マジックの華は、デッキリストだ。
そのデッキに込められた意思を汲み取ろうとするとき、75枚の物言わぬ文字列はしかし、何よりも雄弁に製作者の心情を物語ってくれる。
だから、デッキリストを見るということは。
そのデッキを作った人物について、より深く知ろうとする行いに等しいのだ。
この連載は【晴れる屋のデッキ検索】から毎週面白そうなデッキを見つけて、各フォーマットごとに紹介していく、というものだ。
もし気に入ったデッキがあれば自分で作って試してみてもいいし、Magic Online用のtxtフォーマットでダウンロードすることも可能だ。
それでは、それぞれのフォーマットで気になったデッキをご紹介しよう。
■ スタンダード: 白青ビートダウン
12 《平地》 5 《島》 4 《大草原の川》 4 《港町》 -土地 (29)- 4 《スレイベンの検査官》 3 《白蘭の騎士》 2 《無私の霊魂》 4 《空中生成エルドラージ》 3 《反射魔道士》 2 《異端聖戦士、サリア》 3 《折れた刃、ギセラ》 4 《大天使アヴァシン》 2 《サリアの槍騎兵》 1 《消えゆく光、ブルーナ》 1 《老いたる深海鬼》 -クリーチャー (29)- |
3 《石の宣告》 1 《隔離の場》 2 《停滞の罠》 -呪文 (6)- |
3 《否認》 2 《神聖なる月光》 1 《白蘭の騎士》 1 《異端聖戦士、サリア》 1 《保護者、リンヴァーラ》 1 《消えゆく光、ブルーナ》 1 《荒野の確保》 1 《神聖な協力》 1 《集団的努力》 1 《隔離の場》 1 《停滞の罠》 1 《護法の宝珠》 -サイドボード (15)- |
週末にはいよいよ『カラデシュ』が発売ということで、今週は新環境のスタンダードでも通用しそうなコンセプトを紹介しよう。
長らく環境を支配し続けてきた《集合した中隊》が去るということで、『カラデシュ』後のスタンダード環境がどのようなものになるのかについてはいまだ不明瞭な点が多いけれども、予想されるポイントのいくつかは、以下の記事においてよくまとめられている。
- 2016/09/23
- 高橋純也のデッキ予報 vol.26 -晴天『カラデシュ』-
- 高橋 純也
この記事で述べられているのは、あくまで予想だが、以前ほど《反射魔道士》は出てこないだろうと考えられるので、《反射魔道士》に弱かったクリーチャーにスポットライトが当たるのではないかということだ。
そして「《反射魔道士》に弱い」という理由でスペックの割りに低評価を受け続けてきたカードの筆頭といえば、ETB能力は持たないものの単純なコンバット性能においては最強クラスの《折れた刃、ギセラ》が挙げられる。《反射魔道士》されないのであれば、《蓄霊稲妻》や《本質の摘出》といったインスタントの3点除去も環境に増えるとはいえ、それらは《無私の霊魂》でケアも可能なので、そのポテンシャルをフルに発揮できることだろう。
また、期待の「機体」カードである《高速警備車》が使われると考えられるなら、《異端聖戦士、サリア》《折れた刃、ギセラ》という「パワー3以上の先制攻撃持ち」の環境における需要も高まると考えられる。新環境でも《大天使アヴァシン》が随一のパワーカードであることに変わりはないであろうし、こうした白系ミッドレンジは、ビートダウン系のデッキが出揃うであろう『カラデシュ』発売2週目以降の選択肢として、先に押さえておいても損はないだろう。
【「白青ビートダウン」でデッキを検索】
■ モダン: 多色ビートダウン
1 《山》 1 《平地》 1 《聖なる鋳造所》 4 《真鍮の都》 4 《宝石鉱山》 3 《マナの合流点》 1 《古代の聖塔》 4 《魂の洞窟》 1 《戦場の鍛冶場》 -土地 (20)- 4 《教区の勇者》 4 《万神殿の兵士》 2 《アクロスの英雄、キテオン》 4 《炎樹族の使者》 4 《サリアの副官》 3 《稲妻のやっかいもの》 3 《闇の腹心》 2 《スレイベンの守護者、サリア》 2 《アヴァブルックの町長》 4 《カマキリの乗り手》 2 《無謀な奇襲隊》 -クリーチャー (34)- |
