あなたの隣のプレインズウォーカー ~第66回 カードで分かる! ドミナリア史 その1~

若月 繭子

 こんにちは、今月は遅くなってすみません若月です。

 それというのも『ドミナリア』があまりに圧倒的すぎて……カードが公開されるたびに歴史に溺れて死にそうになっていました。なっています。で記事書くことは確かなのだけど、詳しく掘り下げて語りたいものが多すぎて収拾がつかん! どうすればいいのこれ!! と長いこと悩んでいました。

精神腐敗

 良さそうな体裁をようやく思いついたのは4月も半ばあたりの頃でした。ドミナリアはその歴史が語る世界。カードセット『ドミナリア』は、これまでのマジックで語られたドミナリアの数々の歴史的な出来事が取り上げられています。その歴史の一場面そのものであったり、生き証人であったり、伝承であったり……その出来事ごとにまとめれば説明しやすいのでは?

 というわけで、今回はそんな切り口で『ドミナリア』のカードを語ります! また、この連載の過去回で語ったものも結構ありますので、「参考回」としてリンクも記しておきます。

1. 兄弟戦争

アンティキティー戦争

 歴史を語るエンチャント、英雄譚。毎ターン繰り返して能力が使え、ですが回数に限りがある。過去のシステムとしては消散パーマネントに近いながら、1枚のカード内でその能力に変化を持たせることができています。そしてそれによって「長い年月をかけて繰り広げられた出来事」までも表現できるようになっています。縦長のアートもまるでタペストリーのようで、他のカードとは一際違ったものを感じさせます。

 《アンティキティー戦争》のアートでまず目につくのは石を取り合う二つの手。これは間違いなく、兄弟がまだ考古学者トカシアの弟子であった頃に発見した《コイロスの洞窟》、その奥深くに安置されていたパワーストーンを取り合い、《Mightstone》《Weakstone》の二つに分かれた場面なのでしょう。

MightstoneWeakstone

《Mightstone》フレイバーテキスト(Wisdom Guildデータベースの翻訳より引用)

彼の弟ミシュラと、師匠トカシアで一緒にコイロスの聖窟を探検していたときのこと。遅れたウルザはタグシンの広間で驚くべきマイトストーンを発見した。

《Weakstone》フレイバーテキスト(Wisdom Guildデータベースの翻訳より引用)

兄弟の少年時代、トカシアはコイロスの聖窟の探検に彼らを連れて行った。そこ、タグシンの広間で、ミシュラは神秘的なウィークストーンを発見したのだ。

 つまりは兄弟戦争の発端となる出来事であり、以降続く2人の反目を象徴するものでもあるのかと思います。この英雄譚カードをプレイするということはすなわちアーティファクトで戦うということ――ウルザとミシュラのように。右下のドラゴン型機械はもちろん《ドラゴン・エンジン》ですね。ミシュラがファイレクシアから持ち出し、兄弟戦争では主力兵器として用いられました。その1体がウルザに鹵獲されて再プログラムされ、難民船となってメルカディア次元に流れ付き……というのはまた別の話(というか第59回に)。

ドラゴン・エンジン、レイモス

 ところで《アンティキティー戦争》、英語名は「The Antiquities War」。何とこの同名の書物が、実際に物語中に登場しています。これはウルザの妻カイラが記した「兄弟戦争の記録」。後世にも伝わっておりまして、《メアシル》はオリジナルの1冊を所持していました。第61回でも少し取り上げましたが、『ザ・ダーク』の物語において彼はこの書物からジョダーとウルザの繋がりを知ります。

小説「The Gathering Dark」P.211-212より抜粋・訳

それはクルーグのカイラによって記された「アンティキティー戦争」の一冊だった。

(略)

問題の頁は開かれ、大きな真鍮の栞が置かれていた。メアシルが示した一節は本の結末付近だった。バールがそれを読むのをメアシルは何も言わずに待った。

「かの大破壊がアルガイヴ、当時のカイラの居住地にまで届いた時の様子ですな」バールは言った。「夫であるウルザが弟を倒すために放った爆発の衝撃波は、数千マイル離れた彼の故郷までも届いた。それでも塔をなぎ倒し、石壁にひびを入れるだけの威力があったと」

