あなたの隣のプレインズウォーカー ~第50回 あなたの隣のコマンダー2016~

若月 繭子

若月 繭子


 こんにちは、若月です。遂に第50回を迎えることができました。ありがとう! みんなありがとう! でも何ら特別なことはなく今回も通常進行です、記念企画とか何も思いつかなかったので……

 さて寒くなったら新統率者の季節。例年でしたら12月が「統率者回」なのですが、今年は発売日が少し早いので繰り上げています。初の「4色」、その通りに多彩なキャラクターが揃いました。今回は『統率者(2016年版)』の様々なキャラクターを取り上げてお話しします。






1. 4色の理由

 マジックで4色といえば、誰もがまず思い出すのがネフィリムでしょう。旧ラヴニカブロック、『ギルドパクト』に収録されていた4色クリーチャーのサイクルです。


過去耕しのネフィリム光り眼のネフィリム砂丘生みのネフィリム
墨流しのネフィリム魔女の腑のネフィリム


 どれも実に奇妙な外見の怪物。「2色のギルド」がテーマであるラヴニカブロックにおいてこのネフィリムが作られた理由は、『ドラゴンの迷路』当時の公式記事「存在しないということ」にて語られていました。要約しますと「ギルドを気に入らないプレイヤーがいるかもしれなかったため」とのこと。ですがギルドは受け入れられ、反対にネフィリムは4色という目新しさ以外は注目されませんでした。

 ちなみにそんなネフィリムですが、設定的には「ラヴニカの地下に潜んでいた太古の怪物」という感じの存在です。


小説「Guildpact」チャプター5より抜粋・訳

 月を遮ったその姿は曖昧な人型をしていた。コンクリートと石から成る感情のない頭部、細い金属棒から伸びた鋭利な鉄の拳が地面をかすめ、その骨格は時に錆びて繋がり魔法で融合した梁だった。その怪物は鼠の死臭と腐食の刺激臭を放っていた。
(中略)
グルールはそれを「ネフィリム」、古のドラゴンの言葉で「神の如き力」という意味を内包する名で呼んでいた。


 一応、主人公サイドが倒すべき怪物ではあったのですが、エルドラージのように特別な由来や因縁が存在したというわけでもなかったんですよ。

 しかしながら後に「統率者戦」のフォーマットが生まれるに至り、4色の伝説クリーチャーが存在しないために4色デッキが作れないことが発覚(そう、ネフィリムは伝説ではない)、長いことその穴を埋める4色クリーチャーが求められてきました。そして今年、『統率者』シリーズ第5弾(『Commander’s Arsenal』も含めれば第6弾)にて、ついにその4色がクローズアップされることになりました。

 ……とはいえ4色の特徴とは。それらが集合する理由とは。友好3色であるアラーラの「断片世界」は「2色が欠けた世界」、楔3色の『タルキール覇王譚』氏族は「友好2色に対抗1色の特徴を追加」と考えるとわかりやすかったのですが、果たして4色は何を共有し、何が欠けているのか。そのデザインを煮詰めた結論が公式記事「Designing Commander(2016 Edition)」にありました。それぞれを翻訳しましょう。


白-青-黒-赤(WUBR)「術策」

白は文明社会が例示する発展を享受する。青は技術に魅力を感じる。黒は自然と人工を隔てる道徳的区別を持たない。赤は創造と破壊に生きる。だが緑は? 緑はこの全てを憎んでいる!


青-黒-赤-緑(UBRG)「混沌」

青は経験に基づく実験結果を熱望する。黒は敵を混乱させることを喜ぶ。赤はその性質に必須の部分として混沌をその本質段階から内包している。緑は万物をあるがままにさせておく。白、秩序と構造の色はあらゆる手段をもって混沌を押さえつけようとする――だが混沌は押さえつけられなどしない!