4 《稲妻》 1 《変異原性の成長》 1 《流刑への道》 -呪文 (6)- |
3 《翻弄する魔道士》 3 《はらわた撃ち》 2 《流刑への道》 2 《安らかなる眠り》 1 《大聖堂の聖別者》 1 《闇の腹心》 1 《変異原性の成長》 1 《ハーキルの召還術》 1 《盲信的迫害》 -サイドボード (15)- |
モダンの「5色人間」というと《貴族の教主》と《古代の聖塔》を軸にした【こちらの形】の方が一般的だが、クリーチャー単体の性能を重視してミッドレンジ系に対する優位を確保している代わり、トップスピードで他のオールイン系デッキに劣るのと、《古代の聖塔》をフル搭載している都合上、除去が積めず干渉手段に乏しいという難点があった。そこでそれらの難点を解消するべく、よりスマートかつより前のめりな形へとシフトさせたのがこちらの「5色人間ブリッツ」である。
ISD-RTR期の【ナヤブリッツ】をベースにしたこのデッキは、「《教区の勇者》→《炎樹族の使者》+《稲妻のやっかいもの》」という往時のぶん回りパターンを踏襲しつつも、打点と除去ケアという面ではほぼ《アヴァブルックの町長》の上位互換とも言える《サリアの副官》と、回避能力による軸ずらしと航空防御を一手に担う《カマキリの乗り手》、さらに「人間」ではないとはいえ《炎樹族の使者》とのコンボは圧巻の一言に尽きる《無謀な奇襲隊》といった新戦力を手に入れ、「感染」や【SCZ】といったモダンのトップスピードを象徴するデッキたちにも引けをとらないほどの爆発力を獲得している。
マナベースを《古代の聖塔》に頼っていないので必要最低限の干渉手段かつ最後の押し込みにも使える《稲妻》を採用できる点や、また【一般的な形】と違って4マナ域のスペルが入っていないので、《闇の腹心》を躊躇なく投入できる点も魅力的だ。
1~3ターン目までの6マナのより効率的な使い方を追求することが求められるモダン環境においては、必然的に「マナを使わない行動」を生かしたデッキ構築に注目が集まる傾向にある。そんな中で、知名度が高い《ギタクシア派の調査》や《魔力変》《ミシュラのガラクタ》についてはともかく、普段あまり取沙汰されることがない《炎樹族の使者》を使ったビートダウンの可能性については、意外とまだまだ研究の余地がありそうだ。
【「多色ビートダウン」でデッキを検索】
■ レガシー: 続唱青黒緑
1 《森》 1 《島》 1 《沼》 3 《Tropical Island》 2 《Bayou》 2 《Underground Sea》 4 《霧深い雨林》 4 《汚染された三角州》 2 《新緑の地下墓地》 -土地 (20)- 4 《死儀礼のシャーマン》 4 《悪意の大梟》 4 《洞窟のハーピー》 2 《ディミーアの浸透者》 4 《断片無き工作員》 3 《寄生的な大梟》 -クリーチャー (21)- |
4 《渦まく知識》 4 《思案》 3 《突然の衰微》 4 《意志の力》 4 《魔の魅惑》 -呪文 (19)- |
2 《水流破》 2 《陰謀団式療法》 2 《残響する真実》 2 《花の絨毯》 2 《トーモッドの墓所》 1 《裏切り者グリッサ》 1 《突然の衰微》 1 《夜の戦慄》 1 《Zuran Orb》 1 《梅澤の十手》 -サイドボード (15)- |
《魔の魅惑》を使ったコンボデッキである「アルーレン」については【vol.32】でも紹介したが、先日かなり特徴的な変形を施した形が結果を残した。《帝国の徴募兵》を抜いて3色に絞った「BUG続唱」類似の形がそれだ。マジック・オンラインではリアルと違って《帝国の徴募兵》は16tix(≒1600円)程度なので、資産上の理由とは考えづらい。つまりそのような変形を施す合理的な理由があったと考えられる。ではその理由とは何だろうか?
