By Daisuke Kawasaki
神を語ることと、物語を紡ぐことは同じだ。
人の最古の物語が神話だとすれば、神を語ることから物語は始まった。
目の前の認識できたものを、自分の見たいように見たときに、人は最初にそれに「神」という名前を与えたのだ。
閑話休題。
『テーロス』で「神」というクリーチャータイプが産み出されたその頃、日本でも3柱の神が産み出されていた。
産み出したのは神決定戦。当時、まだHareruya Pros入りしていなかった八十岡 翔太を、今はHareruya Hopesで活躍する木原 惇希が制し初代スタンダード神となった決勝戦が2014年の6月。もう、3年ほど前の話だ。
そう、もう3年。
『テーロス』で産み出された神というクリーチャータイプとメカニズムが『アモンケット』で再び帰ってきた。もちろん、『テーロス』と『アモンケット』の神は、まったく別のものだが。
挑戦者決定戦も併せると、非常に長いスパンで開催される神決定戦だが、3年でついに8期となった。ここまで6度の防衛を重ね、「最古の神」の二つ名を持つ川北 史朗なんて、『テーロス』の神よろしく、「信心」を集めてすでに顕現してしまっているといってもいいだろう。
そんな神決定戦の歴史の中で少し遅れて、ちょうど『テーロス』・ブロックがスタンダード落ちした直後の2015年12月に始まったのがヴィンテージ神決定戦だ。
その時に122人の戦いを勝ち抜き、ヴィンテージ神となったのが森田 侑(東京)。2度の防衛を果たした現ヴィンテージ神であり、川北同様「無敗の神」だ。
メンターを使用して「神」となった森田は、二度の白単エルドラージでの防衛を経て、再びメンターを手に、神決定戦を迎える。
そして、そんな森田を相手にメンターの同型を持ち込んだ挑戦者が佐野 大基(神奈川)。あらゆるフォーマットでマジックを楽しむ猛者が、ついにヴィンテージに手を染めた。事前のインタビューでは「まず目指すは神」と強く語る。
ヴィンテージ神と挑戦者。第8期の神という称号を求めて、ふたりの人による神決定戦という物語が紡がれる。
森田 侑 vs. 佐野 大基
Game 1
ダイスロールで先手は佐野。
佐野はマリガン。一方の森田は土地が3枚に《ヴリンの神童、ジェイス》と除去やカウンターの揃った強い手札をキープする。
佐野が1ターン目にプレイした《ギタクシア派の調査》を森田が《精神的つまづき》でカウンターするところからゲームが始まる。返しで森田は《島》をセットしてターンを返す。
佐野は、さきほどの《ギタクシア派の調査》をカウンターさせたのは、こいつを通すための布石とばかりに《渦まく知識》をプレイするのだが、ここで土地を引くことができない。《Mox Ruby》をプレイしてターンを返す。
当然、山札の上は佐野の知っているカードなわけで、続くターンも土地をひけず《Mox Pearl》をプレイ。対して、森田はフェッチのセットから《渦まく知識》をプレイするが、これは《噴出》を追放して《意志の力》でカウンターする佐野。
しかし、これによってリソース差がついてしまう。森田はその佐野の隙をついて《露天鉱床》で唯一の青マナ源である《Volcanic Island》を破壊する。
こうして、リソース差が強調されるゲームプランへと佐野を引きずり込んだ森田だったが、《ヴリンの神童、ジェイス》《僧院の導師》と続けて《剣を鍬に》で除去されてしまう。
とはいえ、リソースに不安のあった佐野は、この攻防で一度は手札がゼロになってしまう。対して、自らリソース差のゲームプランに持ち込んだ森田は、次々とドロースペルを連打し、一方的に手札を充実させていく。手札があふれかえるほどの状況となっている森田は《噴出》を捨てるほどの状況だ。
佐野「《噴出》捨てるって……」
森田の手札の強さを予測し、佐野は思わずつぶやく。その状況を鑑みず、森田はさらに《束縛なきテレパス、ジェイス》の能力で《時を越えた探索》を再利用する。しかし《ダク・フェイデン》までプレイし能力を起動しても、なお、手札にフィニッシャーが来ない。
なんとか逆転の手立てを……と佐野は《Ancestral Recall》をプレイするのだが、これは当然カウンター。そして、返しのターンで森田がトップデックしたのが待ちに待った《僧院の導師》。
