こんにちは、若月です。
間に合うどころか『霊気紛争』はすでに発売されてますが。「急いでまとめると絶対に書き逃しを見つけて後悔する」という過去の教訓に基づき、今回もじっくりと『カラデシュ』ブロック編です。前回書ききれなかったプレインズウォーカー以外の人物と、前々回同様に「注目のストーリー」カードから『霊気紛争』の物語を最後までたどります!
この先には2017年1月3日発売の書籍『The Art of Magic: the Gathering: Kaladesh』(以下「アートブック」と表記します) を資料とする「ネタバレ」が多数含まれていることをご了承下さい。
1. 現地の人々
カラデシュブロックにはプレインズウォーカー以外にも魅力的な人物がたくさん。Magic Storyでも多くが顔を出す以上の活躍をしていますが、そのうち出番の多い何人かを詳しく探りました。
カラデシュで登場した新種族、霊基体。霊気精製の過程で時折発生する生命体であり、寿命は長くて4年程度。極めて短い生涯の中、全ての一瞬を大切にし、興味と喜びを追い求め、味わい尽くして生きています。「霊気から発生する知的なエレメンタル」のようなもの、かもしれません。その短い寿命の貴重な時間を生物学的・心理学的研究に提供する霊基体は稀であることから、カラデシュにおいても霊基体について詳しいことはよくわかっていないのだそうです。それでも人々は世界の中の一種族として霊基体を受け入れ、共に生きています。そして「周囲の感情をぼんやりと感じ取り共感できる」という能力から、他者を喜ばせ、楽しませることも彼らにとっては生を満喫すること。そのため霊基体は他種族から見ても実に魅力的な存在となっています。
そういえば霊基体が初めて登場した頃、外見の類似から「《悪夢の織り手、アショク》は霊基体なのでは?」という噂が流れましたが「似ているけれど違う」との公式回答でした。
「チャンスがあるならモノにしな。笑って、歌って、踊るんだ。夜が明けるにまかせずに。」
「その時が来たら諦めろ。永遠なんてない。」
『カラデシュ』のプレビューが始まって早くに公開されたこの2枚は霊基体の儚さをとてもよく表現しており、すぐさま私達の心をとらえました。霊基体はその姿こそ二足歩行の人型種族ですが、生物的な特徴はほとんど持ちません。内臓はなく、食事や睡眠は必要なく、性別もなく繁殖もしません。そのため英語では霊基体の三人称は単数であっても全てthey/their/themとなっています。なので英文だと時々文脈がわかりづらい。まあしゃーない。
ところでカードでは多くの霊基体が豪奢な衣装をまとい、富を誇示しています。それほど短い寿命で何故それほどの資産を? アートブックによれば、霊基体は生まれ出ると寿命が近い霊基体の「養子」となってその資産を受け継ぐのだそうです。そして霊基体は優れた作り手かつ投資家であり、手にした資産をすぐさま使うことを厭いません。そのカリスマ性と社交性から短い時間で多くの富を成し、それを受け継いでいく……という感じのようです。
そして霊基体には稀に「生命吸収能力」を持つ者がおり、ヤヘンニもその1人です。
一部の霊基体には特別な能力があり、他の生き物から生命の本質を抜き出して自分のものにできる。
霊基体の中には、他人の生命の本質への限りない渇望を代償として、自身の生存を引き延ばす方法を見つけた者もいる。
複数のカードに登場しているのでその数は多いように見えますが、全ての霊基体がこの能力を持っているというわけではないようです。ヤヘンニがこの能力を自覚したのは全くの偶然であり、また霊基体ならではの共感能力から相手の苦しみを感じ取ってしまうゆえに、この能力を行使することには惹かれながらも忌まわしいものとして自制してきました。
さてヤヘンニは霊基体の社交家兼情報屋であり、領事府と改革派の両方から頼りにされつつも自身はその絶妙なバランスを保ち続けていました。ですが改革派の長、ピア・ナラーが逮捕され、その行方を捜す一団の訪問を受けたことによって立ち位置は大きく変わることになります。さらにヤヘンニはその中にいた「果てのない、鮮やかな緑色の瞳をしたエルフの娘」に魅了されました。
ヤヘンニは彼女、ニッサが纏う窮屈な雰囲気を悟り、穏やかに語りかけました。霊基体という種族の姿、世界を巡る霊気との繋がり。ニッサはゲートウォッチに加わってからというものの、他者との接し方や馴染みない世界に戸惑いっぱなしでした。そのため彼女にとってヤヘンニとの出会いは大きな救いだったようです。その後、ヤヘンニは逃亡中の霊基体を追いかけて邸宅に飛び込んできた領事府兵を捕えて尋問し、ピアの居場所を聞き出すと再会を約束して彼女らを見送りました。
