あなたの隣のプレインズウォーカー ~第46回 あなたの隣のエムラクール~

若月 繭子

若月 繭子



I’amrakul!
Me’mrakul!
Be’mrakul!
Are’mrakul!
One’mrakul!
We’mrakul!




※画像は公式記事「エムラクール、来たる」より引用させていただきました。



 エムラクール! エムラクール!

 こんにちは、若月です。来ーまーしーたーあれは3体で来たの3体目エムラクール! エムラクール!! 登場回の「エムラクール、来たる」は公開とともにマジックをエムラクールで染め上げました。ならば存分に語るしかあるまい! 連載5周年の今回はこれしかないでしょ、華々しい再登場を果たしたあの触手の女神様のお話です。我らエムラクール!



1. エムラクールの気配

 第42回にて、『もしかしたら今後、「実はあちこちにこっそりエムラクールの気配が……→次のセットで登場!」みたいなことが起こるかもしれません、それこそ今回のコジレックのように』と書きました。……いや本当に知らなかったんですよその頃は、これほど早くにエムラクールが来るとは。まずはその回で翻訳した「エムラクールの特徴」をもう一度確認しましょう。


書籍『The Art of Magic: the Gathering: Zendikar』より訳

 エムラクールの接近は精神を砕くだけでなく、生きた肉体へと影響して歪みを与える。もう2体の巨人たちがその足跡に完全な荒廃を残すのとは対照的に、エムラクールの通り道は生物の歪みが印され、岩や水やその他非生物は変化せずに残る。木々や蔓は節くれ立った触手のような姿へと変貌する。動物や人々、エムラクールが存在した戦いの生存者も、エムラクールの身体を思わせる格子状構造の肉を時折その身に成長させる。この荒廃はエムラクールが何らかの方法でマナを吸うことの表れなのか、もしくは単純にその全くもって異質な存在の影響なのかもしれない。

 エムラクールの接近は精神を砕くだけでなく、生きた肉体へと影響して歪みを与える。もう2体の巨人たちがその足跡に完全な荒廃を残すのとは対照的に、エムラクールの通り道は生物の歪みが印され、岩や水やその他非生物は変化せずに残る。木々や蔓は節くれ立った触手のような姿へと変貌する。動物や人々、エムラクールが存在した戦いの生存者も、エムラクールの身体を思わせる格子状構造の肉を時折その身に成長させる。この荒廃はエムラクールが何らかの方法でマナを吸うことの表れなのか、もしくは単純にその全くもって異質な存在の影響なのかもしれない。


 そしてエムラクールの接近を示していたように、『イニストラードを覆う影』の多くのカードにこの通りの特徴が見られました。


■ 「精神を砕く」

 人類を庇護すべき存在、アヴァシンを筆頭とする天使らが狂気に堕ち、世界は再び闇に包まれた……というあらすじの通りに、『イニストラードを覆う影』のテーマの一つが「狂気」です。


タミヨウの日誌



《タミヨウの日誌》フレイバーテキスト
443:アヴァシンの 狂気の 背後には 何かが ある……



 背後にあるもの。それは狂気を振りまくエルドラージでした。ソリンを探してこの次元を訪れたジェイス自身も、その謎を追う中で次第に狂気に蝕まれていってしまいました。タミヨウによって正気に戻り事なきを得ましたが、彼女が危惧したように精神感応能力を持つジェイスが完全に狂気へと堕ちてしまったなら、果たしてどれほど恐ろしいことになっていたのでしょうか。

 エムラクールが与える精神への影響は、セットのメカニズムへと直接反映されていました。「マッドネス」。名称事態が狂気そのもののキーワード能力が再録されました。「マッドネス」はマロー曰く「再録はされないと思われるが、もしかしたらあり得る」というくらいの、再録される見込みはどちらかと言えば低いとされていたメカニズムです。『イニストラードを覆う影』の開発記事においても「最適な環境が必要なだけでなく、この追加の問題を解決できるようにする必要もある」とありました。それを考えてもあまりに物語のフレイバーに合いすぎていたんですね。『イニストラードを覆う影』の「マッドネス」持ちカードはその通りに見ただけで「狂気」が漂っている様子が伺えます。


