情報を制す者はマジックを制す。
特にSNSによる情報交換が盛んな現代、口コミがその後のメタゲームに与える影響は計り知れない。
すなわち、バズってる(話題になっている)カードを知ることは、メタゲームの把握と予測の大いなる助けとなることだろう。
当企画では、そんな「今、バズってるカード」を週刊で追っていきたいと思う。
カードの紹介に入る前に、先週行われたイベントやマジック関連の主な出来事を簡単におさらいしよう。
【モダングランプリが3ヵ国で開催される】
先週末にはフランス・リールにて【グランプリ・リール2016】、アメリカ・インディアナ州にて【グランプリ・インディアナポリス2016】、中国・広東省にて【グランプリ・広州2016】が開催された。
モダンフォーマットで3つのグランプリが開催されるというモダン・ウィークエンドで見事に勝利を収めたのは「感染(リール)」「バーン(インディアナポリス)」「グリクシスデルバー(広州))」と、コンボ・フェア・アグロの揃い踏みで、モダン環境の多様性が示される結果となった。
晴れる屋の【デッキ検索】にも上位のデッキリストが掲載されているので、ぜひご覧いただきたい。
主要な出来事はこのくらいだろうか。
さて、通常であれば、ここからは話題のカードを紹介するのだが、今回は1つ告知をさせて欲しい。
【ハレプロ】マジックの最高峰!「マジック:ザ・ギャザリング世界選手権」に出場する、#HareruyaPros 八十岡 翔太選手のインタビュー記事が@mtgjp に掲載されました!→https://t.co/jUi3CzbdRN pic.twitter.com/G1abM7zKCM
— 晴れる屋 (@hareruya_mtg) 2016年8月29日
【ハレプロ】「マジック:ザ・ギャザリング世界選手権」は@LukasBlohon選手と@Mullermtg選手も出場!#HareruyaPros 3名が出場です!→https://t.co/f5PbWVzSKK #MTGChamp pic.twitter.com/FC4PwEhIu7
— 晴れる屋 (@hareruya_mtg) 2016年8月29日
9/1(木)~9/4(日)、アメリカ・ワシントン州シアトルにて【世界選手権2016】が開催される。
年間を通じて活躍したプレイヤー24名が集い、世界チャンピオンの名誉をかけて戦いを繰り広げるのだが、【Hareruya Pros】から八十岡 翔太(日本)、ルーカス・ブローン(チェコ)、マーティン・ミュラー(デンマーク)の3名が出場する!
世界チャンピオンを目指して戦うHareruya Prosに、熱い声援をお願いしたい。
さて、それでは今大きな話題を呼んでいるカードたちを紹介しよう。
1. 《ミシュラのガラクタ》
優勝こそ逃したものの、3つのグランプリに共通してトップ8入賞を果たしたアーキタイプが一つだけある。
このカードを使うデッキ。みなさんにはもうおなじみの「スーパークレイジーズー」だ。なんだこれは? と思う方は、まず下記のリンクをご覧いただきたい。
- 2015/02/20
- Super Crazy Zoo調整録
- 伊藤 敦
悪ノリが高じて生まれたデッキが“意外にも強かった”ことで真面目に調整され、今や世界中でシェアされるようになったという異例のキャリアを持つこのデッキ。
キーカードである《ミシュラのガラクタ》を利用した小技が公式のカバレージでも【『Cool Play』】として取り上げられており、現在話題を呼んでいる。
回答しているHareruya Pros所属のペトル・ソフーレク曰く「(友人が)《ミシュラのガラクタ》で対戦相手のライブラリートップを確認して、《流刑への道》とメモをした。それを受けて、次に対戦相手がカードを引いたところ、トップにあったのは土地だった」という。要するにブラフだが、自分がもし対戦相手の立場だったなら悶絶することだろう。
ちなみにデッキ製作者の伊藤 敦曰く「《ミシュラのガラクタ》は必須カードで、サイドボード後に抜けるマッチアップも基本的にない」とのことである。代替も効かないパーツなので、SCZに興味があるという方はぜひ揃えておきたいところだ。
2. 《護衛募集員》
2016年8月26日、『コンスピラシー:王位争奪』が発売されたが、読者諸賢もドラフトを楽しんでいるだろうか?
