あなたの隣のプレインズウォーカー ~第42回 再生のゼンディカー~

若月 繭子


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「かつて世界を守りし者が 今や血染めの翼で空を舞う」





 こんにちは若月です。やばいやばいやばいやばいって。この連載記事は大抵、本文を先に書いてからマジック最新の動向やアナウンスを見てこの「冒頭部分」を書き足しているのですが(編集さんいつもギリギリまですみません)この数週間は盛りだくさんで大変。『エターナルマスターズ』『コンスピラシー:王位争奪』『From the Vault: Lore』! そして一気に情報解禁の『イニストラードを覆う影』。アヴァシン様ァァァーーーー!!! ソリン何してるの! 間にあわなくなってもしらんぞーーっ!!!

 と、そちらも超気になるところではありますが先日『戦乱のゼンディカー』ブロックの物語が完結しました。今回の記事ではその結末の様子を振り返り、そしてこれからどうなるのかを探ります。本格的にイニストラードへと向かう前にまとめてどうぞ!



1. ラストバトル

 ウラモグ・コジレックとの「ラストバトル」は、マジックのストーリー史上稀に見る総力戦となりました。ここまで多くのキャラクターが力を合わせ、強大な敵ボスに立ち向かうというのは実のところなかなかありません。思えば一つ前の『タルキール覇王譚』ブロックではラストバトルそのものが(それ以上に、倒すべき明確な敵というものが)存在しませんでしたしね。


ギデオンの誓いニッサの誓いジェイスの誓いチャンドラの誓い


 ゼンディカーだけでなくその先に広がるあらゆる次元を、エルドラージだけでない脅威から守ると誓った4人。同盟者のわずかな生き残り&どうにか二又槍を取り戻したキオーラと合流し、ジェイスを中心として作戦を立案します。《連結面晶体構造》では力線でウラモグを閉じ込めた。それよりもずっと大きな力線の輪でウギンから学んだ魔法文字を描き、そこにウラモグとコジレックを閉じ込めるだけでなく久遠の闇からその全容を引きずり込み、そして力線を経由してゼンディカー世界にエルドラージを吸わせ、殺す。ただし、前回力線を誘導した面晶体はないため、力線を形成するのはただニッサの力にかかっている。

 作戦の流れはこうです。


ギデオンとチャンドラの部隊がウラモグ・コジレックを誘導して位置につかせる

ニッサが力線を形成、エルドラージを物理的世界へと引き込む

力線を経由してゼンディカー世界そのものにエルドラージを吸い尽くさせる

ジェイス:指揮
キオーラ:周囲の落とし子の掃討



 どこで失敗するかもわからない、ぶっつけ本番の作戦が開始されました。まずは2体を十分接近させなければ一度に力線で取り囲むことはできず、そのための「囮任務」がギデオンとチャンドラ率いる部隊に任されました。そこはうまく進み、ウラモグとコジレックを定位置まで誘導したところでジェイスが合図し、ギデオンたちを散開させてニッサが力線を展開、2体を拘束してさらにその「実体」を物理的世界へと引き寄せ始めました。

 ですが力線を保持するニッサの負担は相当なもので、そしてゼンディカーもまた、エルドラージの全容が空に広がり、ゼンディカー世界も崩壊に向かい始めました。それを感じ取ったキオーラは作戦を諦め、力ずくでニッサに力線を止めさせようとします。大量の海水を集め、その塊をニッサに向けて放ちました……ですがそれは、見越していたジェイスによって雲散霧消させられました。


意思の激突

アートこそ相手はエルドラージですが、この場面でジェイスが唱えたカウンター呪文は何だろう、と考えてこれが一番近いかなと。


 そしてすかさずジェイスがチャンドラに尋ねます。この空を覆うエルドラージを一撃で燃やし尽くせるかと。久遠の闇へと逃がす隙を与えることなく燃やし尽くせるかと。ウラモグとコジレックをゼンディカーに吸わせる余裕はなく、2体を倒せるか否かはチャンドラへと託されました。彼女はできると断言します。

