こんにちは、若月です。
白状しますが、このカードを初めて見たとき「死んでない! よかったギデオンとりあえずカードでは死んでない!」と安堵しました。ストーリーの進行や新規カードにこれほどビクビクしたのは初めてでしたよ……。個人的には「チャンドラに言えなかった三語の言葉」のフラグを回収するまでは絶対死なないって信じてるから……信じてるから……ある意味最大の生存フラグだから……! それとニクシリスともいつかタイマンで再戦して欲しい。あれはとても熱かった。
それでは、『破滅の刻』編がまさしく破滅で幕を閉じたところで、今回はその物語を辿ります。
この先には2017年7月初旬発売の書籍『The Art of Magic: the Gathering: Amonkhet』(以下「アモンケットアートブック」と表記します)を資料とする「ネタバレ」が多数含まれていることをご了承下さい。
そのアートブックにはボーラス関係のアートが過去カードからも多数収録されておりまして、まーたサルカンがいじめられてる。
1. ボーラスの目的
\ゴッドファラオ!/
いよいよ動き出した多元宇宙最古の巨悪。Magic Storyにて大々的に姿を見せるのも『破滅の刻』が初めてでした。繰り返しますが物語のウェブ展開が始まったのは2014年秋。ボーラスの出番は『運命再編』『マジック・オリジン』にありましたが、どれも過去のエピソードでした。「現在」のボーラスが登場するのは今回が初めてになります……よね?(ちょっと不安になった)
アモンケット次元におけるボーラスの目的が何だったのか、それはMagic Storyではなくマローの週刊連載記事「Making Magic」の方に明記されていました。こちらの連載にも結構重要な情報が頻出するので、チェックは欠かせません。
ボーラスの目的は不死の兵士たちの軍勢を作ること、それもただの兵士ではなく、最も優れたものを集めた軍勢を作ることである。ラゾテプという物質を使った特別な手順を通して、ボーラスとそのしもべたちは永遠衆と呼ばれるゾンビのエリート兵を作るのだ。ボーラスはその世界で最強の戦士たちを見つけ出し、そしてそれを彼の、そして彼だけの、非道な命令に従う心を持たない強力な軍勢にするのだ。
アモンケットを作り変えたのは「最強の兵団を作るため」。そのための五つの試練だったのです。ただのゾンビでは王神にふさわしくないが、過酷な試練を乗り越えた最強の戦士をゾンビとし、その兵団を作り上げる。ラゾテプはアモンケットで産する不思議な青色の鉱石です。《採石場》によればミイラが採掘しており、また各色のカルトーシュにも用いられています。
ラゾテプ鉱石の効能はアモンケットアートブックに記述されていました。それは死体の劣化や腐敗を防ぐ働きがあり、同時に永遠衆の「鎧」としての役割も果たします。
同様に、アモンケットアートブックにはこれまでにない、ですが重要と思しき情報がいくつか書かれていました。一応隠しておきますので、今知っても構わないという方はクリックで表示して下さい。
最後については、これは時々言及されますが、カードに登場していないプレインズウォーカーや私達が把握していないプレインズウォーカー情報網が多元宇宙には存在するらしいのでそれによるものと思われます。実際『カラデシュ』では、ドビン・バーンは彼らの口コミ経由でゲートウォッチを知ったらしいとのこと。ボーラスはそういったネットワークの一つを(もしくは複数を)手中にしているのかもしれません。
2. 注目のストーリー・アモンケット
『カラデシュ』から導入され、物語の流れがとてもわかりやすいと(主に私の中で)評判の「注目のストーリー」。『アモンケット』からはコモン・アンコモンにもそんな「重要シーン」が拡張されました。何気ないカードにもきちんと物語が込められている、それは昔からマジックの醍醐味です。例によって「注目のストーリー」以外のカードも織り交ぜつつ、物語を辿ります。一部は第56回とかぶりますが、ご了承下さい。
(1) 《死後の放浪》《大いなるサンドワーム》
アジャニからは警告されていたが、ゲートウォッチはアモンケットへやって来た。猛烈な砂嵐、焼けつく暑さ。そして移動を開始するも、早速砂漠をさまようミイラや怪物の襲撃を受ける。ゼンディカーとイニストラードで怪物を対処してきた彼らですら苦戦し、そして一度倒したサンドワームが自ら蘇り、再び襲いかかった。この次元を蝕む「放浪の呪い」。リリアナとニッサが同時に窮地に陥り、ギデオンは苦しい選択を迫られる。その時、突如彼らを救いに現れた強大な存在――黄金に輝く獣の頭部を持つ、巨人のような姿――それは瞬く間にサンドワームを退け、砂丘の彼方へ去っていった。ギデオンは即座にそれを「神」と認識し、畏敬と困惑を同等に抱いた。ボーラスが創造したとされる過酷な世界に、神が?
