あなたの隣のプレインズウォーカー ~第57回 ボーラスと梅澤もリマスター~

若月 繭子

 「ヴラスカ海賊団が恐竜と戦う世界」

 こんにちは、若月です。オイオイオイ待望の海賊世界来ちゃったよ、ていうかこれ意味がわからなすぎて楽しみしかない! 「ヴラスカ」「海賊」「恐竜」が全く連想できるものとして繋がってない! でも海賊衣装はなかなか似合っていますね。カラデシュでの《策謀家テゼレット》やアモンケットでの《試練に臨むギデオン》のように、その次元に合わせてプレインズウォーカーが衣装チェンジしてくれるのは個人的に大歓迎です。そういえばヴラスカ、『Commander Anthology』合わせのMagic Storyで唐突に登場していたけれどこれって伏線だったのかね。私も知らない。

 恒例の前置きはこんな所で。今回は長らくお待たせしました、『レジェンド』の小説で語られたニコル・ボーラスとテツオ・ウメザワの因縁のエピソードを解説します!

※注1)この情報は2017年7月上旬現在のものです。ご了承下さい。

※注2)日本語に翻訳されていない固有名詞が多数登場しますが、公式訳ではありません。

1. 『レジェンド』話

 またこういう話になってしまいますが。『レジェンド』、その伝説的イメージに違わぬ古のセットです。発売は今から23年前の1994年6月。それでいて今も《The Tabernacle at Pendrell Vale》《Chains of Mephistopheles》《森の知恵》《稲妻の連鎖》《Moat》といった強力なカードをレガシーやヴィンテージフォーマットで見かけます。なおコモン・アンコモンにはそういったレアカードよりもある意味入手困難なマイナーカードがひしめいており、いかにも「昔のマジック」の雰囲気があって眺めているだけでも楽しかったりします。

DeadfallHeaven's GateSylvan Paradise

 さすがに私もカードを手にしたのは再録セットの『クロニクル』においてでしたが、引いた中で特に印象深かったのはこのあたりでした。

 マジック初の天使は《セラの天使》、では二体目の天使は?

堕天使

 正解は『レジェンド』で登場したこの《堕天使》。黒い天使、背中の翼の跡……いわゆる「ダークファンタジー」というものに触れてまだ日の浅い高校生(当時)には衝撃でした。

翠玉トンボ

《翠玉トンボ》 フレイバーテキスト(英語)

“Flittering, wheeling,/ darting in to strike, and then/ gone just as you blink.”

――”Dragonfly Haiku,” poet unknown

《翠玉トンボ》 フレイバーテキスト(日本語)

ひるがえり 矢となり襲う 虫の影

―― 作者不詳「トンボの俳句」

 「フレイバーテキストが俳句」。そしてアートも美しい。まさにエメラルド。

ニコル・ボーラス

 はい。『クロニクル』には三色のエルダー・ドラゴン5枚全てが再録されているのですが、私が引いたのは《ニコル・ボーラス》だけでした。当時は学生だったのであまりたくさんのブースターパックを買えず、またシングルカード販売も地元ではまだ存在しなかった時代のこと。ただでさえ初めて見る金色のカード、「Summon Elder Dragon Legend」の物々しさ、ずらりと並んだマナシンボル、7/7飛行、かつ手札をそっくり捨てさせるという能力……全てがとてつもなく感じました。例によってまったく使いこなせませんでしたが。

 ニコル・ボーラスの二つ名に「世界最古の悪」というのがあります。実際に『レジェンド』、マジック最初期のセットから存在するあたり本当に最古の一体ですね。

2. その舞台

『レジェンド』ノベルシリーズ 「Johan」「Jedit」「Hazezon」 『レジェンド』ノベルシリーズ 「Assassin's Blade」「Emperor's Fist」「Champion's Trial」

