなく単純に尋ねただけでした。君、煽るようなフレイバーテキスト多いから誤解されるんだよ……。2人の対面が描かれた公式記事「『目』での天啓」はもう全てが重要なのですが、私がひときわ印象深いと思ったのはこのやり取り。
公式記事「『目』での天啓」より引用
(掲載:2015年10月14日)
「ゼンディカーは解かれるべき謎ではない。場所なんです。誰かの故郷なんです。そしてそこにいる人々は今も世界のため戦っていて、そして自分達を殺すものを倒す手助けを願っている」
彼は苦難の光景を見せた――失った者を悼む家族を、ウラモグに蹂躙された風景を、そして空や海にまでもエルドラージの脅威が満ちる様子を。
ウギンは首をかしげた。部屋の面晶体構造は溶け去り流れるように見えた。モザイク式模様と化したドラゴンが壁から彼を嘲っているかのようだった。
「何と確かな意思、そして何と若いことか」
(掲載:2015年10月14日)
「ゼンディカーは解かれるべき謎ではない。場所なんです。誰かの故郷なんです。そしてそこにいる人々は今も世界のため戦っていて、そして自分達を殺すものを倒す手助けを願っている」
彼は苦難の光景を見せた――失った者を悼む家族を、ウラモグに蹂躙された風景を、そして空や海にまでもエルドラージの脅威が満ちる様子を。
ウギンは首をかしげた。部屋の面晶体構造は溶け去り流れるように見えた。モザイク式模様と化したドラゴンが壁から彼を嘲っているかのようだった。
「何と確かな意思、そして何と若いことか」
多元宇宙の大局を語るウギン、目の前にあるゼンディカーの危機を見せるジェイス。まさに旧世代と新世代との対比です。そして数千年を生きる強大な存在であるウギンへとひるむことも媚びることもせずに真摯に現実の危機を訴えるジェイス、これには本当に「強くなったなあ」と嬉しくなりました。
さてウギンはジェイスへと面晶体ネットワークを教えると同時に、ウラモグ本体を殺すことの危険性を説きます。あれの本体は久遠の闇に存在し、今ゼンディカーに見えている姿はごく一部であり、ただの投影。ゼンディカーに見えている姿を殺すことは、本体から一部を切り離すだけに過ぎないと。ジェイスはウギンの主張に頷き、面晶体ネットワークを用いて再びウラモグを拘束することに同意し、ウギンの目を後にします。ですが内心ではさらにその先を考えていました。面晶体のエネルギーがウラモグを引き寄せるのであれば、久遠の闇にいる本体全てをもそうやって引きずり出せないだろうかと。
ところでこの回でジェイスはソリンの存在を教えられました。エルドラージの対処法を探したくば奴を探すがよい、だが信頼してはならん、と。その際のやり取りはニヤリとすると同時に考えさせられます。
公式記事「『目』での天啓」より引用
(掲載:2015年10月14日)
「あの者は大義を語るものの、自身は身勝手な生き物ということだ。ゼンディカーと戦ったのも同情ではなく、長い意味での自衛本能を働かせたゆえだ。もしもさらなる火急の問題にかまけているのであれば、あの者の優先順位は我等のそれとは一致せぬであろうな」
それは長命のためか力のためなのかはともかく、ジェイスは気付いていた。古からのプレインズウォーカーには共通点がある……皆完全に狂っていると。
(掲載:2015年10月14日)
「あの者は大義を語るものの、自身は身勝手な生き物ということだ。ゼンディカーと戦ったのも同情ではなく、長い意味での自衛本能を働かせたゆえだ。もしもさらなる火急の問題にかまけているのであれば、あの者の優先順位は我等のそれとは一致せぬであろうな」
それは長命のためか力のためなのかはともかく、ジェイスは気付いていた。古からのプレインズウォーカーには共通点がある……皆完全に狂っていると。
これ、気づいた人も多いですが、あの有名なフレイバーテキストですよね。
このウギンとソリンだけでなく、ボーラス、リリアナ。ジェイスは実際多くの「元・旧世代」に会ってきました。だからこその感想なのでしょうね。ここでイニストラードやソリンについて聞かされたことで『イニストラードを覆う影』へと繋がっていくのでしょう。
そしてウラモグが近づく海門へとジェイスは帰還し、ギデオン達に自分が手に入れてきた情報を伝えます。反対者こそ出ましたが、ここでウラモグを倒せばゼンディカーの外へとその脅威を放つことになる、というジェイスの説得に皆は応じました……特に、かつて同じように考えてエルドラージを解き放ったニッサは。
ギデオンの指揮の下、彼らは行動を開始します。ジェイスは幻影で罠の模型を作り上げ、同盟者達やニッサの力を借りて面晶体を集め、それらを定位置に並べ、そしてギデオンが足止めをする中、ウラモグを誘導してその中に封じ込め……
……ですがそれも束の間、オブ・ニクシリスによって、そしてコジレックによって全てが無に帰した。それはきっとご存じの通りかと思います。
5. 誓いを立てて
オブ・ニクシリスの大暴れで幕を開けた『ゲートウォッチの誓い』。
そういえば少なくともジェイスはニクシリスのことを結構知っているはずなんですよね。【第26回】で『デュエルズ・オブ・ザ・プレインズウォーカーズ2015』の話を書きましたが、呪われたガラクを止めるためにジェイスが名もなきプレインズウォーカー(=私達プレイヤー)へと助言してくれたのでした。「《堕ちたる者、オブ・ニクシリス》の額に埋め込まれた面晶体を取り出し、それを今度はガラクに使え」と。ですが今回の公式記事『オブ・ニクシリスの報復』を読むに少なくともニクシリスはジェイスについて知らなかった模様。面識まではなかったのでしょうか?
