あなたの隣のプレインズウォーカー ~第45回 リリアナ・ヴェスの純情な感情 追憶編~

若月 繭子

若月 繭子



公式記事「我はアヴァシン」より引用
(掲載:2016年5月18日)

 背けられたその顔は見えなかった。怪物なのか人なのかすらもわからなかった。見えたのは、剣先だけ。聞こえたのは古の言葉、逆行を成す儀式の言葉、贈り物を突き返す言葉だけ。感じたのは膝が触れた、大聖堂の堅い床だけ。嗅いだのは傍で何かがくすぶる灰の匂いだけ。触れたのは私の最初の瞬間を印した、床の影だけ。

 その只中で貴方に向けて言えたのは、世界への最期の祈りは、無辜の者達を危害から守るという、私のただ一つの存在理由。それだけでした。

 我はアヴァシン。庇護する者。



※画像は【公式記事「我はアヴァシン」】より引用させていただきました。


 あああああ……。こうなることはずっと以前からカードでわかっていたのに。Magic Story『イニストラードを覆う影』編 最終回は、《苦渋の破棄》へと至るまでがアヴァシン本人の視点で語られるという、大変切なく苦しいものでした。狂ってもなお世界を守ろうとするアヴァシン、その信念は最後の最後まで……。現スタンダードで大活躍中のキャラが退場ということもあり(カードからその展開が判明していようとも)、多くの人がこの回を読んで悲しみにくれていました。


 ……そして2016年秋は、チャンドラの故郷カラデシュ!




 これですよ! 暗くて不気味、狂気に苛まれるイニストラードの次は明るく華やかな次元。いつも言っていますがこの「世界のメリハリ」こそマジックの物語が持つ魅力の一つ、いつも新しい気持ちで次の世界へ向かうことができます。


 こんにちは、若月です。

 この連載も長くなり、「2周目以降」を書くキャラクターも増えてきました。今回は『異界月』からの登場かと思いきや、早くも怪しい動きを見せているリリアナのお話です。



1. リリアナおさらい

 毎度のごとく、一部は過去回からの繰り返しになりますが再び。

 『ローウィン』にて登場した「最初の5人」の一員であるリリアナ。だからこそ、そして今なおリリアナはまさに黒を体現する、黒を代表するプレインズウォーカーであり続けています。



公式ウェブサイト・プレインズウォーカー紹介より引用
美しく狡猾で、野心に溢れるリリアナ・ヴェスは、実のところ多元宇宙でも指折りの魔性の悪女です。彼女は黒中の黒の魔法、屍術を操り、その呪文は死者を蘇らせ、生きている者を腐敗させます。
闇の女王、リリアナの魅力は否定できません。永遠の美貌と剃刀の刃のような鋭さを持ち合わせています。



リリアナ・ヴェスヴェールのリリアナ闇の領域のリリアナ


 「最初の5人」が登場して早9年、プレインズウォーカーの多くが物語を経てそれぞれ変わった中で、リリアナは当時から物語上の立ち位置にあまり変化はなく、その内面もかなり「変わっていない」と感じます。この連載では度々引用している、その5人について初めて詳細に語られた公式記事「Planeswalkers Unmasked」からリリアナ部分を翻訳しましょう。


公式記事「Planeswalkers Unmasked」より訳
(掲載:2007年10月24日)

 リリアナは数体の悪魔と契約を交わし、若い女性の美と活力を長く、とても長く保持している。
 そして途方もない力も。

(中略)

