週刊デッキウォッチング vol.111 -屑鉄アイアンワークス-

伊藤 敦

 マジックの華は、デッキリストだ。

 そのデッキに込められた意思を汲み取ろうとするとき、75枚の物言わぬ文字列はしかし、何よりも雄弁に製作者の心情を物語ってくれる。

 だから、デッキリストを見るということは。

 そのデッキを作った人物について、より深く知ろうとする行いに等しいのだ。

 この連載は【晴れる屋のデッキ検索】から毎週面白そうなデッキを見つけて、各フォーマットごとに紹介していく、というものだ。

 もし気に入ったデッキがあれば自分で作って試してみてもいいし、Magic Online用のtxtフォーマットでダウンロードすることも可能だ。

 それでは、それぞれのフォーマットで気になったデッキをご紹介しよう。

■ スタンダード: ローグ


kadashi6351「ローグ」
Competitive Standard Constructed League(5-0)

5 《沼》
2 《島》
2 《山》
4 《産業の塔》
4 《尖塔断の運河》
3 《凶兆の廃墟》
4 《さまよう噴気孔》

-土地 (24)-

2 《ピア・ナラー》
4 《異端の飛行機械職人》
4 《艱苦の伝令》

-クリーチャー (10)-
3 《致命的な一押し》
4 《金属の叱責》
3 《無許可の分解》
4 《テゼレットの手法》
4 《発火器具》
4 《霊気装置の設計図》
3 《歯車工の組細工》
1 《街の鍵》

-呪文 (26)-
2 《払拭》
2 《グレムリン解放》
2 《否認》
2 《精神背信》
2 《集団的蛮行》
2 《焼夷流》
1 《致命的な一押し》
1 《無許可の分解》
1 《領事の旗艦、スカイソブリン》

-サイドボード (15)-
hareruya



艱苦の伝令テゼレットの手法異端の飛行機械職人


 「グリクシス『即席』」といえば【プロツアー『霊気紛争』】【Willy Edelが持ち込んだデッキ】として知られているが、残念ながらプロツアーでの成績は芳しくなかった。だが、それはメタゲームが固まっておらず、環境に対して必要なコンセプトが見定められていなかったからだ。「機体」と「コピーキャット」の隆盛により、地上クリーチャーの価値が著しく低下し、飛行の価値が相対的に高まった今なら、「5/5飛行」単として新たな役割を見出せる可能性がある。

 その可能性をいち早く見出したこちらのデッキは、居並ぶ《導路の召使い》《ならず者の精製屋》たちを前にいちいちバックアップが必要となる《砦の発明者》を解雇し、勝ち手段を「《異端の飛行機械職人》《ピア・ナラー》《テゼレットの手法》」と《艱苦の伝令》に絞ることで、「地上デッキ殺し」としての一貫性を確保することに成功している。

 《改革派の地図》を廃した上で4枚搭載された《発火器具》は、「即席」材としてマナ加速の役割を果たしつつ、《サヒーリ・ライ》《守護フェリダー》への牽制になる。《無許可の分解》と合わせて残り一桁のライフを削りきる本体火力にもなり、対戦相手からしたら嫌らしいことこの上ないだろう。

 「機体」と「コピーキャット」のどちらのサイドにも《グレムリン解放》が積まれるのが当たり前になって以降、《霊気池の驚異》のように強力な1枚のアーティファクトを主軸にしたデッキは組みづらくなってしまったが、個々のアーティファクトに価値を見出さない「即席」ならアーティファクト破壊が刺さりづらいし、重いソーサリーアクションに対しては《金属の叱責》を構えることもできる。5/5というサイズ自体が《反逆の先導者、チャンドラ》に強いこともあり、《艱苦の伝令》はこれからの活躍が期待できるカードと言えそうだ。

【「ローグ」でデッキを検索】


■ モダン: ローグ


discoverN「ローグ」
Modern Constructed League(5-0)