「その隅の記述だ。思うに、カイラ自身の手によるものだろう」メアシルが言った。

バールは目を狭め、そして頷いた。「ジャーシルについての言及のようです。カイラの孫であり、まだほんの子供であったと。その衝撃波に怯えていた」

「そしてギーヴァ州はかつてアルガイヴの国であった」

バールは顔を上げた。「このジャーシルが、あの少年の祖先だとお考えなのですね」

 後世の学者にとっては、兄弟戦争やウルザ・ミシュラの研究をする上で極めて重要な著作となっています。

 次はこちら、禍々しいデザインのアーティファクト・クリーチャー。

クルーグの災い魔、トラクソス

 兄弟は青年時代、反目する別々の国にてそれぞれ地位を得ていました。ウルザはヨーティア/Yotiaに、ミシュラはファラジ/Fallajiに。両国が一触即発にある中、ヨーティアの都市クルーグ/Kroogをミシュラの戦闘機械の群れが襲い、ウルザ不在のうちに壊滅させてしまいました。カイラはウルザの弟子タウノスに助けられて命からがらクルーグを脱出して生き延びます……カード名を見るに、《クルーグの災い魔、トラクソス》はつまりクルーグを襲った戦闘機械に他ならないのでしょう。そしてこのエピソードも「アンティキティー戦争」には間違いなく記述されているかと思います。そしてここからはヨーティアとファラジという国家同士ではなく、ウルザとミシュラの戦い。「兄弟戦争」の真の開戦と言っていいのではないでしょうか。

 さらには、兄弟戦争の終焉もカードになりました。その場面自体はこの連載でも何度か書いてきました。アルゴスにおける最終決戦にて、ついにウルザとミシュラは対峙します。ですがその不自然に若々しい姿、そして戦場に満ちる異形の機械を見て、ウルザは弟がファイレクシアに堕ちてしまっていたことを知ります。

仕返し

《仕返し》 フレイバーテキスト

不潔な、金属的な悪臭でウルザの五感が圧倒された。そのとき、ウルザは弟がもう弟でないことを悟った。

 絶望の中、ウルザは世界に破滅をもたらすとされる杯、《Golgothian Sylex》へと祈りました。弟を、ファイレクシアを止めるために。

ウルザの殲滅破Golgothian Sylex

《ウルザの殲滅破》 フレイバーテキスト

数世紀前、ある男の復讐が世界を氷と闇の内に閉じ込めた。

 ウルザの右手にその《Golgothian Sylex》があるのがわかります。この《ウルザの殲滅破》は両軍を滅ぼし、アルゴス大陸を消し飛ばし、衝撃波はドミナリアの広範囲に届き、それだけでなく気候までも変動させてやがて長い氷河期をもたらしました。 ちなみにこの時のウルザの格好は、正確には《ウルザの殲滅破》とは異なっています。当時の(というか『ウルザ』ブロック期の)ウルザは時代や場所ごとに様々な姿と格好を使い分けており、カードでは《仕返し》の右側の人物が兄弟戦争終結当時のウルザになります。対して《ウルザの殲滅破》のウルザは『インベイジョン』ブロックでしばしば目にしたわりとおなじみの格好。なぜ? まあ素直に考えて、このカードを一目見たときのわかりやすさを優先したのではないでしょうか。

 そして『ドミナリア』では、そういった大災害から世界が復興した姿もまた描かれています。兄弟戦争で荒廃した大地が蘇る。再録ではありますが、そんなカードもきちんとあります。

自然のらせん

 この渦巻き状の地形。元はそれこそ兄弟戦争が最初に語られた『アンティキティー』のカード、そして多くのフォーマットで禁止・制限カードとなっていますので現在実際に使用されているのはヴィンテージと統率者くらいでしょうか……これは間違いなく《露天鉱床》

露天鉱床

《露天鉱床》フレイバーテキスト(日本語訳は『基本セット第4版』より)

それ以前の戦いとは異なり、ウルザとミシュラの戦いでは、ドミニアそのものさえも戦争の犠牲となった。

※ドミニアとドミナリアは昔しばしば混同されていました。

 「らせん/Spiral」という単語を《露天鉱床》の地形に適用するとは! これはとても上手い再録だと感心させられました。

《自然のらせん》 『ドミナリア』版フレイバーテキスト

「アルゴスの最後の防衛がウルザの巨大戦車に敗れたとき、ティタニアは『自然は滅びない。ただ変わるだけよ。』と言った。」

――アンティキティー戦争

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2. 氷河期~同盟成立

 この期間は、ありがたいことに『ドミナリア』の1枚のカードがほぼ全て語ってくれています。

氷河期

 カード1枚に込められながら、盛りだくさんなこの歴史。詳しく語ろうとすればいくらでも語れてしまうので逆に難しいところでもあります。ですが幸いなことにこのカードのプレビュー記事に、簡潔かつわかりやすい説明がありました。そちらを参考に、かつ他のカードを交えつつお話しします。詳しくはいずれ「アイスエイジ物語もリマスター」回を書くときに!