(2) 《驚異への入り口》《ナクタムンの侍臣、テムメト》
《驚異への入り口》フレイバーテキスト
ゲートウォッチがニコル・ボーラスに支配された次元で唯一予期していなかったのは完璧ということだった。
神が去っていった方角へ向かい、ゲートウォッチは文明を発見する。魔法の障壁で守られた豊かで美しい都市。ジェイスの機転で侍臣テムメトに接触することに成功し、宿舎を提供してもらうと共に様々な情報を得る。驚くべきことに、ボーラスはこの地で「王神」と呼ばれており、聡明にして慈悲深い存在として信奉されているのだった。
(3) 《新たな信仰》(注目のストーリー1/5)
《新たな信仰》フレイバーテキスト
「神々が人々の日常生活になじんでいる様子というのは……感動的だ。」
テムメトの案内で街を進むゲートウォッチは、神の姿を目撃した。子供達の訓練を優しく見守る猫頭の神オケチラ。その神に見つめられたギデオンは、その輝かしさ、柔らかな物腰、善と真に心を打たれた。そして神々が人々と共にある姿に衝撃と感動を覚えた。
(4) 《造反の代弁者、サムト》
宿舎で一息つくゲートウォッチ、だが街路の騒動が彼らの耳に入る。見ると、声高に「王神の欺瞞」を叫びながら駆けてくる女性、だがすぐに兵に取り押さえられてしまう。訝しむゲートウォッチへとテムメトが説明した。王神や神々の教えを拒否し、信仰を否定する「造反者」。時折、そういう者がいるのだと。だが翌朝、彼女の言葉が気になるチャンドラとニッサはナクタムンの街へと捜索を開始した。
(5) 《毒物の侍臣、ハパチラ》
ロナスの碑の近くにて、チャンドラとニッサはこの街では珍しい年長の女性に出会う。彼女、ロナス神の侍臣ハパチラは2人の「客人」へとこの街の基礎知識を喜んで教授した。ミイラについて、試練について、そして今は不在である王神の帰還について。王神……ニコル・ボーラスの帰還は、副陽の位置から見るに数日後。あまりに差し迫った状況に、2人は呆然とするしかなかった。
(6) 《残酷な現実》(注目のストーリー2/5)
《残酷な現実》フレイバーテキスト
その修練者が門友を殺害する場面を目撃して、ギデオンのナクタムンの街を敬愛する気持ちは恐怖へと変わった。
一方ギデオンはオケチラ神に導かれ、修練者デジェルが率いる一門に加わって「野望の試練」へと挑む。そこでは《悪意のアムムト》のような恐るべき怪物、そして多くの危険すぎる罠が待ち受けていた。人数を著しく減らしながら辿り着いたバントゥ神の目前、そこで他の修練者を殺害しなければこの試練を通過できないと知る。ギデオンはその不死身の力をもって神の目前へと辿り着くも、この世界についての無知を悟らされるだけだった。
(7) 《選定された行進》(注目のストーリー3/5)
《選定された行進》フレイバーテキスト
「この地の神々は人々の間を歩き回るが、人々と共にあるわけではない。」
――ギデオン・ジュラ
バントゥ神の目前を辞し、神殿を出たギデオンが見たもの。それは共に試練へと挑んだ修練者の死体が労働ミイラによって運ばれていく様子だった。街で働くミイラは修練者の成れの果てだったのだ。これもまたニコル・ボーラスの意図によるものなのだろうか? 疑問は残りながらも、彼はカルトーシュを投げ捨てて決別を告げた。
(8) 《力ずく》(注目のストーリー4/5)
《力ずく》フレイバーテキスト
「造反? あんたたちの神々はこの造反を少しも理解できそうにないじゃない!」
――チャンドラ・ナラー
サムトはハゾレト神へと親友デジェルの助命を直接嘆願するも、造反者として石棺に閉じ込められていた。だが全く予期していなかったことに、見知らぬ「余所者たち」に助け出される。そして情報を交換し合っていたところに神々が現れ、サムトと彼らは最後の試練へと連れて行かれてしまった。