さらに呪文をプレイし続けでトークンを3体生みだすと、とりあえず自身のターンを終える。
佐野「ハンド、カウンターばっかですか?」
森田「さぁね」
佐野が叩きつけた渾身の《ダク・フェイデン》をマナを支払った《意志の力》で森田がカウンターしさらにトークンを増やし、自身のターンに《束縛なきテレパス、ジェイス》で《Time Walk》を再利用すると、佐野は土地と宝石を片付けた。
森田 1-0 佐野
『テーロス』は、不老不死を求めたゼナゴスが神になろうと画策する物語だった。
神決定戦は、神に憧れ、神になろうとする物語。
挑戦者は、神を知り、そして神を倒す策を練る権利がある。
それがあまりにも顕著にでたのは、2014年11月の第2期モダン神決定戦。
赤単バーンを使用する初代モダン神、小堺 透雄の1ターン目の《ゴブリンの先達》のアタックでめくれた挑戦者砂田 翔吾のライブラリートップは《平地》だった。続いて召喚される《魂の管理人》。
バーン殺しを自称する砂田が選択したのは「小堺はバーンを使ってくる」という一点読みでモダン環境でバーンにしか勝てないと言っても過言ではないソウルシスターズだった。
先に瀬尾 健太がスタンダード神、木原を討っていたので、最初の神殺しの称号こそ得られなかったものの、「神決定戦がどういう戦いか」を最初に体現したのは砂田だったと言っていいだろう。
2016年1月に行われた第5期スタンダード神決定戦だってそうだ。
当時のスタンダード神である高橋 優太が、ダークジェスカイというデッキを誰よりも使い込み練り込んでいたこと、そして何より「不屈のストイシズム」は自分が一番強いと考えているデッキ以外を使わないということ。
「名前をつけていたから」と高橋とダークジェスカイの関係を語った現スタンダード神でもある和田 寛也。ダークジェスカイでは構造的に対処しにくい白緑大変異を持ち込み、神殺しに成功した。
「神決定戦は読みあいが面白い」と言われる所以である。
神を殺すには、小細工はいらぬ。「一点読み」という名の神殺しの槍があればいい。
デュエルをする中で、挑戦者は神殺しの物語を紡いできた。
そして、メンターの同型対決にみえるこの戦い、挑戦者の佐野も神殺しの槍を懐に忍ばせていた。
その槍の名は《突然のショック》。
自身のヴィンテージ経験の少なさという弱点を、視点を変えて情報の少なさという長所に変えて、最も受けが広く、そして、森田が最も得意とするデッキであるメンターを使ってくるという「一点読み」でメインボードから採用したこのカード。
勝ち手段を、リソース差からの《僧院の導師》に強く依存したメンターというデッキのアキレス腱。存在を知らなければ、うっかり優先権を与えてしまった瞬間にトークンを産みだすチャンスも与えられず墓地に置かれることだろう。
しかし、構造で対策していた前述の二人に比べれば、佐野の槍は単体の呪文。
マジックの真実、それは引いていない呪文は打てない。だから《僧院の導師》も神も殺せない。
神決定戦は、プロツアー同様、メインボード戦を2戦やる3本先取。メインからの奇襲を決めるチャンスはもう一度ある。
「神殺し」と大きく書かれたTシャツを来た佐野は、「神殺し」の槍を手に入れるべくシャッフルし、次のゲームに臨む。
Game 2
静かな立ち上がりとなったGame 2は、3ターン目に佐野がプレイした《ダク・フェイデン》を森田が《噴出》を追放した《意志の力》でカウンターするところからゲームが始まる。
そして、返しのターン、森田は「サイクリング」と言いながら《Time Walk》をプレイ。これは文字通りサイクリング以上の機能を果たさず、互いに手札を充実させるべく動きのないターンが続く。
先に動いたのは森田。マナを浮かしての《噴出》から《ダク・フェイデン》をプレイ。《Library of Alexandria》をセットしている佐野は、手札を7枚にすることを優先するために、これをカウンターしない。
佐野「こっちにもいいドローくれよー!」
森田「いやぁ、そっちには《Library of Alexandria》があるから、こっちもゆっくりなゲームできないんだよね」
この森田のプレイを皮切りに、両名ともカウンターを駆使し、有効打を通さないゲーム展開となるのだが、《定業》から《宝船の巡航》につながり、森田が一気にカードを引く権利を得る。