黒-赤-緑-白(BRGW)「攻撃性」

黒は敵が成長する前に殺すべきと信じている。赤はただその熱気を求めて戦いを愛する。緑は適者生存こそ自然の摂理と理解しており、白は人々と信念を守るためなら喜んで戦う。だが青は、正しい解決策を求めて足を止め、考えることを好む。


赤-緑-白-青(RGWU)「利他」

赤はその友を愛する。緑は共生の力を理解している。白は何よりも共同社会に重きを置く。青は知識に価値を見出し、自由に共有すべきと信じている。黒は利己を美徳とし、利他は弱点を増やすだけと信じている。


緑-白-青-黒(GWUB)「成長」

緑は極小の種が樫の巨木へと成長する素晴らしさを知っている。白は文明の偉大なる建造者である。青はその理解を拡張したがっている。黒は力を増したがっている。赤、衝動によって動くこの色は、未来を気にすることなく今できることを、今あるものを、今だけを求めるのだ!


 この連載では何度も色やその組み合わせが表現する性質について考察してきましたが、これもなるほどなあと思わされます。とはいえマローも「4色クリーチャーのデザイン空間はやはり不安定なものだった」「最終的に採用されたサイクル以外に満足のいくものはできなかった」と言っていたようにそのデザインは難しかったらしく4色クリーチャーは各1枚ずつ、ですが新メカニズム「共闘」によって2色カード2枚を4色のように(もちろん3色でも)統率者として使用できるようになりました。


魂の守護者、ラーボス血を蒔く者、ターナトリトンの英雄、トラシオス


 これは正直「上手いこと考えたなあ!」と思いましたよ。そしてそのためか『統率者(2016年版)』には友好・対抗合わせて計15枚の2色伝説クリーチャーが収録されています。これまた多いねえ! そういえば第39回で「2色の伝説のクリーチャーの枚数(『統率者(2015年版)』以前)」を表にしていたのでした。今回大幅に増加して、どのくらい変動したのでしょうか?


2色の「伝説のクリーチャー」の枚数(『統率者(2016年版)』現在)
白青
青黒
黒赤
赤緑
緑白
30
28
28
27
27
白黒
青赤
黒緑
赤白
緑青
22
20
24
25
19


 まだ友好色の方が多いですが、それでもかなり差は解消されました。

 というわけでそろそろ個々の話を……という前に一つお詫びがあります。

 第28回「あなたの隣のコマンダー」及び第39回「あなたの隣のコマンダー2015」では新規に登場したプレインズウォーカーと伝説クリーチャーを全員扱いました。ですが今年は計20人という大所帯のため、「フレイバー・物語的に熱い」カードに絞らざるを得ませんでした。どうぞご了承下さい。正直昨年の10人でも大変だったんですよ……。


光り眼のネフィリム


 そういえばネフィリムが1体だけ再録されていました。




2. フレイバーテキストからこんにちは

公式記事「よろしく共闘」より引用

イーサン(※『統率者(2016年版)』リードデザイナーのイーサン・フライシャー/Ethan Fleischer)はマジックのストーリーの大ファンであり、『統率者(2014年版)』を作ったときにはクリエイティブ・チームと協力して、マジックの歴史上カード化されていない登場人物を、可能な限り多く伝説のクリーチャー(や、『統率者(2014年版)』の主なテーマであるプレインズウォーカー)にしたのだ。『統率者(2014年版)』のこの要素は非常にうまくいったので、イーサンは今回もそうしようと考えた。


 背景ストーリーのウェブ展開が始まった2014年以降、『統率者』シリーズも物語と密接に関わってくるようになりました。後にブロックストーリーにてメインキャラクターとして活躍することになる《黒き誓約、オブ・ニクシリス》《石術師、ナヒリ》、過去に訪れた世界の現状を少しだけ把握させてくれた《ネル・トース族のメーレン》《進化の爪、エズーリ》は記憶に新しいかと思います。