1 《森》
2 《氷の橋、天戸》
4 《ウギンの聖域》
4 《ダークスティールの城塞》
2 《発明博覧会》
1 《宝石の洞窟》
1 《アカデミーの廃墟》

-土地 (15)-

4 《屑鉄さらい》
2 《マイアの戦闘球》
1 《引き裂かれし永劫、エムラクール》

-クリーチャー (7)-
4 《古きものの活性》
3 《物読み》
4 《オパールのモックス》
4 《ミシュラのガラクタ》
4 《彩色の星》
4 《彩色の宝球》
4 《テラリオン》
4 《胆液の水源》
3 《予言のプリズム》
4 《クラーク族の鉄工所》

-呪文 (38)-
3 《自然の要求》
3 《神聖の力線》
3 《防御の光網》
2 《墓掘りの檻》
1 《沈黙》
1 《紅蓮地獄》
1 《血染めの月》
1 《仕組まれた爆薬》

-サイドボード (15)-
hareruya



屑鉄さらいクラーク族の鉄工所引き裂かれし永劫、エムラクール


 《第二の日の出》が禁止となって以降、《信仰の見返り》《蔵の開放》を用いたアーティファクト・チェインデッキは、モダン環境の主流からは外れてしまっていた。だが『霊気紛争』で登場した《屑鉄さらい》により、いま新しい形のチェインコンボが産声をあげようとしている。

 コンボスタートを《信仰の見返り》《蔵の開放》に依存したときの難点は、それらの呪文がサーチできないため、《知識の渇望》のような通常のドロー呪文に頼らざるを得ない点にあった。その点このデッキは、《クラーク族の鉄工所》《屑鉄さらい》をコンボの起点に据えたことで、《古きものの活性》ですべてのコンボパーツが探しにいけるようになっているのが美しい。

 《クラーク族の鉄工所》《屑鉄さらい》が揃うと、《胆液の水源》は墓地の《彩色の星》《テラリオン》を回収しながらマナを出し、《彩色の星》《テラリオン》は墓地の《ミシュラのガラクタ》《オパールのモックス》を回収しながらマナを出し、引き込んだカードでまたそれらを回収して浮いたマナでプレイし……というチェインが始まることになる。それだけではドロー次第でチェインが止まるかもしれないが、途中で《マイアの戦闘球》にたどり着けば、《ウギンの聖域》が誘発して《引き裂かれし永劫、エムラクール》を手札に入れつつマナを増やすことができるので、勝利は目前だ。

 メインボードで値が張るのは《オパールのモックス》《ミシュラのガラクタ》《引き裂かれし永劫、エムラクール》くらいで、モダンのデッキの中では比較的組みやすそうなのも魅力的だ。出てきたばかりということもあって発展の余地もありそうなので、興味がある方はぜひ試してみて欲しい。

【「ローグ」でデッキを検索】


■ レガシー: 独楽ストーム


Yamakabe Shun「独楽ストーム」
晴れる屋レガシー杯(4-1-1)

4 《魂の洞窟》
4 《雲上の座》
4 《微光地》
4 《古えの墳墓》
4 《裏切り者の都》
3 《発明博覧会》

-土地 (23)-

4 《難題の予見者》
4 《終末を招くもの》

-クリーチャー (8)-
4 《師範の占い独楽》
4 《通電式キー》
4 《厳かなモノリス》
3 《防御の光網》
4 《玄武岩のモノリス》
4 《スランの発電機》
4 《パラドックス装置》
2 《ニンの杖》

-呪文 (29)-
4 《虚空の力線》
3 《精霊龍、ウギン》
2 《ワームとぐろエンジン》
2 《真髄の針》
2 《三なる宝球》
1 《白金の天使》
1 《爆積み》

-サイドボード (15)-
hareruya



パラドックス装置師範の占い独楽厳かなモノリス


 統率者戦で禁止になるのでは、とまことしやかに噂されている《パラドックス装置》だが、それほどのカードパワーなら、適切な使い方さえ見つかればスタンダードなど他の環境でも活躍するであろうことは想像に難くない。だが、まさかレガシーで結果を残すほどとは誰が想像できただろうか?