 リリアナが悪魔の契約をどれほど昔に結んだのかも定かではない。その契約はどれほどの年月を戻したのだろう? 何十年とだ。ゆえにリリアナは若い女性の引き締まった美貌を保持しながらも、人生全てに匹敵する技術と経験を持つ。歳を経た結果の死よりも、彼女はリセットボタンを選択したのだ。
 物事は、異なる一連の結果をもたらすだけだ。多元宇宙には無限の可能性があるが、無料の昼食はまだその一つではない。リリアナは悪魔に借金をしており、彼らは寛大な債権者としては知られていない。
 彼女は悪魔を対処する計画を立てながら(黒の魔術師が真っ当に動くとでも思ったのかい?)、人生を過ごしている。リリアナは死神に指を立てて、あざ笑うために生きている。だがそれでも、彼女の思考の背後には恐慌の気配がつきまとう――契約文をあしらう自身の能力への不安が、彼女の自意識へと割って入ろうとしている。
 悪魔は皆知っている、誰もが契約から逃げ出したいと思っていることを。


 「永遠の若さと力を保つために悪魔と契約を交わしたものの、その契約を破棄したがっている」。なるほど根幹は今と変わらないことがわかります。そしてリリアナの物語は同じ「最初の5人」の対抗色、《野生語りのガラク》を敵として始まりました。ちょっとおさらいしておきましょうか。


野生語りのガラク鎖のヴェール


 契約悪魔《魂の貯蔵者、コソフェッド》の命令で謎めいた《鎖のヴェール》を手に入れようと赴いたシャンダラー次元。そこでリリアナは偶然遭遇した獣を何気なく殺害するのですが、それはガラクが使役していたものでした。復讐しようと追ってきた彼を《鎖のヴェール》の力で返り討ちにし、黒マナに蝕まれる呪いをかけました。

 リリアナは《鎖のヴェール》の力でコソフェッドを倒し、次なる契約悪魔《グリセルブランド》を探してイニストラードへ向かいます。ですが標的の姿はなく、彼女はガラクに追われながらも悪魔の行方を追います。悪魔崇拝教団スカースダグに接触し、グリセルブランドは《獄庫》の中に封じられているという情報を得るとゾンビの軍勢と共に首都スレイベンを襲撃し、(黒単の自身ではアーティファクトを破壊できないので)《スレイベンの守護者、サリア》を脅迫して獄庫を破壊させました。それによってグリセルブランドや多くの悪魔、そして《希望の天使アヴァシン》が解放されて世界に光が訪れましためでたしめでたし……とは別に、ヴェールの力を得ていたリリアナはグリセルブランドも容易に(カードプレビュー記事なのに)倒してしまいました。


グリセルブランド


 ……という所までが旧『イニストラード』ブロックの物語でした。グリセルブランドを倒したリリアナが次に何処へ向かったのかはその後ずっと、『戦乱のゼンディカー』の物語が始まる頃まで描かれていませんでした。『マジック・オリジン』で詳しく明らかになった過去とともに、この先で解説して行きましょう。

 ところで、実はリリアナは「最初の5人」でも他の4人より少しだけ早く私達の前に顔を見せてくれたという経歴があります。懐かしい話をひとつ。


※画像は【TCGplayer.com「Lorwyn Sneak Peek: Who’s Coming?」】より引用させていただきました。


 こちらは2007年7月、アメリカ選手権にて貼られていたポスターなのだそうです。並べられた『未来予知』と『基本セット第10版』のカードを打ち破る拳、「THEY’RE COMING(奴らがやって来る)」のキャッチコピー、そして左端には絶妙に見切れた黒いカード。

 当時《タルモゴイフ》でほのめかされていたこともあり、「プレインズウォーカーが新たなカードタイプとして登場するのではないか」と噂になっていました。そしてこのポスターの情報がネットで広がると、銀枠カードのようなその「はみ出した」絵に「このLiliana Vessというのがプレインズウォーカーなのではないか」と。私も『未来予知』の物語で「プレインズウォーカーの性質が変わった」ことは知っていましたので、もしかしたら本当にカード来るの? と心からわくわくしたのを覚えています。



2. リリアナの故郷

 『マジック・オリジン』では多くの驚くべき新事実が明らかになりました。その中の一つがリリアナの出身地についてでした。ドミナリア! 最近でこそ離れて久しいですが、マジックの開闢から多くのセットの舞台となり、今の時代にまで影響を与える多くの物語を築いてきた世界です。

