By Hiroshi Okubo
2014年7月10日。レガシー界で初めて“神”の称号を得た者がいた。
決勝ラウンドで高野 成樹、日下部 恭平、斉藤 伸夫というあまりにも濃い面子を相手に、相棒である《精神を刻む者、ジェイス》(日本語Foil)とともに大熱戦を繰り広げて神の栄冠を掴み取った者。
他の神が代替わりを続ける中、彼だけはその座を守り続けた。
旧友・高鳥 航平と争った初のタイトル防衛戦、第2期。
入江 隼の青ガンメタデッキに苦戦を強いられた第3期。
関東最強プレイヤーの一角・斉藤 伸夫と再戦を果たした第4期。
初めて使うリアニメイトで土屋 洋紀の虚を突いた第5期。
レベルプロを目指す実力派・加茂 里樹と戦った第6期。
ドレッジマスター・平木 孝佳とまさかのDelver対決を演じた第7期。
その期間、実に1,010日。唯一無二の不敗神として頂点に座す伝説的なその人物の名は。
川北 史朗。
もはや彼のことを知らぬ者はそう多くはあるまい。神シリーズ開始以来、6度挑戦者を退けてきた最古の神。”神決定戦といえば川北 史朗”。いつしか神決定戦を観戦する者たちの間では、そんな言葉が囁かれるようになっていた。本人もまんざらでもないようで、自信に満ちた笑顔を
そんな川北だが、今回の神決定戦に限ってはインタビューで自信なさげにこう語った。
実はこのたび 入籍 しました。
(中略)
最近は結婚の準備などで慌ただしくしていたこともあり、ほとんどマジックをプレイしていなかったんですよ。これまでで一番自信がないというのが正直なところですね。
世に言う”人生の転機”――すなわち「結婚」によってもたらされるライフスタイルの変化は神とて例外はなかったようで、かつては生活の一部であったレガシーをプレイする時間は今では限りなくゼロに近づいてしまっているのだという。レガシーをプレイしないレガシー神は果たして何者なのか? それはすなわち神ではなく、人だ。自嘲気味にそう語った川北にとっても『結婚が望ましいことである』という見解に相違はなかったものの、殊にこの場、レガシー神決定戦においてはその自信を喪失させるに足る大きな変化であったことは認めざるを得なかったようだ。
そして何より、川北が最も気にかけていたこと――それは今回の挑戦者が、彼だったことだ。
川居 裕介。
Eternal Festival 2015などでトップ8に入賞した経験を持ち、第8期レガシー神挑戦者決定戦に続いてレガシーマニアでも優勝を収めた実力者で、斉藤 伸夫や高野 成樹、小林 龍海といった強豪プレイヤーとも親交が厚い関東レガシー界の雄である。
オーストラリアでJustin Cheungをはじめとする強豪プレイヤーとともにその腕を磨き、日本に帰ってきてからはAMC(※関東の草の根レガシートーナメント)などでレガシーの研鑽を積んできた川居にとって、川北は「レガシー仲間の中では最も古い知り合いの1人」だという。川北のプレイスタイルについても知り尽くしており、「過去にデッキ選択で勝てたことはない」と語っていたが、それも川居にとっては些末な問題でしかない。
なぜなら川居の強みは、川北に
Delver系デッキを得意としていた第5期挑戦者の土屋や、ドレッジを極めていた第7期挑戦者の平木などの共通点。それはすなわち、彼らの得意とするデッキは対策が比較的容易であるという一点に尽きる。普段のトーナメントであれば奇襲のごとく機能するそれらのデッキ選択は、この神決定戦という特殊な決戦の舞台ではむしろ愚直と言えるもので、川北ほど思慮深いプレイヤーであれば当然それらのデッキを警戒したうえで裏を掻いてくる。
土屋 洋紀(右)と平木 孝佳(右)
しかし、川居の得意とするデッキはインタビューでも語られていたとおり“弱点らしい弱点がほとんどない”ことが最大の強みである「白青奇跡」をはじめとしたコントロールデッキ全般なのだ。これまでの神決定戦で川北が力を発揮してきた最大の武器である絡め手は通用しにくい。
すなわち川居はこの対戦において、自分の力を100%発揮できるデッキ選択を行うことが肯定される。そしてそんな正面衝突は川北が最も恐れていることでもあった。不慣れなデッキで出たとこ勝負を挑むより、“単純に強いデッキで挑む”という選択のイニシアチブは言うまでもない。
狩る者と狩られる者。そんな構図を思わせるマッチアップ。この試合が神・川北の最後の戦いとなってしまうのか? 互いに固く握手を交わし、第8期神決定戦の火蓋が切って落とされた。
川北 史朗 vs. 川居 裕介
Game 1
川北「この瞬間を待ちわびてたw 神決定戦の醍醐味だよね」
そう笑顔で語りながら、先攻の川北がセットランドを行う。これまでの互いの読み合い、その答え合わせが行われる瞬間だ。川居は神がセットしたその土地を見て顔をしかめ、もう一度土地を――見間違えではないかを確認したうえで、「なるほど」と一言漏らす。川北の選択したデッキは――
意外ッ!それはエルドラージッ!