やがて領事府の戒厳令下、孤独な死を迎えようとしていたヤヘンニは無人の街路へ彷徨い出た先で、改革派として活動する友人に遭遇するも、揃って領事府兵に発見されてしまいます。暴力を振るわれる友人を救うべく、自身の命が尽きるまで数分という所でヤヘンニは領事府兵へ掴みかかり、その生命力を奪い、友を守り、そして殺人者となりました。生きながらえ、そして罪悪感に苛まれながらも、その力をもって領事府と戦うことを決意したのでした。自分が殺した以上に善いことを成せば……それが欺瞞とわかっていながらも。
改革派と合流してからのヤヘンニの出番はさほど多くありませんでしたが、都市の霊気の流れを感知してテゼレットの居場所を解明するなど、しっかり活躍していたようです。そしてMagic Story『霊気紛争』編エピローグとも言える第9話にて、長いこと延期されていた「直前パーティー」、その霊基体の最後の日を祝う祝祭が開催されました。霊基体の家族、友人ら、勿論ゲートウォッチの面々も招待されていました。そこで彼はニッサから最後の贈り物を受け取ります。それは、とても大きな秘密でした。
「この世界は、無数の世界の一つなんです」
は。
「果ての無い平原の一つの砂粒です。その粒の一つ一つが、それぞれ異なる世界です」
彼女が発する感情の輪が、それは真実だと告げていた。その言葉の全てが真実。いかにして――
「時々、いるんです。そういった世界の間を……旅する人々が」
人々、その言葉とともに彼女は洞察を求める視線を投げた。正直な、とても正直な、暖かな銅の誠実さ。いかにして――
「故郷からとても遠く、全く違う場所へ旅する人々です。彼らは皆知っています、私達はその広大で複雑なもののごく一部だと。ですが世界の間、その宇宙それぞれを繋げるものは、霊基体を作り上げるものと同じ物質です。あなたを作っているものは、カラデシュの遥か彼方へ繋がっているんです。あなたも、多元宇宙に繋がっているんです」
自分達の存在と世界の繋がりについての途方もない真実、あれほど心を閉ざしていたニッサへと自身の秘密を語らせるほどに寛がせることができたという達成感。そして美しい夜空の下、ヤヘンニは家族らに見守られ、満ち足りた心で、望んだ通りの形で世界へと消えていったのでした。
これほどまでに「満足のいく死」を迎えたキャラクターというのは本当に珍しいです。最後の一時を過ごすヤヘンニとニッサの場面も、心から読みたいと誰もが願った、その通りのものだったと思います。
かつてチャンドラ一家を迫害し、紅蓮術師の才能に目覚めた彼女を処刑しようとしたバラル。初登場は一足早く『マジック・オリジン』。当時本人のカードはありませんでしたが、記事では《領事補佐官》が充てられていました。
「美形と表現する者もいた」らしく、たしかにイケメン。ですが今は全身を覆い隠す衣装をまとっています。物語によればチャンドラがプレインズウォーカーとして覚醒した際に放った炎で重傷を負い、顔を焼かれただけでなく、左腕の感覚も完全には戻らないのだとか。
アートブックによれば、そしてカード能力が示す通りに彼自身は「対抗呪文」に長けた魔道士です。本人のそれだけでなく、バラルが登場しているカードは打ち消し呪文ばかりです。
つまりは自ら能動的に魔法を使用することはほぼない。だからこそ魔法を使う者が厳しく取り締まられるカラデシュにおいて、その力を秘密にし続けられたのでしょう。これも繰り返しになりますが、カラデシュ次元に魔法はほとんど存在しません。『カラデシュ』『霊気紛争』を合わせても、「ウィザード」のタイプを持つクリーチャーはバラルと《戦利品の魔道士》の2枚だけです。全体除去呪文は「薬剤散布」ですし、軽量火力も「衝撃発生装置による攻撃」。
というか今回の《ショック》は明らかにスタンガン的な何かですね。
バラルは霊気拠点攻防戦においてチャンドラを挑発して連れ出し、心身共に酷く痛めつけます。ですがチャンドラの炎とニッサのエレメンタルによって彼もまた全身に重傷を負わされ、その後過去の複数の罪状により逮捕されていきました。余談ですがその場面、バラルの負傷状況を把握して機械的に読み上げるドビン・バーンが素晴らしいくらいに冷静沈着でまあ。紛争が終結した後は、かつて自身が多くの改革派や魔道士を拘禁してきたドゥーンド監獄に収監されています。死亡こそしませんでしたが退場ということでバラルについては解決、なのかな?