石術師、ナヒリ黒き誓約、オブ・ニクシリス屑鉄の学者、ダレッティ


 この3人は後に再登場、2枚目のプレインズウォーカー・カードが作られました。このように昨今では特殊セット系で登場したキャラクターもじわじわとその先の物語に関わってきています。そして今年もまた、過去のフレイバーテキストや各種メディアで展開されていた物語から多彩な面々が伝説のクリーチャーとして登場しました。むしろ完全新規キャラクターの方が少ないくらいです。


■ ルーデヴィック


屍錬金術師、ルーデヴィック


 今回カード化された中で最も知名度が高いのはこの人でしょう。新旧『イニストラード』ブロックには個性的なキャラクターが豊富にいるのですが、その多くが外見すら判明していません。ルーデヴィックもまたカード化が待ち望まれていた、そんな1人でした。過去にフレイバーテキストで喋っていた、もしくはその名前が言及されていたカードは新旧『イニストラード』ブロック合わせてなんと11枚!


骨を灰に接地恐慌盲ルーデヴィックの実験材料狼の試作機その場しのぎのやっかいもの
ナースタードの潰し屋秘蔵の縫合体潮からの蘇生屑肌のドレイク海墓のスカーブ


 個人的に特に面白いのは《ナースタードの潰し屋》《狼の試作機》だと思います。


《ナースタードの潰し屋》フレイバーテキスト
「とうとう死体活性化の原理を無血の物体に応用できたぞ!」
――屍錬金術師、ルーデヴィック

《狼の試作機》フレイバーテキスト
「ルーデヴィックはこれを夢で見て、即座に形にしたのだ。細部まで頭の中にあるようだった。そんな天才に何を教えることができよう?」
――縫い師、ゲラルフ


 何でこの人ゴシックホラー世界で1人だけロボ作ってんの! 生まれてくる次元を間違えたとしか思えない奇才っぷり。ルーデヴィックはこのように各種カードを見るだけでも「天才マッドサイエンティスト」という人物像がわかりますが、もう少々詳しい設定が「The Art of Magic: The Gathering – Innistrad」に掲載されていました。


The Art of Magic: The Gathering - Innistrad


 ルーデヴィックはスカーブを製作する「縫い師」の技と技術的革新を組み合わせ、幽霊エネルギーを動力とした狂気の構築物やゾンビを製作しています。彼が住んでいるのはネファリア州の小村ウルム近郊の館。住人達にとっては迷惑なことに、ルーデヴィックの存在によって有名となった村です。天使の狂気とともに聖戦士らはこの小村に構っていられなくなり、結果ますますルーデヴィックは危険な実験体を製作するようになり、さらには屍錬金術師の同胞らへと協力を呼びかけました。結果、ウルムの村とその周辺は彼らの安全な隠れ処と化してしまったのだそうです。

 ちなみにそのアートブック、公式記事の方で一切触れられていない情報載っていましてかなり重要な資料となっています。例えば《不敬の皇子、オーメンダール》も我はエムラクールしてしまった、とかギデオンはリリアナのゲートウォッチ入りをどう受け止めているのか、とか。そういえばこの連載『イニストラードを覆う影』『異界月』のまとめ話をしていないですよねー、どうしましょう。


ルーデヴィックの名作、クラム


 それとルーデヴィックと一緒にその作品もカード化されました。気になるのはこちらのフレイバーテキスト。


《ルーデヴィックの名作、クラム》フレイバーテキスト
「生きてる……こいつ生きてるぞ!」
――屍錬金術師、ルーデヴィック


 生きてる(ゾンビです)。

 この「It lives……IT LIVES!」という歓喜の叫び(たぶん)はゴシックホラーの古典「フランケンシュタイン」からの有名な台詞、人造人間が動き出した時に博士が連呼した「It’s alive! It’s alive!」がきっと元ネタでしょう。


■ ブルース・タール


粗野な牧人、ブルース・タール


 公式曰く「多元宇宙一立派な口髭で知られる」(参考:Card of the Day 2016年11月3日)ブルース・タール。《乱動を刻む者、ノヤン・ダール》《永代巡礼者、アイリ》もそうですが、「たくさんのフレイバーテキストに出ていた→後にカード化」というのは新旧『ゼンディカー』ブロックに多いですね。