 ゼンディカー全てのマナがニッサへ、その手からチャンドラへ。空を覆い尽くしたエルドラージへと炎が走り――


死すべき定め巨人の陥落



《死すべき定め》フレイバーテキスト
ジェイスが発見したウラモグとコジレックを現実世界に繋ぎとめる力線を、ニッサが辿って現実のものとした。


《巨人の陥落》フレイバーテキスト
ギデオンが落とし子の血統を食い止めている間に、チャンドラがそれに繋がるエルドラージの巨人を焼いた。


 この2枚に描かれているウラモグ&コジレックの姿がカードと少し異なるのは、力線によって全体像が引きずり出されたため。カード能力もそのまま、ウラモグとコジレックを倒す方法を示しています。ニッサが《死すべき定め》でウラモグの破壊不能能力を失わせ、チャンドラが《巨人の陥落》を「X=12」で撃つ。マジックの物語では時折「カード能力をそのまま表現した展開」が出てきますが、これもまさしくその一つでした。

 やがて炎が止み、恐ろしいほどの静寂と煙と灰の中、生き残った者たちがちらほらと集まってきます。誰もが満身創痍、そして半信半疑でした。本当にエルドラージは倒されたのか、世界は救われたのか……。彼らが皆それを確信し、安堵できたのはしばらく後のことだったようです。



2. チーム・ゲートウォッチが得たもの



ゼンディカーの復興者


 今回のブロックに登場したプレインズウォーカーは全員生還しました。そして「エピローグ回」である公式記事「ゼンディカーの復興」に、戦い終わったゲートウォッチそれぞれの様子が描写されていました。

 ギデオンとチャンドラとニッサの3人はゼンディカーに残り、落とし子の掃討や復興を手伝う。一方でジェイスは残る3体目の巨人、エムラクールの行方の手がかりとなるであろうソリンを探しにイニストラードへ向かう決意を固める。プレインズウォーカーたちが今回のゼンディカーを訪れてから初めて描かれる穏やかな時間に、残る者と出発する者それぞれの愛着と思惑、そしてこのゼンディカーで育まれたそれぞれの友情が思い返されました。そう、今回の物語ではいくつものすばらしい友情が築かれました。



■ ギデオンとジェイス


一致団結


Card of the Day 2016年2月16日分より訳

 ジェイスとギデオンの友情はここに、確かに実を結んだ。


 旧『ゼンディカー』ブロック・『ラヴニカへの回帰』ブロックで共にカード化されていながら、物語では接点のなかった2人。「ギデオンとジェイスが物語中で共に戦う」、それは何年も読みたいと願っていた物語の一つでした。叶ってしまった、しかもこんなにもすばらしい形で。ギデオンは戦闘担当、ジェイスは謎解き担当。多くのゼンディカー人・同盟者たちも含めて大きな作戦を動かす中で、2人は互いの真価を認め合うようになりました。

 ギデオンは当初ジェイスを過小評価しながらも(本人談)彼の卓絶した知識とそれに基づく綿密な計画立案を高く評価し、面晶体の罠の形成と巨人2体の打倒、世界の運命を左右する作戦を2度も信頼して委ねました。脳筋戦闘担当のギデオンにとって、作戦立案を任せられるジェイスは実に頼もしい存在だったようです。

 一方でジェイスは話中で何度も、ギデオンの卓絶した戦闘力ではなく「人の心を動かす魅力」について考えさせられていました。


公式記事「滅亡の瀬戸際に」より引用
(掲載:2016年2月10日)

 彼はギデオンの能力をわずかしか理解していなかった。人々に、協力したいと思わせる力を。それは何ら魔法的なものではなく、ただその魅力と個人的誠実さによるもので――どちらも、ジェイスは身につける必要すら感じたことのなかったものだった。



公式記事「ゼンディカーの復興」より引用
(掲載:2016年2月24日)

 それはもしかしたらギデオンの魔法によるものかもしれない、だがジェイスはそうは思わなかった。彼は戦いの後、かの司令官が軍勢の中を動くのを見ていた――少しの短い言葉、肩に乗せた逞しい手、墓の傍へと静かにひざまずき、死者の記憶に耳をそば立てる。彼が行くところ全てに、安堵と希望が根付いた。それこそが統率力。ジェイスは疑問に思った、それは他の皆に対してのように、自分にも通用するのだろうかと。
 ジェイスはその効果をテレパスで再現できる筈だった。人々の思考へと働きかけて適切な事を言う、もしくは慰めと安楽を与える。人々に自分を信頼させる。だが誰もが知っているように、ギデオンはテレパスではない。ギデオンはただ、何を言うべきかを知っていた。もしかしたら、だからこそ通用するのかもしれない。



 ジェイスは人の心を動かすには魔法を使えばよく、そして彼にとってそれは簡単なこと。ですがギデオンはそんな魔法すら必要とせずに周囲の人々の信頼を集めている、その姿にジェイスは何度も心を動かされていました……人の心をその魔法で動かしてきた彼が。それってすごいことですよね。この2人は本当に良い信頼関係を結ぶに至ったなあと思っています。