前回《次元橋》について書きました。それを作り上げた天才発明家にして霊気予見者ラシュミ。プレインズウォーカーでもない彼女に何故そのようなものが作れたのでしょうか? アートブックP.129から一部翻訳します。
ラシュミには他者に、特にエルフ以外の種族に見えないものを見ています。そういった者達は彼女が狂っているか、異なる現実に生きているのだと信じています。ある意味それは正しく、ラシュミの目はカラデシュの現実を越えて次元の間、久遠の闇まで届いているのです。自分が見ているものへの理解は限られており、そして他の世界の存在については確信が持てないままですが、カラデシュにおける霊気の流れがどのように世界の周囲、久遠の闇からの影響を受けているかを見ているのです。そうと気付かぬまま、彼女は次元物理学の分野において極めて重要な解明を成し遂げています。
という何だか不思議な能力を持っている彼女。そういえば発明家ですがクリーチャー・タイプも工匠ではなくドルイドなんですよね。これがプレインズウォーカー的な力なのか否か、それはわかりません。ですが領事府の研究室にて《次元橋》(まだその名前ではありませんでしたが)を製作し、完成まであと一歩という所で、霊気の流れに触れたときにラシュミは見てしまいました。確信が持てずにいた「他の世界」を。
都市の風景を見下ろしていたが、見覚えのある建物は何一つなかった。その形状、色、建築様式、全てがあまりにも珍しかった。そして次の瞬間には蔦が密集し巨大な葉の植物が縄張りを争うような森に、あるいは密林にいた。ダイアモンドの形に切り出された巨岩を垣間見た。それは重力の法則を無視するかのように宙に浮いていた。そしてただ深い紫色の雲に満たされて広がる空、雪をかぶり黄色の花が咲く山脈。その映像は――正しく言うならば印象は――今や更に速度を増して流れ、一つの印象は次の印象と混ざり合った。静かな炉辺、広大な砂漠、見たことのない人々と物で満ちてざわめく市場、獣の大口、星が満ちる空。数えきれなかった。知りきれなかった。
マジックの物語では、時折プレインズウォーカーではないながらも調査研究によって自力で他の世界の存在を解明する者が現れます。有名なのは第25回・37回で触れた《遺跡の賢者、アノワン》ですね。彼は結局『戦乱のゼンディカー』『ゲートウォッチの誓い』の物語では姿を見せませんでしたがどうしているんでしょうか。
それはともかく、この中に登場した幾つかは私達もよく知る次元だとすぐにわかります。
「都市の風景を見下ろしていたが、見覚えのある建物は何一つなかった。その形状、色、建築様式、全てがあまりにも珍しかった」
カラデシュ以外の都市次元といえばおなじみのラヴニカ。
「蔦が密集し巨大な葉の植物が縄張りを争うような森に、あるいは密林にいた」
密林。幾つかの次元と地域が思い浮かびますが最も馴染み深いのはアラーラのナヤではないでしょうか。
「ダイアモンドの形に切り出された巨岩を垣間見た。それは重力の法則を無視するかのように宙に浮いていた」
これはサービス問題ですね。ゼンディカー。
「深い紫色の雲に満たされて広がる空、雪をかぶり黄色の花が咲く山脈」
この描写から私が想像した土地はこちら、第5版の《山》でした。そしてこの記述から感じる「鮮やかな色彩」……ドミナリアだと思います。第24回に詳しく書きましたが、ドミナリアを外から見る時、決まって言及されるのはその豊かなマナが示す色彩です。
「星が満ちる空」
こちらもサービス問題ですね、テーロス。このように「様々な次元の特徴を次々と並べる」場面は時々ありますが、いつもマジックの歴史の長さと世界の多彩さを感じられて心が躍ります。