ニクシリスは海門でニッサ・ジェイス・ギデオンを続けざまに倒して連れ去り、自分がゼンディカーに囚われていた長年の苦しみを3人にも味あわせようと拷問にかけます。《無情な処罰》はその場面。ですがそこへ、遅れてゼンディカーへと到着したチャンドラが彼らを助けに現れます。かろうじて意識を保っていたジェイスは彼女へとテレパスで密かに助言し、自分達を拘束していたエルドラージの落とし子を倒させました。苦しい戦いの中、チャンドラへと炎を放つよう助言する……これ、ウギンの目で2人がサルカンと戦った(そしてエルドラージ封印の鍵を開けてしまった)ときと同じ構図よね。
よく見ると背後にギデオン・ジェイス・ニッサがいるこのカード。そして4人は力を合わせてニクシリスを倒せないまでもゼンディカーから追い払うことに成功し、そして改めて自分達と世界の現状へと向き合います。ジェイスはその中で一つの選択肢を口にしました……ゼンディカーを諦めるという。
それは彼の不安の証だったのでしょう。けれどジェイスに、1人だけでゼンディカーを離れるという気もありませんでした。選択肢を示しながらもそう動く様子のないジェイス、それを見てギデオンはジェイスだけでなくニッサとチャンドラへも、安心させるように語ります。今ここにあるのは絶望、けれど自分達4人が共に戦えばどうだろうか。それぞれが持つ類稀なる力を合わせれば、エルドラージだけでなく多元宇宙のどのような脅威にも立ち向かえると、そして、だからこそ立ち向かわねばならないと。
世界と守り戦うというギデオン、そしてニッサに続きジェイスも「誓い」を立てます。公式記事『ゲートウォッチの誓い』で語られたその場面がこちらです。
公式記事『ゲートウォッチの誓い』より引用
(掲載:2015年2月4日)
「ギデオンの言う通りだ。俺達四人には特別な力がある。俺達にだけ与えられた機会が、責任とすら言ってもいいものがある――こんな脅威と戦うためにその力を振るうんだ。エルドラージ、確かに、だけど一つの次元に留まらない脅威はまだ他にも存在する。プレインズウォーカーはどんな危険からも逃げられる、なんて言われていることは知っている。けれど俺達は逃げずに戦える者でもあるんだ」
「きちんと言って」その顔に浮かべた憤怒をかすかな微笑みで解き、ニッサは言った。
「何を?」
「誓いみたいに、きちんと言って」
ジェイスは彼女へと笑みを返した。「いいとも。俺は……」彼は額に皺を寄せ、そしてその唇から笑みが消えた。「私は想像を絶する脅威を見てきた。エルドラージが脅かしているのはゼンディカーだけではない。もし私達がここを見捨てたなら、エルドラージを放り出したなら、あれらは次元から次元へと食らいながら進み、やがてはラヴニカまでも不毛の地と化すだろう。今このときにも、エムラクールは次に貪る次元を探し、久遠の闇を彷徨っているのかもしれない」
ギデオンはテーロスを、バントを、ラヴニカを思った。
ジェイスは決意とともに頷いた。「そうはさせない。多元宇宙の繁栄のため、私はゲートウォッチとなる」
(掲載:2015年2月4日)
「ギデオンの言う通りだ。俺達四人には特別な力がある。俺達にだけ与えられた機会が、責任とすら言ってもいいものがある――こんな脅威と戦うためにその力を振るうんだ。エルドラージ、確かに、だけど一つの次元に留まらない脅威はまだ他にも存在する。プレインズウォーカーはどんな危険からも逃げられる、なんて言われていることは知っている。けれど俺達は逃げずに戦える者でもあるんだ」
「きちんと言って」その顔に浮かべた憤怒をかすかな微笑みで解き、ニッサは言った。
「何を?」
「誓いみたいに、きちんと言って」
ジェイスは彼女へと笑みを返した。「いいとも。俺は……」彼は額に皺を寄せ、そしてその唇から笑みが消えた。「私は想像を絶する脅威を見てきた。エルドラージが脅かしているのはゼンディカーだけではない。もし私達がここを見捨てたなら、エルドラージを放り出したなら、あれらは次元から次元へと食らいながら進み、やがてはラヴニカまでも不毛の地と化すだろう。今このときにも、エムラクールは次に貪る次元を探し、久遠の闇を彷徨っているのかもしれない」
ギデオンはテーロスを、バントを、ラヴニカを思った。
ジェイスは決意とともに頷いた。「そうはさせない。多元宇宙の繁栄のため、私はゲートウォッチとなる」