 基本セット・特殊セット以外でドミナリアが舞台となったのは2007年、『未来予知』が最後です。「大修復」によって多元宇宙世界の法則が変化し、「新世代プレインズウォーカー」が誕生すると同時に、ドミナリアを離れた……それは古い世界からの旅立ちでもあったのでしょうか。第24回にて詳しく書きましたが、ドミナリアは多彩な地形と豊かなマナで知られ、2016年6月現在のスタンダードでも使用されている「対抗色ダメージランド」は5枚中4枚が明確にドミナリアの地名を含んでいます(残りの1枚《戦場の鍛冶場》も他の4枚と同じく『アポカリプス』初出なので、ドミナリアなのは間違いないのですが)


コイロスの洞窟


 ダメランの中でも1枚選べ、と言われたら私はこれ! ウルザとミシュラの「兄弟戦争」の始まりの地です。いずれウェザーライトサーガ話にてきちんと扱いますのでお楽しみに!!

 『マジック・オリジン』当時に公開されました公式記事「The Worlds of Magic Origins」にて、リリアナがドミナリアのどの地域、どの時代出身かが書かれていました。抜粋して翻訳しましょう。


公式記事「The Worlds of Magic Origins」より訳
(掲載:2015年7月9日)

 マジック最初の舞台となったのは長く豊かな歴史を持つ、そして広大で非常に多彩な世界です。最後に訪れたのは『時のらせん』ブロックであり、当時ドミナリアは時間災害とマナの減少によって荒廃していました。

 リリアナは比較的僻地、カリゴの森出身です。寒々とした地域、ですがリリアナがドミナリアにいたのは『時のらせん』ブロックにて世界全体のマナの減少と災害が起こるよりも前の時代です。


 ドミナリアはとても広大です、何せ一つの地域が一つのブロックとして扱われ、しかもそれが複数あるくらいですから(まあ昔はだいたいドミナリアが舞台でしたので)。リリアナの出身地である「カリゴの森」がどのあたりにあるのか、既知のどの地域に近いのかは不明。ただ「寒い地域」とのこと→少なくともジャムーラやアーボーグ付近ではない、というくらいですかね。

 また、これまでに明かされた限りでは、過去のドミナリアの物語とリリアナとの関係はさほど(といいますかほとんど)ないようです。ドミナリアは多くの旧世代プレインズウォーカーの出身地でもありますが、覚醒前のリリアナが生きていた時代はどうやら『スカージ』~『時のらせん』の間。他のセットと重ならない時間軸ということもあり、今のところ他のドミナリア出身プレインズウォーカーとの接触情報はありません。テフェリーはまだ「フェイズアウト」中、ウルザは死んで久しく、ヤヤは行方不明。少なくともドミナリアで生きていたのが確かなのはフレイアリーズとウィンドグレイス卿くらいでしょうか。


ラノワールの憤激、フレイアリーズプレインズウォーカーの憤激


 と、これを書いていましたらドミナリアの新?情報が入ってきました。『エターナルマスターズ』に新絵再録の《放蕩魔術師》彼を主人公とした物語はドミナリアを舞台に描かれていました。




 記事中で語られる「トレイリアの学院」はあのアカデミーではなく、後の時代に《トレイリア西部》に建設された「新たな」アカデミー。詳しくは番外編1に書きました。記事中に登場した「タラス」というのは出典『ポータル・セカンドエイジ』、海賊や商人といった青の勢力です。《放蕩魔術師》自体、初出は『アルファ版』の懐かしいカード。それが古のマジックの故郷を舞台とした話をまさか2016年の今読めるなんて……。「回帰」はなくとも時々こうやって少しだけでも現状(なのかな?今回は具体的な時代は不明ですが)を見せてもらえると古いプレイヤーとしてはとても嬉しいものです。