■ ギデオンとチャンドラ

 ギデオンはチャンドラ主人公小説「The Purifying Fire」にて初登場、その後カード化されて今に至るとは何度も書いてきました。この連載も『基本セット2012』のギデオンとチャンドラから始まったと言ってもいいくらいです。そんな2人が実際のセット、その物語で顔を合わせるまでは長い時間がかかりました。


燃え立つチャンドラギデオン・ジュラ


 元々はチャンドラの力になるべくゼンディカーを訪れたギデオン。そしてそこから始まったエルドラージとの戦い。そう、長い時間……だと思いました、こちらの次元に生きる私たちの目には。

 ですが2人はニクシリスとの戦いで即座にすばらしいコンビネーションを発揮し、また最後の作戦では共にウラモグとコジレックを誘導し、そして巨人2体を焼き尽くそうとするチャンドラをギデオンはその身を挺して守っていました。エピローグではまだ完全に回復しないチャンドラを気遣うギデオンと、そんな彼と笑って接するチャンドラの姿が。何ということだ……ギデオンとチャンドラが談笑している……ここにもずっと読みたかった場面が。私がどれほど嬉しかったか、お察し下さい。

 ここでの役割は終わった。ゼンディカーを離れてもいい、必要になればまた合流すればいいのだから。ギデオンはそう言いますがチャンドラは「誓いを立てた」「ゲートウォッチの一員になった」ことを強調し、言葉は濁しつつもこの次元を離れようという気は見せませんでした。互いの性格を尊重してのやり取りなんでしょうが、君らそれじゃまるで逆だなあ。

 そして自分が来なければゼンディカーは救われなかった。ですがギデオンとジェイスが訪ねて来なければそもそも来ることもなかった、彼女はそれをわかっていました。再会して共に過ごした時間はまだまだ短いものです。2人ともしばらくはゼンディカーに残るようですが、その物語はきっと幕間へ。次にいつ私たちがこの2人に会えるのかはわからないけれど、そのときは何か進展してるのかねえ。まあほらギデオンは生まれが赤白みたいなものだし、とよくわからないエクスキューズを挟みながらこの話はここまで。



■ ジェイスとニッサ

 こちら対抗色同士の2人ですが、予想したよりもずいぶんと仲良くやってたなあ、というのが正直な感想でした。ウラモグを《連結面晶体構造》へと閉じ込めるギリギリの作戦、そしてウラモグ・コジレック2体を完全に世界へと引き込んで倒す背水の作戦、その2度にわたって、ニッサは心の中をジェイスに直接見せました。大規模な、困難な作戦を敢行するためには、自分だけに見えているものを相手にも見せる必要があったために。

 その中で、ニッサは自分こそがエルドラージを最終的に解放した者だと明かします。なぜ自分がここまでしているのかを理解してもらうために、そして……ジェイスの方からその記憶を見つけられてしまうことを怖れて。そして彼女の告白に、ジェイスも自身が関係者の1人であると明かしました。


公式記事「滅亡の瀬戸際に」より引用
(掲載:2016年2月10日)

『わかった。なら俺も明かすよ――』
 彼は躊躇した。彼女がどう反応するか定かでなかった。
『その安全装置が必要になった理由の一部は、俺なんだ』
 不本意ながら彼は精神防御を緩め、ある一連の記憶を引き出し、先程彼女から見せられたようにそれを経験させた。アノワンが彼を「目」へと案内した。チャンドラと龍語りとの戦い。「目」は開き……
『あなたがあいつらを放ったの!』
『俺が放った。チャンドラと俺が。俺達にそうさせようっていう企みにはめられた。だけど本当の問題はそこじゃない、そうだろう?』
 三人のプレインズウォーカーが巨人の牢獄の鍵を開き、それらの落とし子をゼンディカーに群れさせた。一人がウギンの最後の安全装置を解除して牢獄の扉を開いた。その四人のうち三人が今ここに立ち、自分達の過ちを正そうとしている。



 『戦乱のゼンディカー』の情報が出始めたころ、ジェイスとニッサが共に登場すると知ったときには「エルドラージの解放に関わった者同士だけど、互いにそれを知ったらどうなるのかな」と思っていました。ここでようやく。

 また、ウギンからソリンの話を聞かされたジェイスは、ニッサの記憶を読んだ際にソリンの姿を見ます。これで「顔と名前が一致」して彼はイニストラードへ。この流れはプレインズウォーカー同士の結びつきがうまいこと生きましたね。

