のぶおの部屋 -第14回 土地単(前編)-

斉藤 伸夫


 Magic: the Gatharingは呪文をプレイするためにコストが必要なゲームです。

 そのコストを支払うために『土地』を適正な枚数デッキに入れなければなりませんが、そのために、私たちは土地事故と常に向き合う宿命を負っていると言えます。

「さっきのゲーム『土地』しか引かなくてさ。これで勝てるわけないよ」

 そんな一言をよく耳にしますよね。

 ですが、約16,000種類のカードプールを持つレガシーには、その『土地』だけで盤面をコントロールし、あまつさえ対戦相手を一撃で葬ってしまうデッキが存在するのです。



■ ゲストの紹介

斉藤「今回はそんな一風変わった土地単というデッキを使い、【日本レガシー選手権2016 Summer】にて見事優勝した堀 雅貴さん(大阪)にインタビューをしていきたいと思います。



堀 雅貴


 約2年前にのぶおの部屋の連載をしていたころ、関西で有名な土地単使いがいるということを伺っていたので、かねてから堀さんにはお話を伺いたいと思っていました。月日は空いてしまいましたが、このたび【日本レガシー選手権2016 Summer】で優勝を収められたので、ぜひインタビューをしたいと連絡をしたところ気兼ねなく承諾をいただくことができました。

 堀さんは普段【KMC】という関西の草の根大会でプレイし、【日本レガシー選手権2015・春】4位、【エターナルパーティ2015】8位、そして今回の【日本レガシー選手権2016 Summer】で優勝と数々の実績を持つ強豪プレイヤーです。

 今日は、マジックならではの概念である「土地」でゲームを進行するデッキについて深くインタビューさせていただきます。よろしくお願いします」

「よろしくお願いします!《演劇の舞台》コンボが実装される以前から使用していて、使い始めて5年も経ちました。今まで貯めた知識や考え方を伝えれたら光栄です」



■ 土地単とは?

斉藤「こちらが一般的な土地単のレシピになります」



Jarvis Yu「土地単」
グランプリ・シアトル-タコマ2015(優勝)

1 《森》
2 《Taiga》
1 《吹きさらしの荒野》
2 《新緑の地下墓地》
1 《樹木茂る山麓》
4 《燃え柳の木立ち》
2 《平穏な茂み》
4 《演劇の舞台》
4 《リシャーダの港》
4 《不毛の大地》
1 《裂け岩の扉》
4 《暗黒の深部》
3 《イス卿の迷路》
1 《Glacial Chasm》
1 《The Tabernacle at Pendrell Vale》

-土地 (35)-


-クリーチャー (0)-
4 《ギャンブル》
4 《輪作》
4 《罰する火》
4 《壌土からの生命》
4 《踏査》
1 《マナ結合》
4 《モックス・ダイアモンド》

-呪文 (25)-
4 《クローサの掌握》
4 《抵抗の宝球》
2 《窒息》
2 《虚空の杯》
1 《カラカス》
1 《ボジューカの沼》
1 《溶鉄の渦》

-サイドボード (15)-
hareruya



斉藤「とても土地の多いデッキですね。基本的な質問からさせてください。まず、土地単とはどのようなデッキなのでしょうか?」

「名前のとおりデッキの半数以上を土地が占めるデッキで、海外では『Lands』と呼ばれるアーキタイプです。勝ち筋としては……




 が主です。これらをデッキの軸である《壌土からの生命》の『発掘』により探しつつ回収を繰り返す、コンボ要素とコントロール要素を併せ持ったデッキです」


壌土からの生命


斉藤《壌土からの生命》はドローを置換することにより繰りかえし再利用できるため、《不毛の大地》で特殊地形の多いデッキの盤面を壊滅させていることはよく見かけますね」

「そうなんです。特殊地形の多いデルバーやBUG続唱をはじめ、ほぼ全てのフェアデッキに有利が付く反面、ハンデスもカウンターもないためコンボデッキには苦戦を強いられます」

斉藤「ハンデスもカウンターもないコントロールはなかなかレガシーの中でも珍しいですよね。また、最近は黒を足してメインに《突然の衰微》を入れることによって《相殺》《虚空の杯》で負けることを減らした構築も見かけますね。なにか他に派生はあるのでしょうか?」

「派生としては、黒を足して《納墓》《ヴェールのリリアナ》を用いたジャンドデプス、青をタッチして《アカデミーの廃墟》《仕組まれた爆薬》を採ったエターナルガーデンがあります」







■ なぜ土地単?