3. リリアナオリジン

 さてそれでは、公式記事と『マジック・デュエルズ』からリリアナオリジンの話を始めましょう。一応ゲームプレイのネタバレを含みますので、未プレイor進行中の方はご注意下さい。


※画像は【公式記事「リリアナの『オリジン』:第四の契約」】より引用させていただきました。


 覚醒前のリリアナが生きていたドミナリアの辺境は戦争の最中にありました。リリアナは癒しの技を学んでいましたが、兄のジョスが戦争で傷を負って帰ってきた時、彼女はそれを癒すことができませんでした。

 それにしても兄のことを「お兄様」と淑やかに呼んでいたり家の描写を読むに、リリアナ実はお嬢様育ちのようです。兄を癒す手段を必死に探し求める彼女の前に、謎めいた男が現れて助言をします。鴉を従えるような、人から鴉へ、鴉から人へと変身するような……彼はリリアナが密かに闇の術を学んでいたことを何故か知っており、それを使用して癒しの薬を作ればいいと彼女に囁きかけました。名前も正体もわからないその者をリリアナは暫定的に「鴉の男」と呼び、彼の助言に従って薬の材料を調達し、作り上げます……癒しの領域を外れた、暗い技で。

 ですが完成した薬を飲ませた時、それは兄を忌まわしいアンデッドへと変えてしまうものと判明します。苦しみながら不死者と化した兄に殺されかけた時、リリアナの「プレインズウォーカーの灯」が点火して彼女は死から逃れるとともに全く新たな世界へと飛びました。陰気で寒く、闇の怪物がうごめく世界イニストラード。


※画像は【公式記事「イニストラードからの絵葉書 基本土地編」】より引用させていただきました。


 『オリジン』のプレインズウォーカー5人の物語はだいたいが「プレインズウォーカーとして覚醒するまで」なのですが、リリアナは「覚醒後」が結構長く描かれています。このイニストラードにて彼女は本格的に屍術を学びました。


残酷な蘇生


《残酷な蘇生》フレイバーテキスト
イニストラードでリリアナは屍術を受け入れ、数多くの不死者たち、そして時には生ある者たちを実験台として、その実力を磨いてきた。


 そして恐らくはこの間のどこかで、イニストラードの君主であるソリンに出会ったようです。よほど怖い目に遭わされたのか、それ以来「身をわきまえた客人であろうと努め」るようになった(リリアナ談)とか。その後あるとき一度ドミナリアへと戻り、故郷へ帰るも家は廃墟と化していました。そして一度は鴉の男と対峙するものの、彼はまたも鴉の群れと化して去って行ったのでした。

 以来、リリアナはプレインズウォーカーとしての無尽蔵の力をもって、そして黒らしい奔放さと残酷さをもって思うがままに生きてきました。ですが覚醒してから恐らく二百年と経たないうちに「大修復」が起こります。全多元宇宙規模で世界の仕組みが変化し、それに伴ってプレインズウォーカーの全能性が失われるというもの。「大修復」という名の通り、旧世代プレインズウォーカーの好き勝手によって壊れかけていた多元宇宙の構造が直されたのでした(詳しくはこの連載第5回第6回第12回をどうぞ)。とはいえ当時の多くのプレインズウォーカーにとっては、それまで持っていた力の多くを奪われるのですから「修復」などではなかったのでしょう。旧世代の代表的存在、ボーラスはこう言っていました……とても重々しく。