 まず、氷河期とはいつごろから、どのくらいの年月に渡って続いたのでしょうか?

公式記事「DOMINARIA CARD OF THE DAY: TIME OF ICE」より訳

《氷河期》はおよそ450ARから2934ARまで、数千年に渡る複数の出来事を網羅しています(寒冷化が始まったのは64ARからですが、氷河期の開始は450ARとするのが現実的です)。2934ARに、フレイアリーズが「世界呪文」を唱えて氷河期を終わらせました(そしてここには描かれていない様々な影響を引き起こしました)。

 「AR」はドミナリア次元にて使用されている暦であり、「アーギヴィーア暦/Argivian Reckoning」の略です。『ドミナリア』現在は4565AR付近とする説が有力です。起点はウルザとミシュラの生年。64ARは兄弟戦争が終結した年、つまりは上に述べた《ウルザの殲滅破》の年にあたります。寒冷化はこの直後から始まり、数百年を経て完全に「氷河期」と言える状態にまで移行しました。小説「The Brothers’ War」のラストシーンに、寒冷化の始まりが示唆されています。

小説「The Brothers’ War」 P.409より訳

そしてタウノスが内陸へ向かうと、降り始めの雪が寒風に乗って彼を出迎えた。

 では《氷河期》のカードを上から順に見ていきましょう。まず最上部に飛んでいるのは《白き盾の十字軍》《Kjeldoran Skyknight》

白き盾の十字軍Kjeldoran Skyknight

 《Kjeldoran Skyknight》は『アイスエイジ』当時に引いて「能力が3つもあるなんて!」と驚いたのを今でも覚えています。続いて雪山に立つ要塞のような建物は《Kjeldoran Outpost》。ここでは《屍術師リム=ドゥール》率いるゾンビの軍勢とキィエルドー・バルデュヴィア連合軍の大規模な戦いが繰り広げられました。

Kjeldoran Outpost

 《氷河期》アート、山の左側に同じ監視塔らしきものがあるのがわかりますね。『アライアンス』には強力な土地カードが複数収録されており、特に《Kjeldoran Outpost》《Lake of the Dead》《Thawing Glaciers》は有名でした。当時の私にとってもこれらは「憧れのカード」であり今でも結構特別です。《Lake of the Dead》はむしろ現代の方が活躍しているかな?

 そしてその戦いを示すのであろう夥しい死体を過ぎて、手前に立つ2人は『アイスエイジ』『アライアンス』の主要登場人物2人。《キイェルドーの王、ダリアン》《冷眼のロヴィサ》です。

キイェルドーの王、ダリアン冷眼のロヴィサ

 上にも少し書きましたが、『アイスエイジ』期のこと。テリシア大陸北方にて《屍術師リム=ドゥール》がゾンビの軍勢を率いて勢力を増し、寒冷化の深まりとともに大陸の文明を脅かしていました。彼の背後にはプレインズウォーカー、「夜歩みし者」レシュラックの姿がありました。

屍術師リム=ドゥール

 その脅威にさらされたのが、王国キィエルドーと蛮族のバルデュヴィア。2つの文明は長いこと対立してきました。ですが後述するジョダーの尽力もあり、2つの勢力は反目を脇にやって同盟(=『アライアンス』)を結び、リム=ドゥールに対抗します。

 ダリアンとロヴィサはカード化こそ『コールドスナップ』ですが、フレイバーテキストでの登場は古く、ダリアンは『アライアンス』、ロヴィサは『アイスエイジ』からになります。特にロヴィサは『アイスエイジ』『アライアンス』計20枚ものカードに登場していました。ところでダリアンは『マスターズ25th』、ロヴィサは『デュエルデッキ:精神VS物理』にて再録されていました。どちらも比較的最近なのは『ドミナリア』でこの歴史を振り返るのを踏まえてのことだったのでしょうか?