※クリックすると拡大します。

 『レジェンド』の小説には二つのシリーズが存在します。一つは「Johan」「Jedit」「Hazezon」からなる「Legends Cycle I」、もう一つは「Assassin’s Blade」「Emperor’s Fist」「Champion’s Trial」の「Legends Cycle II」。今回扱うのは後者です。

 この小説の舞台となるのが「Madara Empire」、以下「マダラ帝国」と表記します。日本的な響きですがれっきとしたドミナリアの地名であり、『ミラージュ』『ビジョンズ』の舞台となったジャムーラ大陸近隣の諸島からなる国です。本島には豊かな川と広大な沼地、その背後には巨大な山脈がそびえています。マダラとその近隣諸島には昆虫人間Eumidian、亀人間Chelonian、猫ドラゴンNekoruなど、ドミナリアの他地域では見られない独特な種族も存在します。

 また、マダラの沖合には「鉤爪の門」と呼ばれる「二本の角のような建造物」がそびえ立っており、マダラの領海と外海とを隔てています。

鉤爪の門

 今の私達はとてもデジャヴを感じる……そして例の『神河救済』小説エピローグにはこれもしっかり登場しているんですよね。

 さて上に「豊かな川と広大な沼地、その背後には巨大な山脈」と書きました。ピンと来た人もいるでしょう。青と黒と赤。この連載でも何度も言及してきましたが、ドミナリアは豊かなマナで知られています。

島沼山

 地理的に近い『ミラージュ』版を選んでみました。最近はラヴニカ次元やアモンケット次元のように「これは綺麗だけど果たして本当に『平地』なんだろうか」と思ってしまうような基本土地も多いのですが、こちらは名称からそのままイメージするような風景が描かれています。

 元々マダラ帝国を創設したのはGod-Queenを名乗る戦士でした(それ以上の詳細は不明)。ですがこの「豊かなマナ」に目をつけた存在があります。そう、ニコル・ボーラス。彼は自身が必要とする三色のマナが交わるこの地を重要と考え、長い(とはいえ古龍にとっては些細な)年月をかけて周到に手に入れました。「ボーラスが外からやって来て支配した」というのはアモンケット次元に通じるものがあります。ですが時はまだ大修復以前。ボーラスも余裕しゃくしゃくに、豊かなマナ源としてドミナリアとマダラ帝国をとても大切にしていました。このように。

小説「Champion’s Trial: Magic Legends Cycle II, Book III」P.2より抜粋・訳

ボーラスはその世界を値踏みするように見つめた。おお、ドミナリアよ。芳醇で稀な、美味に熟した果実よ。彼自身の存在に比較すれば一つの小さな世界、だがその価値は大きさを遥かに凌駕するものだった。遠い昔、まだ若く完全な姿でもなかった頃、彼はここでしばしの時を過ごしていた。近頃では、この地を訪れる際には細心の注意を払わねばならなかった。彼の全存在が、ごく一瞬覗いただけであっても、この豊かで色鮮やかな世界を、まるで芽が種を突き破るように裂いてしまわぬように。

 まるで……慈しむような。別の段落ではドミナリアを「宝石の冠」と称えていました。一方でMagic Story『アモンケット』編第一話冒頭には、60年前(=大修復直後)にボーラスがアモンケット次元を手中にした際の描写がありました。本人も「手荒」と繰り返していたその所業からは、いかに大修復による弱体化が切実だったかが逆にひしひしとわかりました。

 話を戻しますが、上記の三つのマナが交差する地点には「Imperial Shrine(帝国寺院)」が置かれ、そこでマダラ帝国の最高位の幹部だけが皇帝に謁見することができました。長い間、ボーラスは「Emperor(皇帝)」としてマダラを統べながらも、実際に国を日々取り仕切っていたのは「Assassin(暗殺者)」「Champion(闘士)」「General(将軍)」という三つの役職でした。三権分立? そして物語はこの「暗殺者」《Ramses Overdark》(以下ラムセス)と「闘士」《Tetsuo Umezawa》(以下テツオ)の対立構造を中心として描かれます。