集中破り無差別な怒りステンシア仮面舞踏会


 そんな「マッドネス」は結構人気のあるメカニズムです。『トーメント』にて登場し、『時のらせん』ブロックにて(他の多くのキーワード能力と同じく)再録されていました。環境で大活躍していたのは前者のころ、「青緑マッドネス」が有名かと思います。私も《野生の雑種犬》のパンプついでにタダで出てくる《日を浴びるルートワラ》や、《マーフォークの物あさり》起動ついでに《堂々巡り》でカウンターされまくったことが思い出深いです。以上、昔話でした。


■ 「触手」

 エルドラージの特徴といえば触手でしょう。エムラクールは言わずもがな、比較的人型に近いウラモグとコジレックも下半身は触手の塊です。「木々や蔓は節くれ立った触手のような姿へと変貌する」だけではなく、気をつけて見なければわからないのですが、『イニストラードを覆う影』では身体から小さな触手を生やした人々のカードが幾つも存在しました。


手に負えない若輩偏執的な教区刃未知との対決




 《手に負えない若輩》左下の吸血鬼の顎付近。《偏執的な教区刃》の袖口。《未知との対決》右側の人の顔から生えたもの。そして多くの人が一目見て「引いた」と思います、極めてその変質が明らかなこちら。


奇怪な突然変異


 近年のマジックでは「グロい」絵は昔よりずっと控えめだと思うのですが、これはかなり……。そしてこれらの触手の色。赤紫色~青色の、明らかにイニストラードでは異質な、かつゼンディカーを知る私達にとってはとても見覚えのある色。「これ、(イニストラードにエムラクール)来てるんじゃね」と思った人は多かったのではないでしょうか。


■ 「格子状構造の肉」

 エムラクールの「上半身」を構成するのが、絡まり合いよじれた肉の格子状構造です。ゼンディカー世界で見られたエムラクールの落とし子もその格子状構造を特徴としていました。そして、直接エムラクールが生み出したものではなくとも、『イニストラードを覆う影』ではエムラクールの影響を受けた生物が格子状構造を発達させている様子が多く見られました。


精神壊しの悪魔果敢な捜索者


 個人的に、《精神壊しの悪魔》のアートは《奇怪な突然変異》と並んで、「エムラクールっぽい」気配の筆頭だと思っています。さらに「格子状構造」はエムラクールの気配を暗示するものとして、(エムラクールの影響を受けないものであっても)様々なものに意図的に描かれていたようです。『異界月』プレビューの予告とも言える公式記事「Something Twisted This Way Comes」では例として《稲妻の斧》《平地》が示されていました。未訳記事ですのでちょっとすみません同じように並べさせて下さい。


稲妻の斧稲妻の斧
平地平地


 ……というように、そこかしこに「エムラクールの気配」が散りばめられていた『イニストラードを覆う影』。あからさまに、と言ってもいい程かもしれませんね。実際どれほどの割合のプレイヤーがエムラクール登場を予想していたのか、ちょっとアンケートを取ってみた結果がこちら。




 9対1。おもしろいことに、投票開始から終了までほぼずっとこの割合が保たれていました。私は「うわあ何だかエムラクール出そうだなあ、でもゼンディカー終わったばっかりでそんなに早く出すかなあ、いやでもナヒリこれって……」という感じでした。



2. 今回のエムラクール

 エムラクールは早くにゼンディカーを離れていました。そのためか、その性質についてはもう2体に比較してあまり研究が進んでいない感があります。カードは一番使われているのにね。