 少し話はそれますが、『コールドスナップ』にはこの2人だけでなく『アイスエイジ』ブロックの主要登場人物が年月を越えてカード化されています。

アーカム・ダグソン結界師ズアー

 特にアーカムはとても面白いキャラで私は大好きです。工匠……というより発明家という表現の方がしっくりくるかもしれません。技術力は確かに高いのですが、熱心すぎて何か抜けているというかそういう、少し迷惑なのだけど憎めない人物。例えば話中では「蒸気で稼働する自動人形を実戦投入するものの、その熱で永久凍土が溶けて土に埋もれてしまった」というようなエピソードがありました。

Aesthir GliderAesthir Glider

 今回再録された《エイスサーの滑空機》も、『アライアンス』版はフレイバーテキストを見るにアーカムの作と思われます。

《エイスサーの滑空機》 フレイバーテキスト

アーティファクト技術がもたらす恩恵のよい例だ。完全な従順とソルデヴィの鉄の翼を持っているのだ。

――― ソルデヴィの機械魔術師、アーカム・ダグスン

 話を《氷河期》に戻しましょう。リム=ドゥールと思しき屍を過ぎて、枠の下の方にいる2人ももうわかりますよね。左がヤヤ・バラード、右がジョダー。取り囲む触手は? マリット・レイジなのだそうです。

暗黒の深部マリット・レイジトークン

 マリット・レイジは存在こそ言及されていましたが、物語に直接関わってはきませんでした。何者なのか? 実のところ、その名が語られた氷河期当時でも情報は曖昧なものしかありません。

小説「The Eternal Ice」P.51より訳

この数日の研究には、マリット・レイジという神秘的な存在も含まれていた。五百年に渡って凄まじい力を蓄積し、海底の巨大な墳墓に埋葬されたと言われている。このマリット・レイジがプレインズウォーカーであった可能性は高く、だがジョダーが集めた僅かな証拠には、極めて強大でありながら、レイジはウルザやその同胞と同じ分類の中にはなかった。マリット・レイジはプレインズウォーカーではないのかもしれないが、それほど強大な存在でも封じ込めることは可能という性質は、リム=ドゥールの探究には役立つと思われた。

 このように書かれてはいましたが、第47回にも書いたように実のところプレインズウォーカーではないのだそうです。続いてヤヤ・バラード。

特務魔道士ヤヤ・バラード

 ここは『アイスエイジ』『アライアンス』当時の姿で。『アイスエイジ』期のこと、ヤヤはジョダーから盗みを働こうとして捕まりました。ですがジョダーは彼女を弟子として魔法を教授し、やがてヤヤは独立します。しかし師弟兼友人のような2人の付き合いはその後も続き、『アイスエイジ』の小説で彼女はリム=ドゥールの城塞からジョダーを救い出しました。そして2人はキィエルドーとバルデュヴィアの橋渡しを務め、リム=ドゥールの勢力を排除してテリシアに平和をもたらします。ヤヤについては『ドミナリア』を踏まえて詳しく取り上げて書きたいところですね……。

永遠の大魔道師、ジョダー

 そしてジョダー。「過去の大物キャラクター」は近年盛んにカード化されていますがついに来たか! という感じです。詳しくは第61回にも取り上げましたが、もう一度。元々は魔術の才能を持つ一介の青年でしたが《若返りの泉》に溺れかけたことで非常な長命となり、《偽善者、メアシル》《高位の秘儀術師、イス》との出会い、さらには自身の血筋を巡る様々な思惑を経て『アイスエイジ』当時には既に「永遠の大魔導士/Archmage Eternal」の称号を得ていました。カード能力は五色の魔法を使いこなすその実力を反映したものですね。《太陽の拳》の能力、ですがそちらとの直接の関係はないはずです。

《永遠の大魔道師、ジョダー》 フレイバーテキスト

「数々の年代記が長年にわたってジョダーという名を記している。これはおそらく一人の魔道士ではなく、家系の名か秘儀的な称号なのであろう。」――アルガイヴの学者、アルコル