 《パラドックス装置》がある状況で、《厳かなモノリス》《玄武岩のモノリス》《スランの発電機》のどれか+《師範の占い独楽》《通電式キー》が揃うと、《師範の占い独楽》ドローにスタックで《通電式キー》でアンタップ、しかるのちに再び《師範の占い独楽》でドローすることで、《師範の占い独楽》が手札に戻った状態でドロー1枚をタダ得でき、再キャストしても1マナ余るので、無限ドロー+無限マナとなる。あとは途中で《師範の占い独楽》2枚による「Sensei, Senseiループ」に入れるので、《ニンの杖》をアンタップし続けて無限ダメージで勝利という寸法だ。

 《師範の占い独楽》がコンボパーツ兼ドロー操作として機能する美しさがあるほか、有り余るマナから高速で出てくる《終末を招くもの》は対処できなければ単体でどんどんとリソースを稼ぎ出していく。サイドボードからの《精霊龍、ウギン》も奇襲性抜群だろう。

 《意志の力》を構えた相手には《魂の洞窟》からの《難題の予見者》というオプションもある。序盤から大量のマナを生み出す構造からすると、サイドから《現実を砕くもの》まで投入したストンピィプランとのハイブリッドを検討してみてもいいかもしれない。レガシーにおける《パラドックス装置》の可能性はまだまだ切り拓かれたばかり、今後の展開に注目だ。

【「独楽ストーム」でデッキを検索】


■ ヴィンテージ: ストーム


Matsuda Yukio「ストーム」
晴れる屋ヴィンテージ杯(3-1-1)

8 《沼》
4 《Bazaar of Baghdad》
1 《Library of Alexandria》
4 《ヨーグモスの墳墓、アーボーグ》

-土地 (17)-

4 《グリセルブランド》
1 《引き裂かれし永劫、エムラクール》

-クリーチャー (5)-

1 《Black Lotus》
1 《Mox Jet》

-パワー9 (2)-
4 《思考囲い》
4 《暗黒の儀式》
4 《納墓》
1 《吸血の教示者》
1 《伝国の玉璽》
4 《浅すぎる墓穴》
4 《御霊の復讐》
2 《集団的蛮行》
1 《Demonic Tutor》
4 《暴露》
1 《苦悶の触手》
1 《ネクロポーテンス》
4 《金属モックス》
1 《水蓮の花びら》

-呪文 (36)-
4 《群れネズミ》
4 《吸血鬼の呪詛術士》
4 《暗黒の深部》
3 《演劇の舞台》

-サイドボード (15)-
hareruya



Bazaar of Baghdadグリセルブランド御霊の復讐


 ヴィンテージのコンボデッキといえば現在は《逆説的な結果》ストームやドレッジが主流と思われるが、もとよりほぼ何でもアリな環境なだけに、モダンやレガシーのコンセプトをそのまま流用することも不可能というわけではない。その点、こちらのデッキは【半年ほど前にも入賞していた】が、レガシーの高速リアニメイトである“Tin Fins”をヴィンテージ仕様に設えたようなデッキとなっている。

 ドレッジと違って《Bazaar of Baghdad》を初手に引き込む必要性は薄いので(もちろん引いたら遠慮なくキープするだろうが)、安定性が増しているのが強みだ。また、メインから4枚の《ヨーグモスの墳墓、アーボーグ》を無理なく運用できることにより、サイド後の墓地対策すかしのための《暗黒の深部》プランのスロットが空いたため、追加で単体で勝てる《群れネズミ》を採用できている点もサイド後の勝率に大きく関わってきそうである。

 ヴィンテージではレガシーほど《死儀礼のシャーマン》が出てこないだろうし、《浅すぎる墓穴》なら《納墓》を絡めるなどして追放能力起動の上から《グリセルブランド》を釣り上げることも可能となる。

 ヴィンテージといえどマジックはマジック、デッキビルダーが活躍する環境であることに変わりはない。モダンやレガシーで気に入ったコンセプトがあるなら、ヴィンテージ版を夢想してみると意外な楽しみが生まれるかもしれない。

【「ストーム」でデッキを検索】



 いかがだっただろうか。

 すべてのデッキリストには意思が込められている。

 75枚から製作者の意図を読み解くことができれば、自分でデッキを作るときにもきっと役に立つだろう。

 読者の皆さんも、ぜひ色々と面白いデッキを探してみて欲しい。

 また来週!


【晴れる屋でデッキを検索する】



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