 『異界月』の目玉は何と言っても新ギミック「合体/Meld」、2枚揃ったならひっくり返って合体する。公式記事では『デュエル・マスターズ』のほぼ同様のギミック「覚醒リンク」について言及されていました。この能力もエムラクールの影響によるものです。またもゼンディカーアートブックからの訳ですが、エムラクールの特徴としてこのような説明もありました。


虚無の絶望

エムラクールの超自然的な静寂は徹底的な孤独感を作り出す。彼女を見つめることは奈落の虚無を、圧倒的空虚を覗きこむようで、そのため彼女は「引き裂かれし永劫」とも呼ばれている。彼女と対峙する大軍の兵士ですら完全な孤独を感じ、共に戦うことは困難となりあらゆる助力から切り離される。その影響下に長く滞在したなら狂気へと向かう――理性的な思考を砕かれ、目的を完全に失い、自己ですらも溶けて失われる。


 「自己ですらも溶けて失われる」。新旧ゼンディカーブロックではあまりよくわかりませんでしたが(《エルドラージの徴兵》くらい?)、今回この影響が具体的にカード化されました……とてもおぞましい姿で。






 公式記事「エムラクール、来たる」にて、もしかしたらエムラクール以上に衝撃を振りまいていたかもしれない2人がこんなことに。元がとても美しい伝説天使だっただけに、「こんな姿は見たくなかった」という意見が多く見られました(でもそれはある意味最高の称賛ですよね)。私自身、長年マジックの物語を追ってきて数多くの悪堕ち・闇堕ちを見てきましたが、ギセラとブルーナのそれは心底驚きました。それこそ少し前にも書いた『統率者(2015年版)』以上に。絵が……何と言っても絵が……うわあ……また言うけれど長年見てきたからって平気なわけじゃないよ? 堪えるよ? すっげえ堪えるよ? フレイバーテキストがまた涙を誘います。


《悪夢の声、ブリセラ》フレイバーテキスト
姉妹のなれの果てを知ったシガルダは、ただ咽び泣くことしかできなかった。


 シガルダでなくともむせび泣くわこれ。






 一方こちらは「反転後の面が先に公開」されたことで多くの謎を呼んだハンウィアー。なにげに三神以外では初の伝説エルドラージでもありました。

 『イニストラードを覆う影』のプレビュー時期から公式ウェブサイトにてイニストラードの地方紙「ハンウィアー・クロニクル」が不定期に連載されていました。狂気に覆われゆく世界、自分たちの街に閉じこもる人々。けれど逃れることは叶わず、それもまた狂気の影響だったのか……






 カード発表直前に出たこの2枚の画像にはいかにもホラーの定番、ゆっくりと正気を失っていく様が滲み出ています。


■ 「昂揚」能力

 ところでお気づきでしょうか。上に延べました《精神壊しの悪魔》だけでなく、「昂揚」持ちのカードの多くに例の格子状構造が描かれていることを。


道理を超えた力黴墓のゴミあさり親切な余所者


 そんな格子状構造を作り出すエムラクールのコスト軽減能力は「昂揚」にとても近いものがあります。


公式記事「『イニストラードを覆う影』のメカニズム」より引用

昂揚は新しい能力語で、あなたの墓地に4種類以上のカード・タイプがある場合に強化されるカードを強調します。


《約束された終末、エムラクール》のコスト軽減能力
約束された終末、エムラクールを唱えるためのコストは、あなたの墓地にあるカードに含まれるカード・タイプ1種類につき(1)少なくなる。


 「昂揚」はエムラクールとの繋がりを示すものを暗示しつつ、公式記事「Mラクールファイル 『エムラクールのデベロップ』編」によれば、このコスト軽減能力は同時に、前ブロックほどマナ加速手段のない『イニストラードを覆う影』ブロックのリミテッドにおいてエムラクールを唱えるための手段として考えられたのだそうです。なるほど『戦乱のゼンディカー』ブロックでは高コストのエルドラージを唱えるための手段がいくつも用意されていましたが(《コジレックの媒介者》や各種末裔)、今回はそうではありませんからね。


■ エムラクールの性別について

 今回初めて知った人も多いようですが、エムラクールは「女性扱い」です。実は過去にカードでも示されていました。


エムラクールの名残



《エムラクールの名残》フレイバーテキスト(英語)
Emrakul has not been seen in months. Though her brood’s numbers have dwindled in her absence, each drone is still a deadly threat.


