週刊デッキウォッチング vol.80 -「昂揚」クレイジーズー-

伊藤 敦



 マジックの華は、デッキリストだ。

 そのデッキに込められた意思を汲み取ろうとするとき、75枚の物言わぬ文字列はしかし、何よりも雄弁に製作者の心情を物語ってくれる。

 だから、デッキリストを見るということは。

 そのデッキを作った人物について、より深く知ろうとする行いに等しいのだ。



 この連載は【晴れる屋のデッキ検索】から毎週面白そうなデッキを見つけて、各フォーマットごとに紹介していく、というものだ。

 もし気に入ったデッキがあれば自分で作って試してみてもいいし、Magic Online用のtxtフォーマットでダウンロードすることも可能だ。

 それでは、それぞれのフォーマットで気になったデッキをご紹介しよう。






■ スタンダード: 赤単



action_andy「赤単」
Competitive Standard Constructed League(5-0)

20 《山》
4 《ハンウィアーの要塞》

-土地 (24)-

4 《稲妻の狂戦士》
3 《傲慢な新生子》
4 《龍を操る者》
4 《ハンウィアー守備隊》
4 《雷破の執政》
2 《強欲なドラゴン》
2 《ゴブリンの闇住まい》

-クリーチャー (23)-
4 《焼夷流》
4 《龍詞の咆哮》
3 《極上の炎技》
2 《集団的抵抗》

-呪文 (13)-
4 《村の伝書士》
3 《黄金夜の懲罰者》
3 《引き裂く流弾》
3 《焦熱の衝動》
2 《焙り焼き》

-サイドボード (15)-
hareruya



ハンウィアー守備隊龍を操る者ハンウィアーの要塞



 【プロツアー『異界月』】のトップ8でバント、白黒、青緑、緑黒といったミッドレンジ~コントロールが大半を占める一方で、赤という色の視点から見ると、『異界月』によって《焼夷流》を手に入れたにもかかわらず、赤緑ランプのように緑のサポートカラー程度の存在感しか示すことはできなかった。だがプロプレイヤーの作った強力なデッキが広まり、環境の速度が定義された今なら、赤単はメタゲーム上で十分通用しうるポテンシャルを秘めているように思われる。

 《龍を操る者》《雷破の執政》は飛行のクロックとして緑のデッキに強烈なプレッシャーをかける。ブロッカーを用意したとしても、そのうち「圧倒」能力でドラゴン・トークンを毎ターン生成されてしまうので、放置することは許されない。

 かといってそれらに除去を使ってしまうと、単体でフィニッシャーになれるほどの打点を持つ《ハンウィアー守備隊》が火力のバックアップを受けて突進してくる。そしてもし《ハンウィアー守備隊》を放置したまま6マナが揃ってしまったなら、《ハンウィアーの要塞》と「合体」して《のたうつ居住区、ハンウィアー》が対戦相手を蹂躙するのだ。

 ちなみにこのデッキ、75枚の中に神話レアが9枚、通常レアが19枚も入っているにもかかわらず、9900円(※8月10日現在の晴れる屋価格) あれば組めてしまう。赤いカードがストレージに余っているという方は、ついでに組んでおいて大会に出る際の選択肢の一つにするのも良さそうだ。


【「赤単」でデッキを検索】





■ モダン: スーパークレイジーズー



Louisbach「スーパークレイジーズー」
Modern Constructed League(5-0)

1 《沼》
2 《踏み鳴らされる地》
1 《血の墓所》
1 《草むした墓》
4 《新緑の地下墓地》
4 《樹木茂る山麓》
3 《血染めのぬかるみ》

-土地 (16)-

4 《死の影》
4 《僧院の速槍》
4 《節くれ木のドライアド》
1 《タルモゴイフ》
1 《ゴーア族の暴行者》
4 《通りの悪霊》

-クリーチャー (18)-
4 《ギタクシア派の調査》
4 《変異原性の成長》
3 《思考囲い》
2 《タール火》
2 《ウルヴェンワルド横断》
4 《ティムールの激闘》
1 《四肢切断》
1 《強大化》
1 《炎の印章》
4 《ミシュラのガラクタ》

-呪文 (26)-
3 《わめき騒ぐマンドリル》
2 《コジレックの審問》
1 《呪文滑り》
1 《最後のトロール、スラーン》
1 《はらわた撃ち》
1 《二股の稲妻》
1 《自然のままに》
1 《古えの遺恨》
1 《紅蓮地獄》
1 《原基の印章》
1 《トーモッドの墓所》
1 《ドライアドの東屋》

-サイドボード (15)-
hareruya



節くれ木のドライアドウルヴェンワルド横断タール火



 すっかりモダンの定番デッキの一つとして定着した【Super Crazy Zoo】だが、Sam Blackが【グランプリ・シャーロット2016】でトップ8に入賞して以降は、「《ステップのオオヤマネコ》3枚-《思考囲い》3枚-《稲妻》2枚-《強大化》3枚」という構成が定番となり、あまり目新しいリストの更新はなかった。しかし『異界月』が出たことで、このモダン最速のアーキタイプもさらなる進化を遂げようとしている。