意外、というよりももはや破れかぶれにも見えるデッキ選択だが、川居にとっては想定し得る最悪のケースだった。返す川居が第1ターンにプレイしたのは《島》からの《師範の占い独楽》。白青奇跡 対 エルドラージ。読み合いの時点では川北が一歩リードと言えるだろう。
やはり得意の白青奇跡で来たか、と川北は口角を上げ、続くターンに《厳かなモノリス》でマナを伸ばし、続くターンに《魂の洞窟》を経由しつつ《難題の予見者》をプレイする。
川北の強襲に対し、《渦まく知識》で手札を整えながら《剣を鍬に》で対応する川居。明かされたその手札から《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》が追放されてしまうものの、返す川居も川北のドローステップに《ヴェンディリオン三人衆》をプレイして対抗する。明かされた川北の手札は……
あまりにも強い。川居も頭を悩ませながら《忘却蒔き》を抜くことを選択する。川北のマナは見かけ上は8マナなので、《ヴェンディリオン三人衆》によってもたらされるアディショナルドローが2マナランドでなければ一先ず《絶え間ない飢餓、ウラモグ》の脅威からは逃れられるが……
川北が戦場に追加したのは《古えの墳墓》。これによって10マナを得た川北は《絶え間ない飢餓、ウラモグ》を叩きつける!!
ここまでわずか4ターンしか経過しておらず、登場したのはあまりにも強大なフィニッシャー。これに対応する術を持たなかった川居は頭を抱えながら大きく息を吐きつつ、誘発型能力の解決を促し《島》と《平地》を追放領域へと送る。
川居はやむなしと《ヴェンディリオン三人衆》でクロックを刻むが、返す川北の《絶え間ない飢餓、ウラモグ》のアタックでライブラリーが20枚吹き飛び、全てではないにしろデッキの内約が川北にも知られてしまう。
川居はなんとか引き込んだ《カラカス》で目下最大の脅威である《絶え間ない飢餓、ウラモグ》を対処するが、十分にマナが伸びた神にとっては些末なことだった。
産めよ。増やせよ。地に満ちよ。
次々に呼び出される脅威!