 エルドラージに性別は存在しないが、ゼンディカーで「空の女神」として信仰されていたためエムラクールは女性扱い、とは第37回にも書きました。ですがそういった伝承の存在しないイニストラードにおいてもエムラクールは「Her」と表記されています。しかもHが大文字なので「女王」「女神」的な特別な地位の存在と認識されているとわかります。これは何故なのでしょう?

 公式記事「エムラクール、来たる」にてタミヨウは「エムラクール」という名前に疑問を抱いていました。


公式記事「エムラクール、来たる」より引用

「彼らはあれをエムラクールと呼んでいる、と?」 タミヨウの興味深そうな声がジェイスを物思いから引き寄せた。ジェイスは彼女を一瞥した。その顔は平静で落ち着いていた。まるで心を狂気から遠ざけておくことなど、呼吸ほど難しくもないように。
「そうです。あれの名前の一つです」
「あれほどの存在が名を持つという事自体、驚くべきことです」 タミヨウは腰帯から望遠鏡を取り上げて目を当てた。「そう名乗っているということなのでしょうか」


 イニストラードの民が(ナヒリに教えられた者達を別として)「エムラクール」という名前を知るはずがありません。それなのにエムラクールを目撃し、その影響を受けた者はエムラクールの名を連呼している。タミヨウが言及したように、そういう名前の存在なのだという何らかの主張的なものがあるのでしょうか。そして同時にそれを受け取った者はエムラクールを「女性的」とでも感じるのでしょうか?

 上でも述べた公式記事「Mラクールファイル 『エムラクールのデベロップ』編」によれば、今回のエムラクールの開発段階での名前の一つが「Emrakul, Mother of Aberration」。怪奇の母。上に挙げた「自己ですらも溶けて失われる」ほどの一種の包容力、母性が感じられる存在ということなのでしょうか?


《荒地》はないの?

 『ゲートウォッチの誓い』で新たに加わった基本土地、《荒地》。ウラモグとコジレックが次元のマナを食い荒らした跡として、2種類のアートで収録されていました。そして今回エムラクール本人もカード化されましたが、それに対応する《荒地》はありませんでした。


荒地荒地



※画像は公式記事「ゲートウォッチの誓い」より引用させていただきました。


 《残された廃墟》のアートではウラモグ・コジレックがそれぞれの食い跡を残しているのがわかります。ですが前述の通り、「エムラクールの通り道は生物の歪みが印され、岩や水やその他非生物は変化せずに残る」。エムラクールは大地を食い荒らすことはせず、どうやらそのため「エムラクールの荒地」は存在しないようです。


■ 『異界月』エキスパンションシンボル




 長いこと公表されていなかったエキスパンションシンボル。普段でしたらセット名とその詳細と同時に公表されるはずですが、いつまでも出てこないことに段々と多くのプレイヤーが疑問を抱くようになっていました。実際、その次の発表『コンスピラシー:王位争奪』では公表されていました。まあこちらはこちらで手が込んでいたのですが。幽霊が暗殺されるってどういうことだよ!