 また、物語はこのマダラ帝国内で繰り広げられるのですが、登場人物たちが時折訪れる不思議な次元?が存在します。「Meditation Plane/瞑想次元」と呼ばれる小さな、特殊な領域です。『プレインチェイス』にて次元カードにもなりました。当時の記事から説明文を翻訳しましょう。

鉤爪の門

公式記事「The Planes of Planechase」より抜粋・訳

 Scott McGoughの三部作小説「Assassin’s Blade」「Emperor’s Fist」「Champion’s Trial」は「瞑想次元」とだけ知られる謎の次元について言及している。それは超現実的な、耐えず変化する次元であり、その地形は訪問者の思考とありえる未来を映している。恐ろしいことに、マダラの皇帝という肩書で知られる神にも等しいドラゴンがこの小さく孤立した次元を相談相手との会合場所として利用していた。ニコル・ボーラスがテツオ・ウメザワと戦い、皇帝の座を失ってからあまりにも長い、長い時が経った。だが古のドラゴンは今日になってもこの次元へ旅しているのかもしれない。

 そこは「次元」と冠されていますが厳密にプレインズウォーカーでなくとも行ける、とはいえ出入りはドミナリアからに限られ、かつ「達人」にしか到達しえない場所です。「瞑想次元」の名の通り、瞑想することによって精神のみで到達する領域であり、基本的に生身でそこに至るというわけではない……ようです(どうもよくわからない)。テツオは心を落ち着かせたいときや迷ったときに瞑想を行ってこの次元へ赴き、ありうる未来と対峙していました。そしてこの「出入りはドミナリアからに限られる」という特殊性が最後の最後で重要になってきます。

3. キャラクター

 カードと物語の繋がりはマジックの醍醐味の一つ。三部作小説には『レジェンド』の伝説クリーチャー達がこれでもかというほど登場しています。

主人公たち

Tetsuo Umezawaトー・ウォーキ

 テツオはマダラ帝国の「Champion(闘士)」という至高の地位で内外の敵から国と人々を守っています。剣術や弓術、様々な魔術に秀でた同時代に並ぶもののない戦士であり、多くの仲間や同調者、そして多くの敵がいます。厳格な栄誉の掟とともに生きる彼は、本来守るべきものと皇帝への忠誠との間で悩み、やがて無益な侵略への加担と仲間の死によって皇帝から離反することになります。

 ウメザワ一族は長い歴史を持ちます。始祖の《梅澤俊郎》は神河次元から《夜陰明神》によって連れて来られ、視力を奪われてマダラの地に置き去りにされました(なぜそんなことになったのかは、いずれ神河ブロックを扱ったときにでも)。ですが機知に長けた彼はどうやら絶望することなく生き延び、適応し、子孫を残すとともにウメザワ家をドミナリアに築いたようです。ちなみにテツオの瞳は鮮やかな緑、俊郎と同じ色をしています。これ小説の刊行順(神河が後)に読んだらニヤリとできたんでしょうね。惜しいことをした。

 トーはテツオの忠実な弟子兼付き人であり、弓の名手です。今見るとこのレンジストライク能力は黒赤らしからぬものですが、この頃はまだ「色の役割」が明確ではありませんでした。とはいえトーは後に炎の魔術を習い、実際の矢だけでなく魔法の火矢を撃てるようになっています。それならまあ赤でも問題ないね(?)。

アーイシャ・タナカケイ・タカハシ

 以下「アーイシャ」「ケイ」と表記します。アーイシャはテツオ専属の武具鍛冶であり白と青の様々な魔法の使い手。本人は左の鎧ではなく右の女性ですよ!