川北は《難題の予見者》で川居の手札から《渦まく知識》を抜いて反撃の手立てを奪い、《忘却蒔き》でライブラリートップに積まれていた《終末》を追放する猛連打を浴びせると、川居が多元宇宙の捕食者たちに飲み込まれるのは時間の問題だった。
川北 1-0 川居
あまりにも衝撃的だった第1ゲーム。
神が、己が半身である《渦まく知識》を捨てた。
川北はこれまでのように半身に構えて打つような温いデッキ選択では川居には到底及ばないと自覚していた。だからこそ、白青奇跡に照準を絞り、非青デッキの中では最強クラスのデッキであり、”白青奇跡キラー”であるエルドラージを選択したのだ。
4 《魂の洞窟》 4 《古えの墳墓》 4 《エルドラージの寺院》 4 《裏切り者の都》 3 《不毛の大地》 4 《ウギンの目》 2 《ヨーグモスの墳墓、アーボーグ》 -土地 (25)- 4 《果てしなきもの》 4 《エルドラージのミミック》 4 《難題の予見者》 4 《現実を砕くもの》 4 《忘却蒔き》 1 《終末を招くもの》 1 《絶え間ない飢餓、ウラモグ》 1 《約束された終末、エムラクール》 -クリーチャー (23)- |
3 《歪める嘆き》 1 《全ては塵》 4 《虚空の杯》 3 《厳かなモノリス》 1 《梅澤の十手》 -呪文 (12)- |
4 《アメジストのとげ》 2 《四肢切断》 2 《漸増爆弾》 1 《終末を招くもの》 1 《絶え間ない飢餓、ウラモグ》 1 《全ては塵》 1 《梅澤の十手》 1 《冬の宝珠》 1 《無のロッド》 1 《精霊龍、ウギン》 -サイドボード (15)- |
メインボード60枚のうちこのマッチアップで浮くカードは《梅澤の十手》1枚のみ。ただひたすらに川居の白青奇跡を打ち倒すためだけに組まれた、川北の神決定戦最終兵器が火を噴いた。
幕間、2人がわずかに言葉を交わす。
川北「これは予想してなかったでしょ?」
川居「ありえるとは思ってたけど、まさか本当にエルドラージでくるとはね」
川居にとっても自分が白青奇跡を使うことを川北に読まれていることは想定の範囲内だった。ゆえに読み合いでは、白青奇跡をメタった形のBUGを想定して《相殺》を抜いた形の白青奇跡を構築していた。
4 《島》 2 《平地》 3 《Tundra》 2 《Volcanic Island》 4 《溢れかえる岸辺》 4 《汚染された三角州》 1 《魂の洞窟》 1 《カラカス》 -土地 (21)- 3 《瞬唱の魔道士》 2 《ヴェンディリオン三人衆》 -クリーチャー (5)- |
4 《渦まく知識》 4 《思案》 2 《剣を鍬に》 2 《紅蓮破》 3 《予報》 2 《対抗呪文》 2 《議会の採決》 2 《天使への願い》 3 《意志の力》 3 《終末》 4 《師範の占い独楽》 2 《精神を刻む者、ジェイス》 1 《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》 -呪文 (34)- |
3 《狼狽の嵐》 2 《僧院の導師》 2 《造物の学者、ヴェンセール》 1 《封じ込める僧侶》 1 《ヴェンディリオン三人衆》 1 《外科的摘出》 1 《紅蓮破》 1 《摩耗+損耗》 1 《予期せぬ不在》 1 《灰からの再興》 1 《血染めの月》 -サイドボード (15)- |
デッキ選択の時点で分が悪い川居にとっては厳しいマッチアップ。だが、明確に腐るであろう《相殺》抜きの構築になっているのは勿怪の幸いといったところか。
波乱に満ちた第1ゲームを終え、両者がシャッフルを終える。現時点では川北がペースを握っているが、川北もエルドラージデッキは不慣れなはずであり、付け入る隙はあるはずだ。果たして川居は巻き返しを図れるだろうか?
Game 2
《思案》で手札を整え、《予報》で積み込んだカードを公開してアドバンテージを得る川居。川北の繰り出す脅威に備えるべく、じわじわとアドバンテージ差をつけていく。
対する川北は第1ターンに《エルドラージのミミック》、第2ターンに「X=4」の《果てしなきもの》と続けるエルドラージの伝統芸を披露し、素早くそのライフを奪い取りに行く。
だが、川居は《師範の占い独楽》を設置しながらライブラリートップに《天使への願い》を積み込み、川北のエルドラージ群の攻撃に対して「X=2」でプレイ。4/4飛行のブロッカーが川北のエルドラージ群の行く手を阻み、アドバンテージを得ながら盤面を構築していく。
だが、川北の暴力的なまでの攻撃は緩まない。《厳かなモノリス》によってマナ加速を行いつつ、第2メインフェイズに《忘却蒔き》!
