週刊デッキウォッチング vol.94 -壁カンパニー-

伊藤 敦



 マジックの華は、デッキリストだ。

 そのデッキに込められた意思を汲み取ろうとするとき、75枚の物言わぬ文字列はしかし、何よりも雄弁に製作者の心情を物語ってくれる。

 だから、デッキリストを見るということは。

 そのデッキを作った人物について、より深く知ろうとする行いに等しいのだ。



 この連載は【晴れる屋のデッキ検索】から毎週面白そうなデッキを見つけて、各フォーマットごとに紹介していく、というものだ。

 もし気に入ったデッキがあれば自分で作って試してみてもいいし、Magic Online用のtxtフォーマットでダウンロードすることも可能だ。

 それでは、それぞれのフォーマットで気になったデッキをご紹介しよう。






■ スタンダード: 白青コントロール



SPottenger「白青コントロール」
Competitive Standard Constructed League(5-0)

10 《島》
2 《平地》
4 《大草原の川》
4 《進化する未開地》
4 《港町》

-土地 (24)-

4 《スレイベンの検査官》
2 《反射魔道士》
1 《巡礼者の目》
4 《雲先案内人》
4 《奔流の機械巨人》

-クリーチャー (15)-
3 《本質の変転》
3 《予期》
1 《鑽火の輝き》
1 《神聖な協力》
4 《岸の飲み込み》
3 《天才の片鱗》
2 《燻蒸》
2 《耕作者の荷馬車》
2 《霊気貯蔵器》

-呪文 (21)-
3 《儀礼的拒否》
2 《否認》
2 《神聖な協力》
2 《即時却下》
2 《燻蒸》
2 《領事の権限》
1 《虚空の粉砕》
1 《霊気貯蔵器》

-サイドボード (15)-
hareruya



霊気貯蔵器奔流の機械巨人本質の変転



 『カラデシュ』発売以降、デッキビルダーの心を掴んで離さないカードがある……《霊気貯蔵器》だ。そしてこのカードの活用については、スタンダードにおいては《骨の鋸》《聖戦士の盾》といった0マナアーティファクトと《逆説的な結果》を組み合わせ、1ターンに10回以上のスペルをプレイするコンセプトを《光り物集めの鶴》でサポートするといったコンボ的なアプローチが主流だったのだが、今回なんとコントロール型の《霊気貯蔵器》デッキが登場した。

 一見《パンハモニコン》デッキのようにも見えるこのデッキのクリーチャー選択は、《本質の変転》《岸の飲み込み》でETB能力を使いまわすことを前提としている。《神の怒り》の代わりに《岸の飲み込み》を採用したコントロールといった風情だが、当然手札に返しても再キャストされてしまってはいずれ負けてしまう。そこで《奔流の機械巨人》《霊気貯蔵器》の登場である。

 《島》が5枚以下の状態でエンド前の《奔流の機械巨人》《岸の飲み込み》を使いまわすことができれば5点ダメージは確定だし、もし隣に《耕作者の荷馬車》がいれば10点になる。こうした小技を駆使してダメージレースを制することができる、ミッドレンジ的テーマも持っている。

 さらにどちらかといえばライフゲインカードとして入っていそうな《霊気貯蔵器》も、これを置いた状態で《奔流の機械巨人》をプレイすると、墓地の《本質の変転》をすべて使いまわせるため、まるで「ストーム」のようにスペルを連打して、結果としてライフを大量に得ることができる。《雲先案内人》《燻蒸》でライフを維持する能力も高いので、のらりくらりと対戦相手の攻撃をかわしていれば、50点砲での勝利も夢ではないだろう。


【「白青コントロール」でデッキを検索】





■ モダン: ローグ



Hayashi Masataka「ローグ」
晴れる屋モダン杯(4-1-1)

3 《森》
1 《平地》
2 《寺院の庭》
4 《吹きさらしの荒野》
2 《湿地の干潟》
2 《新緑の地下墓地》
2 《活発な野生林》
4 《ウェストヴェイルの修道院》

-土地 (20)-

4 《偽りの希望の神》
4 《薄暮見の徴募兵》
4 《森の女人像》
4 《草茂る胸壁》
4 《ぶどう棚》
4 《根の壁》
4 《斧折りの守護者》
1 《村の鐘鳴らし》
1 《大修道士、エリシュ・ノーン》
1 《絶え間ない飢餓、ウラモグ》
2 《引き裂かれし永劫、エムラクール》