(9) 《ギデオンの介入》(注目のストーリー5/5)
最後の試練はハゾレト神の闘技場にて、造反者を倒すというものだった。デジェルを守りながらサムトは戦い、一方デジェルはサムトへの赦しを神へと願った。ハゾレト神に認められ、その槍によって貫かれることで試練は完遂される。その瞬間を待ち構えたデジェル、だが最後の瞬間にサムトが飛びかかってデジェルを守るとともに、ギデオンがその不死身の盾でハゾレト神の槍を防いだ。
(10) 《副陽の接近》
最高の栄光を達成する目前に邪魔されたことを嘆くデジェル。だが闘技場での騒動が収まらぬうちに、全員の目が空へと向けられた。ゆっくりと動き続けていた副陽が、ついにあの角の間、約束された場所へと収まった。預言の「刻」が始まったのだ。
3. 注目のストーリー・破滅の刻
預言の「刻」。その順番及び概要は『アモンケット』のフレイバーテキストにいくつか記されていました。まず、順番は《王神の玉座》フレイバーテキストに。
《王神の玉座》フレイバーテキスト
「副陽が地平の二つ角の間に入ったとき、啓示の刻が始まる。その後、栄光の刻、約束の刻、永遠の刻と続く。」
――刻の書
そして各「刻」がどのようなものかも。
《ナーガの神託者》フレイバーテキスト
「すべての疑問は、啓示の刻に解けるだろう。」
《捷刃のケンラ》フレイバーテキスト
「栄光の刻には、神々も試練に間に合わぬ者たちも、王神の面前で蓋世の誉れを示すことになるだろう。」
――刻の書
《有翼の番人》フレイバーテキスト
「約束の刻が来たとき、王神はヘクマを取り壊すだろう。防御はもはや無用になるからである。」
――刻の書
《造反者の解放》フレイバーテキスト
「疑念がすべて消え去ったとき、蓋世の英雄に永遠の刻が訪れ王神の傍らにその座を得るだろう。」
――刻の書
※《ナーガの神託者》フレイバーテキストについてはバンドル付属小冊子P.11より、「刻の書」からの抜粋と推測されるので含めています。
ですがここまでの段階では、「刻」は四つしか示されていませんでした。そしてエキスパンション名は『破滅の刻』……。
(1) 《啓示の刻》(注目のストーリー1/5)
《啓示の刻》フレイバーテキスト
その瞬間、来世への門が開き、人々は王神の光に包まれてひれ伏した。
副陽が角の間に座し、来世への門がついに開いた。殺到する人々、その先には約束の楽園……ではなく、ただ砂漠と廃墟があるのみだった。
(2) 《穢れた血、ラザケシュ》《ラザケシュの儀式》
《ラザケシュの儀式》フレイバーテキスト
「血の儀式は完了した。終わりが始まる。」
来世への門の先から、何かの影が飛来した。鰐に似た尻尾、大きな翼――悪魔。リリアナの契約悪魔の一体、ラザケシュ。それは自らの腕に傷をつけ、流れ出た血を川へと注ぐとたちまち川の水が真紅の血と化した。リリアナはラザケシュの呼びかけに強制的に引き寄せられ、主のもとへ向かった。だがゲートウォッチに助けられ、身体の支配をものともせず契約悪魔を打ち倒す戦いを開始する。リリアナは血と化した川で死んだ動物の群れを操り、ラザケシュを貪り食わせることで退治した。契約悪魔の3体目を倒した、だが仲間たちが、特にジェイスが自分を見る目には居心地の悪さが残されていた。
(3) 《蠍の神》《蝗の神》《スカラベの神》
ラザケシュは倒されたが、その血の儀式は完了していた。呼び起こされるように、来世の門の先にあった死者の都から、3つの彫像が――否、神が――動き出す。それらは既存の5柱よりも巨体で、それぞれが奇怪な虫の頭部を持っていた。
(4) 《栄光の刻》(注目のストーリー2/5)
《栄光の刻》フレイバーテキスト