川北のデッキに搭載されているエルドラージ・クリーチャーはすべてサイズが大きく、ライフを守るためにも必ず盤面から取り除かなければならない。川居にとってはただ1ターンに1枚クリーチャーを展開されるだけでも厳しい状況だが……苦しげに《師範の占い独楽》を手繰りながら、蜘蛛の糸を探りにいく。
そして、天は川居を見捨てなかった。4マナをタップし、プレイしたのは《精神を刻む者、ジェイス》! これによって《忘却蒔き》をバウンスし、続くターンには「0」能力でアドバンテージを得ながら川北の猛攻を凌ぎ、アドバンテージでゴリ押すゲーム展開となる。
川居がコントロールする神ジェイスこと《精神を刻む者、ジェイス》。その強さは、ジェイスと対面している川北自身が嫌というほど理解している。味方につければこれ以上ないほど頼もしいが、敵に回すとこんなにも恐ろしいとは……
川北が唇を噛みしめる間に、川居は盤石な体勢を築きに行く。《議会の採決》で川北の《忘却蒔き》を追放し、天使トークンでクロックを刻みながら川北が《ウギンの目》でサーチした《絶え間ない飢餓、ウラモグ》を《ヴェンディリオン三人衆》でボトムに送り、川北がプレイした《エルドラージのミミック》と《難題の予見者》は《終末》で押し流す。
さらに返す川居が自身のターンのドローで《天使への願い》を「X=4」で叩きつけると、川居が残りライフ3からの粘り勝ちを見せた。
川北 1-1 川居
第2ゲームは息が詰まるような劣勢の状況から、川居が《精神を刻む者、ジェイス》の圧倒的なカードパワーでゴリ押して白星を取り戻した。川北も思わず「そのカード(ジェイス)強すぎww」と苦笑を浮かべながら、自身のプレイを反芻する。不慣れなエルドラージデッキを使用していることもあってか第1ゲームから《魂の洞窟》の「指定忘れ」などルール面でのプレイミスが目立っており、第2ゲームを落としてしまったことで気を引き締め直したようだ。
さて、神決定戦では第3ゲームからサイドボードの使用が解禁される。両者待ちに待ったという様子でサイドボードに手をかけ、淀みなくカードを入れ替えていく。2人はどのようなサイドボーディングを行ったのだろうか?
神・川北のサイドボード
■ IN- 2 《漸増爆弾》
- 1 《絶え間ない飢餓、ウラモグ》
- 1 《アメジストのとげ》
- 1 《全ては塵》
- 1 《終末を招くもの》
- 1 《冬の宝珠》
- 1 《無のロッド》
- 1 《精霊龍、ウギン》
- 4 《エルドラージのミミック》
- 4 《果てしなきもの》
- 1 《梅澤の十手》
挑戦者・川居のサイドボード
■ IN ■ OUT- 2 《ヴェンディリオン三人衆》
- 2 《対抗呪文》
- 2 《紅蓮破》
- 1 《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》
- 1 《予報》
川北は《僧院の導師》対策として《漸増爆弾》を追加しつつ、フェアデッキに強い重いカードを多数積んで川居に楽をさせないデッキにシフト。逆に《終末》や《剣を鍬に》の格好の的になり、サイズこそ大きいものの実質的にバニラクリーチャーである《エルドラージのミミック》や《果てしなきもの》をサイドアウトしている。
対する川居は本当ならば《基本に帰れ》や《Moat》が欲しかったところだが、今回の川北のデッキ選択はまったく想定外だったようで、サイドボードの枠が微妙に足りていない。《魂の洞窟》によって無意味になってしまう《対抗呪文》や、まったく役割のない《紅蓮破》などを抜き、BUGコントロール意識で採用されていた《血染めの月》や《灰からの再興》といったマナ基盤を攻めるカードとクリーチャー/パーマネント除去を増やして抗戦の構えを見せる。
彼らのサイドボーディングは吉と出るか凶と出るか? 入念なシャッフルを行い、第3ゲームへと臨む。
Game 3
《エルドラージの寺院》を設置して速やかにターンを終える川北に対し、川居は第1ターンから悩みつつ《島》を設置。返す川北がプレイした《アメジストのとげ》には対応して《渦まく知識》を唱え、引き当てた《意志の力》で応じる。
初動を挫かれ、スピードダウンを余儀なくされた川北に対し、川居が第3ターンにプレイしたのは《血染めの月》!!
