情報を制す者はマジックを制す。
特にSNSによる情報交換が盛んな現代、口コミがその後のメタゲームに与える影響は計り知れない。
すなわち、バズってる(話題になっている)カードを知ることは、メタゲームの把握と予測の大いなる助けとなることだろう。
当企画では、そんな「今、バズってるカード」を週刊で追っていきたいと思う。
カードの紹介に入る前に、先週行われたイベントやマジック関連の主な出来事を簡単におさらいしよう。
【BIGMAGICOPEN vol.7が開催される】
先週末には横浜のパシフィコホールにて【BIGMAGIC Open vol.7】が開催された。
『異界月』リリース後初となる国内の大型トーナメントということもあって、プロツアーを控えたプロプレイヤーたちも数多く集まり、非常に密度の高かった本大会。見事に優勝を収めたのは【BIGs】所属の強豪プレイヤー・永井 守!
【BMO Vol.7】「BIGMAGIC OPEN Standard Vol.7」優勝は永井 守選手です!! おめでとうございます!! #BMOpen pic.twitter.com/f2B6QhzsqF
— BIG MAGIC Open (@BIGMAGICOPEN) 2016年7月30日
1日目のスタンダードオープンと、2日目のモダン・レガシーオープンの激戦の様子は【カバレージ】にも掲載されている。晴れる屋メディアチームの大久保もカバレージライターとして末席を汚させていただいたので、お時間のある方はぜひご覧いただきたい。
主要な出来事はこのくらいだろうか。
さて、それでは今大きな話題を呼んでいるカードたちを紹介しよう。
1. 《押し潰す触手》
7月30(土)-31(日)にアメリカ・ボルチモアで開催された【SCGO Baltimore】。
ここでもバントカンパニーの勢いは衰えるどころか勢力を拡大し、2日目進出者125名の内53名がバントカンパニーを選択、【使用率42%】という数字を叩き出した。Top8にも4名が進出し、まさにバントカンパニーにとって我が世の春である。
しかしながら、このトピックでの主役はバントカンパニーではない。Top8で一際注目を集めたデッキ、それは《押し潰す触手》を軸とした青緑のロングデッキだった。
9 《森》 4 《島》 2 《進化する未開地》 4 《伐採地の滝》 3 《ヤヴィマヤの沿岸》 2 《荒廃した森林》 1 《ならず者の道》 -土地 (25)- 1 《搭載歩行機械》 4 《棲み家の防御者》 4 《首絞め》 2 《ヴリンの神童、ジェイス》 1 《エルフの幻想家》 2 《巨森の予見者、ニッサ》 1 《跳ねる混成体》 1 《虚空を継ぐもの》 1 《墓後家蜘蛛、イシュカナ》 1 《約束された終末、エムラクール》 -クリーチャー (18)- |
3 《ウルヴェンワルド横断》 1 《意思の激突》 2 《ニッサの巡礼》 2 《ムラーサの胎動》 4 《押し潰す触手》 3 《ニッサの誓い》 2 《深海の主、キオーラ》 -呪文 (17)- |
4 《死霧の猛禽》 2 《節くれ木のドライアド》 2 《空への斉射》 2 《否認》 1 《墓後家蜘蛛、イシュカナ》 1 《世界を壊すもの》 1 《意思の激突》 1 《虚空の粉砕》 1 《即時却下》 -サイドボード (15)- |
《押し潰す触手》は「怒涛」で唱えることで盤面を更地にしつつ8/8のタコを降臨させるビッグアクションが売りの1枚だが、それだけでは《反射魔道士》でタコが虚空に飛ばされ、バウンスしたパーマネントも再展開されと旨みが薄い。
そのまま使えば一時凌ぎにしかならないカードだが、これに《棲み家の防御者》が加わることで「青緑《押し潰す触手》」の真価が発揮される。
《押し潰す触手》でバウンス→《棲み家の防御者》の「大変異」誘発型能力で墓地の《押し潰す触手》を回収→回収した《押し潰す触手》で《棲み家の防御者》ごとバウンス→バウンスされた《棲み家の防御者》を再び裏向きで……といった具合に、《棲み家の防御者》と《押し潰す触手》の組み合わせで循環するシステムが構築できる。
脇を固めるカードはETB能力持ちを中心に散らしており、《押し潰す触手》のバウンスと相性のいい構成に仕上がっている。
《約束された終末、エムラクール》は従来の「青緑《押し潰す触手》」における「タコ・トークンだけでは解決できない状況」を打開する鍵となる。
バウンスを繰り返していく過程で着実に伸びる土地、増えていく墓地のカードカウント、そして、突如として訪れる約束された終末によるゲームセットというシナリオも用意されているのだ。デッキ自体の構成がロングゲームを志向しているため、《約束された終末、エムラクール》はコンセプトに合致した1枚といえる。
この夏は、タコを引き連れてバントカンパニーの海を泳ぐのも一興かもしれない。
2. 《コジレックの帰還》
【BIG MAGIC】が主催する大型イベント【BIG MAGIC Open】が横浜で開催された。『異界月』発売から1週間後の大規模トーナメントということもあり、初日開催となったスタンダードは多くのプレイヤーで賑わっていた。