「なんと墜ちたことか」
「かつて、我らは神であった」


プレインズウォーカー、ニコル・ボーラス


 そう、ボーラス。大修復を経てリリアナは「不老性」を失い、老いによる死から逃れようとニコル・ボーラスの力を借りに訪れたのでした。ボーラスはリリアナに対して4体の悪魔との契約を提案し、彼女はそれを受け入れます……ああ、ネットではたまに「吸血鬼になれば不老を保てたのでは?」という意見を見ますが、それはオリジン記事にてリリアナ自身が拒否していました。「若さを保つ手段」は多元宇宙にはいろいろあると私達は知っていますが(例えば《幽霊の特使、テイサ》はあの外見で何と112歳です)、リリアナにとっての選択肢は「悪魔との契約」以外に無かったのでしょう。寿命を延ばす魔法にしてもきっと適性なんかがあるでしょうからね。

 『マジック・デュエルズ』のオリジン編、リリアナステージ最終面はこの契約悪魔4連戦です。グリセルブランド→ラザケシュ→ベルゼンロック→コソフェッド。


※画像は【『マジック・デュエルズ』】のスクリーンショット。


 ラザケシュとベルゼンロックは恐らくこれがビジュアル初登場。他の2体よりも強いとのことですが、いつか彼らもカード化されるのでしょうか。

 4連戦は厳しいように思えますが、進むにつれこちらの盤面も整うので、最初の1体か2体を倒すことができれば残りは然程苦労しませんでした。土地がかなり並ぶので、最後は温存しておいた《堕落》でドーン! ハンデスは勘弁な!!


闇の誓願


 そして『デュエルズ』で大判アートを見るとわかるのですが、このカードでグリセルブランドに対峙しているリリアナはまだ若返る前の姿、お婆さんなんですよ……本当のリリアナの姿。ジェイスにはとても見せたくないだろうな……と思わずにいられませんでした。

 4体目のコソフェッドを倒すと契約は成され、リリアナの皮膚に文様が刻まれるとともに若返るムービーが流れて終了となります。そしてクリア後にステージ選択画面へ戻ると、その説明はこんな一文で締められていました。


 「しかし、破棄できぬ契約に意味などあるのでしょうか?」


※画像は【公式記事「STILL ALIVE」】より引用させていただきました。



悪魔の契約




4. 再びイニストラードへ

 『マジック・オリジン』のプレビュー前の記事にて「近い将来、この五人のプレインズウォーカーは物語にとって極めて重要となる」と書かれていました。そしてその通りに、カードとしては登場しないながらもリリアナは『戦乱のゼンディカー』前日談から物語に顔を出していました。

 ラヴニカ次元、生けるギルドパクトとして日々世界の平和を維持するジェイスを、ある時リリアナは思わせぶりに訪問します。その目的は、鎖のヴェールを対処するにあたってジェイスの力を借りるため。ですがリリアナの性分なのか本題には中々入らずジェイスをからかい、そしてデートへ連れ出しました。


※画像は【公式記事「巻き返し」】より引用させていただきました。


 【第35回】にも書いたけどこのツーショット冷静に怖い。

 そう、この連載では何度も述べてきましたがジェイスとリリアナは元カレ元カノ。『マジック・オリジン』にて過去が語られると同時に、これまで各媒体で少しずつ語られていた各プレインズウォーカーの設定が大なり小なり刷新されました(一番顕著なのはチャンドラですね)が、この2人の関係について改変は入っていないようです。物語が長く続くとこういったことも起こってきまして、どこまでが「生きている設定」なのかを見極めなければいけないのが時々大変です。

 そして高級レストランでジェイスの現状を聞きつつ、鎖のヴェール自体をチラ見せしつつ本題に入ろうとしたまさにそのとき、およそこの場に似つかわしくない無骨なボロスの戦士が乱入してくるとジェイスにゼンディカー次元の危機を告げました。当初冷たくあしらおうとしたジェイスも顔色を変え、話に引き込まれます。自分達の話が宙ぶらりんになってしまったことにリリアナは憤慨し、1人店から出て行きました。ジェイスは追いかけてくるのですが、あろうことか逆にゼンディカーの件で助力を頼んできます。リリアナもこれには呆れ、ジェイスに貰った花を投げ捨てて去っていきました。