試練を司る神々も、蓋世の英雄にふさわしいかどうかを試されることになった。
巨体の、見るからに恐るべき神の出現。ロナス神はそれを自分達に課せられた試練だと考え、戦いを挑んだ。そして一度は蠍の神を倒すも、それは起き上がるとロナス神の額をその針で貫いた。神々でも最強とうたわれた力の神は無残にも絶命した。衝撃と苦痛がナクタムンの人々に走る中、蠍の神は次なる神を殺戮をしに向かった。
(5) 《約束の刻》(注目のストーリー3/5)
《約束の刻》フレイバーテキスト
ヘクマが破れ保護が失われると、砂漠が襲来した。
続いて、蝗の神が来世への門をくぐって現れた。その手から放たれた無数の蝗が、ナクタムンを覆う魔法の障壁ヘクマを食らっていった。ヘクマを守ろうとしたケフネト神もまた蠍の神に斃され、そして蝗の群れはそれだけでなくあらゆる生物に群がり、食い尽くしていった。そして砂漠からミイラや怪物が街へと殺到した。
(6) 《霰炎の責め苦》《差し迫る破滅》
人々が恐怖し、兄弟姉妹が斃された。ハゾレト神の祈りに応えるように王神の玉座が揺らめいた。そして空間の虚無の穴から現れたのは二本の湾曲した角、黄金色をまとう輝かしい姿……だがそれは邪悪な笑みを浮かべると、眼下の街へと破壊を振りまいた。神も人々も唖然とし、ある者は王神の欺瞞を悟り、ある者はそれでも王神を信じ続けた。
(7) 《バントゥ最後の算段》
王神へとひざまずくバントゥ。そして命令を受け、ハゾレトへと刃を向けた。傷を負わされ、ハゾレトもまた王神の欺瞞を知った。そしてバントゥだけは最初から王神の真実を知っており、それでいて生き伸びることを選んでいた。ひざまずいて服従を誓うバントゥを、王神は「死して仕えるがよい」と一蹴した。だが最期の力をもって、バントゥはハゾレトを救った。
(8) 《永遠の刻》(注目のストーリー4/5)
《永遠の刻》フレイバーテキスト
蓋世の英雄に約束された来世とは、永遠衆として仕えることである。
3体目、スカラベの神が現れた。それに続くのは過去に試練を通過した英雄たち……だがその姿は輝くラゾテプ鉱石に包まれていた。彼らは街へ殺到し、殺戮を開始した。
(9) 《ハゾレトの終わりなき怒り》《穿刺の一撃》
《穿刺の一撃》フレイバーテキスト
「紛い物の王神やその子分の虫どもに、私たちの運命を決めさせるもんですか。」
――ター一門の元修練者、サムト
ただ一柱残ったハゾレト神は、蠍の神に苦戦を強いられていた。毒針に貫かれ、だがその腕を切断することでかろうじて死を逃れる。そして駆け付けたサムトやデジェルたちの助力と戦術を得て、蠍の神をオベリスクで突き刺すことに成功する。そして神の炎に身体の内から焼き尽くされ、蠍の神は灰となって消えた。
(10). 《試練を超えた者、サムト》
蠍の神を倒し、サムトはハゾレト神より心からの感謝を述べられる。その勝利と達成感、神の暖かさに高揚し、彼女の内にあった「プレインズウォーカーの灯」が点火した。不可解な感覚とともに飛ばされた先は、ナクタムンとは、アモンケットとは違う見知らぬ土地。だが彼女はすぐに神のもとへ、友のもとへ戻ることを選んだ。
(11) 《破滅の刻》(注目のストーリー5/5)
《破滅の刻》フレイバーテキスト
「ここでは一切の存亡は我の手の上よ。おぬしらゲートウォッチもな。」
――ニコル・ボーラス
破壊された街、跋扈する怪物、あまりにも多くの死。焦りと無念と疲労の中、ゲートウォッチはついにボーラスと対峙する。だが一人また一人と圧倒的な力の差を見せつけられ、次元渡りで逃走する羽目となった。後には満足するニコル・ボーラスと、破壊されたナクタムンの街だけが残された……。
4. これからどうなるの
■ アモンケット世界は?
