週刊デッキウォッチング vol.79 -さらば手札!狼の試作機暁に死す-

伊藤 敦



 マジックの華は、デッキリストだ。

 そのデッキに込められた意思を汲み取ろうとするとき、75枚の物言わぬ文字列はしかし、何よりも雄弁に製作者の心情を物語ってくれる。

 だから、デッキリストを見るということは。

 そのデッキを作った人物について、より深く知ろうとする行いに等しいのだ。



 この連載は【晴れる屋のデッキ検索】から毎週面白そうなデッキを見つけて、各フォーマットごとに紹介していく、というものだ。

 もし気に入ったデッキがあれば自分で作って試してみてもいいし、Magic Online用のtxtフォーマットでダウンロードすることも可能だ。

 それでは、それぞれのフォーマットで気になったデッキをご紹介しよう。






■ スタンダード: 黒赤吸血鬼



Marcus Berg「黒赤吸血鬼」
平日サービススタンダード14時の部(3-0)

11 《沼》
5 《山》
3 《燻る湿地》
4 《凶兆の廃墟》
1 《ガイアー岬の療養所》

-土地 (24)-

4 《傲慢な新生子》
4 《精神病棟の訪問者》
4 《狼の試作機》
3 《異端の癒し手、リリアナ》
4 《血の間の僧侶》

-クリーチャー (19)-
4 《焦熱の衝動》
2 《稲妻の斧》
2 《集団的蛮行》
4 《苛まれし思考》
3 《コラガンの命令》
2 《悪意の調合》

-呪文 (17)-
3 《流城の密教信者》
3 《血統の呼び出し》
3 《強迫》
2 《精神背信》
2 《破滅の道》
2 《悪意の調合》

-サイドボード (15)-
hareruya



狼の試作機苛まれし思考血の間の僧侶



 2マナ5/5という圧倒的マナレシオを持つ《狼の試作機》だが、手札0枚というのは普通に運用するにはかなり厳しい制約と言える。だが、ならば発想を転換すればよい。2マナでパワー5のクリーチャーが出せるということは、パワーやタフネスを参照するカードと組み合わせればよいのだ。

 そんなカード、はたしてスタンダードにあったか?と思うなかれ。『テーロス』ドラフトで安定10手目以降のアンコモンだった《苛まれし思考》は、2ターン目《狼の試作機》から何と先手3ターン目に5ディスカードを強要できる。決まってしまえばバントカンパニーもイチコロだろう。

 とはいえカード2枚のコンボで勝利が確定しないのでは心許ないと思うかもしれない。しかしこのデッキは、お互い手札を使い尽くした状態でも有利になるように《精神病棟の訪問者》《血の間の僧侶》《ガイアー岬の療養所》が採用されており、アフターケアにも余念がない。

 少なくなった相手の手札にとっては《反抗する屍術師、リリアナ/Liliana, Defiant Necromancer》の「+2」能力すらも脅威だ。相手の手札が空になったら《コラガンの命令》をドローステップに打ち込む選択肢もある。《狼の試作機》は《反抗する屍術師、リリアナ/Liliana, Defiant Necromancer》で戦場に戻す際の効率も良いので、何もできない対戦相手を速やかに仕留めるのにもうってつけと言えるだろう。


【「黒赤吸血鬼」でデッキを検索】





■ モダン: 白黒緑ジャンク



Yoshii Takumi「白黒緑ジャンク」
休日モダン20時の部(3-0)

2 《森》
1 《平地》
1 《沼》
2 《寺院の庭》
1 《神無き祭殿》
1 《草むした墓》
4 《新緑の地下墓地》
4 《吹きさらしの荒野》
1 《樹木茂る山麓》
4 《剃刀境の茂み》
1 《地平線の梢》
1 《ガヴォニーの居住区》

-土地 (23)-

4 《貴族の教主》
3 《極楽鳥》
4 《復活の声》
2 《前兆の壁》
1 《呪文滑り》
1 《クァーサルの群れ魔道士》
1 《漁る軟泥》
3 《台所の嫌がらせ屋》
1 《先頭に立つもの、アナフェンザ》
1 《異端聖戦士、サリア》
1 《スパイクの飼育係》
1 《永遠の証人》
1 《修復の天使》
1 《包囲サイ》
1 《叫び大口》
1 《風番いのロック》
1 《テューンの大天使》

-クリーチャー (28)-
2 《流刑への道》
4 《異界の進化》
3 《召喚の調べ》
1 《ゼンディカーの代弁者、ニッサ》

-呪文 (10)-
2 《思考囲い》
2 《石のような静寂》
1 《無私の霊魂》
1 《呪文滑り》
1 《ガドック・ティーグ》
1 《弁論の幻霊》
1 《オルゾフの司教》
1 《罪の収集者》
1 《再利用の賢者》
1 《静寂の守り手、リンヴァーラ》
1 《スラーグ牙》
1 《流刑への道》
1 《突然の衰微》