 ブルース・タールは「牛に悪態をつきまくっている」キャラとして知られて?いましたが、調べた所これまでに《隊商のハルダ》《柱平原の雄牛》《柱平原の雄牛》《戦いのハルダ》《地盤の際》《オンドゥの大角》と6枚のカードのフレイバーテキストに登場していました。本人の背景にも《柱平原の雄牛》がしっかりいます。


柱平原の雄牛柱平原の雄牛


《柱平原の雄牛》(『基本セット2013』)フレイバーテキスト
「その石頭の図体の上で腹を空かせた蚤が千代に栄えんことを、この雌牛め!」
――ゴーマ・ファーダの遊牧民、ブルース・タール

《柱平原の雄牛》(『基本セット2014』)フレイバーテキスト
「この老いぼれの鈍くさい阿呆め! そのスッカラカンの頭に知識を突っ込めるものならそうするさ。お前の頑固さのおかげで俺がどれだけ不利益を被ったか、誰かさんが理解できるようになるだろうからな!」
――ゴーマ・ファーダの遊牧民、ブルース・タール

《オンドゥの大角》(『基本セット2014』)フレイバーテキスト
「怒れる野獣よ、お前の角がエルドラージの骨ばった顔を打ち倒しますように!」
――ゴーマ・ファーダの遊牧民、ブルース・タール


 キャラクター紹介によれば、エルドラージとの戦いでも「数々の独創的な罵詈雑言」を放っていたようで、その片鱗は《オンドゥの大角》のフレイバーテキストで伺えます。

 なおゴーマ・ファーダとは? 旧『ゼンディカー』当時の公式記事「A Planeswalker’s Guide to Zendikar: Akoum」に説明がありました。それは《ウギンの目》もあるアクーム大陸にて遊牧のコーや人間やわずかなエルフがゆっくりと、巨大なキャラバンとともに移動する「歩く都市」なのだそうです。規模は人口数千人、頑強で巨大な何百ものカートに家屋や店、果ては畑すらも載せて移動を続けているのだとか。とはいえエルドラージ三神が復活してからどうなったのかは語られていません。


■ キナイオスとティロ


メレティスのキナイオスとティロ


 イケメンだ! 最近では珍しくなくなった「2人組の伝説クリーチャー」。現スタンダードでも《野生生まれのミーナとデーン》《ギサとゲラルフ》がいます。一目見て気付いた人も多かったようですが、彼ら二人は「後の世に知られる姿」が既にカード化されていました。かつてテーロス世界の広範囲を支配していた暴君アグノマコスを打ち倒すべく人々を率いたのがこの二人であり、その栄誉を称えて巨大な彫像が建設された……のですが。


メレティスの守護者


《メレティスの守護者》フレイバーテキスト
歴史では諍い合う2人の統治者がおり、その者たちの死が祝福され、彼らの記念碑が争いの終わりの象徴となったと伝わっている。本当は2人は平和的な恋人同士であったという史実は時の流れの中で喪失してしまった。


 よく見るとまさにこの彫像が背後で建設中なのが細かい。ですが歴史は正しい通りには伝わらなかった。そして3年前の記事に、この二人についての記述こそ無いながらも同じ内容が語られていました。


公式記事「プレインズウォーカーのための『テーロス』案内 その2」より引用

 執政官の暴君、アグノマコス:メレティス人は、今や彼らの都市国家となっているその地域はかつて、アグノマコスと呼ばれる一人の執政官――飛行する大型の野獣に騎乗し、外套を被った大将軍――によって統治されていたことを知っている。アグノマコスは見たところ不死で、何世紀にも渡って鉄の拳による統治を続け、彼が兵士や個人的な護衛として用いたレオニンよりも何世代も長生きしていた。アグノマコスはその統治下、彼の帝国を積極的に拡大し続けた。北は森林、東は山脈にまで限りなく広く、行く先の未開の地全てに無慈悲な秩序を見せつけた。
 伝説によればエファラ神が人間へと魔法を授け、アグノマコスを打ち破り、レオニンを追放し、メレティスを暴政から解放する手助けとしたのだという。アグノマコスに勝利した人間達は彼の帝国の瓦礫からメレティスの開化都市を創設した。今日でもレオニンはメレティスから離れたままで、貿易や対話には無関心である。


