情報を制す者はマジックを制す。
特にSNSによる情報交換が盛んな現代、口コミがその後のメタゲームに与える影響は計り知れない。
すなわち、バズってる(話題になっている)カードを知ることは、メタゲームの把握と予測の大いなる助けとなることだろう。
当企画では、そんな「今、バズってるカード」を週刊で追っていきたいと思う。
カードの紹介に入る前に、先週行われたイベントやマジック関連の主な出来事を簡単におさらいしよう。
【プロツアー『異界月』が開催される】
先週末にはオーストラリアの首都・シドニーにて【プロツアー『異界月』】が開催された。
このトーナメントの1週間前に開催された【SCGO Baltimore】ではバントカンパニーが使用率4割強を誇る一大勢力を築き上げる中、『異界月』の新カードによる恩恵が薄かった緑白トークンが勝ち上がるというある意味、単純明快な(でもどこか腑に落ちない)メタゲームが呈されていたが……
蓋を開けてみればバントカンパニーはトップ8に2名進出しながらも他6名は創意工夫溢れる新デッキを持ち込んでおり、背景ストーリーさながら《約束された終末、エムラクール》と《ヴェールのリリアナ》が壮絶な死闘を繰り広げる見どころ満載のプロツアーとなった。
そして背景ストーリーさながら――【決勝戦】でOwen Turtenwald(アメリカ)の《約束された終末、エムラクール》の脅威を打ち払い、《最後の望み、リリアナ》とともに勝利を掴み取ったのは、Lukas Blohon(チェコ)!
【お知らせ】プロツアー『異界月』チャンピオンは、チェコのLukas Blohon選手!おめでとうございます! https://t.co/V1qBDya19a #mtgjp #PTEMN pic.twitter.com/FUJ1JFgVFc
— マジック:ザ・ギャザリング (@mtgjp) 2016年8月7日
トップ8にはHareruya Pros所属のプラチナ・レベル・プロである高橋 優太と、Dig.cards所属のゴールド・レベル・プロである行弘 賢の2名が勝ち残った。手に汗握る激戦の様子は【カバレージ】にてご覧いただくことができる。ぜひご一読あれ!
また、【3日目】のニコニコ生放送では解説としてHareruya Prosから津村 健志も参加している。無期限でタイムシフト視聴できるため、見逃したという方もぜひご覧いただきたい。
主要な出来事はこのくらいだろうか。
さて、それでは今大きな話題を呼んでいるカードたちを紹介しよう。
1. 《ウルヴェンワルド横断》
【プロツアー『異界月』】では様々な「昂揚」デッキが活躍した。
《最後の望み、リリアナ》を擁する大人気の黒緑「昂揚」から、行弘 賢が構築ラウンドを9勝0敗1分で駆け抜けた緑赤「昂揚」まで。《墓後家蜘蛛、イシュカナ》や《約束された終末、エムラクール》といった「昂揚」あるいは墓地を参照する強力なカードたちは、プロプレイヤーをも虜にしたようだった。
7 《森》 5 《山》 2 《燃えがらの林間地》 4 《進化する未開地》 4 《獲物道》 2 《見捨てられた神々の神殿》 -土地(24)- 4 《搭載歩行機械》 3 《墓後家蜘蛛、イシュカナ》 1 《世界を壊すもの》 3 《約束された終末、エムラクール》 -クリーチャー(11)- |
4 《焦熱の衝動》 4 《ウルヴェンワルド横断》 4 《苦しめる声》 4 《集団的抵抗》 4 《ニッサの巡礼》 3 《コジレックの帰還》 2 《炎呼び、チャンドラ》 -呪文(25)- |
3 《不屈の追跡者》 3 《稲妻織り》 3 《ゴブリンの闇住まい》 2 《龍詞の咆哮》 2 《龍王アタルカ》 1 《面晶体の記録庫》 1 《世界を壊すもの》 -サイドボード(15)- |
カメラに映ったフィーチャーテーブルでは華々しい《約束された終末、エムラクール》と《墓後家蜘蛛、イシュカナ》の大活躍が注目を集めていたが、主役となる彼らを影から支え続けたとあるカードの存在も忘れてはいけない。
それは《ウルヴェンワルド横断》である。
《約束された終末、エムラクール》と並ぶとなんとも地味な1枚だが、こと「昂揚デッキ」においては代わりのない輝かしいカードとして活躍する。序盤は土地事故を回避しつつ「昂揚」達成に貢献し、ひとたび「昂揚」を達成すればいよいよ本領発揮と《墓後家蜘蛛、イシュカナ》や《約束された終末、エムラクール》といったフィニッシャーを引き寄せる。いつ引いても嬉しい、デッキで最高のカードなのだ。
