USA Modern Express vol.19 -スピリット流行の兆し-

Kenta Hiroki

 みなさんこんにちは。

 今週末にはグランプリ・香港2018も開催され、アメリカでもSCGO Syracuseが開催されるなどモダンは現在最も熱いフォーマットの一つです。下の環境に影響を与えることが多い多色セットの『ラヴニカのギルド』もリリースされるのでデッキを考えるのがおもしろい時期でもあります。他の必須カードと比べると価格の変動は緩やかですが最近少しずつ上がってきているショックランドも再録されるのも嬉しい知らせです。

 さて、今回の連載ではSCGO Baltimoreグランプリ・プラハ2018の入賞デッキを見ていきたいと思います。

SCGO Baltimore
新たなAether Vialデッキ現る

2018年8月26日

  • 1位 UW Spirit
  • 2位 Tron
  • 3位 Burn
  • 4位 Jeskai Control
  • 5位 Dredge
  • 6位 UW Control
  • 7位 Humans
  • 8位 BR Hollow One
Steven Borakove

Steven Borakove

StarCityGames.com

トップ8のデッキリストはこちら

 プロツアーでは《縫い師への供給者》という新戦力を得たDredgevineがブレイクを果たしましたが、『基本セット2019』が環境に与えた影響は予想以上に大きかったようで、今大会でも《至高の幻影》というスピリットロードを得て強化されたUW Spiritが見事に優勝を果たしました。

 グランプリ・プラハ2018でもBant Spiritが結果を残しており、SpiritはHumansと並ぶ環境の部族ベースのアグロデッキとして定着しつつあります。

SCGO Baltimore デッキ紹介

「UW Spirit」「Jeskai Control」

UW Spirit

 『基本セット2019』がリリースされてからコンスタントに結果を残し続けているSpiritは今大会でついに優勝しました。

 こちらのデッキリストは白青の2色です。インスタントスピードで奇襲性があり、アドバンテージを取りやすく決定打になりやすい《集合した中隊》とマナクリーチャーの《貴族の教主》にアクセスできるのがBantバージョンの利点ですが、モダンはDredgevineなどの速いデッキが多く、4マナの《集合した中隊》は少し重く感じることもあります。

霊気の薬瓶

 《霊気の薬瓶》を採用した部族アグロということで現環境のトップメタのHumansと比較されることもあります。ブン回ったときの爆発力こそHumansに軍配が上がりますが、Spiritにも多数の回避能力持ちのクリーチャーと《鎖鳴らし》《ドラグスコルの隊長》などによる除去耐性、そして墓地に落ちたクリーチャーをSpiritトークンに変換する《ムーアランドの憑依地》によってUW Controlをはじめとした除去を多用するコントロールに有利に立ち回りやすいなど、Humansにはないアドバンテージがあります。

☆注目ポイント

 白青バージョンにもマナ基盤が安定しており、《霊気の薬瓶》によってソーサリースピードの除去やスイーパーにいくらか耐性が付くなどのメリットがあります。また、2色になったことで《変わり谷》も無理なく採用できます。《至高の評決》などに巻き込まれず、カウンターされない脅威として活躍します。

変わり谷残骸の漂着

 《流刑への道》などの除去も採用しているのでHollow OneやDredgevine、Humansとのマッチアップでも立ち回りやすく、自身よりクリーチャー単体のサイズが大きいHumansとのマッチアップでも重宝します。

 また、UW ControlやJeskai Controlでも採られている《残骸の漂着》もおもしろいチョイスです。プレイヤーを対象にしているので呪禁持ちのクリーチャーも追放することも可能で、様々なマッチで活躍したことが予想できます。4マナと重めなことを除けば多くのマッチアップで劇的な効果が望めるので、個人的にオススメのサイドカードです。

Jeskai Control

 最近の青いコントロールは2色でマナ基盤が安定しており《終末》を使えるUW Controlの方が人気がありますが、JeskaiのスペシャリストであるBenjamin NikolichはHollow OneやDredgevineなどが隆盛している現環境に合わせてリストを調整し、プレイオフ入賞を決めていました。

 白青バージョンと比べると《稲妻》《稲妻のらせん》といった軽い火力スペルにアクセスできる分小回りが利き、《瞬唱の魔道士》もフルに採用されているのでUW ControlやJundといった他のフェアデッキとのマッチアップでも有利に立ち回れます。現在のようにHumansやUW Controlが多いメタではオススメのデッキの一つです。