一方の佐野は、この時点でドロースペルがなく、展開をできない状態。なんとか《Library of Alexandria》を起動するべく引いたカードを手札に貯めていくのだが、それすらも見透かすかのように森田の手札には《露天鉱床》が隠されている。佐野が《Library of Alexandria》起動のために土地のセットを含めた行動すべてを我慢しているのをギリギリで無にする作戦だ。
そして、森田が《ギタクシア派の調査》で佐野の手札を見ると、土地が4枚。
安全確認した森田は《ヴリンの神童、ジェイス》をプレイする。そして、返すターンにセットした《Library of Alexandria》で自身はドローをしつつ、8枚目の手札となった《露天鉱床》で佐野の《Library of Alexandria》を破壊し、僅かな希望を断つ。
淡々と《束縛なきテレパス、ジェイス》の忠誠度カウンターを貯めつつ、《時を越えた探索》をプレイする森田。
あとは、ゲームを決めるカードを引くだけ、という状況で森田はデッキ名ともなっている《僧院の導師》をプレイ。
そして、序盤に「サイクリング」した《Time Walk》を《束縛なきテレパス、ジェイス》で再利用し、さらに《Black Lotus》で産みだしたマナで《Ancestral Recall》をプレイ、ヴィンテージの魅力を存分に見せ付けると、佐野は場と手札の土地を片付ける。
森田 2-0 佐野
『テーロス』は、神を産み出してしまったエルズペスが、その責任を取り神殺しとなり、そして神の怒りを買う物語だった。
神決定戦は、神が挑戦者相手に神の絶対性を見せつける物語。
神には、挑戦者に対して、自分が神であるという事を活かし、掌で弄ぶ権利がある。
それを最も体現したのが第3期神決定戦で砂田を討ち、第4期、第5期とモダン神を防衛した、勝負師の顔での飽くなき談笑を誇りに思うことで知られる市川 ユウキだろう。
市川が、モダンではBG系や双子をよく使っているということ。市川が、プロツアーではフェアデッキをフォーマットを問わず好むということ。そして、市川が、プレイスキルの高いプラチナプロであるということ。
自分がよく知られたプレイヤーであるという欠点を、視点を変えて相手の思考を縛れる長所とした市川は、相手が一点読みでの神殺しの槍を用意してくることを逆手にとって、連続防衛に成功していたのだ。
もちろん、市川の読みが完全に毎回的中していたわけではない。だが、市川が自身の情報の多さを武器にして勝ってきたのは事実だ。
例えば、第5期。挑戦者の「エルフマスター」高野 成樹は、市川が使ってくる可能性が高いジャンドに対して伝家の宝刀であるエルフをどうしても選択をすることができず、そして、フェアデッキか土地系コンボだろうという読みを大きく外されたリビングエンドを前に十分な対応をできず屈することとなった。市川の読みであるエルフではなかったが、市川の情報が多すぎたがゆえにハマってしまった形だ。
それで言えば、挑戦者であった第3期ですら、圧倒的知名度を持った市川は、神に近い立場でデッキを選択している。
神である砂田であっても、プラチナプロの自分と正面対決を避けるだろう。そして、それならば土地系コンボの可能性はある。そう考えた末に、通常であればジャンドが対策カードとしてサイドインされてもおかしくない《血染めの月》をむしろサイドボードに忍ばせ、それによって勝利しているのだ。
相手は自分をよく知っている。だからこそ、思考は狭まり読みやすい。
それで言えば、「最古の神」川北も同様だ。
第1期からレガシー神を防衛し続け神決定戦の顔として知られるのみならず、日本のレガシーコミュニティでの最重要人物の一人としても知られる川北。彼が何よりも《渦まく知識》を愛することは、歴々のレガシーコミュニティを代表するメンバーで構成された挑戦者であれば、誰でも知っている。
だからこそ、第5期でリアニメイトに対峙した土屋 洋紀は十分な墓地対策を用意できていなかったし、2連続でのリアニメイトを予測できなかった第6期挑戦者の加茂 里樹の《発展の代価》は刺さることがなかったのだ。
神は、自身がキャラクター化されていくがゆえに、自身のキャラクターを利用して対戦相手を弄ぶ。