-クリーチャー (33)-
4 《集合した中隊》
3 《野生のつがい》

-呪文 (7)-
4 《ヴリンの翼馬》
3 《塵を飲み込むもの、放粉痢》
2 《漁る軟泥》
2 《スレイベンの守護者、サリア》
1 《再利用の賢者》
1 《大修道士、エリシュ・ノーン》
1 《エメリアの盾、イオナ》
1 《石のような静寂》

-サイドボード (15)-
hareruya



草茂る胸壁斧折りの守護者野生のつがい



 モダンといえばマーフォークやゴブリンなど、クリーチャータイプを統一した「部族デッキ」も人気だ。そしてそれはメジャーな部族に限った話ではなく、マイナーなクリーチャー・タイプであればあるほど、デッキビルダーにとっての良い制約となるので、モダンでは時々「なぜその部族を選んだ」というようなデッキが出てくることになる。今回紹介する壁 (Wall) デッキもその一つだ。

 壁というのは大抵セットで防衛を持っているので、当然それだけではゲームに勝つことはできない。《ローリング・ストーンズ》《突撃陣形》で防衛を無視させてもいいが、このデッキはそんな安易な発想に逃げなかった。壁は壁のままに、しかし《草茂る胸壁》《斧折りの守護者》の8枚で壁を並べた数だけマナを出していくことで、15マナの《引き裂かれし永劫、エムラクール》を普通にプレイしようという、一見無謀な挑戦に挑んでいるのである。

 とはいえ見た目ほど無謀というわけでもなさそうなのがこのデッキのすごいところで、3ターン目の《集合した中隊》から爆発的に加速したマナから《野生のつがい》にたどり着けば、あとは《薄暮見の徴募兵》が供給するクリーチャーから倍々ゲームで壁が増えていく。ひととおりマナを使い切ったところで《村の鐘鳴らし》を持ってくれば、15マナは目前だろう。

 《偽りの希望の神》《薄暮見の徴募兵》《集合した中隊》《野生のつがい》と相性が良い《濃霧》として使えるため、このデッキにとっては貴重な準備のための1ターンを稼ぎ出す。さりげなく4枚搭載された《ウェストヴェイルの修道院》も殺意にあふれており、モダンでの壁の可能性を感じさせる秀逸なデッキだ。


【「ローグ」でデッキを検索】





■ レガシー: 騙し討ち



Kasey Walton「騙し討ち」
StarCityGames.com – Legacy Classic 2016/11/13 Columbus(2位)

9 《山》
2 《鋭き砂岩》
4 《古えの墳墓》
4 《裏切り者の都》

-土地 (19)-

4 《猿人の指導霊》
2 《焼却の機械巨人》
2 《業火のタイタン》
3 《グリセルブランド》
2 《世界棘のワーム》
2 《引き裂かれし永劫、エムラクール》

-クリーチャー (15)-
4 《煮えたぎる歌》
4 《裂け目の突破》
4 《血染めの月》
4 《騙し討ち》
4 《水蓮の花びら》
4 《虚空の杯》
2 《反逆の先導者、チャンドラ》

-呪文 (26)-
3 《コジレックの帰還》
3 《三なる宝球》
2 《月の大魔術師》
2 《突然のショック》
2 《紅蓮術》
2 《反逆の先導者、チャンドラ》
1 《鋳塊かじり》

-サイドボード (15)-
hareruya



焼却の機械巨人騙し討ち反逆の先導者、チャンドラ



 『カラデシュ』がレガシーにもたらしたカードといえば、やはりまずは《反逆の先導者、チャンドラ》が挙げられるだろう。4マナと比較的軽いマナコストを持ちつつドローソース、恒久的ダメージソース、マナ加速、除去と多くの役割を果たせることから、《精神を刻む者、ジェイス》にも似た「カードパワーによる単体での勝ち筋」として期待されることが多いこのカードだが、【vol.77】でも紹介した「赤単スニーク」にも居場所を見つけている。

 従来は《山賊の頭、伍堂》《殴打頭蓋》のパッケージが入っていたスロットに《殴打頭蓋》の代わりに《反逆の先導者、チャンドラ》が収まったことで、マナが足りない場合とスペルが足りない場合、いずれのパターンにも噛み合うことから、より引きムラが少なくなった。