 そして6月20日、ようやく明らかになったそれは……いやあ、露骨にエムラクール。と同時にリリアナの髪飾りにもよく似ていますね。過去、『ゲートウォッチの誓い』はどうもコジレックの存在を暗示させる形状であり、第40回にて「エキスパンションシンボルも物語のネタバレとなりうる」とは書きました。確かに今回このシンボルが早くに公開されていたら(多くの人が登場を予想していたとはいえ)少し興ざめだったかもしれませんね。うまいなあ。



3. 「約束された終末」の経緯



ナヒリの策謀



《ナヒリの策謀》フレイバーテキスト
「ソリン、あなたからすべてを奪います。」


 ゼンディカーを離れたエムラクールがなぜイニストラードに? その疑問も明かされました。『タルキール龍紀伝』の頃から漂っていたソリンとナヒリの不穏な気配の真実とともに。まずは少しおさらいしましょうか。

 旧ゼンディカーにおいてエルドラージの封印が緩み、古の約束に従ってソリンは再訪したのですがもう二人、ウギンとナヒリの姿はありませんでした。ウギンは1280年前にボーラスとの戦いで負傷し、《精霊龍のるつぼ》の中で回復の眠りについていたと明らかになりましたが、ナヒリの行方は不明のままでした……ソリンの不審な挙動とともに。


公式記事「ソリンの修復」より引用
 ウギンの両眼がぐるりと動いてソリンへと戻った。「面晶体の魔道士は? ナヒリは何処におる?」
 「羞恥」という概念はソリンから消失して長かった。何千年もの時の間に、人間としての彼の脆さと不安は成長し、花開き、そして枯れ落ちた――長い時を生き、彼は後悔というものに動じなくなった。そして、それでも、長い時の中で初めて、ある心地の悪い感情が彼の内で増大した。不快な痒みが、ある重要な物事をしくじった、その責任を彼が――彼一人だけが――負うという感情が。それは正確には自責ではなかった。彼の心の中、自責というものがかつてあった場所にこだまする、ただ鈍い、調子外れの響きだった。
「彼女は――ここにはいない」 特定の声色を出すことなく、ソリンは言った。


 そして公式記事「古今の約束」および公式記事「石と血と」の2本、ソリンとナヒリそれぞれの視点で、千年前の出来事が語られました。

 「ウギンの目」から放ったSOSに返答しなかったソリンを探すべく、ナヒリはイニストラードを訪れました。すぐに再会は叶うのですが、ソリンはイニストラード世界を守るべく、守護天使アヴァシンと獄庫を創造した直後であり多くの力を失っていました。当初ナヒリは古い友人との再会に喜んだものの、自身の呼びかけに応えてくれなかったソリンへと次第に怒りを募らせます。約束を果たしてもらうというナヒリと、誰の指図も受けたくないというソリン。2人は戦い、ソリンは劣勢となりますが彼を守るためにアヴァシンが介入し、最後にはナヒリを黙らせるべく彼女を獄庫へと封じた……そんな顛末でした。

 そしてナヒリは獄庫の中で復讐心を募らせながら千年を過ごし、『アヴァシンの帰還』においてリリアナが獄庫を壊させた際にナヒリも脱出、ゼンディカーへ戻るのですが、そこは解き放たれたエルドラージによって荒廃してしまっていました。その風景を見つめ、イニストラードもゼンディカーと同じ痛みを受けてもらおう、とソリンへの復讐を誓ったのでした。


先駆ける者、ナヒリ構造のひずみ



《構造のひずみ》フレイバーテキスト
「ゼンディカーが血を流したように、イニストラードもそうなるでしょう。私がそれを嘆いたように、ソリンも嘆くことでしょう。」
――ナヒリ


 ナヒリの奥義は物語の通り、エムラクールを投げつけるためのものでした。

 そして彼女は綿密な計画を練ります。イニストラードの各所に「謎の石」を築いてマナの流れを変えることで、純粋なマナから成る存在である天使を狂わせ、アヴァシンをも狂わせ、世界を守るためにソリンに彼女を破棄させることでイニストラードの最終的な防護を失わせ、エムラクールを呼び出す……どうもアヴァシンと獄庫自体に、イニストラードの外からの脅威をシャットアウトする機能があったようです。ナヒリが見た獄庫は歪ながら八面体、どうしても想起するのは自身がゼンディカーで創造したあの岩……思えば第7回で「獄庫と面晶体はどうも似ている」と書きましたが本当にかなり面晶体だった。ゼンディカーにエルドラージを封印する時にソリンもナヒリから学んだのでしょう。イニストラードで再会した当初、自分の「粗末な石術」を褒めてもらいたそうにしていました。この場面はとても微笑ましかったのになあ。