これまでも「昂揚」さえ達成できれば最高レベルのサーチカードとして注目されてはいたものの、「昂揚」という条件が困難な能力ゆえに低評価を与えられていた不遇の1枚だった。しかし、そんな不評もこれまでだろう。【プロツアー『異界月』】で「昂揚」が強力だと明らかになった今、これからは《ウルヴェンワルド横断》は秘めたポテンシャルを発揮していくに違いない。
2. 《約束された終末、エムラクール》
【プロツアー『異界月』】は圧倒的なカードパワーを誇るこのカードによって蹂躙されていた。
トップ8に進出したプレイヤーのうち、5名のプレイヤーがこれをデッキに(内1名はサイドボードのみ)採用していたのである。
13マナ13/13という膨大なマナコストと強大なサイズに加え、唱えたときのボーナスとして誘発する能力は《精神隷属器》の起動型能力や《最悪の恐怖》と同様のもの。
ただでさえ手に負えないフィニッシャーなのに、その誘発型能力で簡単に2~3枚、もしくはそれ以上のリソースを奪い取っていくのだから恐ろしい。ましてやこの《約束された終末、エムラクール》は自身のマナコスト軽減能力によって軽くなるので、概ね7~8マナ程度で出てくるのだ。
デッキは選ぶが、マナコスト軽減能力によって《絶え間ない飢餓、ウラモグ》や《大いなる歪み、コジレック》と比較すると容易に唱えることができ、劣勢の中に活路を開き、優勢ならばそのまま勝てる凄まじい能力を擁した新たなフィニッシャーの登場。今後の活躍にも期待が高まる。
ちなみに、以前は使えた対戦相手をコントロールしている間はそのサイドボードを見ることができるというテクニックは2016年8月9日現在では使用不可能になっている。コントロールしている際、《燃え立つ願い》などをプレイした場合でもゲームの外部にあるカードをサーチすることはできない。詳しくは【『異界月』リリースノート】を参照のこと。
3. 《最後の望み、リリアナ》
「現出」。「昂揚」。そして《約束された終末、エムラクール》。
『異界月』からあらゆるカードが活躍したプロツアーを締めくくったのは、《最後の望み、リリアナ》だった。Lukas Blohonの黒白コントロールは、Owen Turtenwaldの「ティムール現出」との不利な決勝戦を、【《最後の望み、リリアナ》の奥義をもって見事に打ち破り優勝した】のだ。
9 《沼》 4 《平地》 4 《コイロスの洞窟》 4 《乱脈な気孔》 4 《放棄された聖域》 1 《荒廃した湿原》 -土地(26)- 3 《ゲトの裏切り者、カリタス》 3 《大天使アヴァシン》 1 《保護者、リンヴァーラ》 -クリーチャー(7)- |
4 《闇の掌握》 2 《神聖なる月光》 2 《精神背信》 2 《究極の価格》 3 《骨読み》 2 《苦渋の破棄》 2 《破滅の道》 4 《衰滅》 3 《最後の望み、リリアナ》 2 《灯の再覚醒、オブ・ニクシリス》 1 《死の宿敵、ソリン》 -呪文(27)- |
4 《強迫》 4 《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》 2 《死の重み》 2 《無限の抹消》 1 《精神背信》 1 《究極の価格》 1 《苦渋の破棄》 -サイドボード(15)- |
あるときは黒緑昂揚のキーカードとして。またあるときは黒白コントロールの序盤の要として。そして、時には黒青ゾンビのアドバンテージエンジンとして。
“3マナの自衛能力を持つプレインズウォーカー”という破格のスペックから、様々なデッキに採用された《最後の望み、リリアナ》は、昨年の《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》を思わせる活躍ぶりを見せつけている。昨年は《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》が活躍し続けたように、今年は《最後の望み、リリアナ》なのだろうか?
特に今回の《最後の望み、リリアナ》は「-7」能力(大マイナス能力。通称「奥義」)が勝利に直結しており、自身を守りながら「+1」能力を使い続けることができることもあって「奥義が強すぎる」という声も多い。
今年もプレインズウォーカーの動向から目が離せない。
いかがだっただろうか?
今週もまた多くのカードがプレイされ、注目され、議論を呼ぶのだろう。
次回の記事も楽しみにしていただけたら幸いである。
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