 ケイは癒し手見習いで、わずかながら予知能力を持ちます。このケイが後述のジラ・エリアンによって変質させられてしまい、物語後半以降では彼の犠牲がテツオ・トー・アーイシャの三人を大きく動かすこととなります。

敵役

 そしてテツオたちと敵対し、排除しようと目論む者たちもいます。

Ramses Overdark

 ラムセスはテツオとは同じマダラの臣民でありながら古くからの仇敵です。「Assassin(暗殺者)」として皇帝からの命令を忠実に遂行しながら、同時にそれを利用して自身の勢力を拡大してきました。やがてその策略は皇帝に発覚してしまうのですが、ボーラスは彼を罰するのではなくその野心を称え。更なる力を与えます。

 なお登場当時は「レジェンドの召喚」となっていましたが、後のクリーチャー・タイプ再編によりラムセスは物語の通りに「人間・暗殺者」となりました。これは調べてびっくりした。しかし彼の能力が「エンチャントのついているクリーチャーを破壊する」、そしてテツオは「オーラ呪文の対象にならない」。この時点で勝てないのは目に見えているのですが……

Boris Devilboonジラ・エリアンLady Orca

 以下「ボリス」「ジラ」「オルカ」と表記します。ボリスはラムセスの副官、その能力通りに小型デーモン(Minor Demon)を使役します。ジラは上項目でも書いた昆虫人間種族Eumidianであり、隠密としてラムセスのために動いています。昆虫人間としてはナントゥーコ(ドミナリア)やクロール(ラヴニカ)がいますが、Eumidianには蜂や羽虫のような羽根と毒針があります。オルカはラムセスが召喚して使役する巨体の女デーモンです。カードとしての《Lady Orca》は長いこと「レジェンド」以外のクリーチャー・タイプを持っていませんでしたが、2007年9月のオラクル更新にて「デーモン」となりました。これもラムセス同様、フレイバーテキストや物語の設定によるものだと思います。

《Lady Orca》フレイバーテキスト(Wisdom Guildデータベースの翻訳より引用)

俺は奴が彼女に何を言ったかなど覚えてなどいやしねぇ。覚えているのは、一瞬彼女が奴を火のような眼でにらめつけたことだけだ。あぁ、閃光と突然の火の吐息もあったな。そのせいで俺は逃げ出したんだっけ。もう一度見たときにゃあ、アンガスの奴はいなくなっちまってたんだ。

―― レディ・オルカに会った放浪者

他にも

 テツオたちの物語に行き交う人々はまだまだいます。詳しい紹介は省きますが《竜公マーホルト》《Gosta Dirk》《Kasimir the Lone Wolf》《Lord Magnus》《Lady Caleria》《Ramirez DePietro》……

竜公マーホルトGosta DirkKasimir the Lone WolfLord MagnusLady CaleriaRamirez DePietro

 そしてこういったキャラクターの多くは、『レジェンド』の開発者や関係者が当時遊んでいたTRPG『ダンジョンズ&ドラゴンズ』(以下D&D)のキャラクターがなのだそうです。今ではD&Dはマジックと同じウィザーズ・オブ・ザ・コースト社から発売されており、何とマジックの世界を舞台として遊ぶための製品も配布されています(無料、英語のみ)。

 「遊ぶためのデータ」であることから、マジックの側にない具体的な数値情報などもあって何気に重要です(とはいえそれがマジック側にも適用されるものかはわかりませんが)。私も過去にD&Dは多少触ったことがあるので、これは一度やってみたいのですよね。余談でした。

4. その物語

 さて物語。なのですが三部作の大半は『レジェンド』の様々なカードを再現した文物や魔法や戦いが繰り広げられつつ、テツオたちは多くの苦難に直面し、やがてテツオとラムセスとの全面対決へと至る……という一種スタンダードな物語です。いやスゲーおもしろいのはたしかなのですが全て紹介しているわけにもいかない。そして誰もが最も気になるのは「一体どうやって/なぜボーラスがテツオに負けたのか」という所だと思います。そこに至るまでの過程を大まかに、そして最後の戦いについては詳しく紹介していきましょう。