斉藤「土地単にマリッドレイジコンボが搭載される前から使用されていたそうですが、土地単を使おうと思ったきっかけを教えてください」

「単純に人と違うものが好きだからです。『土地が40枚で《忍び寄るタール坑》で7回殴るデッキがあるの?おもしろい!』というのがきっかけですね。今となってはすっかりメジャーなデッキになってしまい、少し寂しい感じがあります(笑)」

斉藤「たしかに昔はミシュラランドで攻撃を何度も繰り返して勝つデッキでしたもんね。今のレガシーの環境やプレイの面において使用している理由はあるのですか?」

「プレイの面では何といっても対フェアデッキへの圧倒的な勝率ですね。前述の3つの勝ち筋全てを受けられるデッキはほとんどなく、サイド後も墓地対策をしてからようやくゲームスタート、といった次第です。同時に《マリット・レイジ》の対処も必要なので、無視して押し切ることも多いですよ。《壌土からの生命》のおかげでマリガンに強いというのも欠かせないポイントですね」


壌土からの生命ギャンブル輪作


斉藤「そうですね。ことフェアデッキとの対戦においては土地単は破格のカードパワーを与えられていると思います。手札を一気に3枚補充する《壌土からの生命》《Ancestral Recall》。デッキの中の必要なカードを手札にサーチできる《ギャンブル》《吸血の教示者》。盤面のカードをデッキ内の好きなカードに変えてしまう《輪作》《修繕》だと例える人もいますね」






■ 一般的なレシピとの違いは?

斉藤「では、堀さんのレシピを教えてください」

「こちらが【日本レガシー選手権2016 Summer】で優勝して今でも使用しているレシピになります」



堀 雅貴「土地単」
日本レガシー選手権2016 Summer(優勝)

1 《森》
2 《Taiga》
1 《霧深い雨林》
1 《新緑の地下墓地》
1 《樹木茂る山麓》
4 《燃え柳の木立ち》
1 《平穏な茂み》
1 《ボジューカの沼》
4 《リシャーダの港》
4 《不毛の大地》
4 《演劇の舞台》
1 《幽霊街》
1 《すべてを護るもの、母聖樹》
3 《暗黒の深部》
3 《イス卿の迷路》
1 《Glacial Chasm》
1 《The Tabernacle at Pendrell Vale》
-土地 (34)-


-クリーチャー (0)-
4 《輪作》
4 《ギャンブル》
4 《罰する火》
4 《壌土からの生命》
4 《踏査》
1 《マナ結合》
1 《森の知恵》
4 《モックス・ダイアモンド》

-呪文 (26)-
4 《抵抗の宝球》
3 《クローサの掌握》
2 《虚空の杯》
2 《真髄の針》
1 《溶鉄の渦》
1 《窒息》
1 《世界を目覚めさせる者、ニッサ》
1 《カラカス》

-サイドボード (15)-
hareruya



斉藤「一般的なリストと比較してどのような変更を施したのか教えてください」


幽霊街


「まず一番の違いは《幽霊街》でしょうね。海外では不採用のレシピが大半ですが、個人的には必須カードだと思っています。自分の土地を割って緑マナを確保する他、デルバーやエルドラージには5枚目の《不毛の大地》として、奇跡コントロールやミラーマッチ、ANTには基本地形を枯らすなど、勝利に貢献する場面が非常に多いカードです」

斉藤「レガシーでは基本地形を備えているデッキですら2枚程度しか基本地形を採用していない、といったこともよくあるので、基本地形を延々と割ることのできる《幽霊街》の採用は納得です。