 さてジェイスとそんな別れ方をした後、リリアナは自宅?のあるイニストラードへ赴き、以来そこに滞在しています。そしてゼンディカーでの用事をいろいろと終わらせたジェイスが自分を頼りに訪れたときはどこか嬉しさを隠しきれず、そしてかつて自分が怖い目に遭わされたソリンを探していると聞いた時は本心から心配し、ジェイスを止めようとしていました。更には《溺墓の寺院》から戻ってきた錯乱状態のジェイスに攻撃されながらも必死に説得し、今も彼を気遣う想いをぶつけ(まったく、人の心が読めるくせに人の心がわからないジェイスよ)、ですが結局彼は単身スレイベンへと発って行ってしまいました。


リリアナの憤り


 それにしてもジェイスとリリアナの痴話喧嘩場面がカードになる日が来るとは。そしてリリアナもただ自宅で寛いでいるというわけではなく、何やら地元の錬金術師と手を組んで自身の怪しい計画を進めているようで……?



5. 鴉の男

 リリアナの人生の節目節目に姿を現し、彼女を悪しき道へと誘導してきた「鴉の男」。一体何者なのでしょう? まずはここまでに鴉の男がいつ、何処に登場してきたかを列挙してみましょうか。

「リリアナの『オリジン』」回(ドミナリア)
・イニストラードからドミナリアの実家へ戻ってきた直後(デュエルズ)(ドミナリア)
・コソフェッドを倒した後(ウェブコミック)(シャンダラー)
「欺瞞のヴェール」回?(微妙)(シャンダラー)
「鴉の無情」回(ラヴニカ)
「リリアナの憤り」回(イニストラード)


※画像は【公式記事「リリアナの『オリジン』:第四の契約」】より引用させていただきました。


 その外見は、「白い髪、黄金の瞳。とても時代錯誤で場違いな、優雅な黒と金のローブ」。特定の次元を想起させるものではありません(少なくともイニストラードやタルキール、ミラディンなどの服装ではない、というのはわかりますが)。リリアナは現在200歳以上なのですが、その彼女が覚醒する以前から今に至るまで、そして次元を超えて姿を現している……普通に考えて鴉の男もまたプレインズウォーカーなのでしょう。それも旧世代の。となると一体何者なのか……旧世代プレインズウォーカーかつシェイプシフター(鴉に変身できる)、誰もがニコル・ボーラスを思い浮かべるかと思いますが、そうしますと第36回にも書いたようにタイムラインに矛盾が生じますし、わざわざ鴉にこだわる理由もわかりません。困ったことに、ある程度の確信を持てる既存キャラの心当たりがないというのが正直なところです。



6. 異界月

 これまで、ジェイスへの想いと心配を隠しきれないながらも協力を拒否してきたリリアナ。例の痴話喧嘩回「リリアナの憤り」によれば彼女は今のところイニストラード世界の異変には本当に無関係という公算が高そうです。『イニストラードを覆う影』ファットパック付属小冊子によると、どうも今回の「黒幕」として怪しいのはナヒリである模様。そうすると『異界月』のメインアートで主役を張っているリリアナは敵なのか味方なのか、あるいはどちらでもないのか? その目的とは? 現在のリリアナの一番の懸念は恐らく鎖のヴェール、ですがイニストラードの異変とそれが何か関係してくるのでしょうか?