 マダラ近隣のEdemi Islands(エデミ諸島)で反乱が勃発し、皇帝からその鎮圧と征服を命じられたラムセスはその戦いにテツオを巻き込むことを目論みます。彼は悪魔オルカを召喚し、ウメザワ一族の紋章をまとわせてその島で破壊活動を行いました。

 同時期、テツオたちは本島沿岸の漁村にてそこに住み着いた猫ドラゴンを対処していました。そこにラムセス配下のジラが向かい、ケイへと毒を植え付けて逃走することでテツオたちをエデミへと誘い出しました。これによってラムセスはテツオたちもしくは反乱軍リーダーの死を目論みます。テツオは島の女王Lady Caleriaを必死に説得して最悪の事態を回避し、オルカを倒します。ケイは《森の知恵》を有する現地の魔術師Lord Magnusの力添えもあって死こそ免れたものの、昆虫的な変異がその身に残ってしまいました。

大いなる禁猟区森の知恵

 《大いなる禁猟区》は島を守る魔法のフィールド、《森の知恵》はその名の通り森が保有する太古からの知識です。

 ラムセスにとってはエデミ征服に失敗したこととなり、彼は皇帝に糾弾されます。皇帝は「将軍」マーホルトに命じて軍を再び送り込ませ、ラムセスには介入を禁じ、テツオにはマーホルトの配下として戦うよう命じました。ただ皇帝の征服欲を満たすための非道徳な侵略へと加担させられ、テツオの皇帝への忠誠は揺らぎはじめます。

 この作戦が終わろうとしたとき、ラムセスは部下を操ってマーホルトを殺害させます。皇帝はラムセスを罰するのではなく、その野心を称賛してImperial Regent(帝国摂政)の座を与えました。それだけではなく、トーがこの戦いで重傷を負い、ケイは完治叶わず死亡してしまいました。テツオにとってそれは忠誠の終わりを意味しました。彼は地位を捨て、ラムセスと皇帝への復讐を誓いました。

 それから数週間、テツオは身を隠しながら計画を練り、復讐の準備をします。これまでの戦いで彼は多くの友を得てきました。誇り高き猫ドラゴンの一家や、熱い心根を持つボガーダンの魔術師Kolo Meha(メイハ)。彼らの力を借りて身辺を守りつつ、ですがラムセスと早くに対決する必要性は明白でした。

 彼はまず沼地へとジラを追い、絶望させるほどの執拗な追跡の果てにケイの復讐を成し遂げると、ラムセスとボーラスが座す帝国寺院へ向かいます。そこに至るまでには軍勢が集結し、何千もの兵がテツオを待ち構えていました。ですがテツオは空から流星を降らせ、彼らを退散させました。

Falling Star

 一方でテツオの依頼を受けたメイハがラムセスの砦を破壊し、マナの供給源を切断します。テツオは寺院へ入る前に一つの呪文を唱えました。ラムセスの部下から奪った大鎚に、ボガーダンの儀式を用いて魔法をかけると空の彼方高くへと放り上げました。そしてその呪文はそのままに、彼は寺院へ足を踏み入れました。

 そして皇帝が見守る中、テツオはラムセスと一対一で対峙します。国の頂点に立つ2人の戦いはボーラスですら見入らずにはいられないほどに熱く激しいものでした。ラムセスは強く、ですが自分の砦という莫大なマナ源を失っていたことで不利となります。テツオはラムセスを倒すとその首を切り、力を吸収しました。

 ラムセスの死にボーラスは怒り狂い、テツオは瞑想次元へと逃走します。本来であれば生身で至ることは叶わない領域、ですがテツオは長年の鍛錬によってそれを可能としていました。ボーラスはテツオを追いますが、それが決定的な過ちでした。