川北同様、「無敗の神」としてここに座る森田も、初防衛戦となる第6期では、挑戦者の藤井 秀和が愛用するオースが、自分の愛用するメンターに相性が良いことからほぼ使用してくるだろうと確信し、対オースに特化した白単エルドラージで防衛に成功している。
「神決定戦は読みあいが面白い」と言われる所以である。
デュエルをすることで、神は物語を紡いできた。
時に、神は神殺しの槍すら退けてきた。神殺しに成功したエルズペスが結局、神に殺されたように、それすらも神の掌の上なのだ。
挑戦者が神殺しの槍を持ち込むことはあっても、単体の対策カードであれば、それが刺さることは希なのだ。
かつて、川北は青を使うことを看過され、第2期では、メインに《赤霊破》《紅蓮破》の入ったジャンドを使用する高鳥 航平と、第3期ではメインから《窒息》の入った黒緑青殺しを使用する入江 隼を下している。
それは、川北が青を使いつつも青対策を読み、軸をずらしたデッキを持ち込んだからでもあるが、単体のカードに頼った対策の場合、それを引くタイミングで有効度がかわってしまうからでもある。
実際、佐野は2本続けて《突然のショック》を引くことすらできていない。もしかしたら、プレイまでも神殺しを徹底し、より有利な手札になるまでマリガンするというプレイもあったかもしれないが、それは難しかっただろう。
ヴィンテージ神、森田の第6期・第7期のカバレージで繰り返して語られていることがある。なので、慣例に従わせていただこう。
神決定戦の会場は、二人きりの収録スタジオという「緊張感のある」「慣れない」環境なのだ。
その環境ですでに2度防衛し、なおかつ迎え撃つ立場である神が精神的に優位なのは間違いない。そんな神を前に、多くの人が注目する生放送で、特殊な神殺しのプレイを選択するのは、ヘラクレスのような超人でなければ無理だろう。
メインボードからの奇襲というシナリオが空振りに終わった佐野は、サイドボードチェンジはなし。元より神殺しのメンター殺し。メンター相手には最初からサイド後のデッキを持ち込んでいるのだから、当然だ。
一方の森田のサイドボーディングは以下だ。
サイドボードが終わったとしても、佐野の神殺しのエンペラータイムは終わっていない。
佐野がメインから強烈にメンターを意識した構築なのに対して、森田はやっと無駄カードのアーティファクト対策を抜いて、少しはマシなカードに入れ替えただけなのだから。
少なくとも構造的に有利なのは、佐野だ。
Game 3
森田の1ターン目のアップキープに《Ancestral Recall》を佐野がプレイする立ち上がり。対する森田もMoxを使って1ターン目に《ヴリンの神童、ジェイス》をプレイする。
この《ヴリンの神童、ジェイス》は、ついに引き当てることができた《突然のショック》で除去する佐野。さらに、続くターンに森田がプレイした《僧院の導師》も、《噴出》を追放しつつ《意志の力》でカウンターする。
森田の脅威を順調に対処していた佐野ではあるが、マナが《露天鉱床》含む2マナでストップ。なんとか《ヴリンの神童、ジェイス》をプレイしてターンを返す。
ここで、森田はMox2つのマナと《Volcanic Island》からマナを出して《ダク・フェイデン》をプレイすると、さらにマナを浮かして《噴出》をプレイ。そして、浮いたマナとセットした《Tundra》で《僧院の導師》をプレイする。
さらに《ギタクシア派の調査》と《Mox Ruby》をプレイしトークンを2体生成する。この《ギタクシア派の調査》で開示された佐野の手札は《瞬唱の魔道士》《Time Walk》《至高の評決》《ヴリンの神童、ジェイス》《剣を鍬に》という内容。
返しのターン。佐野が何をプレイするか少考していると、ジャッジがゲームプレイを停止させる。なんと、森田が《ダク・フェイデン》をプレイした後の《僧院の導師》がマナが足らなかったことが判明する。
そう。森田は、2枚のタップした土地を《噴出》で戻したときに、その2枚からのマナが浮いているものだと誤認してしまったのだ。ヴィンテージマスターらしからぬケアレスミス。
一旦、ジャッジによって事実確認が行われた後、ゲームがかなり進行してしまっているため巻き戻せないとして続行。森田には警告が出される。