 フレキシブルな分選択肢も多く、状況に応じてコントロールとして振る舞うのか《瞬唱の魔道士》から火力を「フラッシュバック」して積極的にライフを攻める方向にシフトするのか判断が非常に難しいデッキです。

☆注目ポイント

 多くのJeskai Controlのリストには《血清の幻視》《選択》が採用されていますが、Nikolichのリストにはそのどちらも見られず、代わりに見慣れないカードが採用されています。

のぞき見

 《のぞき見》は過去にUR Splinter Twinで安全確認兼追加のキャントリップとして採用されていましたが、Nikolichは《血清の幻視》《選択》よりも優先して採用しています。これについては本人も自身のツイッター上でも説明しており、相手の手札を確認することでプレイの難易度が緩和され、プレインズウォーカーをキャストするタイミングも図りやすくなるとのことです。ほかのJeskaiではあまり見られなかった《精神を刻む者、ジェイス》もメインから2枚採られていることから、UW Controlのようにプレインズウォーカーによって勝利を目指すようです。

残骸の漂着

 また、プロツアーでブレイクを果たした《復讐蔦》対策もしっかりしており、なんとメインから《残骸の漂着》を3枚採用するという思い切った構成を取っています。定番のスイーパーである《至高の評決》よりも優先して採用されていることからも、いかに追放系の除去が重要かが分かります。最近流行りのSpiritやInfectにも強いので、メインの採用も納得です。

グランプリ・プラハ2018
新しいタイプのAffinityがヨーロッパのGPを制する

2018年8月26日

  • 1位 Hardened Scales Affinity
  • 2位 Humans
  • 3位 Bant Spirit
  • 4位 Ironworks
  • 5位 Humans
  • 6位 Jeskai
  • 7位 Bant Spirit
  • 8位 Infect

トップ8のデッキリストはこちら

 優勝こそ逃したものの、《至高の幻影》によって強化されたSpiritが2名もプレイオフに進出するという高いパフォーマンスを見せ、そのポテンシャルの高さを示しました。

硬化した鱗

 今大会を制したのは《硬化した鱗》を軸にしたAffinityで、リストには《歩行バリスタ》《搭載歩行機械》も見られます。こちらのデッキはMagic Online Championship Seriesでも結果を残していたことで密かに注目を集めていました。

 また、プレイオフ進出はならなかったもののUW Controlもトップ32以内に多数勝ち残っていました。現環境ではHumansと並んでトップメタに位置するデッキで、Hollow OneやDredgevineなど墓地を利用したデッキを対策するために《終末》採用型が現在の主流となっています。

グランプリ・プラハ2018 デッキ紹介

「Hardened Scales Affinity」「Bant Spirit」

Hardened Scales Affinity

 Lauri Pispaは上述のMOCSで使用されていた《硬化した鱗》入りのAffinityのリストにさらなる調整を加え、見事に優勝トロフィーを持ち帰りました。

 置かれる「+1/+1」カウンターを増量させる《硬化した鱗》を軸にした新しいタイプのAffinityで、《硬化した鱗》の能力を最大限に活かすために《電結の荒廃者》だけでなく《歩行バリスタ》《搭載歩行機械》といったクリーチャーもフル搭載されています。《搭載歩行機械》などを墓地に送ることができるサクり台も多数採用されており、特に《ゲスの玉座》は「増殖」によってすでに「+1/+1」カウンターが乗っているクリーチャーをさらに強化できます。

歩行バリスタ搭載歩行機械

 緑単色になったことで《古きものの活性》にもアクセスが可能になり、息切れをすることも少なくなりました。白青系のコントロールのように除去を多用するデッキやHumansなどのフェアデッキがポピュラーな現環境では、《硬化した鱗》型のAffinityは良い選択肢となりそうです。

☆注目ポイント

 《硬化した鱗》をコントロールしていれば《電結の荒廃者》《墨蛾の生息地》による一撃必殺コンボを狙うことも可能で、この爆発力もデッキの強みです。他にも《古きものの活性》を採用することでTronやKCIといったデッキに有効に機能するサイドの《減衰球》などもより引き当てやすくなります。これは今までのAffinityにはなかった要素で、状況に応じて必要な無色カードや土地を手に入れやすくなったことで信頼性が増したと言えます。