国内においてもメタゲームの中心はバントカンパニーであり、その隆盛に疑問を挟む余地はないだろう。一方でバントカンパニーの勢いに待ったをかけるべく、『異界月』から得た力を手に挑むプレイヤーも多い。Top8進出を果たしたプレイヤー・浅原 晃もその1人である。
余人の理解を超越した構築センスを持った奇才・浅原 晃。彼が独自にデザインしたデッキとあっては、否応にも期待が高まるというものだろう。
バントカンパニーでもなければ「昂揚」でもコントロールでもない。
今大会で浅原がデザインしたのは、《コジレックの帰還》を起点とした変則的な「現出」デッキだった。
5 《森》 5 《島》 2 《窪み渓谷》 4 《進化する未開地》 4 《伐採地の滝》 3 《ヤヴィマヤの沿岸》 -土地 (23)- 4 《首絞め》 4 《秘蔵の縫合体》 4 《縫い翼のスカーブ》 2 《改良された縫い翼》 3 《老いたる深海鬼》 3 《厄介な船沈め》 -クリーチャー (20)- |
4 《群れの結集》 4 《過去との取り組み》 4 《棚卸し》 4 《コジレックの帰還》 1 《墓所粛正》 -呪文 (17)- |
4 《ヴリンの神童、ジェイス》 3 《払拭》 2 《巨森の予見者、ニッサ》 2 《ゼンディカーの代弁者、ニッサ》 1 《山》 1 《州民を滅ぼすもの》 1 《約束された終末、エムラクール》 1 《ナヒリの怒り》 -サイドボード (15)- |
理想的な手順を記載しよう。まずは《群れの結集》《過去との取り組み》で墓地を肥やしつつ《老いたる深海鬼》《厄介な船沈め》を探しに向かう。その過程で《縫い翼のスカーブ》《改良された縫い翼》《コジレックの帰還》《秘蔵の縫合体》が墓地に落ちていることが望ましい。これらを墓地に落とす役目は《首絞め》で担うこともできる。
下準備が整ったらいよいよ「現出」の時間だ。
墓地にある《縫い翼のスカーブ》もしくは《改良された縫い翼》の起動型能力を起動し、翼の生えたゾンビを戦場に戻す……のだが、このゾンビたちは時を経ずして《老いたる深海鬼》もしくは《厄介な船沈め》の「現出」の餌となって墓地へ帰ることとなる。
この段階になって、メインボードでは唱えることが不可能である《コジレックの帰還》に意味が与えられる。「現出」を持つクリーチャーは、そのすべてが無色で7マナ以上という共通点を有している。そう、「現出」クリーチャーを唱えれば墓地にある《コジレックの帰還》が誘発するのだ。
《コジレックの帰還》で一掃した戦場に降り立つ大型クリーチャー。さらには墓地に《秘蔵の縫合体》が落ちていればターン終了時に3/3のゾンビがおまけでついてくる。ここまで来れば勝利は目前だろう。
特筆すべきは、墓地を肥やすスペルを起点として上記のカードが相互に繋がっていることだ。研ぎ澄まされたシナジーの連鎖。浅原の構築センスが光る傑作といえるだろう。
「現出」の登場によって《コジレックの帰還》の可能性は拡充された。戦場を薙ぎ払う大火力と大型クリーチャーの合わせ技はぜひ一度味わってほしい。
3. 《憑依された死体》
『異界月』がもたらした影響はスタンダードのみに留まらない。
最近モダンで絶好調の「ドレッジ」もまた、『異界月』の新カードによって強化されていたのだ。
2 《山》 1 《森》 2 《血の墓所》 2 《踏み鳴らされる地》 4 《樹木茂る山麓》 3 《乾燥台地》 1 《血染めのぬかるみ》 4 《銅線の地溝》 1 《ダクムーアの回収場》 -土地 (20)- 4 《傲慢な新生子》 4 《恐血鬼》 4 《ナルコメーバ》 4 《憑依された死体》 4 《秘蔵の縫合体》 4 《臭い草のインプ》 4 《ゴルガリの墓トロール》 1 《復讐に燃えたファラオ》 -クリーチャー (29)- |
4 《信仰無き物あさり》 2 《燃焼》 2 《稲妻の斧》 3 《壌土からの生命》 -呪文 (11)- |
4 《自然の要求》 4 《虚空の力線》 3 《仕組まれた爆薬》 2 《古えの遺恨》 1 《復讐に燃えたファラオ》 1 《骨までの齧りつき》 -サイドボード (15)- |
墓地にある間も機能してくれるその起動型能力と、「手札を捨てる」というコストはドレッジのために生まれたと言っても過言ではないほどにデッキにマッチしており、オマケのように出てくるスピリットトークンは飛行を持っているため攻防に渡って活躍してくれる。
一目で強さが分かるほどのパワーカードとも言い難く、アンコモンというレアリティも相まってあまり世間的に注目されていたカードではなかったが、こういった渋いカードを見逃さず、しっかりと拾い上げてデッキに組み込み実際にトップ8に入賞するという成績を残すのはデッキチューナーの鏡である。
メタゲーム上に躍り出てからまだ日は浅いが、すでに【WMCQ2016東京】でもトップ8に2名が入賞しているなど一線級の活躍を見せているドレッジは9月17日(土)に開催される【WMCQ2016名古屋】でも勝ち上がることができるだろうか? ドレッジの未来に期待が高まる。
いかがだっただろうか?
今週もまた多くのカードがプレイされ、注目され、議論を呼ぶのだろう。
次回の記事も楽しみにしていただけたら幸いである。
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