「多人数戦ブースタードラフト専用」ということもあって、多くのカードがドラフト、多人数戦に関する能力を持っている。ドラフトの際にメモを取る、全員にピックしたカードを公開する、ゲームの際に複数の相手に戦闘を仕掛けることで強化される、など日頃のマジックでは味わえない楽しさを思う存分味わうことができる。ぜひ、一度体験してみて欲しい。
また、そういった新たなカードと共に、《実物提示教育》や《狂暴化》のように強力な再録カードの存在も忘れてはならない。「これをきっかけに新しいデッキを組んでみよう」という人も、「新枠で統一したい!」という人も、お見逃しなく。
もちろん、強力なカードは再録だけではない。「ドラフト専用」と謳いながらも、新規収録の中には前作『コンスピラシー』の《ダク・フェイデン》のように、ドラフト以外の環境で大暴れするカードが存在する。
そして、今作のカードも、すでに大暴れを始めている。
《護衛募集員》。
デッキからカードを探す、いわゆる「リクルート能力」を持った1枚。このカードが発表された当初、ちょっとしたお祭り騒ぎになったのだが、その盛り上がりの中心にいたデッキこそ、「Death and Taxes」である。
“逃れられないもの=死と税金”という名前を持つ「Death and Taxes」は、白単色で組まれるビートダウンとコントロールの要素を併せ持ったデッキだ。大抵のコントロールデッキが相手のデッキを機能不全に陥れて勝利するのに対して、「Death and Taxes」は機能する前に勝ちきるという方針に近い。
「ウィニーほど軽快でなく、コントロールほど鈍重ではない」という独特な間合いを取るこのデッキに魅せられたものは非常に多く、Hareruya Prosのマイケル・ボンデも【インタビューの中で】、
「メタゲームの情勢に影響されず、すべてのデッキに対して勝つこともできる。とても面白く、難しいデッキだ」
と、このデッキを評している。
簡単にデッキの動きを解説すると、《スレイベンの守護者、サリア》《リシャーダの港》《不毛の大地》でマナを縛りつつ、《ファイレクシアの破棄者》や《異端聖戦士、サリア》で相手の行動を制限し、《霊気の薬瓶》を経由して打ち消し呪文を回避しながら、《石鍛冶の神秘家》が持ってきた装備品を身につけて《ミラディンの十字軍》が殴り続け、《ちらつき鬼火》が相手のブロッカーを除去したり、自分のパーマネントを一時避難させたりと様々に活躍する、というのが大まかなデッキの動きである。
搭載されている全てが、マジック史上に残る優秀な白いクリーチャーという恐るべきデッキ。そして、もうお分かりだと思うが、ここで登場した全てのクリーチャーを《護衛募集員》は手札に加えることができるのだ。
このリクルート能力が「Death and Taxes」使いにとって熱烈に歓迎されたのは、”全くありえない能力”ではなく、“色をタッチすれば使える能力”という状態を彼らが長く見続けていたことも理由の1つであろう。
“赤をタッチしたデスタク”こと「インペリアル・タックス」では《帝国の徴募兵》というリクルート能力持ちが存在し、《月の大魔術師》と共に活躍をしていた。《帝国の徴募兵》が『ポータル・三国志』のカードで比較的高価であること、そして、「赤(正確には、白じゃない)」ということもあり、全世界に存在する純正白単愛好家にとって、「白のリクルーター」は垂涎の的だった。
その「Death and Taxes」が、ついにリクルート能力を手に入れたわけである。
上記のように優秀なクリーチャーが勢揃いしている「Death and Taxes」だが、そのほとんどは「相手に干渉するクリーチャー」であり、わかりやすくアドバンテージを稼いでくれるカードは《石鍛冶の神秘家》など、ごく一部であった。《護衛募集員》はハンドアドバンテージを失うことなく、「今まさに必要なクリーチャー」を手札に加えることができる。《護衛募集員》は「Death and Taxes」の持つ”強さ”にアクセスするポータルなのだ。