 独裁や暴政はだいたい黒のフレイバーということで、それに立ち向かった2人は黒抜き4色の統率者、わかりやすい設定です。さらにテーロス三大都市国家それぞれのメインカラー、メレティス(白青)・アクロス(赤白)・セテッサ(緑or緑白)を足すと白青赤緑、まさにキナイオスとティロの色になります。二人はメレティスの祖ではありますが、それ以上に彼らの活躍によってテーロス人類の真の繁栄が始まったのかもしれませんね。彼ら自身の能力だけでなく、収録されている「確固たる団結」デッキには対戦相手にも恩恵を与える何やら友好的なカードが多く存在します。


老練の探険者寛大なるゼドルー禁忌の果樹園


 それも上で述べた黒抜き4色のフレイバー、「利他」の表現なんでしょう。勝利するのは大変かもしれませんけれど……。




3. タルキールオールスターズ

 繰り返しますが、ウェブサイトで物語展開が始まったのは2014年の『タルキール覇王譚』から。これによって多くの人がストーリーに触れられるようになり、同時に必ずしもカードに登場しているわけではない登場人物の知名度も格段に上がりました。それ以前は「カードに出ていないけれど重要キャラなんだよ」と言われても何それ? という感じでしたもんね。

 思いつくだけでもKuberr(クベール:『レギオン』~『スカージ』。《陰謀団の総帥》《触れられざる者フェイジ》の息子であり陰謀団が信奉する神の化身)とか、Astor(アスター:『プレーンシフト』~『アポカリプス』。ファイレクシアと戦ったケルドの大将軍。《ケルドの後継者、ラーダ》の祖父)とかFonn(フォン:『ラヴニカ:ギルドの都』~『ディセンション』。セレズニアのエルフ、後に《ゴルガリの死者の王、ジャラド》の妻となる)とか。ですが今回カード化された「タルキール組」の4人はそれぞれ記事で存在感を示していたキャラクターとあって、覚えている人も多かったようです。


■ 薬瓶砕き


激情の薬瓶砕き


 登場は「龍たちのタルキール」。龍のいる世界を取り戻す、その願いが叶って喜びとともにマルドゥ(コラガン)氏族のもとへ降り立ったサルカンが最初に出会ったのが彼女でした。とはいえサルカンが知るのは別の歴史での彼女《足首裂き》であり、薬瓶砕きの方がサルカンを知るはずはありませんでした。彼女や《鐘突きのズルゴ》とサルカンが出会う場面は、変わった歴史の中でも顔見知りが存在していた喜びと、その中で自分だけ存在しなかったのかもしれないという焦り、その心の起伏がとても印象的でした。


足首裂き


 そういえば足首裂きの方も(収録デッキは異なりますが)今回入っているんですね。たげんうちゅうの ほうそくが みだれる!


■ シディーキ


簒奪者、イクラ・シディーキ


 登場は「黄金牙の破滅」「カンの落日」。『運命再編』『タルキール龍紀伝』にかけてネタキャラとして愛され、それだけでなく本人のカードも活躍した《黄金牙、タシグル》。その側近であり、かつ彼をシルムガルへと売り渡したのがシディーキです。「カンの落日」にてタシグルが黄金の首輪をはめられる(そして《龍王シルムガル》のアートで実際に首飾りにされている!)場面は様々な意味で衝撃的でしたが、それもシディーキによるものです。


黄金牙、タシグル


 もしかして手前の果物乗せたシブシグは同じ個体だったりする?