 彼のこのフレイバーテキストは、アイスエイジ小説のチャプター1冒頭に全く同じ内容が詳しく書かれています。

小説「The Eternal Ice」P.11-12より訳

雪に埋もれた氷河期の数千年間、何か重要な出来事の度に、とある一つの名前が繰り返し登場している。時にその名は仄めかされる程度や背景的なものであり、時には古の翻訳にかすかな存在を見られるに過ぎない。だがその名は常に存在する。ジョダーという名が。

(略)

その人物や起源が何であろうと、そのジョダーは氷の世紀に繰り返し現れてきた。アダーカー荒原の銀の彫像を記した伝説に。不死を求めてキィエルドーに魔法戦争を仕掛け、やがて姿を消した狂えるズアーの伝承に。今や偽書と言われる、フレイアリーズの覚醒の伝説においては傑出している。嵐の世紀にはトレッサーホーンの陥落で目撃されている。そして今や荒廃した不可視の学院の断片的な伝承には欠かさず登場している。わずかに持ち出された秘本において「永遠の大魔道士」が個人の名で言及される際、それは常にジョダーである。

一人の人物なのか、それとも集団なのか? 名前なのか、地位なのか? 入念な計画、もしくは只の偶然か? 後の世に快適に座す現代の歴史学者が、それを決めるのは愚かというものだろう。

言えることは。二千五百年程の間、重要な出来事には、その何処かにジョダーの名が当たり前のように見られるのである。

――アルガイヴの学者、アルコル

 とはいえ彼は前述のロヴィサ、ダリアン、ヤヤのように『アイスエイジ』当時から何らかの形で登場していたわけではありませんでした。カードでの初出はずっと後の『次元の混乱』です。

ジョダーの報復者

 当時は小説を読まないとこの「ジョダー」とは何なのかすらわからなかったのですが。話中の時間経過では数千年ぶりに表舞台に登場、主として古い仲であるフレイアリーズに関わっていました。

 さてフレイアリーズが「世界呪文」で氷河期を終わらせて20年後のこと。環境の変化とともにキィエルドーとバルデュヴィアは同盟成立当時よりもずっと融和した関係となっていました。ダリアンとロヴィサは二つの国家を統合して新アルガイヴを建国します。正確には、ダリアンの娘アレクサンドライト/Alexandriteとロヴィサの息子ロサー/Lotharとの婚姻によって。こう書くと政略結婚のようですが完全にそういうわけでもなく、この2人はわりと当初からお似合いでした。

 二つの国家が統合、ですが両方の名を並べたならば優劣関係を感じさせてしまいます。そこは古から生きるジョダーが素晴らしい案を用意していました。

小説「Shattered Alliance」P.206より訳

ジョダーは言った。「氷河期が訪れる以前、この地に国々がありました。僅かな生き残りはラト=ナムへ渡り、我々はその古の地図を今も所持しています。兄弟やそれ以前の時代にまで遡る古いものです。人が時を数えはじめた頃、この地は今とは異なる名を抱いていました。それは、アルガイヴと呼ばれていました」

各々がその名を反芻し、沈黙が流れた。

「一つのアルガイヴ」とロサー。

「統一アルガイヴ」アレクサンドライトがそれを正した。

「古い名だ」ダリアンが言った。「そして、古い名には力がある」

ロヴィサが続けた。「だがキィエルドーでもバルデュヴィアでもない、新たなものだ。一つとなった、だが片方が勝っているのではない。一つの、新アルガイヴだ」

 そうして建国された新アルガイヴは長く栄え、ファイレクシアの侵略や大修復も乗り越えて『ドミナリア』にもその姿を見せてくれています。

アルガイヴ国家執事、ベイルド

《アルガイヴ国家執事、ベイルド》 フレイバーテキスト

「アルガイヴの壁は平和的な国家同盟によって建設され、その後15世紀もの間戦争を防ぎ続けている。この教訓は明白だ。」

 《氷河期》の歴史はこんなところですが、もう一つ。ヤヤはどうやってプレインズウォーカーになったのでしょう? 簡単に説明しますと、『アイスエイジ』の終盤にてリム=ドゥールとジョダーは決闘に至り、非常に激しい戦いを繰り広げます。やがて敗北を察したリム=ドゥールは主であるレシュラックに助力を懇願するのですが、そうではなく何処かへと連れ去られてしまいました。表向きジョダーが勝者ということになり、ですがリム=ドゥールがはめていた紅玉の指輪が偶然にも?ヤヤの手に渡ってしまいます。彼女はその中に残る古の悪しき魔術師《メアシル》(そうです、あのメアシル)に心を乗っ取られてしまっていました。それを知ったジョダーはあの《Reflecting Mirror》をヤヤの頭に叩きつける(物理)ことで彼女のプレインズウォーカーの灯を点火させ、同時にメアシル/リム=ドゥールから解放しました。《ヤヤの焼身猛火》はその場面です。