ラシュミはどうにかテゼレットの手中から逃走し、改革派に保護されました。そして自分の発明品がカラデシュだけでなく、その外の世界までも脅かそうとしていると知って彼らに力を貸します。そして作り上げたのが《キランの真意号》と《ギラプールの希望》。こちらがどうなったかはこの先「注目のストーリー」紹介にて。
さて、物語に直接の関係はないのですが、こちらに言及しないわけにはいかないと思います。ラシュミが登場してすぐに多くの人が気付いたあれに。
MishraとRashmi。完全にアナグラムになっています。そして次元を越える装置を開発したということで「何かあるのか」と嫌な予感を抱いた人も多かったようです。調べたところ、「ラシュミ」はインド系の女性名としてはありふれたもの、らしいです。種族も性別も異なりますし、そもそもミシュラが生きていたのは4,000年以上前ですし、たぶん偶然の一致であって2人に関係は特にないと思います……私は。
2. 注目の物語『霊気紛争』編
前々回『カラデシュ』での「注目のストーリー」を取り上げました。そしてカードに沿って説明を書いた私自身、あまりのわかりやすさ(というか書きやすさ)に驚きました。というわけで今回も5枚の「注目のストーリー」カードと、それ以外でも明白に重要な場面を描いているカードを取り上げつつ『霊気紛争』の物語を追いました。
発明博覧会の唐突な終了と発明品の押収、夜間外出禁止令の発布。博覧会で上位入賞を果たした発明家らは領事府に拘束されたまま戻っていなかった。改革派はあらゆる抵抗の手段を奪われたかに見えた。だが不満を抱きながらもくすぶっていた人々をピアとチャンドラが鼓舞し、そして犯罪王ゴンティの協力を得て改革派は動き出す。
ピアの情熱は大局を目指している。真実の永続性のある変化をもたらすことだ。
ニッサとヤヘンニが霊気の流れを辿ることで、テゼレットと「あの発明品」の場所が明らかとなった。領事府の霊気塔。リリアナとサヒーリがそこへ向かうことになり、同時に改革派はその攪乱も兼ねて《霊気拠点》を手にしようとする。夜に乗じてピア達は霊気拠点を襲撃、施設を管理する《上級建設官、スラム》は降伏して拠点を改革派へと受け渡した。リリアナとサヒーリは霊気塔から脱出してきたラシュミを保護し、改革派へと連れ帰った。
改革派の基地では一隻の飛空船が完成を迎えようとしていた。「テゼレットの破滅号」。自分の発明品の成れの果て、《次元橋》が世界にもたらすかもしれない脅威を知ったラシュミは今それを破壊するための仕事に取り組んでいた。そしてこの船が完成したならば発明とは手を切るつもりだった。
だが人知れず姿を消そうとした矢先、手に触れた刻印から彼女はこの船の製作者、キラン・ナラーの心に触れる。それは空への憧れ、革新の精神と自由への賛美だった。自分達が目指すのは破壊でも打倒でもなく、ギラプールにその心を取り戻すことだった。 船の完成と霊気拠点の奪取に盛り上がる改革派。ラシュミは挨拶を求められ、彼らの前で自身の思いと、キラン・ナラーの思いを込めて船の新たな名「キランの真意号」を高らかに呼ぶ。それは大歓声で迎えられた。
霊気拠点を奪われた領事府も黙ってはいなかった。過去に多くの因縁を持つバラルがチャンドラを挑発しておびき寄せた上で、機械巨人や飛行機械で地上と空から霊気拠点へと攻撃を仕掛けた。チャンドラはバラルと戦い、心身ともに酷く痛めつけられるがバラルも無事では済まなかった。改革派は《キランの真意号》で脱出し、霊気拠点は再び領事府のものとなった。
霊気拠点は領事府に奪還されてしまったが、空では悪名高き空賊《航空船を強襲する者、カーリ・ゼヴ》が動いていた。ジェイスはそのテレパス能力や幻影術を駆使して彼女に協力し、《領事の旗艦、スカイソブリン》を始めとする空の防衛網を攪乱するとともに《キランの真意号》への道を開いた。