ハゾレト神の導きのもと、わずかな市民が砂漠へ脱出しました。
血と化した川、蝗の災害、そして脱出/Exodus。私もあまり詳しいわけではないですが、旧約聖書の「出エジプト記」なのでは、と気づいた人は(特に海外には)多かったようです。事実、マローも「『アモンケット』ではそのモチーフを避けたが『破滅の刻』ではそうでない」と述べていました(参照1 参照2)。
この先、ボーラスが彼らを追うのかどうかはわかりません。そしてそれらに追われずとも、過酷な砂漠の環境や跋扈する怪物、とても厳しい運命が待ち受けているのは確かです。バンドル付属小冊子でも彼らの今後について触れられていました……少なくとも、希望を残して。そのまま抜粋して翻訳します。
バンドル付属小冊子P.16より訳
エピローグ
ゲートウォッチは去ろうとも、ナクタムンの民は強靭です。ボーラスの不死軍団である永遠衆だけでなく、生きている市民もまた神々によって鍛えられていました。かつて、彼らは力を示し、栄光ある死を賜ることこそ最大の目標と信じてきました。人生こそが、究極の目標となりました。試練にて学んだ技術を、生き伸びるために用いなければなりません。結束、知識、力、野望、そして熱情はこの呪われた世界と、そして邪悪なドラゴンのプレインズウォーカー、ニコル・ボーラスが放った恐怖と戦うための頼もしい力となるでしょう。
砂漠へと脱出した人々が、ハゾレト神の庇護のもとで細々と生き残っている様子が数枚のカードからわかります。願わくばせめてこの「エピローグ」のように、彼らが前を向いて生きていけますように。
■ ゲートウォッチは?
ゲートウォッチの敗北は「敗北サイクル」として早くに発表されていました。
ジェイスはボーラスの罠にかかり、リリアナは鎖のヴェールの件で言いくるめられ、チャンドラは炎の体現たるドラゴンに通用するすべもなく、ニッサはボーラスに屈した世界に屈し、ギデオンは友を守れなかった苦悩から、逃亡するに至りました。誰もが言っていますが青・黒・赤の「敗北」がボーラス自身にも引っかかるのは笑うところ。まあこれは仕方ない。
さて単純?に力の差を見せつけられたチャンドラ・ニッサ・ギデオンはともかく、危ないのはもう2人だと思います。ジェイスとリリアナ、元々ボーラスとの面識がある二人が特に悲惨なことになったのは、ボーラスの恐ろしさを知っていながらアモンケットへやって来たことへの戒めだったのでしょうか。
ジェイスについては、話中では無事に逃げおおせたのかはっきりしません。ですがアモンケットアートブックには不穏な記述がありました。
アモンケットアートブックP.218より
(原文)Jace crumpled to the ground, then planeswalked away as his mind was shattered.
(私訳)ジェイスは崩れ落ち、精神を砕かれて次元を離れた。
「mind was shattered/精神を砕かれて」。ジェイスが精神に深刻なダメージを負うというのは、実のところ過去にも数度あったのですが(それもどうなんだ)。例えば『ラヴニカへの回帰』では「暗黙の迷路」への好奇心からニヴ=ミゼットの精神を覗いてしまい、そこから得た知識が危険なものだとして自らそれを消去したものの、後ではなはだ困ったことになる……という展開がありました。今回どこまで「砕かれた」のかはわかりません。この先ラヴニカは大丈夫なのだろうか。
そしてジェイスといえばもう一つ気になるところがありました。ジェイス本人についてではないのですが。
Magic Story「破滅の刻」より引用
記憶のごく小さな一片。水晶の壁のように滑らかで目がくらむような、とある精神の表面……だがその思考が心に入りこむと、それは自然と消えた。何処でそのようなものを見たのか–もしくはそれが一体何だったのか、彼は思い出せなかった。
「どこで見たのか」「一体何だったのか」。正解はMagic Story『戦乱のゼンディカー』編から、ジェイスがウギンの精神を覗いた際のそれです。
Magic Story「『目』での天啓」より引用
ジェイスはこの偉大な存在の精神を読み、その話を確かめようとした。だが彼の精神は水晶の壁のように滑らかで目がくらむほどだった。
ジェイスがなぜこれを思い出したのか、そして記憶に優れるジェイスがなぜウギンだと思い出せなかったのか……。
一方リリアナは、築きかけていた仲間からの信頼を早くも失ってしまう結果となりました。ゲートウォッチに入ってから順調にヨリ戻してんなー、とニヤニヤしていたらこれだよ! そのジェイスが見ていなかったのはせめてもの救いでしょうか。仲間の目の前で敵に言いくるめられる、自分はそういう人物なのだと仲間に見せつける羽目になってしまうという屈辱。「信じてたのに!」というチャンドラの叫びが切なかった。
そして敗北サイクルの詳細を把握してから今年のSDCCプロモである「エジプト壁画風プレインズウォーカー」をよく見ると、描かれたものの意味がなんとなく見えてきます。