■ イーシャイ


オジュタイの龍語り、イーシャイ


 《オジュタイの語り部》から出世だ! というか多くの《オジュタイの語り部》の中でも特別な存在がイーシャイなんでしょう。登場は「大師の学徒」、ナーセットをスカウトしたのが彼女です。翼の手で合掌してアイサツをしているのがいかにもオジュタイ氏族。そして足で杖を持っているのがお洒落……うむ、そのくらいしか書くことがなかった。


■ レイハン


最後のアブザン、レイハン


 まず名前がかっけぇよ! ラストアブザン!! 登場は「カンの落日」。シディーキの項目でも触れた回ですが、これはサルカンの行動によってウギンが生き延びた過去のタルキールにて、かつての氏族が終わりを迎える物語です。衝撃と、一つの歴史が終わる寂寥感に満ちたエピソード。アブザン氏族の大半は当時のカンであった《不屈のダガタール》とともにドロモカへと降伏したのですが、わずかな者達が龍への服従を拒みました。レイハンはそんな者達をまとめ上げて「アブザン最後のカン」となり、五氏族のカンが集まる会談へと赴きました。ですが会談は龍王たちの襲撃を受け、レイハンは《死に微笑むもの、アリーシャ》《龍爪のヤソヴァ》を逃がして命を落としました。




「レイハンのアートは『カンの落日』にて、シルムガルに挑戦を叫んでいる場面です」


最後のアブザン、レイハン/Reyhan, Last of the Abzan
※画像は公式記事「『統率者(2016年版)』の話をしよう」より引用しました。


 つまり彼女はこのまもなく後に死を迎えるわけで……よく見るととても悲愴な表情、そう思いませんか。

 改めて思うに、この項目で挙げた4人は『運命再編』『タルキール龍紀伝』からのキャラクターです。つまりは『タルキール覇王譚』の歴史は本当になくなってしまったんですね……(しみじみ)。初めてウェブで最初から最後までが語られた『タルキール覇王譚』ブロックの物語はとても熱いものでした。それがあったからこそ今のストーリー人気と盛り上がりがあるのだと思います。本当に素晴らしかった。この連載でも第27回29回30回32回34回と時間をかけてじっくり語っていますので、まだ知らない方は是非。




4. エーテリウムは好きですか?

 前回は待望のテゼレット回だったのですが(連載開始当初から「いつか扱うリスト」筆頭でした、本当)、エーテリウムの詳しい話をしたら丁度エーテリウムだらけの2人が登場したじゃないですか!


■ ブレイヤ


エーテリウム造物師、ブレイヤ


 ずいぶんと大胆ボディのお姉さん。これまでエーテリウムについては「製法は知られていない」「その材料を探すべくエスパーから他の断片へ旅に出た者達がいる」という所まででした(前回記事参照)。ですがプロフィール記事によるとブレイヤはジャンドで発見した赤い石「カルモット」からエーテリウムを作り出すことに成功した……とあります。どうも曖昧だったのですが「カルモット」が赤い石の名前ということでいいのかしら。

 この4色はエスパーの白青黒に、ジャンドで得た赤ということですかね。最も「野生」を体現する緑が抜けているあたり、彼女はまだエスパー人に違いないのでしょう。エーテリウムの材料と製法が判明した、もし今後アラーラ次元に「回帰」することになったらこれは重要なファクターになってきそうです。


■ サイラス・レン


求道の達人、サイラス・レン


 そしてテゼレットの同期サイラス・レンが驚きのカード化。びっくりしたよ! 登場はWebコミック「The Seeker’s Fall/求道者の転落」。『ミラディン包囲戦』くらいの頃まで、プレインズウォーカーの物語がWeb掲載のコミックにて展開されていました。カードの姿を見るに、丁度この頃のサイラス・レンなのだと思います。当時はまだ「衝合」前。エーテリウムの製法は判明しておらず、断片に分かれたままのエスパーではその資源は先細るばかりでした。無論それらは極秘事項でしたが、それでも貴重なエーテリウムをふんだんに使用して「エーテリウムの心臓」を与えられたというのはとても特別なことに違いなかったのでしょう。