古きものの活性自然の要求

 サイドの《自然の要求》はこのデッキにとって厄介な《石のような静寂》や、現環境の最高のコンボデッキとされているKCIとのマッチアップ対策として活躍します。緑単色なことを最大限に活かし、4枚フルに搭載されています。

 《ファイレクシアの核》は土地であると同時に《搭載歩行機械》《電結の働き手》のサクり台としても機能します。他にもサクり台として機能しつつクリーチャーを供給してくれる《進化の飛躍》も見られます。

ファイレクシアの核活性機構

 また、コントロールが多くなることも想定していたようで、《活性機構》もメインから2枚と多めに採用されています。継続的にトークンを展開することができるのでコントロールに強いカードで、白青系のコントロールデッキが多かった今大会では大いに活躍したことが予想されます。

Bant Spirit

 さきほどご紹介したSpiritデッキのバリエーションで、マナクリーチャーの《貴族の教主》《集合した中隊》を使用できるのがBantカラーのメリットです。

貴族の教主集合した中隊

 従来は「《貴族の教主》《集合した中隊》擁するBantバージョン」か「《変わり谷》《霊気の薬瓶》擁する白青」2択でしたが、チェコのプロプレイヤーであるOndrej StraskyはBant Spiritに《霊気の薬瓶》も入れるという大胆な調整を施しています。

☆注目ポイント

 《霊気の薬瓶》が採用されたことでメインボードのクリーチャーが減っていますが、それでも28枚のクリーチャーが入っているので《集合した中隊》の信頼性は十分です。

霊気の薬瓶幻影の像

 《霊気の薬瓶》《幻影の像》の能力をより有効に活用するために採用されているようで、Ondrej本人の記事で詳しく説明されています。相手のアクションに合わせて《ドラグスコルの隊長》《呪文捕らえ》をコピーするという動きが強く、大会中でも活躍したと記事内で語られていました。

ドロモカの命令

 今大会でOndrejが使用したリストでは採用が見送られていましたが、現在は《ドロモカの命令》《崇拝》と差し替えられているようです。《崇拝》はこのデッキにとってやや不利なマッチとなるBurnなどとのマッチアップで重宝するものの、《ドロモカの命令》も除去兼火力対策になり、エンチャントをサクリファイスさせるモードは最近流行りの《硬化した鱗》型のAffinityにも有効に機能します。

ボーナストピック:『ラヴニカのギルド』新カード考

『ラヴニカのギルド』のプレビューを眺めていたところ、さっそく環境に大きな影響を及ぼしそうなカードが見られました。

暗殺者の戦利品

 相手に基本地形を与えてしまうというデメリットがあるものの、インスタントの万能パーマネント除去で、《突然の衰微》と異なり土地も割れることから《血編み髪のエルフ》の「続唱」で捲れた場合でも空振りのリスクが少ないです。

 《墨蛾の生息地》《天界の列柱》などのミシュラランドも効率的に処理することが可能になり、《アズカンタの探索》の対処もしやすくなりました。何より、今までJundやAbzanが苦戦を強いられた《精神を刻む者、ジェイス》《ドミナリアの英雄、テフェリー》のUW Controlのプレインズウォーカーも対策できるようになったことは大きいです。

墨蛾の生息地精神を刻む者、ジェイスウルザの塔

 また、天敵のTronに対しても有効です。Tronが先手で3ターン目にトロンランドを揃えてきた際には《大爆発の魔道士》も間に合いませんでしたが、2マナで対処できるようになったことで相性の改善が期待できそうです。

総括

 今回のUSA Modern Expressは以上となります。今週末にはグランプリ・香港2018グランプリ・ストックホルム2018SCGO Syracuseと世界各地でモダンの大規模なイベントが充実しています。

 日本国内でもモダン熱が上がってきていると思うので、来週も特別にUSA Modern Expressを公開する予定です。モダン好きの方はお見逃しなく!

 『ラヴニカのギルド』からも《暗殺者の戦利品》などモダン環境に大きな影響を与えそうなカードがプレビューで公開されているので、新環境が楽しみです。

 それでは次回の連載でまた会いましょう。楽しいモダンライフを!

この記事内で掲載されたカード

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