簡単に推理するとすれば、「BUG続唱」への擬態が挙げられるだろう。たとえば《死儀礼のシャーマン》《悪意の大梟》と並べた相手が《陰謀団式療法》を打つか赤マナを持ってくれば、相手からすれば「このデッキは《魔の魅惑》だろう」という推論は簡単に成立しうる。しかしこの形ならば、手札を見られるか《断片無き工作員》の「続唱」で余計なカードがめくれない限り、仕掛ける前に《魔の魅惑》と見破られることはまずないはずだ。
また、通常の《帝国の徴募兵》型ではブルーカウントの確保が課題となるところ、この形ならば気兼ねなく《意志の力》を採用できるのも大きなメリットとなる。
他にも4枚搭載した《洞窟のハーピー》と《悪意の大梟》《断片無き工作員》とのシナジーによる「飛行クソビート」でプレッシャーがかけられる点も面白い。相手のライフを10以下まで削れば、《死儀礼のシャーマン》と《寄生的な大梟》で戦闘を介さずに勝つこともかなり現実的になってくる。クリーチャーへの対応を迫り、相手が動いたところで《魔の魅惑》コンボを決める……そうしたビートとコンボの2択は、サイドボード後まで含めても相手にとってかなり対応しづらいコンセプトと言えるだろう。
【「続唱青黒緑」でデッキを検索】
■ ヴィンテージ: メンター
3 《Tundra》 2 《溢れかえる岸辺》 4 《教議会の座席》 1 《トレイリアのアカデミー》 -土地 (10)- 1 《上位の空民、エラヨウ》 1 《瞬唱の魔道士》 4 《僧院の導師》 -クリーチャー (6)- 1 《Ancestral Recall》 1 《Time Walk》 1 《Black Lotus》 1 《Mox Emerald》 1 《Mox Jet》 1 《Mox Pearl》 1 《Mox Ruby》 1 《Mox Sapphire》 -パワー9 (8)- |
4 《ギタクシア派の調査》 4 《精神的つまづき》 4 《定業》 2 《剣を鍬に》 1 《天秤》 4 《物読み》 4 《意志の力》 1 《宝船の巡航》 1 《時を越えた探索》 4 《オパールのモックス》 2 《ウルザのガラクタ》 1 《魔力の墓所》 1 《師範の占い独楽》 1 《太陽の指輪》 2 《精神を刻む者、ジェイス》 -呪文 (36)- |
4 《解呪》 2 《狼狽の嵐》 2 《剣を鍬に》 2 《トーモッドの墓所》 2 《墓掘りの檻》 1 《封じ込める僧侶》 1 《仕組まれた爆薬》 1 《平地》 -サイドボード (15)- |
現在マジック・オンラインでは月1回、トップ8に入賞すると(マジック・オンライン上で)パワーナインがもらえる「パワーナイン・チャレンジ」というヴィンテージの大会が開催されており、ヴィンテージプレイヤーたちにとってはある程度レベルの高い大会に参加できるとともに最新の洗練されたデッキリストやメタゲームの移り変わりが見られる貴重な機会となっている。そして先週末に開催された9月分の「パワーナイン・チャレンジ」では、先進的な「メンター」デッキが優勝してヴィンテージプレイヤーの話題をさらっていた。
なんといっても特徴的なのはたった10枚しか搭載されていない土地のうち4枚を占める《教議会の座席》、そしてフル搭載された《オパールのモックス》と《物読み》。こうした構築は少し前のヴィンテージなら《石のような静寂》や《仕組まれた爆薬》《ゴリラのシャーマン》、また制限前は《虚空の杯》といったカードに対するリスクが高いため、ベルチャーのような瞬殺コンボデッキを除いては敬遠されがちであったが、【第6期ヴィンテージ神決定戦での森田 侑のデッキ】などを見てもわかるとおり、最近では白いヘイトベアー系デッキの筆頭がエルドラージになり、「自分も先手ぶん回りのあるMoxenを使った上で《アメジストのとげ》や《スレイベンの守護者、サリア》で展開を遅らせる」といった戦略に変わってきているため、そうしたリスクが低くなっていると判断した結果ということなのだろう。
また、《Black Lotus》や《Ancestral Recall》といった一部の超パワーカードへのアクセスが重要なヴィンテージにおいては、「2ドロー」の価値は極めて高い。それゆえに《思案》や《渦まく知識》といった、わずか1マナで3枚先まで未来を覗き見できるカードは制限カードに指定されているほどだが、《精神的つまづき》が刷られ、「《Ancestral Recall》対策の《精神的つまづき》対策の《精神的つまづき》」としてあらゆるデッキに3枚以上搭載される風潮となって以降は、《Ancestral Recall》はもちろん《思案》や《渦まく知識》も《精神的つまづき》の対象としてケアされるようになってきた。
そこにおいてこのデッキは、制限カードの《思案》と《渦まく知識》をあえて採用せず、プレイング面で通常は《精神的つまづき》しないことが多い《定業》と、1マナでプレイできるけれども《精神的つまづき》の対象とはならない《物読み》で「《精神的つまづき》メタ」を実現している点が革新的と言える。もちろん《思案》《渦まく知識》の性能を最大化するフェッチランドの数が極端に少ないこともその理由ではあるが、《噴出》《ダク・フェイデン》のセットが必須と思われておりどちらかといえばカウンターを得意とするアーキタイプだった《僧院の導師》デッキを、コンボデッキ類似のスピード感も併せ持ったプロアクティブなデッキへと切れ味鋭く進化させたこのデッキの登場は、ヴィンテージのメタゲームを変化させうるほどのインパクトがあるように思われる。
【「メンター」でデッキを検索】
いかがだっただろうか。
すべてのデッキリストには意思が込められている。
75枚から製作者の意図を読み解くことができれば、自分でデッキを作るときにもきっと役に立つだろう。
読者の皆さんも、ぜひ色々と面白いデッキを探してみて欲しい。
また来週!
【晴れる屋でデッキを検索する】
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