川北も面喰らい、思わず「ヤバい、《血染めの月》入ってんだ……」と呻く。これによって川北の2マナランドが全て機能不全を起こしてしまったことはもちろん、無色マナを出せなくなってしまった川北は手札にあった《難題の予見者》をプレイすることもできなくなってしまい、ターンが飛んでしまう。
返す川居がプレイしたのは《灰からの再興》! 《血染めの月》影響下でも基本でない土地は基本土地ではない(※CR305.7、613.1dを参照)ため、川北の土地だけが無惨に吹き飛ぶ。
これが解決されると、戦場は方や神・川北は土地0枚、方や挑戦者・川居は《血染めの月》を設置しながら自身は基本土地を複数枚コントロールし、潤沢な色マナからやりたい放題にカードをプレイするという目を覆いたくなるほどの惨状に。
川北からはもはや煙も出ず、速やかに勝敗が決した。
川北 1-2 川居
ロングゲームだった第1ゲーム、第2ゲームと対称的に川居のサイドカードが見事に突き刺さり、事実上ほとんど4ターンでゲームが終わってしまった第3ゲーム。これで川居は神の座へと王手をかけた。
だが、神・川北はインタビューでも語っていた通り、「5ゲーム目までプレイする中で段々プレイが冴えてくる」というスロースターターだ。ここからエルドラージデッキの真価を発揮していく可能性は大いにあり、油断大敵である。
川居はここで気を緩めず、しっかりと勝ち切ることができるのか? 両者サイドボーディングを終え、素早く第4ゲームが開始された。
挑戦者・川居のサイドボード
第3ゲームから変更なし
Game 4
神・川北が第2ターンに《虚空の杯》を「X=1」でプレイし、第3ターンに早くも《ヨーグモスの墳墓、アーボーグ》、《エルドラージの寺院》、《ウギンの目》から《終末を招くもの》をプレイする動き出し。
早くもゲームセットかと思われたが、川居も負けてはいない。川北の《予期せぬ不在》で《終末を招くもの》を川北のライブラリートップへと送り、《予報》で完全に除去する華麗なプレイを見せる。
これには呻き声をあげる川北だったが、負けじと《難題の予見者》で川居の手札を覗き見る。そこにあったのは《精神を刻む者、ジェイス》、《瞬唱の魔道士》、《灰からの再興》、《議会の採決》と土地2枚というもの。
川北「なんでそんなに強いのww」
あまりにも強すぎる6枚に川北は再び呻き声を上げることとなった。逡巡しながらも直接的に負け筋に繋がる《灰からの再興》を追放。さらに《厳かなモノリス》を追加し、川居にコントロール体制を築き上げられる前に斬る準備を整える。
川居「難しい状況にしてくれるねぇ」
川北のマナの数を数え上げ、次のターンには《ウギンの目》を起動できることを確認すると《精神を刻む者、ジェイス》で《難題の予見者》をバウンスする。開始から4ターンしか経っていないが、もはや戦況は予断を許さない。
――少なくとも川居の目には、このゲームのこの状況はそう写ったはずだ。「予断を許さない。しかし、やりようによっては何とかなるかもしれない」と。だが、神・川北にとってはすでにこのゲームの“詰み”が見えていた。
返すターンには全ての土地をタップし、その手札に控えていた最強の捕食者を呼び出す。
ついに、これこそ私の骨の骨。私の肉の肉。
スタンダードで禁止されたこのカードが、久々に陽の当たる舞台に登場した。その能力が誘発し、川居のターンが奪われると、今度は川居が渋い表情を浮かべる番となった。
まずはと《精神を刻む者、ジェイス》で川居のライブラリートップを検閲。そこに潜んでいた《終末》をライブラリーボトムに送って《汚染された三角州》を起動。
だが、神・川北が痛恨のミス。川居の手札にあった《議会の採決》をプレイして川居の《精神を刻む者、ジェイス》に「投票」を行おうとしたところでジャッジと川居から待ったが掛かる。