 《野生のナカティル》を押しのけて採用されている《節くれ木のドライアド》は、「昂揚」状態では《変異原性の成長》《ティムールの激闘》《ゴーア族の暴行者》と組み合わせて、「接死+トランプル」のシナジーで強烈な打点をたたき出すことができる。また《ステップのオオヤマネコ》《野生のナカティル》を不採用にしたことで白いギルドランドの採用も必要なくなり、マナベースに《沼》を1枚採用する余裕ができているのも見逃せないポイントだ。

 《ウルヴェンワルド横断》はもともとサイドボードに搭載されていたテクニックで、「昂揚」状態では《死の影》はもちろん、その他のクリティカルなサイドカードを状況に合わせて探してこれる。ならば「昂揚」を追求したこのバージョンにおいては、5枚目6枚目の《死の影》としてメインから採用しても何ら問題ないということだ。

 早期に「昂揚」を達成してその状態を維持するため、《強大化》を1枚までカットした上で、「土地(フェッチ、11枚)/ソーサリー(《ギタクシア派の調査》《思考囲い》と一応《ウルヴェンワルド横断》、9枚)/インスタント(《変異原性の成長》《ティムールの激闘》《タール火》《四肢切断》、11枚)/クリーチャー(《通りの悪霊》《ゴーア族の暴行者》)、アーティファクト(《ミシュラのガラクタ》)、エンチャント(《炎の印章》) or 部族(《タール火》、合計11枚)」とバランス良く様々なカードタイプを採用している。「安定性」という最後の壁をも乗り越えた【Super Crazy Zoo】がモダン最強のデッキとして環境を支配する日は、そう遠くないのかもしれない。


【「スーパークレイジーズー」でデッキを検索】





■ レガシー: 白青石鍛冶



Akiyama Tomoya「白青石鍛冶」
晴れる屋レガシー杯(4-1-1)

3 《島》
2 《平地》
3 《Tundra》
4 《溢れかえる岸辺》
2 《汚染された三角州》
2 《吹きさらしの荒野》
4 《魂の洞窟》
1 《カラカス》
1 《ムーアランドの憑依地》

-土地 (22)-

4 《霊廟の放浪者》
4 《鎖鳴らし》
4 《石鍛冶の神秘家》
4 《聖トラフトの霊》
4 《呪文捕らえ》

-クリーチャー (20)-
4 《渦まく知識》
4 《剣を鍬に》
2 《呪文嵌め》
1 《石の宣告》
4 《意志の力》
1 《梅澤の十手》
1 《火と氷の剣》
1 《殴打頭蓋》

-呪文 (18)-
2 《狼狽の嵐》
2 《解呪》
2 《ハルマゲドン》
2 《安らかなる眠り》
2 《罠の橋》
1 《弁論の幻霊》
1 《鏡の精体》
1 《外科的摘出》
1 《神聖の力線》
1 《真髄の針》

-サイドボード (15)-
hareruya



霊廟の放浪者鎖鳴らし聖トラフトの霊



 「《意志の力》《渦まく知識》の環境」とすら言われることがあるほどに青いデッキの支配率が高いレガシー環境においては、最新セットで青くて構築レベルのカードの価値は他の色のカードと比べて圧倒的に高い。『イニストラードを覆う影』では《氷の中の存在》が注目を浴びたが、今回の『異界月』でもその例に漏れず、いくつかの青いカードが早くも新デッキ、「青白スピリット」を生み出す原動力となった。

 《霊廟の放浪者》はパワー分のマナの支払いを要求するため、装備品との相性がすこぶる良い。そして装備品といえば《石鍛冶の神秘家》だ。《梅澤の十手》《火と氷の剣》をまとわせれば、《霊廟の放浪者》はさながら「置き《意志の力》」のように機能する。ANTや《実物提示教育》のように手札破壊やカウンターに頼ったコンボデッキ相手には絶大な効果を発揮することだろう。

 《呪文捕らえ》はレガシーでの使用感は未知数だが、除去手段に乏しいコンボデッキ相手に絶大な効果を発揮することはもちろん、《魂の洞窟》との組み合わせが多くの青いデッキにとって脅威となるであろうことは疑いようがない。

 また、これら2種のカードを得たことで《鎖鳴らし》の価値も大きく跳ね上がった。スタンダードと同様に《呪文捕らえ》を守ることはもちろん、《聖トラフトの霊》を瞬速でプレイできるようになるといういぶし銀の役割も果たせることから、相手に隙を全く見せないままに超強烈な打点を展開することが可能となる。はたしてこの「青白スピリット」はレガシーの新たなクロックパーミッションとして定着するのか?今後のメタゲームの進展に注目だ。


【「白青石鍛冶」でデッキを検索】






 いかがだっただろうか。

 すべてのデッキリストには意思が込められている。

 75枚から製作者の意図を読み解くことができれば、自分でデッキを作るときにもきっと役に立つだろう。

 読者の皆さんも、ぜひ色々と面白いデッキを探してみて欲しい。

 また来週!


【晴れる屋でデッキを検索する】



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