 ところでエルドラージ解放に関わった面子で1人だけ故郷で幸せになってるのがいるんですが……まあ彼はウギンが死ぬ歴史を変えてくれたのだからいいか……。



■ チャンドラとニッサ


公式記事「燃え盛る炎」より引用
(掲載:2015年2月4日)

「私は、ニッサ」 そのエルフが言った。
「チャンドラよ」 彼女も、掌を差し出して言った。
 ニッサはそれを両手で包み込んだ。彼女の指は柔らかく、緑色に染まった瞳は苔むした井戸のように深かった。「ありがとう」



 ジェイスとギデオンは相互理解を経た上で築かれた友情とでも言いましょうか、一方でこちらの2人は直観的にわかり合ったような感があります。白・青と赤・緑、このへんにも色の性格が見えますね。ニクシリスとの戦いで即座に意気投合したこの2人は最終決戦で最も重要な役割を共に果たしました。巨人を焼き尽くせるか、と問われたチャンドラは、ニッサからの信頼を見て自分はできると断言します。そしてニッサを経由してゼンディカーのマナがチャンドラへと流れ込み、巨人2体を焼き尽くしました。

 エピローグでも2人は仲良さそうに語っていました。ゼンディカーから離れたくない、この世界の再生を見守りたいと言うニッサ。その隣に座り、珍しく静かにその気持ちへの共感とここに来た経緯を語るチャンドラ。そして2人がギデオンとジェイスのやり取りに笑う様子には、短いとはいえマジックで「ガールズトーク」が読めるとは、と驚きました。


ニッサの巡礼


 もしかしたらこのアートはエピローグ後、ニッサがゼンディカーに緑を取り戻す様子を描いているのかもしれませんね。


 あと、小ネタ解説。
 

公式記事「ゼンディカーの復興」より引用
(掲載:2016年2月24日)

 チャンドラは笑みを返し、肩をすくめた。「地虫が食べたいなら早く来て。でないとギデオンが独り占めしちゃうわよ」



 これはチャンドラ主人公小説「The Purifying Fire」からのネタですね。

 チャンドラとギデオンが迷い込んだ次元「Diraden」にて、2人が現地の女性に「地虫のスープ」を出されるという場面がありました。チャンドラは嫌がるのですが、ギデオンは「何であろうと食べ物、栄養源なのだし、歓迎の証として出してくれたのだから」と無表情に食していました。でもこれ、自らナメクジを調理するニッサにはどうってことないんじゃないかな。

 ……というように、ゲートウォッチの4人それぞれがたしかな友情を築きました。「複数のプレインズウォーカーが良好な関係を築いた」、それはエルドラージの巨人2体を倒したことと同等に、もしかしたらそれ以上にすばらしいことのような気がします。



3. 残る疑問

 『タルキール覇王譚』ブロックに引き続き迎えたハッピーエンド。ですが「○○はどうなったの?」というような疑問はいくつか残されています。書ける範囲で探ってみました。



■ キオーラはこれからどうするの?


深海の主、キオーラ


 ゲートウォッチに加入せず、そして最後の最後で(ジェイスによって大事には至らなかったものの)やらかしたキオーラ。ウラモグとコジレックが倒され、ぼんやりと巨人の姿を残す煙と降りしきる灰の下、彼女は幾らかの生存者を助け、そしてプレインズウォーカーたちが集まってくると何も言わずに背を向けて去りました。自分の足で歩いて、海とは逆の方向へ。

 「自分の足で歩いて旅立った」、それは「プレインズウォークするのではなく、この次元に残る」ことを意味しているのだと思います。似たような場面が過去、『未来予知』のエンディングにもありました。『時のらせん』ブロックの物語にてプレインズウォーカーの灯を失い、ただの人となりながらもその知識で「大修復」を支えた《ザルファーの魔道士、テフェリー》。彼は「私は歩いて行くよ、自分の足でね」と言って旅立ったのでした。晴れやかさこそ全く違えどそれを思い出しました。きっとキオーラもキオーラなりに、ゼンディカーの復興へと力を貸すのでしょう。

 ……ちなみにアートブックにキオーラは「絶望の中でゼンディカーを見捨てて逃げた」って書いてあったんですが、そうでなくて良かった。本当に。



■ ニクシリスは?