そこに書かれているテキストは「あなたのコントロールしていない土地でないパーマネント」。すなわち、川北が川居のパーマネントに票を入れて追放するといったプレイはできない。もしそれができたら誰だって《議会の採決》で対戦相手のパーマネントに票を入れるので当然といえば当然であるが、《精神隷属器》下での挙動については川北も認識していなかったようだ(ターンを奪っていても呪文のコントローラーは川居)。
やむなしに川北が自身の《厳かなモノリス》に票を投じ、《渦まく知識》を空撃ち(《虚空の杯》によって打ち消される)たことが、川居にとっては思わぬ僥倖となった。続く追加ターンに川居は手札に残っていた《瞬唱の魔道士》で《議会の採決》を「フラッシュバック」し、《約束された終末、エムラクール》を追放する。
このターンのプレイの正着は非常に難しいところだが、《議会の採決》で自身の《虚空の杯》を追放し、《渦まく知識》をプレイして川居の手札の有効牌をライブラリートップに積み込んだ後《汚染された三角州》を起動してライブラリーをリフレッシュし、《精神を刻む者、ジェイス》で川居のライブラリートップを検閲するのが最も堅実なプレイだったかもしれない(無論裏目はいくつか存在するが)。
しかし、返す川北も気を取り直して《全ては塵》で川居の盤面を更地にし、続くターンに《難題の予見者》で川居の手札から《瞬唱の魔道士》を抜く。こうなると《難題の予見者》の4点クロックを阻むものはなくなり、川居のライフが一瞬で5点まで削られてしまう。
川居もようやくトップデッキした《終末》で一旦盤面をリセットするが、川北が《ウギンの目》を起動し《現実を砕くもの》を手札に加え、《難題の予見者》と《現実を砕くもの》を並べ立てたところで川北が第4ゲームの勝利をもぎ取った。
川北 2-2 川居
川北「いや、もうダメだなー普段使わないデッキは!ルール全然わからないww」
川居「それでも第5ゲームまで来るのはさすがっすw やっぱりエンターテイナーだなぁ」
川北「まぁねw うん、うん、これまで楽しかった。ありがとう」
最後の第5ゲームを前にして、川北が何かに納得したように右手を差し出す。川居もこの右手を取って、固く握手を交わす。
旧友同士が久方ぶりに戦った舞台は、彼らが出会った当初は夢にも思わなかったであろう神決定戦というタイトルマッチ。
関東の草の根トーナメント会場から、静謐なスタジオへ。10,000人を上回る聴衆が固唾を呑んで見守る中、第8期レガシー神の称号を懸けた戦いへ。互いを打ち倒すためだけに組み上げられた75枚で、目の前の神を、挑戦者を、打ち破らんとして戦うこのテーブルへ。
泣いても笑っても最後の1ゲーム。
今はただ、最善を尽くすしかないのだ。川北も川居も、目の前にいる戦友を出し抜き、打ち倒さねばならない。それを分かっているからこそ、強く固く握手を交わす。
互いにこの試合に懸ける想いを再確認したところで、第5ゲームが静かに幕を開ける。
このゲームに勝った方が、第8期レガシー神だ。
Game 5
川居が《師範の占い独楽》をプレイし、続くターンのアップキープにライブラリートップを改める。土地を探している? 川北が怪訝にそのプレイを見つめる。
土地が1枚しかない状態でキープしたのであれば、そのキープの基準になったのは《師範の占い独楽》1枚のみではあるまい。恐らく第3ゲームのごとく、強烈なサイドカードが控えていると考えるのが妥当だろう。おそらく、《血染めの月》か《灰からの再興》……。
1~2ターン後には突き付けられるであろう死刑宣告を少しでも遅らせるべく、川北も《アメジストのとげ》でゲームを遅らせようと試みる。だが、これには川居も《師範の占い独楽》のライブラリー操作とドローを合わせて全力で対抗し、辿り着いた《意志の力》でカウンター。続く川居の第3ターンには川北が懸念していた最も最悪のパターン、《血染めの月》が設置されてしまう!