ヤヤの焼身猛火ヤヤ・バラード

 手前にひるんでいるのはジョダー。ヤヤが覚醒したのは氷河期が終わって間もない頃、つまり彼女は旧世代プレインズウォーカーでした。それが「大修復」による灯の変質を経て60年、今や白髪のお婆さんです……ところで皆さんお気づきですよね、『イクサランの相克』最終回の描写。

Magic Story「彼らの謀り」より引用

ジェイスは意気揚々と笑顔を見せた。「ギデオン! 俺は死んでなんかいないぞ!」

ギデオンはジェイスを抱擁しようと急ぎ、だがその部屋にいた一人が不意に行く手を遮った。七十歳程の女性。厚い赤色のローブをまとい、銀色の髪は緩くまとめられ、縮れた数本の編み髪が遊んでいた。その女性はジェイスを上から下まで、どこか楽しそうな笑みを口の端に浮かべて見た。そして肩越しにギデオンを振り返り、眉をつり上げた。

「何だね、この本の虫は?」

 ……つまりそういうことですよね?

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3. ジェラード、ウルザ、ヨーグモス

 これもかなり長いので、今回はひとまずこの出来事でも最も目玉となっているであろうカードについて。『ドミナリア』のカードプレビューにて、私が一番悲鳴を上げたのはこのカードでした。

ヨーグモスの不義提案

 当時の私の狼狽っぷりがこちらです。

 オーケーオーケー落ち着いて解説しよう場面を。これは『プレーンシフト』終盤~『アポカリプス』序盤の展開になります。ウルザとジェラードは別々に捕えられ、ファイレクシアにて揃ってヨーグモスへと膝をついていました。

歪んだ愛着

《歪んだ愛着》 フレイバーテキスト

ヨーグモスの栄光の前では、これさえも理にかなっているというわけだよ。

―― ウルザからジェラードへ

 なぜそんなことに? ウルザは、数千年をかけて滅ぼそうとしてきたファイレクシアの内に入り込むに至って、その技術と美と真価に惹かれる自身に気付きます。その心をヨーグモスに察知され、そして第七球層に広がる死体の中に、ウルザは見覚えのある姿を認めました。数千年ぶり、ですがそれが何者かをウルザは即座に察しました。

ウルザの罪

《ウルザの罪》 フレイバーテキスト

ヨーグモスの世界のただ中で、ウルザは凍りついたように立ち止まり、ススまみれの目をこすった。「ミシュラ?」

小説「Planeshift」P.284-285より訳

 両耳は失われていた。側頭部の皮膚と筋肉は僅かに頭蓋骨にへばりついているだけで、だが顔は残っていた。黒髪、皺になった眉、鋭い両目、高い鼻、口髭と顎髭……見知った顔だった。数十世紀を経ても、すぐに思い出すことができた。

 「ミシュラ」ウルザは呟き、弟を見つめた。

 前回ウルザとミシュラが対峙した時は、殺し合おうとしていた。一発の火球がウルザに明かしたのは、弟がファイレクシア人と化していたという事実だった。人の皮膚の下に、金属の腱が張り巡らされていた。その単純な呪文は同時に、彼がドミナリアへともたらした疫病を殲滅しなければならないと示した。サイリクスの衝撃はウルザをプレインズウォーカーへと覚醒させ、同時にミシュラを殺した、そう思っていた。それは誤りだったのだ。

 『この者は私を失望させた。力を願い、我を求めた。お前を倒すべく私を利用しようとしたが、私は決して利用されなどしない。ミシュラはお前を倒せなかった。それだけでなく、長年に渡ってドミナリアから私を閉ざした。その罪により、永劫の苦しみを受けている』

 ウルザは視線を落とした。その貴石の瞳がぎらついた。この片方はミシュラのものだった――ウィークストーン。ウルザは両方の石だけでなくそれに込められた力をも手に入れた。ミシュラはその一方で、破滅を手にれた。