 さらに《騙し討ち》の種となっていた《山賊の頭、伍堂》のスロットには《焼却の機械巨人》が収まっている。スタンダードでは手札にデカブツが来ても処理できないため、ネタバレしたこの手のデッキに対しては対戦相手の選択としては「3ドロー」が安定となるが、《騙し討ち》《裂け目の突破》があるレガシーなら、3枚ドローされるのもそれはそれで厳しい、かといって「3枚削り」で《引き裂かれし永劫、エムラクール》《世界棘のワーム》を落とされたら即負けというダブルバインドを迫ることができる。

 青い環境と評されるレガシーだが、近年では【エルドラージ】【デス&タックス】など、青以外のデッキが台頭することも多くなってきた。この「赤単スニーク」も《反逆の先導者、チャンドラ》という強力なプレインズウォーカーを得たことで、墓地対策が効かない上に自分で《虚空の杯》を積んだコンボという独自のポジションを持つデッキとして、これから勢力を増していきそうだ。


【「騙し討ち」でデッキを検索】





■ フロンティア: 魂込めビートダウン



Nagumo Daisuke「魂込めビートダウン」
平日フロンティア17時の部(3-0)

4 《霊気拠点》
4 《感動的な眺望所》
4 《コイロスの洞窟》
2 《戦場の鍛冶場》
2 《シヴの浅瀬》
4 《ダークスティールの城塞》

-土地 (20)-

4 《搭載歩行機械》
4 《模範的な造り手》
4 《スレイベンの検査官》
4 《屑鉄場のたかり屋》
2 《異端聖戦士、サリア》
2 《配分の領事、カンバール》

-クリーチャー (20)-
4 《爆片破》
3 《無許可の分解》
4 《アーティファクトの魂込め》
3 《幽霊火の刃》
4 《密輸人の回転翼機》
2 《耕作者の荷馬車》

-呪文 (20)-
4 《稲妻の一撃》
2 《乱撃斬》
2 《焙り焼き》
2 《粉々》
2 《穢れた療法》
2 《トーモッドの墓所》
1 《飛行機械の諜報網》

-サイドボード (15)-
hareruya



模範的な造り手アーティファクトの魂込め無許可の分解



 フロンティア環境で《アーティファクトの魂込め》を使ったビートといえば【プロツアー『マジック・オリジン』】で活躍したような青赤ベースのデッキが想起されるが、《つむじ風のならず者》《頑固な否認》が強い環境と考えないならば青をメインカラーにする必要性はそこまでない。そうなればむしろスタンダードで活躍する白赤「機体」をベースにした形があっても不思議ではなく、そしてそれを実現したのがこちらのデッキだ。

 《模範的な造り手》《密輸人の回転翼機》という最強の1マナ→2マナのムーブに加えて、《スレイベンの検査官》から「手がかり・トークン」に《アーティファクトの魂込め》を付けるルートもあり、ビートダウンとしてのトップスピードはフロンティア環境でもトップクラスだ。

 しかも単純なビートダウンであれば《はじける破滅》をはじめとするフロンティア環境の強力な除去スペルにいずれ飲み込まれてしまうところ、このデッキの強みは火力による押し込み力の高さにある。《爆片破》は1枚引けばライフの4分の1を、2枚引けば2分の1を削ることができるフロンティア最強の火力だし、《無許可の分解》はこのデッキなら《焼尽の猛火》もびっくりの万能除去となる。

 《異端聖戦士、サリア》《配分の領事、カンバール》はダークジェスカイのように特殊地形過多かつスペル過多なデッキに対して強力だ。「機体」ベースの《アーティファクトの魂込め》デッキというアイデアは、フロンティアの標準的なビートダウンのスピードを塗り替える可能性を秘めているかもしれない。


【「魂込めビートダウン」でデッキを検索】






 いかがだっただろうか。

 すべてのデッキリストには意思が込められている。

 75枚から製作者の意図を読み解くことができれば、自分でデッキを作るときにもきっと役に立つだろう。

 読者の皆さんも、ぜひ色々と面白いデッキを探してみて欲しい。

 また来週!


【晴れる屋でデッキを検索する】



この記事内で掲載されたカード


Twitterでつぶやく

Facebookでシェアする

関連記事

このシリーズの過去記事