灯の再覚醒、オブ・ニクシリス


 思えばニクシリスが今回の話を引っかき回したのは、五千年もの間自分を封じ込めていたゼンディカー世界そのもの(と、その庇護者ナヒリ)への復讐のためでした。そしてギデオン・ジェイス・ニッサを捕えるもチャンドラに妨害され、4人のパワーに敗北してゼンディカーから去っていったのですが、実に悪役らしい捨て台詞を残していきました。


公式記事「燃え盛る炎」より引用
2016年1月20日

「よかろう。お前達は我を打倒すべく力を費やし、達成した。だが我にかまけている間に、お前達はゼンディカーを苦しめていた。つまりお前達の、敗北は、明白だ」
 チャンドラと三人は互いの顔を見合わせた。
「約束しよう」 悪魔は低い唸り声で言った。「我はあらゆる次元を渡り、あらゆる惨めな世界を一掃し、やがてお前達の心得違いの生涯に相応しい罰をもたらすと」



 マジックの物語の「敵勢力」としてはエルドラージ、ファイレクシア、ニコル・ボーラスが「三強」的な存在と言っていいかと思いますが、あまりに強大すぎて物語的な扱いにも注意を要するでしょう。それらよりもはるかにフットワークが軽く、妙にポジティブかつ適応力と柔軟性のあるニクシリスは今後しばしば登場しては主人公たちの前に立ちはだかるのではないか、そんな気もします。

 彼はゲートウォッチの敵とはなりましたが、思えばギデオンとのタイマン格闘戦には少年漫画のような熱さがありました。互いに倒すべき相手としながらも、次に顔を合わせたときは純粋に「こいつと戦える」ことを喜びそうです。これもまた今後が楽しみな因縁ですよ。



■ カリタスは?


ゲトの裏切り者、カリタスエルドラージの壊滅させるもの


 「そういうわけで、エルドラージが勝つのだ」。現スタンダードで大活躍中の《ゲトの裏切り者、カリタス》。『戦乱のゼンディカー』ブロックではプレインズウォーカーだけでなく、伝説のクリーチャーもけっこう物語に登場していました。個人的に印象深かったのは凛々しく勇ましい《マラキールの解放者、ドラーナ》と、青らしい皮肉がむしろ心地良い《乱動を刻む者、ノヤン・ダール》でしたよ。

 一方で登場しなかった者も存在します。《怒りの座、オムナス》《保護者、リンヴァーラ》、そしてこのカリタス。『戦乱のゼンディカー』『ゲートウォッチの誓い』に伝説のクリーチャーは計13体、さすがに全員登場というのは難しかったようです。エルドラージ側として《永代巡礼者、アイリ》出たのだけどね。

 カリタスがどんな状態で何をしていたのかはアートブックにありました。訳しましょう。


書籍『The Art of Magic: the Gathering: Zendikar』より訳

 カリタスとゲトの一族は今や完全にエルドラージの手下と化した。この吸血鬼達はかつて持っていた洗練された文化のあらゆる面を完璧に放棄している。かつての優美さは失われ、彼らは今や獰猛で野蛮な者達となった。彼らはウラモグの白面の頭蓋を思わせる無個性な骨板で目を覆い、身体を彩っていた優雅な模様は彼らの暴力的な狩りで得た雑多な血飛沫に取ってかわられた。
 自身が率いる吸血鬼達と同等に獰猛ではあるが、カリタスはその相当な知性を保持しているように思われる。彼は「選別」で被った損失を取り戻すべく、かつてない熱狂的な速度で新たな吸血鬼を増やしている。彼に仕える者達はエルドラージに抵抗し続ける僅かな吸血鬼を狩り出して皆殺しにしている。



 公式記事「ゼンディカーの復興」によれば、残った落とし子やエルドラージ信者や隷属された吸血鬼との戦いはもう少しの間続くようです。とはいえ主であるウラモグが倒され、隷属させられていた吸血鬼たちはこの先どうなるのでしょうね。正気に戻るのか否か、それはわかりません。



■ ウギンは何をしていたの?


ウギンの聖域


 《ウギンの目》を訪れたジェイスに助言をしたあと、全く物語に姿を現していなかったウギン。どうやらコジレックが覚醒してもゲートウォッチが結成されてもラストバトルが繰り広げられても、ずっとそこに籠ってエルドラージ封印の面晶体を再構築しながら、ソリンとナヒリを待ち続けていたようです。エピローグでようやく姿を現し、ジェイスから事の成り行きを聞いてまた去って行きました。2体の巨人を倒したゲートウォッチの所業に、この先はるか未来に起こるであろう何らかの影響を憂いながら。

 彼自身も無色であること、また我々の次元では《ウギンの目》の入ったエルドラージデッキが大暴れしていることもあり、各所で「実はウギンこそ黒幕なのではないか」という噂が流れていることは知っています。私は……あくまで個人的にですが、そうじゃないと信じているというか……そうじゃないと信じたい。



■ 結局、エムラクールはどこに?