この4人でただ1人だけ「逃げる」という選択肢を示したジェイスがあえて「逃げずに戦える者でもある」と強調する。彼も理解していました、ここで逃げたところで、やがてエルドラージは追い付いてくると。「故郷のように思っている」ラヴニカまでも。
《ゲートウォッチ招致》フレイバーテキスト
「プレインズウォーカーはどんな危険からも逃げられる、などと言われていることは知っている。だがギデオンの言う通り、我々は逃げずに戦える者でもあるのだ。」
「プレインズウォーカーはどんな危険からも逃げられる、などと言われていることは知っている。だがギデオンの言う通り、我々は逃げずに戦える者でもあるのだ。」
――ジェイス・ベレレン
思い出しました。かつて『ドラゴンの迷路』の物語において、ジェイスは《精神を飲む者、ミルコ・ヴォスク》から逃れるためにプレインズウォークし、一時的にゼンディカーへやって来ていたことがあったのですが、そのときに彼の心をよぎったのは「帰らなくてもいい」という考えでした。
小説「Dragon’s Maze: The Secretist, Part Three」より訳
彼はイマーラを想い、そして直ちに彼女の顔を忘れようと努めた。彼女を見捨てるつもりはなかった、だがもしかしたら、プレインズウォーカーはずっとそうやって生き延びてきたのかもしれない。もしかしたら、プレインズウォーカーはそうやって、どんな場所ともどんな相手とも繋がらずにいたのかもしれない。自分達をきっぱりと切り離して、孤立して、そして素性を秘密にして。
彼はイマーラを想い、そして直ちに彼女の顔を忘れようと努めた。彼女を見捨てるつもりはなかった、だがもしかしたら、プレインズウォーカーはずっとそうやって生き延びてきたのかもしれない。もしかしたら、プレインズウォーカーはそうやって、どんな場所ともどんな相手とも繋がらずにいたのかもしれない。自分達をきっぱりと切り離して、孤立して、そして素性を秘密にして。
このときも彼は逃げることなくラヴニカへと帰ったのですが、たまらなく侘しく物悲しい描写だと思いませんか。プレインズウォーカーはどんな危険からも逃げられる。そしてジェイスはその能力によって、どんな懸念や未練も自ら忘れてしまうことができます。実際彼は過去に何度も自身の記憶を消してきました、多くは身の安全のために。
そんなジェイスが、かつてない脅威と死と滅亡を前にして、今そこにある危機とさらにその先までも見据え、「誓い」を立てた。ギルドパクトの地位はラヴニカから離れれば意味はないものでしょう、ですがギルドの契約/Pactを体現する存在であるジェイスは「誓いを立てる」「契約を交わす」ことの特別さは身に染みて理解しているのだろうと思います。
『ローウィン』で最初のプレインズウォーカーが登場してからもう8年以上になります。ジェイスも友を得て、立場を得て、危険な地へと赴き、自分よりも遥かに強大な旧世代プレインズウォーカーの前で自らの意思を示し、世界を救いたいと心から願い、そのために行動しています。『戦乱のゼンディカー』ブロックのジェイスは本当に一人の「ヒーロー」へと成長しましたよね。
6. ジェイスが刻んだもの
公式記事「ジェイスの『オリジン』:欠けた心」にてアルハマレットが少年ジェイスへと向けた言葉の中に、我々にとっても考えさせられるものがありました。
『次第に、君は自分が想像するよりも恐ろしい存在になっていくだろう。そして怖れというのは、一度触発されてしまったら、簡単には収まらないものだ』
マジックの歴史に《精神を刻む者、ジェイス》が「刻んだ」ものはあまりに大きく、ジェイスは常に期待と怖れが抱かれています。変な言い方をしますが例えどれほど物語中で弱くとも、カードが活躍しなくとも、特別な目で見られるのがジェイスというキャラクター。今回こそ本人のプレインズウォーカー・カードは登場しませんでしたが、次回『イニストラードを覆う影』ではキーアートに堂々登場していることから主人公を務めると思われます。
ラヴニカの十のギルドの調和を担う「ギルドパクト」だけでなく、多元宇宙のあらゆる脅威へと立ち向かう「ゲートウォッチ」という使命を得たジェイス。既にとても長い付き合いとなっていますが、まだまだこの先も楽しみなキャラクターですね。
それではまた次回!
(終)
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