すべてを護るもの、母聖樹


 また、《実物提示教育》デッキなどで見かける《すべてを護るもの、母聖樹》も採用しているのは興味深いですね」

《すべてを護るもの、母聖樹》は、対「奇跡」専用カードです。《相殺》《師範の占い独楽》が揃うと《壌土からの生命》が通らなくなってしまうため、《マリット・レイジ》を処理されると負けてしまいます。しかし《すべてを護るもの、母聖樹》があれば、《踏査》《壌土からの生命》を用いて毎ターン《マリット・レイジ》を繰り出すことができます。メインボードの相性をひっくり返す1枚ですよ」

斉藤《幽霊街》《すべてを護るもの、母聖樹》も奇跡デッキを強く意識した結果なのですね。《森の知恵》もその結果なのでしょう。《森の知恵》の使い勝手はいかがなのでしょうか?」


森の知恵


「『発掘』デッキの常として、中盤にスペルを拾いづらいという弱点があります。それを解消してくれるのが《森の知恵》です。ゲームの組み立てがぐっと楽になる上、《壌土からの生命》が2枚以上あるとドローを置換することでより多くデッキを掘ることができます。対コントロールではアドバンテージを、対コンボではガンガンライフを払って妨害カードを探しに行きましょう」

斉藤「苦手なところをしっかり認識した構築ということがうかがえますね。サイドボードを見るとスタンダードで暴れていたプレインズウォーカーの存在が目に止まりますね」


世界を目覚めさせる者、ニッサ


「サイドボードの《世界を目覚めさせる者、ニッサ》ですね。追加の勝ち手段としては、《不屈の追跡者》が最近のトレンドです。確かにドローとパンプの能力はデッキに噛み合っておりますが、《虚空の杯》が無いと《剣を鍬に》で一蹴されてしまいます。一方で《世界を目覚めさせる者、ニッサ》は本人と毎ターン増え続ける4/4トランプル、両方への対処を迫ります。《壌土からの生命》《演劇の舞台》に依存できないサイドボード後では、少しでも太い勝ち筋を用意したいので、こちらを採用しています」



メタに合わせた変更点

斉藤「では、今後メタにあわせてデッキを変えるとしてどのようにするか教えてください」

「パターン分けして、順にあげていきます」


◆ ビートが増えた場合

 《聖域の僧院長》を擁する「デス&タックス」に要注意です。《カラカス》《ちらつき鬼火》《マリット・レイジ》を対処する手段が豊富なため、《壌土からの生命》《罰する火》を止められるとそれだけで致命傷です。《溶鉄の渦》1枚をメインボードに加え、ライフ損失の痛い《すべてを護るもの、母聖樹》をサイドボードへ落とします。外すのは《窒息》のような対コントロールカードでしょうか。

 それ以外のビートダウンにはかなり有利なのでとくに変更する必要はないですね。


◆ テンポが増えた場合

 強いていえば《溶鉄の渦》《すべてを護るもの、母聖樹》の交換ですが、現状でこの上なく有利なので、他デッキへの取りこぼしを防いだ方が建設的です。


◆ コンボが増えた場合

 《すべてを護るもの、母聖樹》《カラカス》を入れ替え、《虚空の杯》を増やします。オムニテルが勝ち始めた現状、《三なる宝球》も再び候補に挙がりますね。ANTには《虚空の杯》、スニーク・ショーには《真髄の針》、オムニテルには《三なる宝球》と、有効なカードが違うのが難しいところです。


◆ コントロールが増えた場合

 サイドボードの《世界を目覚めさせる者、ニッサ》《窒息》を増量し、《抵抗の宝球》を減らします。《突然の衰微》の採用も検討するかもしれません。

 撃ちどころが難しいですが、《すべてを護るもの、母聖樹》と相性の良い《沸騰》も強力なカードです。




 次回は土地単の弱点やサイドボードの考え方、テクニックを紹介するといったプレイ編をお届けします。

 では、次回プレイ編でお会いしましょう。



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