 津村さんも涙していたエムラクールの不在。以前から「既にゼンディカーを離れて久しいのでは」と言われていましたが、今回その通りにウギンが断言しました。ではどこに? それはわからず、今のところゲートウォッチの一番の懸念がそれでしょう。


引き裂かれし永劫、エムラクール


 もしかしたら今後、「実はあちこちにこっそりエムラクールの気配が……→次のセットで登場!」みたいなことが起こるかもしれません、それこそ今回のコジレックのように。ではエムラクールの気配とはどういうものなんでしょう? 過去にいくつか説明がありました。


『戦乱のゼンディカー』ファットパック付属小冊子より訳

 別の巨人たちがその足跡に残す完全な破壊とは対照的に、エムラクールは岩や水といった非生物には影響を及ぼさない。彼女の足跡には生物の歪みが記され、それが植物か、動物か、知的生物かどうかは関係ない。


書籍『The Art of Magic: the Gathering: Zendikar』より訳

 エムラクールの接近は精神を砕くだけでなく、生きた肉体へと影響して歪みを与える。もう2体の巨人たちがその足跡に完全な荒廃を残すのとは対照的に、エムラクールの通り道は生物の歪みが印され、岩や水やその他非生物は変化せずに残る。木々や蔓は節くれ立った触手のような姿へと変貌する。動物や人々、エムラクールが存在した戦いの生存者も、エムラクールの身体を思わせる格子状構造の肉を時折その身に成長させる。この荒廃はエムラクールが何らかの方法でマナを吸うことの表れなのか、もしくは単純にその全くもって異質な存在の影響なのかもしれない。



 もしエムラクールもゼンディカーに残っていたとしても、その倒し方はウラモグ・コジレックと同じだったのでしょう(難易度はかなり上がりますが)。2体ではなく3体を誘導し、一度に力線で拘束し、完全に物理的に実体化させて焼き尽くす。ですがエムラクールがゼンディカーを離れたのであれば、同じ倒し方は不可能ではないかと思います。ゲートウォッチがどう対処するのか、この先を楽しみに待っていましょう。



4. おわりに


 最初の『ゼンディカー』ブロックは2009-2010年。当時まだマジックをプレイしていなかった、という人も多いかと思います。『エルドラージ覚醒』で現れた脅威、それが『イニストラード』や『ラヴニカへの回帰』、そして『タルキール覇王譚』の歴史の分岐を経て、今回少なくともウラモグ・コジレックの2つが片付きました。ローテーションのシステムが変わって初めてのブロック。慌ただしく感じられるところもありましたが、濃密で目の離せない物語が毎週続きました。

 そして物語は宇宙的恐怖との戦いから、吸血鬼やゾンビや幽霊に満ちた怪奇ものへ。『戦乱のゼンディカー』ブロックは「エルドラージとの戦い」という物語の大筋と目的が最初から見えていましたが、今度の話は(これを書いている時点では)まだまだ謎に包まれています。「覆う影」とは何なのか。原題が『Shadows over Innistrad』、複数形なんですよね。ジェイスはソリンに会えるのか。どこかで一度「イニストラードおさらい記事」も書きたいですね。気になることたくさんあるし……何といってもソリンとか……ナヒリとか……


書籍『The Art of Magic: the Gathering: Zendikar』より訳
P.43(ソリン側)
古の仲間
 ソリンとナヒリが出会ったのは、若きコーのプレインズウォーカーの灯が最初に点火した時の事だった。二人は思いもよらない友情を築いた。彼女をほとんど娘のように思い(Viewing her almost as a daughter)、ソリンはナヒリへと多元宇宙を教え、様々な次元を紹介した。

P.44(ナヒリ側)
吸血鬼の被保護者
 ナヒリはゼンディカーのコーの中に生まれた。彼らが放浪生活を取り入れるずっと前のことだった。彼女は最初の、無意識のプレインズウォークによってソリン・マルコフの元へと飛んだ。彼は彼女を保護して(took her under his wing)広大な多元宇宙を紹介した。二人は数世紀を共に過ごし、ナヒリはソリンを敬愛する師とみなすようになった。





 ……また次回!

(終)



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