 『この者は我がもとを訪れ、だが私はこの者を必要などしない。必要とするのはお前、だがお前は来なかった』

 「これまでは」

 『新たなこの時までは』

 「兄さん」ミシュラはかすれた声を上げた。「助けて」ウルザはそれを見つめるだけだった。「手を掴んで、ここから連れ出してくれ! この地獄から一緒に抜け出そう。どこか穏やかな、風の吹く場所へ、穏やかに死ねる場所へ。連れていって、きっと許してもらえる、そう言っていた。兄さん、連れて行って」

 『許可しよう』声が言った。『これはお前への試練だ。お前の真の心を知るためのものだ』

 「兄さん! お願いだ! 兄さんの中に少しでも人間性が残っているなら、連れていってくれ!」ミシュラは懇願した。その両目は頭上の研磨機械の荒々しい回転が映っていた。

 ウルザは最後の一瞥を投げた。「さらばだ、ミシュラ」彼は背を向け、ゆっくりと立ち去った。

 「戻ってきて! 助けて、兄さん!」ミシュラの絶叫は彼に迫る研磨機械の騒音に遮られた。

 『宜しい。お前の心は把握した。お前は我がものだ』

 「そうだ。王たるヨーグモスよ、私はお前のものだ」

 ミシュラを助けてファイレクシアを離れるか、ここに留まるかを迫られ、ウルザは留まることを選択しました……このミシュラが本人なのかどうかは、今日に至るまで明かされていません。ですがこれをもってウルザはヨーグモスへと完全に屈します。いかにしてファイレクシアを作り上げたのか、金属に生命を、生命に金属をいかにしてもたらしたのかをヨーグモスから学び、崇拝するために。

 そしてジェラードは、侵略戦争の開戦から間もなくしてファイレクシアの疫病によって死んでしまった恋人、ハナの姿を見て。彼女を真に蘇らせることができる、彼はヨーグモスのその言葉を信じました。ヨーグモスは2人の願いを聞き、ですがその報酬を与えるのは戦って生き残った1人のみ、そう言い渡しました。

 この次の展開は、昔からよく知られているカードが示しています。

ファイレクシアの闘技場

 この時のウルザはプレインズウォーカーとしての力の多くを奪われてしまっており、ジェラードに首を切られてしまいます。そしてジェラードはウルザの首を手に、ヨーグモスへとハナの復活を願う……《ヨーグモスの不義提案》はそんな場面です。

小説「Apocalyps」P.128より訳

「偉大なる王ヨーグモス、惜しみなき恩寵を与え給う者よ。ですが私が真に望むのはただ一つ――最愛の人ハナの、新たな、ありのままの、真の、束縛なき生命。そのために私は戦い、殺しました。彼女が蘇るであれば、貴方様のしもべとなりましょう」

 そしてヨーグモスはハナの口を通してウルザの首を求めますが、そこに至ってジェラードは気付きます、それは決して真のハナではないと。ヨーグモスが作り出した複製の人形に過ぎないのだと。

偽り

《偽り》 フレイバーテキスト

お前はハナじゃない!――― ジェラードからヨーグモスへ

 ジェラードはハナの複製を刺すのですが、実はヨーグモスはこのハナの中に自意識を込めていたのでした。ジェラードが決して狙わないであろう場所に。反射的にヨーグモスはジェラード(とウルザの頭)をファイレクシアから放り出し、二人はアーボーグの要塞へと舞い戻りました。

 そしてジェラードはクロウヴァクスを倒すとウェザーライト号に救出され、ですがヨーグモス自身が巨大な暗黒の雲の姿をとってドミナリアに顕現します。そこで首だけになっていたウルザが言いました。ヨーグモスを完全に滅ぼす手段が一つだけあると……

レガシーの兵器

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4. たぶん続きます

 さて、ファイレクシア侵略戦争関係のカードはもう何枚かあります。それに続くのは「オタリアの騒乱」と「大修復」。いや今回わかったけどやっぱり『ドミナリア』果てしない……いくらでも書ける歴史がある……残りは次回書きます。しばしお待ち下さい。

内陸の湾港チェイナーの苦悩ドミナリアの大修復

(続く)

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この記事内で掲載されたカード

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