ところが、これによって新たな問題が生じている。3マナ域の大渋滞である。
いぶし銀の活躍を見せる《ちらつき鬼火》、相手の動きを徹底的に阻害する”もう1人のサリア”こと《異端聖戦士、サリア》、各種装備品を振るって相手のライフを抉る《ミラディンの十字軍》、1マナの重さを痛いほど分からせる《ヴリンの翼馬》、手下と共に盤面を警戒し続ける《オレスコスの王、ブリマーズ》と、《カラカス》とのコンボでおなじみ《コロンドールのマンガラ》など、誰の目から見ても飽和状態な選択肢が「Death and Taxes」使いを悩ませている。
現在の主流は「23枚の土地、11枚のスペル、26枚のクリーチャー」という構成だと思われる。3マナ域のクリーチャーに割けるスロットは8枚前後といったところであろうか。リクルート能力持ちを採用することで、リクルート先が消失したのでは本末転倒。このバランスをどうやって取るかが、今後の大きな課題であろう。
《護衛募集員》のスペックは1/1。高タフネスが跋扈するレガシー環境では確かに心もとないが、いざとなれば装備品を片手に戦闘に参加できるし、ブロッカーとして役割を終える可能性も否定できないだろう。募集するのは、あくまでも我々プレイヤーの護衛であり、彼女自身を護衛するものではないのだから。
また、同じ『コンスピラシー:王位争奪』では、《聖域の僧院長》も登場している。多少の違いはあれども《虚空の杯》を内蔵しており、その能力が強力なことは言うまでもない、のだが……こちらも3マナなのである。死と税金から逃れられないように、この大きな悩みから、我々は逃げられそうにない。
《護衛募集員》と《聖域の僧院長》の登場によって、「Death and Taxes」というデッキは大きな変化を遂げつつある。早速、晴れる屋レガシー杯では、この2枚を採用した「Death and Taxes」が入賞を果たしている。
8 《平地》 2 《魂の洞窟》 1 《地平線の梢》 3 《カラカス》 1 《トロウケアの敷石》 4 《リシャーダの港》 4 《不毛の大地》 -土地 (23)- 3 《ルーンの母》 4 《スレイベンの守護者、サリア》 4 《石鍛冶の神秘家》 3 《ファイレクシアの破棄者》 2 《セラの報復者》 4 《ちらつき鬼火》 2 《ミラディンの十字軍》 2 《護衛募集員》 1 《聖域の僧院長》 1 《コロンドールのマンガラ》 -クリーチャー (26)- |
4 《剣を鍬に》 4 《霊気の薬瓶》 1 《梅澤の十手》 1 《火と氷の剣》 1 《殴打頭蓋》 -呪文 (11)- |
2 《流刑への道》 2 《歪める嘆き》 2 《議会の採決》 2 《大変動》 1 《封じ込める僧侶》 1 《聖域の僧院長》 1 《エーテル宣誓会の法学者》 1 《安らかなる眠り》 1 《真髄の針》 1 《万力鎖》 1 《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》 -サイドボード (15)- |
今回は「Death and Taxes」を中心に紹介したが、その他のデッキでも活躍する可能性は非常に高い。何よりも、新カードが発売されるたびに、手札に加えられる対象は増えるのである。今後の活躍も見越して、《護衛募集員/Recruiter of the Guard》を募集しておくことをおすすめする。
いかがだっただろうか?
今週もまた多くのカードがプレイされ、注目され、議論を呼ぶのだろう。
次回の記事も楽しみにしていただけたら幸いである。
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