※画像は公式記事「『統率者(2016年版)』の話をしよう」より引用しました。


 なかなかのドヤ顔である。実際、名門の生まれで実力も備えたサイラスはかなりの自信家です。小説「Test of Metal」でも再登場し、テゼレットと再戦していました(この小説の設定が生きているのかどうかはちょっとまだ定かでないのですが)

 テゼレットが追い求めたエーテリウムの製法を知ったブレイヤ、そしてテゼレットとの因縁を持つサイラス。丁度テゼレットが再登場したばかりのタイミングでそんな2人がカード化というのは、何やら因縁めいたものを感じます……感じませんか?

 ところでこの2人が収録されている白青黒赤デッキ「優越性の仮託」のデッキリストなのですが、マジック古今東西の工匠が顔を並べていまして心底驚きました。スロバッド! ダレッティ! ハナ! シドリ!


ゴブリンの修繕屋スロバッド


 ていうかスロバッド!! まさか「新新枠」の貴方を手にできるなんて。いやまあただの再録と言ってしまえばそれまでなのですが、マジックの物語全歴史でも五本の指に入る大好きなキャラなんです。第17回に書きましたが、あらゆる機械の修繕技術に長けるとても賢いゴブリンであり、熱い心意気と篤い友情で物語では何度もこちらの涙腺を緩ませてきやがりました。ですが旧『ミラディン』から傷跡への幕間であっさりと死亡してしまい……。そんなわけで何てことのない再録でも凄く嬉しいんです。以上、脱線失礼致しました。




5. 新ファイレクシアの現状2016


法務官の声、アトラクサ


 『統率者(2016年版)』プレビュー初日に紹介され、強さと美しさで話題となったのがアトラクサでした。

 キャラクターが「4色である」理由を合理的に説明するのはなかなか難しいと思うのですが、このアトラクサはとてもわかりやすいものでした。ミラディンの天使が捕えられ、《大修道士、エリシュ・ノーン》とその呼びかけに応えた法務官達によって改造された姿、というものです。そして加わらなかった法務官ウラブラスクの色、赤が抜けています。


隠れしウラブラスク


 新ファイレクシアは各色5つの派閥に分かれているのですが、その中でも赤だけは他の色からの孤立を選んでいるのです。その理由は第18回にも書きましたが、恐らく赤という色が体現する自由・感情といった要素が最も「ファイレクシア」という概念とかけ離れているため。金属世界ミラディンにて再興したものの、その世界の「五つの太陽」の影響を受けた新ファイレクシアは祖であるファイレクシアとは異なる姿となり、五つの色を「ファイレクシア的」に解釈して存在しています。天使もそのうちの一つ。


公式記事「プレインズウォーカーのための新たなるファイレクシア案内 その1」より引用

天使達はただの階級でありファイレクシアの機械を整理するための存在でしかないが、多くのミラディン人にとって、ファイレクシアに堕ちた天使を目にするほどに冒涜的なものはない。虚ろで無感情な、ゆるんだ無関心の壊れた人形。



法務官の声、アトラクサ/Atraxa, Praetors' Voice
※画像はWizards欧州公式アカウントより引用しました。


 「ファイレクシアの天使」は過去2体存在しました。《別館の大長》《砕けた天使》。「堕ちた天使」も次元によって姿は様々ですが(いやあブリセラは衝撃でしたね……)アトラクサはなんと禍々しくも美しい……。そしてアトラクサがフレイバーテキストに登場しているカードもまた、新ファイレクシアの勝利を示しています。