佐野は《ヴリンの神童、ジェイス》で墓地の《Ancestral Recall》をプレイすると、さらに《突然のショック》で《僧院の導師》を除去する。
返しのターンに森田は《渦まく知識》をプレイするが、《紅蓮破》で《ダク・フェイデン》を除去されてしまう。まだ、1/1トークンを2体持ち盤面では強い森田なのだが、佐野は手札が強い。
《至高の評決》を持つものの、白マナが2つない佐野は《剣を鍬に》でトークンを1体除去し、森田のクロックを削いでいく。
さらに、森田がプレイした《噴出》を《意志の力》でカウンターし、今度は佐野がリソース差のゲームプランに引きずり込む。
《瞬唱の魔道士》でフラッシュバックされた《剣を鍬に》こそ《精神的つまづき》でカウンターする森田だが、先程のミスに拠るリアルな精神的つまづきからは復活できていないようで、動揺を隠しきれない様子だ。
ここで佐野は《ダク・フェイデン》をプレイ。忠誠度を4とする。森田は《瞬唱の魔道士》へとスタックを利用して2回《剣を鍬に》プレイし、さらに《Black Lotus》をプレイして果敢で4/4にしたトークンを《ダク・フェイデン》へとアタックし除去するが、返しで佐野は2体目の《瞬唱の魔道士》をプレイし《突然のショック》でトークンを除去する。
この《瞬唱の魔道士》がそのままクロックになったことで、ついに盤面でも佐野が逆転する。
そして佐野の《ギタクシア派の調査》で《剣を鍬に》と《Library of Alexandria》含む土地2枚という手札を公開させられた上で《宝船の巡航》を打たれると、森田は「次行きましょうか」と一言佐野に告げた。
森田 2-1 佐野
『アモンケット』がどのような神の物語かはまだわからない。
『テーロス』の神と違い、『アモンケット』の神は信心によってではなく、試練を乗り越えたものの前にのみ顕現する。
『アモンケット』を作り出したのがあの悪名高きボーラスで、『アモンケット』の試練がボーラスの悪意を体現するために作られたものであるように感じられるのであれば、きっと、『アモンケット』の神々も「神」と呼ばれるだけの悪意の装置なのかもしれない。
「神」と呼ばれるものが、本当に完璧な、崇高な、神格を持った存在とは限らない。
人は、自分が見たいものを勝手に見たいように見ているだけだ。そもそも「神」なんて、「神」と呼びたい人間が勝手に「神」という名前を与えているだけなのだ。
全てが終わった後、森田は「Game 3は負けて本当によかった」と語った。あんなミスをしたゲームで勝負が決まってしまっては……と。
Game 2とGame 3の合間に、必要以上に「神はすごい」と語ってしまった上で言うのは忍びないが、「神」と呼ばれていても、森田だって一人の人間、ただのプレイヤーであり、神決定戦の重圧からは逃れられないのだ。
いや、さすがに森田をただのプレイヤーと、そして、森田の重圧をただの重圧と言ってしまうのは言いすぎだ。
神決定戦の他の3フォーマットと、ヴィンテージ神決定戦で明確に違うことがひとつある。もちろん、ヴィンテージ神が圧倒的に歴史が短いということ、ではない。
それは日本では、他の3フォーマットに比べて、ヴィンテージの大きな大会がまだまだ少ないということだ。レガシーのグランプリが国内で開催され中継されるこの時代ですら、ヴィンテージをプレイしていない多くのプレイヤーに注目されうる大会となれば、神決定戦以外にないのではないだろうか。
例えば、今期のインタビューでも森田は、ヴィンテージに興味を持ち、ヴィンテージコミュニティに入ってくる人間が、そしてヴィンテージにハマる人間が増えることを強く願っている。
いや、僕が知る限り、それはヴィンテージコミュニティ全体の強い祈りだ。
普段ヴィンテージに普段興味がない人間がヴィンテージに触れる数少ない機会の神決定戦。「神」にふさわしいプレイをできるかはわからないが、でも、ヴィンテージに興味を持つ人間がひとりでも増えるゲームを見せなければいけない、森田はそう考えているのかもしれない。
ヴィンテージ好きがヴィンテージ好きを増やすために、森田は神という重圧を背負って戦うのだ。自分が「神」にふさわしいかに関係なく、選ばれ、この席に座る人間として。
アモンケットの白の神、オケチラを見て、ギデオンはこう語った。