小説「Champion’s Trial: Magic Legends Cycle II, Book III」P.293より抜粋・訳

ドラゴンは睨み付けた。「時間稼ぎか。何を企んでいる?」

テツオはかぶりを振った。「何も。全て終わっている。寺院に目を付けたときには既に終わっていたのだ。皇帝よ、ボガーダンへ赴いたことはおありか?」

ボーラスは唸り声を上げた。

「無いだろうな。赤マナの強力な源だ。だが貴様は黒と青と赤のマナを同等に必要とする。だからこそ貴様の寺院はかの場所に建てられたのだ、沼地と川と山の集う所に。だからこそ貴様は生け贄と貢物を要求したのだ。貴様はあまりに高き存在へと昇りつめた故に、特定の色の組み合わせなくして物質的世界に存在することは叶わない。マダラが生み出す色の組み合わせなくしては」

 ここで《ニコル・ボーラス》のテキスト上部を見てみましょう。

ニコル・ボーラステキスト上部

 テツオが寺院へと入る前に唱えていた呪文。小説中にその名は記述されていないものの、しばしば「Meteor Hammer」と呼ばれています。寺院の外、空の遥か上空に浮いていたその鎚が突如炎を弾けさせ、エネルギーを増しながら落下を始めました。やがてそれは寺院へと墜落し、巨大な爆発が起こって川の流れを遡らせ、沼地を乾燥させ、鋭く尖った山を崩すほどの大破壊を引き起こしました。

 そしてボーラスは寺院が破壊されたことに気付きます。マダラの山。テツオはつまり、《ニコル・ボーラス》アップキープコスト供給源を潰したのでした。時に物語では「カード能力そのままの展開」が繰り広げられますが、まさにその極致と言っていいかと思います。そうしてボーラスは瞑想次元の中、マナの供給を断たれて次第に力を失い、そしてテツオによって……これまた彼のカード能力「(U)(B)(B)(R), (T): Destroy target tapped or blocking creature.」によって倒されたのでした。

 大修復以前のニコル・ボーラスは神のごとき力を振るう存在でしたが、同時にゲーム上では一介のクリーチャーでした。大修復は多元宇宙の法則を様々に変化させ、プレインズウォーカーを弱体化させました。ですがカードとして独立した存在となった今の方が、プレインズウォーカーはある意味強いのかもしれない……2017年の今読んだからこその感想でした。

 そしてこれが、ボーラスとテツオの最後の会話になります。

小説「Champion’s Trial: Magic Legends Cycle II, Book III」P.300より抜粋・訳

「長生きするがよい」皇帝の声はかすれていた。「娶り、多くの子を成せ。貴様の繁栄と幸福を願おうぞ。いつの日か、我は帰還し貴様の家族を、友を、同輩を、その名を耳にした者すら全て食い尽くそう。そして心せよ。貴様が死した後には、我が姿を再び見るであろう。次の世へ向かう貴様を攫うべく待ち構えておこう。そしてこの不敬の報いとして、永遠の時を悲鳴とともに過ごすのだ」

「心しておこう、皇帝よ」

5. その後

 ラムセスとボーラスを倒し、物語の始まりの場所でもある漁村にて。仲間たちに激励され、新たな一歩を踏み出すテツオの場面で物語は終わっています。

 マダラ帝国について最後に語られたのは2006-2007年、『時のらせん』ブロックストーリーでのことでした。アーボーグにて時の裂け目に巻き込まれたテフェリーたちはまるで時を遡るような経験とともにドミナリアの歴史に刻まれた様々な大破壊を目撃し、やがてとある静かな海岸に辿り着きます。そしてそこで「Sensei Ryu」(「龍師範」?)と名乗る謎めいた残留思念らしきものの声を聞くのですが……。

ニコル・ボーラス

 ただのタイムシフトと思いきや。その先の詳しい話もいずれきっと。

(終)

参考サイト

著者Scott McGoughによる投稿

http://www.phyrexia.com/forum/messages/11/6484.html?1068868422

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