ボーラスの角に取り込まれるリリアナ、砂に屈するニッサ、不死身の盾に傷を入れられるギデオン……この5人のアートは「ボーラスが魔法で石に刻んでいる」とのこと。魔法、とはいえなかなか絵心ありますね王神様。ニッサとチャンドラの順番が物語と逆ですが、アートブックでもジェイス→リリアナ→ニッサ→チャンドラ→ギデオンだったので元々はこの順だったのかもしれない。
そして。第53回に書いた通り、アジャニは「集合場所」としてドミナリアを指定していました。あるいはそれが来年春のセット『ドミナリア』へ繋がってくるのでしょうか? ですがここで問題なのは、離散してしまったゲートウォッチは果たしてドミナリアへ辿り着けるのか、ということ。
Magic Story「衝撃」より抜粋
「ならばすぐに動こう。それで、リリアナ、集合場所は知っていると聞いたが?」
リリアナは片眉を上げ、力なく片手を動かしてはぐれた髪の一筋を耳にかけた。「親愛なるギデオンさん、私は多元宇宙の無数の世界を旅してきたの、あなたが生まれる何世紀も前にね。色々な場所を知ってるし、アジャニが言った場所も、よーく知ってるわ」
「ならば案内は任せる。アモンケットも、その後の集合場所にも」 ギデオンは暖かな笑みと思うものをリリアナへと閃かせた。
「よーく知ってる」という表現からするに、ここで具体名こそ出ていなかったものの集合場所はリリアナの故郷でもあるドミナリアと考えて間違いないと思います。ですが仮に各人が独力でドミナリアを目指すことになったとして、場所を知っているのか否かを考えてみた。
- ギデオン:上記の描写からは知らなそう
- ジェイス:無限連合時代に色々やっていたので知っているとは思う
- チャンドラ:ヤヤ・バラードの故郷なので伝手はあるかもしれない
- ニッサ:「あまり多くの次元を訪れたことがない」ので知らなそう
……割とまずそうではある。そしてドミナリアはとても広大なので、辿り着けたとしてその世界内でどうやって合流するんだろうか。この先、ゲートウォッチの出番は減るとのこと。あるいはこれから、離散したゲートウォッチがしばらく時間をかけて再集合を目指すのかもしれません。私のこういう「今後の予想」が当たったためしはないのですが。
■ ボーラス達は?
『破滅の刻』最終話ではテゼレットも顔を出していました。約半年ぶり、でもよく考えたら『霊気紛争』編が終わってから話中では数日しか経過していないんですよね。カラデシュで次元橋を壊されてから直行したのではなく少し寄り道をして来たという感じ? そして「次元橋は彼(ボーラス)のもの」という記述。《次元橋》はチャンドラ&ギデオンによって破壊されたのでは? そのはずでした……が。
『The Art of Magic: the Gathering: Kaladesh』P.209より引用・翻訳
ゲートウォッチは与り知らなかったが、テゼレットは命からがら逃げただけではなかった。彼は次元橋の核部分をその身体に組み込み、自らが次元橋となったのだった。勝ち誇り、彼は謎めいた主の下へと帰還した。
同じくカラデシュアートブックのP. 203によれば、次元橋が運べるのは「inanimate objects/非生物」とのこと。アモンケット次元で作り上げたゾンビ兵団、永遠衆……。そしてボーラスが言い放った、ある意味最大の爆弾発言。
「ラル・ザレックを呼んで来るのだ」
……オイオイオイ。たしかに青赤って色はボーラスと一致してるけど。ボーラスの配下は無数の次元に無数に存在するって言うけど。精神砕かれてしまったジェイスといい、ここでラヴニカが不穏なことになるとかなの……? 私のこういう「今後の予想」が当たったためしは(略
5. おわりに
ウェブで展開されるようになってから初めての、徹底的なバッドエンド。マジックの物語で時折語られるこの「救いようのなさ」に初めて本格的に触れたという人も多いのではないでしょうか。私も久しぶりでした。雰囲気としては『新たなるファイレクシア』に近いかもしれません。主人公たちは破れ、世界は悪に屈する……たまに、こんなエンディングもあります。
ですが、そして全く個人的な意見なのですが、ウェブ展開が行われて多くの人に物語が読まれるようになり、ゲートウォッチが物語を動かすようになって以来、これまでの様々な「未解決問題」が解決に向かっているような感があります。エルドラージ、リリアナの悪魔、ボーラスの暗躍。カードとしてのプレインズウォーカーが登場し、彼らがメインを張るようになってからこれまであちこちに、様々に捲かれていた物語がきちんと進行している。その点で私はとても安心しています。
次回は『統率者(2017年版)』を扱う予定……なのですが。
ちょっと今年のラインナップすごすぎるんだけどー!!
それではまた!!
(終)
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