「オケチラ神は……理想の体現だ、太陽のような何かではなく。彼女こそが結束――力を合わせること、自分自身よりも大きな何かの一部になることの体現だ」
引用元:Magic Story「信頼」
Game 4
互いに初手をキープ。そして、森田のプレイした《ギタクシア派の調査》によって佐野の《剣を鍬に》3枚に《僧院の導師》《噴出》、そして《カラカス》含む土地2枚というクロックには強いがスペルに弱い手札が顕になる。
そして、これを見た森田は《ヴリンの神童、ジェイス》をプレイする。手札の除去を見た上での《ヴリンの神童、ジェイス》プレイを見て、佐野は《定業》からの《カラカス》起動で《ヴリンの神童、ジェイス》を戻す安定策をとる。
しかし、この《定業》で土地を見つけられなかった佐野は、2マナでストップしてしまう。
森田の《ダク・フェイデン》こそ《意志の力》でカウンターした佐野だったが、森田はすでに《カラカス》で封じられている《ヴリンの神童、ジェイス》を追放した《意志の力》でこれをさらにカウンターする。
そして、ここで、さらに土地を引けない佐野。
一方の森田は《僧院の導師》を召喚。ここに佐野は《剣を鍬に》を撃ち込むのだが《精神的つまづき》でカウンターされ、さらに《ギタクシア派の調査》がプレイされたことで、トークンが2体生みだされる。
ファイレクシアマナをペイライフで支払っては、ライフを守りきれないため、マナを支払って《ギタクシア派の調査》をプレイする佐野だったが、森田の手札は《仕組まれた爆薬》《僧院の導師》《精神的つまづき》《宝船の巡航》という、続くターンに負けてもおかしくはない内容。
帰ってきたターンに森田は《宝船の巡航》をプレイする。ここから次々と呪文がつながっていけば、このターンにライフを削りきられてもおかしくない。佐野は続く森田のスペルに注目する。
森田がプレイしたのは《Time Walk》。佐野は、天を仰いだ。
森田 3-1 佐野
試合終了後。
インタビューで佐野は「とりあえず帰ったら壁を殴りたいです」と語った。
第6期挑戦者の藤井はインタビューの中で「ヴィンテージとは結局はすべてが理不尽なゲーム」と語った。
読みも戦略も完璧だった。だが、ゲームの展開の全てが佐野の思い通りに行かなかった。それが藤井の言う「理不尽なゲーム」なのだろう。
ヴィンテージ経験の浅い佐野にとって、ここまでの「ヴィンテージの理不尽」は初めての経験だったのかもしれない。
不満なのか苛立ちなのか。なんだかわからない感情を抱えたまま、佐野は、インタビューを終えてバックヤードに戻ってきた森田に勝負を申し込む。それを受けて、森田はこう返す。
森田「私で良かったらいくらでも殴ってください」
「もはや、神なだけじゃなく、仏か!」という声がバックヤードに響く中、神決定戦という重圧から解放されたふたりの戦いが始まった。それは、佐野の想定通り、《突然のショック》が《僧院の導師》に刺さり、3-0で佐野が勝利するゲームだった。佐野は「そうだよ、これがやりたかったんだよ!」と言った。
対戦が終わると、二人はバックヤードで中継されているレガシー神決定戦を見ながら、談笑し、結局ゲームが終わるまで語っていた。レガシー神決定戦だけじゃなく、『アモンケット』でのヴィンテージの注目カードや、今後のヴィンテージの禁止カードの予想まで。
そして、帰るときには佐野はこう言った。
佐野「絶対に神にリベンジしてみせます」
ヴィンテージにハマりかけていた佐野が、完全にヴィンテージにハマった瞬間だ。
あぁ、こうして、また、森田によって、ヴィンテージの試練を乗り越え、ヴィンテージにハマった人間がひとり生まれてしまったではないか。
人は神そのものにはなれない。
でも、人は見たいものを見たいように見ることができる。視点が変わるだけで物事はすっかり変わってしまうものなのだ。
そのことを物語というのだろう。
物語を語ることは、神を語ることと同じだ。
そして、人は人のことだって神と呼ぶことができるのだ。
そう呼ぶ人たちにとっては、彼は間違いなく神なのだから。
第8期ヴィンテージ神決定戦、勝者は森田 侑(東京)!
防衛おめでとう!!
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