テゼレットの次元橋を破壊するため、改革派は軽量の飛行機械に霊気攪乱機を積み込んだ。
サヒーリとラシュミは《次元橋》を無力化するための飛行機械を作り上げた。霊気塔に十分近づいたならばこれを放ち、攪乱機によって内部の機構を破壊する。テゼレットの所にはリリアナが単身向かうことになった。テゼレットを殺そうとする前に他の手段を十分探って欲しい、ギデオンはそう主張したが、彼女が心からそれを了承したかどうかは全く定かでなかった。
スカイソブリンは対処できたものの、強力な対空砲台である《領事府の砲塔》が霊気塔への行く手を塞いでいた。改革派は地上部隊を投入し、グレムリンの群れを放って砲塔を食わせ、無力化することに成功した。
空を進む《キランの真意号》、だが船が揺れて侵入者を知らせる。ドビン・バーン。大胆にも単身乗り込んできた彼は《ギラプールの希望》の中核となる部品をやすやすと破壊してしまった。霊気漏れを起こして次第に高度を下げる真意号。チャンドラはドビンへと炎を浴びせるも、彼は苦も無くプレインズウォークで脱出した。 自分が《次元橋》を破壊する、とチャンドラは「希望」に乗り込もうとする。他に選択肢はなく、時間は刻一刻と過ぎてゆく。彼女の決意や故郷への思いを知り、ギデオンは苦渋の思いで決断した……一人では行かせないと。
リリアナは独りテゼレットと対峙し、その男がニコル・ボーラスのために動いていることを突き止める。それは心のどこかで予想はしていたが、信じたくなかった事実だった。とはいえ《鎖のヴェール》の力をわずかに使うだけで容易くテゼレットを追い詰めることができた。ボーラスの居所を問う彼女に、テゼレットは苦しみながらも彼女の知る一つの名を口にする。「ラザケシュ」。それはリリアナの契約悪魔、残り二体のうちの一体。既に倒したグリセルブランド・コソフェッドよりも強大な存在。その居場所も彼女は知っていた――アモンケット。
そして割れた窓の外から、近づく炎が見えた。
《次元橋》を破壊すべく、《ギラプールの希望》が飛び込んできた。だがそこに乗っていたのは霊気攪乱機ではなかった。ギデオンに守られ、チャンドラは力の限りを込めた大爆発を放つ。《次元橋》は破壊され、テゼレットの姿は消えた。「また会おう」という言葉を残して……。
「すべての者が居場所を見つけるまで、私はゲートウォッチになる。」
テゼレットとドビン・バーンが姿を消したことで領事府と改革派の争いは次第に下火となり、やがて終結した。そして領事府の新体制が発足し、輝かしい復興と再生の日々が始まる。新領事の中にはピア・ナラーの名もあった。
一方ゲートウォッチは新たな仲間としてアジャニを加え、この先の動きを模索する。アジャニは反対するが、すぐにアモンケットへと向かうべきという5人の意見は一致した。テゼレットとボーラスが野放しになっている現状は極めて恐ろしく、また時間が経つごとにボーラスは自分達よりも上手くやる、彼らはそう知っていた。
チャンドラは旅立ちを躊躇した。だが母は彼女を送り出す。その力と才気をカラデシュだけに留めておくことはできない、そして見送るだけで終わる家族ではなく、何度でもその帰りを迎える家族になるために。
……以上です。機体を取り上げたのもありますが、ずいぶん多かった。この「あらすじ」にはあまり書いていませんが要所要所でキャラクター同士が繰り広げるやり取りがとても……とても印象的な物語でした。これも詳しくは前回記事を! ゲートウォッチも結成1年(話中ではそこまで経過していないでしょうが)、様々な関係が形成されています。