獄庫


 黒は置物の扱いが苦手な色、しかも吸血鬼が嫌がる銀製。ソリン頑張った。

 そしてエムラクールが到来したイニストラードにて、早くも2人は対決します。オリヴィアの協力をとり付けたソリンと吸血鬼軍VSナヒリと狂信者・エルドラージ軍。最後はステンシア上空での一騎打ちとなり、重傷を負ったナヒリはソリンに自らの血を吸わせ、その瞬間に彼を石の中に閉じ込めるという結末でした。ナヒリはイニストラードを去り、ソリンは石に噛まれたままその場に取り残され……


※画像は公式記事「復讐作戦」より引用させていただきました。


 さながら《石の宣告》ソリン版。石に噛まれ続ける苦痛から集中できず、そのためプレインズウォークも困難とのこと。大昔、ヨーグモスが似たような手段でプレインズウォーカーを捕獲していたのを思い出しました。結構有効なんですよ。そしてこれ、ゲートウォッチメンバーにソリンを救出できる能力持ってる人いますっけ。むしろイニストラードの吸血鬼はしばらく血を吸わないと干からびて死んでしまうのだけど大丈夫か。たとえ脱出できたとしてこの先彼に名誉回復の機会はあるのか。私もわからない。


名誉回復



 ついでに一つ補足を。

 時々、「エルドラージのプレインズウォーカーは出ないのか」という疑問を目にします。エムラクール・ウラモグ・コジレックは次元から次元へと移動しては全てを食らう存在。プレインズウォーカーではないの? と。それについては、以前にマローが明確に回答していました。要約しますと……

「エルドラージの巨人は一部次元間を移動可能だがプレインズウォーカーではない」
「プレインズウォーカーの条件は『プレインズウォーカーの灯を持つ』こと。エルドラージは灯を持たない」

 稀にいるんですよ、プレインズウォーカーでなくとも次元を渡れる存在が。神河ブロックの結末にて《梅澤俊郎》を神河からドミナリアへ連れてきた《夜陰明神》もその1人ですね。まあこれはまた別の話で。



4. 希望のリリアナ

 前回リリアナについて書きましたが、『異界月』でメインを張っている彼女の目的もわかってきました。「Access Magic:『異界月』第三話」の「アート/ワールド・ギャラリー」によれば彼女はゲートウォッチを「力を手に入れる手段」とみなし、協力して貸しを作る代わりに今後ヴェールや悪魔の対処を手伝ってもらう……というのが一応の建前ですが、あなた本当はジェイス助けたいんでしょ! 黒のプレインズウォーカーとして見返り無しに協力するのは嫌ってだけで!!


公式記事「イニストラード最後の希望」より引用
「あなたはその人がイニストラードにどんな復讐をしようとしているか、何も気にならないの?」リリアナは尋ねた。「ジェイスが……」そう言いかけて彼女は姿勢を正した。「……何千もの人々がいるのに!」
「この世界は破滅に向かっている。あの娘がそう仕組んだ。君のジェイスくんもスレイベンにて、一緒に死ぬだろうな」


 いや読んだ全員が思っただろうけど「何千もの人々が」なんてわざとらしく取り繕わなくても。だいぶツンデレといいますか、まあ、「当事者」の一人として途中で去るわけにはいかなかった、というのもあるようです。旧作で獄庫を開いたのは彼女だったのですから。エムラクールが影響を及ぼすのは生物のみ。つまり言い換えれば「死者には影響しない」。『アヴァシンの帰還』に続いて、思わぬ形で人類の救世主となるリリアナです。エムラクールなんて意に介さない死者の軍勢を引き連れて、再びスレイベンへの大行進。




《リリアナの誓い》フレイバーテキスト
「私もゲートウォッチになるわ。これでいい?」


 「誓い」のアートはとても綺麗なリリアナさん。このポーズも誰が教えるんでしょうね。前の4人が誓う回ではフレイバーテキストよりも長い「誓いの全文」がきちんとありましたが、リリアナのそれも「Access Magic:『異界月』第三話」の動画で確認できます。


「Access Magic:『異界月』第三話」より引用

一人よりも力を合わせたほうが強力になれるのはわかっているわ
それで私が力を得て
鎖のヴェールに頼らなくて済むなら
私もゲートウォッチになるわ
これでいい?