※画像は【公式記事「『異界月』発表」】より引用させていただきました。


 ちなみに「異界月/Eldritch Moon」とは何なのか? 「Eldritch」はあまり聞かない単語ですが、手元の辞書には「この世のものとは思われない;不可思議な;気味の悪い」とあります。「異界月」はセット名ではありますが、一つの名詞として物語にも既に登場しています。公式記事「溺墓の寺院」、タミヨウが記した日誌の中にありました。その箇所を2つ引用しましょう。


公式記事「溺墓の寺院」より引用
(掲載:2016年4月6日)

 近頃、月の相の持続期間を測定した所、不均等な変化が表れている。それは月の軌道そのものが何らかの方向に引き寄せられていることを意味している。何かとても巨大な、すぐ近くにある、今も人の目には不可視の物体によって。


公式記事「溺墓の寺院」より引用
(掲載:2016年4月6日)

 まとめると、この調査で明らかになった発見は著しい質量を持つ物体の存在を支持している。最も可能性が高いのは新たな天体、潮流と魔法エネルギーの正常パターンを共に攪乱する重力的作用をもたらすほどの規模を持つ異界の月と思われる。


「人の目には不可視の物体」
「新たな天体(a new astral body)
「異界の月(an eldritch moon)」……。

 ……何にせよ、契約悪魔を倒す道は今もまだ終わっていません。コソフェッドとグリセルブランドを倒して残るはもう2体、一方で《鎖のヴェール》が彼女を悪魔以上に悩ませている……というのが2016年6月現在のリリアナの現状ですね。


 まあ私がリリアナについて一番気になるのはジェイスとの関係がどうなるのかってことですよ。2人の関係が最初に描かれた小説『Agents of Artifice』からもう何年だ? 6年だ! ここでおはようって言いましょうよ。ついに、長いこと宙ぶらりんだった2人が再び関わるときがやって来ています、時に私たち読者の頬を緩ませながら。

 しかし公式記事「巻き返し」の回でギデオンにジェイスを横取りされた(リリアナ視点)ときの拗ねっぷりといったら。基本的には悪女なのですがジェイスが絡むとチャーミングな面がむき出しになるっていうね。ですがジェイスに対する想いはどこまでが欺きで、どこまでが本心なのか。時々わからなくもなるのですが、最近わりと決定的な描写がありました。


公式記事「リリアナの憤り」より引用
(掲載:2016年4月20日)

ジェイス。彼女は偽りの好意で彼の友となり、感情を弄び、多元宇宙間犯罪組織に加わるよう操作し、そしてそれを転覆させた。それが何もかも誤った方向に進むようになった頃には、リリアナは心からジェイスを好いてしまっており、彼を裏切ることは彼女のすりきれた人間性を一本ならず引き裂いた。


 地の文ー! これ地の文ですぞー!

 ジェイスも、彼女がまだ自分に好意を向けていることは知りながら、それを信用してはいません。信用したいとは思っているのでしょうが。今、ジェイスはリリアナの本心を確かめたいときでも、直接心を読もうとはしません。その理由には心当たりがあります。過去、初めて出会って間もない頃、リリアナはジェイスへと自分を信用させる為に心を読ませたのですが、それはボーラスによって「フィルターがかけられた」内容でした。後に彼はそれを知り、リリアナが自分へ心を開いたというのもただの見せかけ、欺瞞の一環だったと激しく衝撃を受けた……切ない過去よな。

 公式記事で物語が展開がされるようになり、とても多くの人が言語の壁を気にせず手軽にストーリーに触れられるようになりました。そして恐ろしいクリーチャー、心躍る戦闘、カードで目にした様々なものが生き生きとして物語の中に存在する素晴らしさを実感しているかと思います。それは同時に、盤面であれほど頼もしい(or憎らしい)彼らプレインズウォーカーの意外な一面や関係も見ることができるということ。前回冒頭に「3回連続男女の喧嘩」と書きましたが、カードで会える彼ら彼女らも喧嘩とかするんですよ。カードで知っているからこそ、逆に驚くといいますか微笑ましいといいますか、ねえ。

 「カードに登場するキャラクターの活躍や意外な一面がわかり、更に愛着が生まれる」、これこそ私がずっと広めたいと思ってきた、マジックの物語を追う醍醐味の一つです。今、それをとても多くの人が実感してくれている。本当に良い時代になったと思っています。


 何だか無理矢理綺麗にまとめた所で、また次回。


(終)



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