そして何よりもチャンドラ。訳もわからぬまま10年以上ぶりに故郷へ戻ってきた彼女が、家族と再会し、過去と向き合い、故郷や人々のために戦い抜き、成長し、帰る場所を得て再び旅立つ……。明るく楽観的なカラデシュ次元、その物語の主人公に相応しいエンディングだったのではないでしょうか。
3. 今後の気になること
そりゃあもう何より、ギデオンとチャンドラはこの先どうなるのか……
ではなくて。いや気になるけど。ちなみに記事にも出ていたこのアートは「デュエルズ・霊気紛争」ストーリー最終面のものです。いや初めて見た時はひっくり返りました、長いことこの2人を追ってきましたがまさか公式からこんなに熱いアートが出るとは……よく見るとシチュエーションはともかく、チャンドラが物凄く怖い顔をしている。
気になることというのはですね。アートブックとバンドル(旧ファットパック)付属小冊子に、この先について非常に意味深かもしれない記述がありました。Magic Storyでは言及されていないので、今知っても構わないという人だけ以下を表示させて下さい。
ニコル・ボーラスはアモンケットに何かを隠している、アジャニはそう信じている。そしてボーラスは極めて危険な存在だと警告した上で、対峙する前にドミナリアにて立て直し、追加の戦力を確かなものにすべきだと提案した。
『霊気紛争』エピローグ回ではこの「集合場所」が具体的にどこなのかは言及されていませんでしたが。何故ドミナリア? たしかにボーラスにとっては因縁ある地、むしろあまり寄り付きたくはない地だと思います。そのため? 『未来予知』の小説でボーラスがドミナリアから去る場面では「perhaps never to return.」(P.267)と書かれていました。
まあそれ以前に、アモンケットについてもまだわずかなことしかわかっていないのですが。
・リリアナの契約悪魔の3体目、ラザケシュ/Razakethがいる
【第45回】で少し触れました。リリアナの契約悪魔はすでに倒された《グリセルブランド》《魂の貯蔵者、コソフェッド》の他にもう2体がいます。それがラザケシュ/Razaketh と ベルゼンロック/Belzenlok。ただ、今のところこの2体についての詳細は外見以外よくわかっていません。「デュエルズ・オリジン」の該当ステージ開始前の説明に「古代のデーモン」とある程度ですね。《グリセルブランド》《不敬の皇子、オーメンダール》のように、「強い」という設定のわりに物語では不遇なデーモンもいますがラザケシュは果たして。私もまだわかりませんってば。
4. おわりに
『カラデシュ』『霊気紛争』の物語はひとまず終わりました。この世界は大団円、けれどゲートウォッチ達は不安を抱えたまま『アモンケット』へ続く、と……。情報が出始めるのはもう少し先のよう、そして私としては今のうちにぜひとも取り上げておきたいトピックがありまして。
2007年5月、『未来予知』発売。
The Future is Now!
あのとき、数多くの「未来」が示されました。それはマジックというゲームの未来であったり、未来に語られる物語であったり。あれから10年経とうとしている今、私たちはマジックの「未来」のどのあたりにいるのでしょうか。というわけで近いうちに『未来予知』の色々について掘り下げたいと思っております。カード、システム、もちろん物語も。小説読んだ当時、何度泣いたかわかりません。個人的には何といっても……
ちげーよ! いや扱うけど!!
彼女ねー、本当は「リマスター」シリーズ書き終わってから扱いたかったんだけどねー!! ま、そのときもう1回書けばいいよね!! 何年後になるんだよ!!
(終)
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