 リリアナが今回協力する所まではともかく、どうやって、誰が彼女にこの「誓い」を立てさせるのかが気になりますね! 他のゲートウォッチメンバーとどう接するのかも。フレイバーテキストでリリアナとの会話が確認されているのはジェイスとギデオン。特に過去、彼女が「天使並みにたちが悪い」と評し、「生焼けの牛肉」「歩く解剖学図」と事あるごとに変なあだ名で呼ぶギデオンとは上手くやっていけるのか。単色5人が揃って、それぞれの関係性から「色の特色」も様々見えてきそうで、これも深く探ったらおもしろそう。

 そしてゾンビと言えば忘れちゃいけないこの姉弟もいるぜ!




《ギサとゲラルフ》フレイバーテキスト
「この悪鬼ども、貴方よりちょっと扱い難いわね。」「心温まる感想ですな、姉上。」


 ギサとゲラルフ、スタンダードへようこそ! そして心温まるフレイバーテキストですな、姉上。なんかこの2人が元気にやっている限りイニストラードは案外大丈夫な気もします。一応今回も「結末」はカードで見えているのですが。




《月への封印》フレイバーテキスト
エムラクールを閉じ込められるほど大きなものは一つしかなかった。


 イニストラードの月は銀製。《獄庫》はその銀から作られました、つまり……。《月への封印》のプレビュー記事には今回の顛末についても大まかに書かれていました。訳しましょう。


公式記事「Imprisoned in the Moon」より抜粋・訳

 イニストラードの輝く月は、結論から言うと、様々な意味で異質(eldritch)です。私達がセット名を知った時以来ずっと頭上で嘲りながら、その不気味な光で数えきれない邪悪な陰謀と狼男の変身を照らし出してきました。
 今やそれは永遠にエムラクールの巨怪で恐ろしい姿を閉じ込め、一つならずの世界を彼女の触手と狂気から守るのでしょう。そして私達には懸念と疑問の年月が待っています、本当に安全なのか–それがわかるのは、そうでないと判明するその日です。エムラクールは去りましたが、私としては、彼女が作り出したエルドラージの恐怖の群れを決して忘れないでしょう。「格子状構造」は心優しい表現です。

(中略)

 ですがエムラクールの虜囚はその青ざめた軌跡に更なる疑問を残しています。
 エムラクールはウラモグやコジレックのように死ぬことはないのでしょうか、それともジェイスは遂にウギンの忠告へ、巨人を殺すことの危険性ウギンの忠告へ目を向けたのでしょうか? イニストラードは回復するのでしょうか? それは《墓ネズミ》《夜深の死体あさり》がタッグを解消することを意味するのでしょうか? アヴァシン亡き今、誰がイニストラードを守るのでしょうか? 今エムラクールを捕えることは、リリアナが文字通りイニストラードの全てをゾンビに変えてしまうことを防ぐのでしょうか?
 時だけが教えてくれるでしょう。


 最近は物語の重要場面がカード化されているので、結末のネタバレはまあどうしようもないっちゃどうしようもないんですよね。ですがゼンディカー最終決戦回に燃えたように、《苦渋の破棄》回に涙したように、エムラクール登場回に震えたように、「展開がわかっていても心動かされる」物語の存在は本当に偉大だと思います。引き続きどのように語られるのか、とても楽しみです。

 それではまた。


(終)



この記事内で掲載されたカード


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