川北「あっ、これ負けたっぽい」
そう漏らしながらカードを引く川北だったが、その手に吸い付いたカードを見て表情が変わる。2枚の土地をタップし、プレイしたのは《虚空の杯》「X=1」!
先のターンに川北の《アメジストのとげ》を打ち消すべく《師範の占い独楽》をライブラリートップに戻していた川居は、これによって《師範の占い独楽》の再設置を封じられてしまう。《血染めの月》+ドロー操作によってアドバンテージを得ていく戦略はこれによって崩壊してしまい、互いに土地を並べ合う展開となってしまった。
そしてそうした展開になれば、デッキの中に含まれる土地カードの枚数で勝る川北の方が安定してセットランドを行うことができることは自明だった。自分の《血染めの月》にハマってしまった形の川居が4マナ(《島》1枚と《山》3枚)で止まってしまっているのを尻目に、川北は5マナ、6マナと順調に土地を並べて《忘却蒔き》へとたどり着く!
突き付けられる5点クロック。川居はドローゴーを続け、2度、3度とディスカードを行う。《瞬唱の魔道士》でブロックを挟みつつ猶予ターンを稼ぐが、それでも白マナの出る土地には辿り着けずにいた。
やがて最後のターンを迎えた川居がドローしたカードを確認し、呆然と天を仰ぐ。
血染めの月が照らす世界で――
神は、御業を完成なされた。
川北 3-2 川居
川北の勝鬨がこだまする。勝利の喜びを全身で表しながら、両手を固く握りしめて天に向けて突き上げる。
この光景は果たして何度目だろうか。興奮冷めやらずといった調子で部屋をウロウロと歩き回り、しきりにガッツポーズを取ってトロフィーに手を掛ける神。レガシー神決定戦史上最大の危機を迎えていた川北は、今回も見事に防衛を果たした。
川北「俺強すぎーww」
川居「いや本当……あそこで《虚空の杯》引くかね……」
対称的に川居は茫然自失といった調子だった。テーブルに並ぶカードを見つめ、何度もプレイを反芻する。
川居「今回、勝ったと思った瞬間が3回あった。やっぱ少年マンガみたいに、『やったか!?』って思うのは負けフラグなんだよな……」
そう呟きながら、うろつく川北に向かって右手を差し出して握手を交わす。勝負が終われば2人は旧来の友人然として、感想戦を開始する。互いのデッキ選択の理由や試合中に行ったサイドボーディング、キープやマリガンについて意見を交換して、互いを高め合う。この勝利への飽くなき執念こそが、2人をこの舞台へと導いたのだろう。
ひと段落ついた頃、ニコニコ生放送の放送席へ呼ばれた神の去り際に川居が声をかける。
川居「絶対また来るから、もうそれまで防衛しといてw」
川北「うん、こうなったら行けるとこまで行くよ。10期連続神目指したいねw」
川北は本当に行けるところまで行ってしまうかもしれない。10期連続神も夢ではないのかもしれない。試合前に自信なさげにしていた川北はどこかへ吹き飛んでしまったようだった。
未だ試合の熱が冷めやらぬ部屋を背に放送席へ向かう川北の――不敗神話の体現者の背には、神としての矜持が取り戻されていた。神の物語はまだまだ続く。
第8期レガシー神決定戦、川北 史朗が見事7回連続防衛を達成!
おめでとう!!
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