-サイドボード (15)-
hareruya



異界の進化テューンの大天使台所の嫌がらせ屋



 《出産の殻》の禁止は仕方のなかったことかもしれないが、実際に使っていたプレイヤーにとってはせっかく集めたカードが使えなくなってしまうというのは大きな痛手だったことだろう。だが約1年半の時を経て、『異界月』のとあるカードの登場をきっかけについに待望の「《出産の殻》の魂を受け継ぐデッキ」が誕生した。そのカードとは言わずもがな、《異界の進化》だ。

 クリーチャーの生け贄が必要となるこのカードは《台所の嫌がらせ屋》との相性の良さが既に注目されていたところである。そして《異界の進化》《出産の殻》と違って1回使い切りなので、せっかくサーチしたクリーチャーが除去されてしまうようではあまり意味がない。ならば、サーチしたらすぐに勝てるようなコンボが決まれば良い……となれば、《スパイクの飼育係》《テューンの大天使》コンボの出番というわけだ。

 またフェッチランドやギルドランドが多用されているモダンにおいては《異端聖戦士、サリア》の効果は絶大だ。相手のマナ計算を狂わせる一手として見れば、無警戒の相手にはまるで《なだれ乗り》のようにも使いうる。サイドボードの《無私の霊魂》《神々の憤怒》対策としていぶし銀の働きをしそうだ。

 他にもサイドボードは《異界の進化》のほうが《出産の殻》のプレイ+起動マナと比較して1マナ軽いので、マナクリスタートから2ターン目に1枚差しの(3マナまでの)対策クリーチャーをサーチできるのが魅力だ。ということは後手のせいで対策が間に合わない、といった現象が減ることを意味している。強靱なコンセプトとサイドボード後の対応力を有する《異界の進化》デッキは、カバレージでデッキリストを打ち込む立場としては正直勘弁してほしいのだが、確かにモダンのメタゲームに食い込むだけのポテンシャルを秘めているかもしれない。


【「白黒緑ジャンク」でデッキを検索】





■ レガシー: エルドラージ



Yamakabe Shun「エルドラージ」
平日レガシー20時の部(3-0)

2 《Tundra》
4 《魂の洞窟》
4 《アダーカー荒原》
4 《エルドラージの寺院》
4 《古えの墳墓》
4 《裏切り者の都》
4 《ウギンの目》

-土地 (26)-

4 《果てしなきもの》
4 《空中生成エルドラージ》
4 《変位エルドラージ》
4 《難題の予見者》
4 《現実を砕くもの》
3 《希望を溺れさせるもの》
2 《Rasputin Dreamweaver》

-クリーチャー (25)-
4 《虚空の杯》
3 《発展のタリスマン》
2 《梅澤の十手》

-呪文 (9)-
4 《虚空の力線》
4 《アメジストのとげ》
3 《浄化の印章》
2 《全ては塵》
1 《四肢切断》
1 《永遠の土》

-サイドボード (15)-
hareruya



Rasputin Dreamweaver変位エルドラージ永遠の土



 レガシーの広大すぎるカードプールは、いざ新しいデッキを作ろうとすると茫漠とした果てしない荒野として立ちはだかるが、デッキビルダーにとっては財宝の眠る古の洞窟でもあるのだ。たとえば『ミラージュ』以前の、『ザ・ダーク』や『レジェンド』『ホームランド』といったエキスパンションのカードは、カードパワーの低さゆえに全く使われていないものも多いが、新エキスパンションのカードが出るたびにチェックしておくと、意外なシナジーを発揮することがある。《Rasputin Dreamweaver》もそんな1枚だ。

 場に出たときに乗るカウンターから無色7マナを生成するこのカードは、《変位エルドラージ》と組み合わせるといとも容易く無限マナとなる。

 あとは《果てしなきもの》を究極サイズのクリーチャーとして召喚してもいいし、《虚空の杯》《終末》すらも封じることができるようになる。何せ自分は《魂の洞窟》があるので痛手はほとんどない。もちろん《ウギンの目》も起動し放題だ。

 また、サイドボードには最近流行の《灰からの再興》《不毛の大地》をケアして《永遠の土》を採用している。デッキの認知度が高まり、最近ではサイドボードから特殊地形対策をとられるのが当たり前になってきたが、エルドラージ側にもまだまだ進化の余地はありそうだ。


【「エルドラージ」でデッキを検索】






 いかがだっただろうか。

 すべてのデッキリストには意思が込められている。

 75枚から製作者の意図を読み解くことができれば、自分でデッキを作るときにもきっと役に立つだろう。

 読者の皆さんも、ぜひ色々と面白いデッキを探してみて欲しい。

 また来週!


【晴れる屋でデッキを検索する】



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