ファイレクシア病の支配


《ファイレクシア病の支配》フレイバーテキスト
「お前の刃ですら、誰が勝利するのかわかっている。」
――法務官の声、アトラクサ


 気付いた人は多いと思いますが、これ《肉体と精神の剣》。カード能力からしてそのまま、細菌トークンが青緑剣を装備しているのでしょう。前々回扱った『コンスピラシー:王位争奪』での再録版《ファイレクシアの闘技場》もそうでしたが、時々こうして「現状」の様子を見せてくれる新ファイレクシア。先日『カラデシュ』にテゼレットが登場し、『アモンケット』が発表されたことで2016年11月上旬現在「最も長いこと音沙汰のないプレインズウォーカー」はカーンになりました。今どこで何してるのさー……




6. この先のあれ




 そう、カラデシュ・ブロックの次は『アモンケット』。ニコル・ボーラスに支配された世界、その雰囲気は見たところエジプト風です。「エジプト風次元」は結構待ち望まれていた世界なだけに発表時はボーラスの名も相まって大いに盛り上がっていました。

 そしてついにニコル・ボーラスが登場ということは、私としてはこいつをきっちり読み込んで紹介しなければいけない時がやって来たということでして……




 これは《テツオ・ウメザワ》を主人公とした三部作小説です(当然英語)。「レジェンドの物語でニコル・ボーラスはウメザワに敗北した」というような話を聞いたことのある人もいるかと思いますが、それです。《トー・ウォーキ》《アーイシャ・タナカ》《ケイ・タカハシ》《Ragnar》といった『レジェンド』の伝説たちがてんこ盛り。そして最近、「From the Vault: Lore」の説明書に驚きの記述がありました。《梅澤の十手》の項目です。ああ第47回で触れておいても良かったのかもしれない。抜粋して翻訳します。


「From the Vault: Lore」付録の説明書の記述より私訳・引用

(前略)
 戦乱が始まって二十年後、神河は今田大名の娘魅知子と不徳の浪人、梅澤俊郎との嘘のような協力関係によって救われました。強大な力を持つ神、《夜陰明神》は服従と引き換えに俊郎へと力を与えていたのですが、俊郎はその力で魅知子姫を助け、戦乱を終わらせました。背信への罰として、明神は俊郎の視力を奪った上で彼を他の次元へと流刑にしました――ドミナリアへと。その後俊郎は梅澤一族を興し、彼の子孫はやがて古龍のプレインズウォーカー、ニコル・ボーラスが憎む敵となるのです。



Tetsuo Umezawa梅澤俊郎


 実を言うとこれ特に新情報ではないのですが、最後の部分。梅澤俊郎が流された次元はドミナリア、と明記されたのはもしかしたら初めてかもしれないんですよ。『神河救済』小説のラストは確かにこのような展開なのですが、《梅澤俊郎》が流された先が具体的に何処なのかは明記されていませんでした。


小説「Guardian: Saviors of Kamigawa」P.312より訳

 そして風が変わり、内陸の沼から豊かな土の匂いを柔らかく運んできた。沼居のような腐朽と毒の汚水溜めではなく、心地良い匂いを。水草と分厚い苔、羊歯と清い下草の匂い。沼居では、物が腐り果てるということはなかった。この新たな沼地は腐敗の匂いがするが、その腐敗は死したものを分解して生きるものが必要とする姿へと還すその腐敗だった。この沼は生きていて、生命に満ちていて、この土地全体を生かす大循環の一部を成していた。


 そこはかとなく感じる熱い空気。さらに、テツオが生きた「Madara Empire(マダラ帝国)」はジャムーラにあることからここはドミナリアなのでは、俊郎はドミナリアにて梅澤一族の祖となったのでは、と当時(2005年)から言われていました。11年目の解明! いやまあ、疑う余地とかほとんど無かったけど。

 それとこれはちょっと余談ですが、夜陰明神曰くあらゆる世界に夜と影があり、それを司る存在が信仰されていると。神河の神はスピリット。ジャムーラにもいますね、夜の名を抱く精霊が……

 それではまた次回!

(終)




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