週刊デッキウォッチング vol.119 -トライバルクレイジーズー-

伊藤 敦

 マジックの華は、デッキリストだ。

 そのデッキに込められた意思を汲み取ろうとするとき、75枚の物言わぬ文字列はしかし、何よりも雄弁に製作者の心情を物語ってくれる。

 だから、デッキリストを見るということは。

 そのデッキを作った人物について、より深く知ろうとする行いに等しいのだ。

 この連載は晴れる屋のデッキ検索から毎週面白そうなデッキを見つけて、各フォーマットごとに紹介していく、というものだ。

 もし気に入ったデッキがあれば自分で作って試してみてもいいし、Magic Online用のtxtフォーマットでダウンロードすることも可能だ。

 それでは、それぞれのフォーマットで気になったデッキをご紹介しよう。

■ スタンダード: 赤単


Hara Shinichirou「赤単」
札幌店平日スタンダード(3-0)

22 《山》
1 《ガイアー岬の療養所》

-土地 (23)-

4 《航空船を強襲する者、カーリ・ゼヴ》
4 《過酷な指導者》
4 《罪を誘うもの》
3 《アン一門の壊し屋》
2 《ゴブリンの闇住まい》
3 《熱烈の神ハゾレト》
4 《栄光をもたらすもの》

-クリーチャー (24)-
4 《焼夷流》
4 《焼けつく双陽》
3 《栄光の幕切れ》
2 《街の鍵》

-呪文 (13)-
4 《マグマのしぶき》
3 《力ずく》
3 《ヴァラクートの涙》
2 《ゴブリンの闇住まい》
2 《反逆の先導者、チャンドラ》
1 《栄光の幕切れ》

-サイドボード (15)-
hareruya

熱烈の神ハゾレト栄光の幕切れ栄光をもたらすもの

 「対処不能な状況を押し付ける」ことがマジックにおける勝利の秘訣とするなら、バーンやスライといったこれまで赤という色が持っていた古典的な戦略は、対処が容易となりやすいことから、昨今では通用しづらくなってきている。だが、赤の持つ戦略は本来それだけではない。骨太なクリーチャーや速攻持ちのクリーチャーを軸とした赤単ミッドレンジとて、構築することは可能なのだ。

 このデッキでは《ならず者の精製屋》《つむじ風の巨匠》といったクリーチャーに押し負けてしまうような軟弱な生物を採用せず、すべてのクリーチャーを「《マグマのしぶき》《蓄霊稲妻》を打ち込むことを必要とするシステムクリーチャー」に近づけることで、対処不能な状況を作出しようと目論んでいる。

 威迫持ちのクリーチャーが多い上に《アン一門の壊し屋》《熱烈の神ハゾレト》《栄光をもたらすもの》といった速攻クリーチャーもあり、受ける側がただクリーチャーを出していくだけだと少しずつダメージが通っていく仕様だ。

 さらに相手が一手でも受けを誤ればすぐにでも《栄光の幕切れ》が強制的にゲームを幕引きにかかる。対処不能な状況を作るなら、ミッドレンジこそが赤の目指すべき方向と言えるのかもしれない。

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■ モダン: スーパークレイジーズー


Gunnar Gelssler「スーパークレイジーズー」
グランプリ・コペンハーゲン2017(Top8)

1 《蒸気孔》
1 《血の墓所》
1 《草むした墓》
1 《聖なる鋳造所》
1 《踏み鳴らされる地》
1 《寺院の庭》
4 《乾燥台地》
4 《樹木茂る山麓》
3 《血染めのぬかるみ》

-土地 (17)-

4 《死の影》
4 《僧院の速槍》
4 《野生のナカティル》
4 《タルモゴイフ》
2 《残忍な剥ぎ取り》
2 《改革派の結集者》
2 《ゴーア族の暴行者》
4 《通りの悪霊》

-クリーチャー (26)-
4 《稲妻》
2 《変異原性の成長》
3 《ティムールの激闘》
4 《部族の炎》
4 《ミシュラのガラクタ》

-呪文 (17)-
4 《思考囲い》
2 《改革派の結集者》
2 《古えの遺恨》
2 《原基の印章》
2 《漸増爆弾》
1 《森》
1 《四肢切断》
1 《最後の望み、リリアナ》

-サイドボード (15)-
hareruya

残忍な剥ぎ取り死の影部族の炎

 《ギタクシア派の調査》の禁止によって、Super Crazy Zooを含めたモダンのアグロデッキは、大幅な後退を余儀なくされた。《死の影》自体は、2ターン目に手札破壊を打ちながら戦場に出せるミッドレンジにおける最強最速のフィニッシャーとして他の戦略に吸収されたが、もはやあのアグロな《死の影》を見ることはないのだろうか?否、SCZはまだ生きていたのだ。

 グランプリ・コペンハーゲン2017でトップ8に入ったこちらのデッキは、以前のように狂ったような3キル単ではなくなったものの、最近では珍しく手札破壊を全抜きした代わりに《ティムールの激闘》を3枚と《変異原性の成長》までも搭載した、SCZの精神を完璧に受け継いだスーサイドアグロとなっている。

 2ターン目までに展開したクリーチャーに《ゴーア族の暴行者》《ティムールの激闘》を投げつけることで致死ダメージを叩き出す戦略は健在ながらも、《タルモゴイフ》だけでなく《残忍な剥ぎ取り》まで採用し、往年のZooの太さをも併せ持っているのが特徴だ。

 最高速度を落としつつ、しかしスーサイドなアグロというやや矛盾した戦略を成立させているのは、トランプル含みで12点~15点程度のダメージを入れた後に打ち込まれる《部族の炎》《稲妻》と合わせればライフ8点から射程圏になるので、《死の影》同型戦は互いに火力がないと思い込んでいると、足元をすくわれる羽目になりそうだ。

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■ レガシー: エンジェルストンピィ


Katou Takahisa「エンジェルストンピィ」
晴れる屋レガシー杯(5位)

7 《平地》
4 《魂の洞窟》
3 《カラカス》
4 《古えの墳墓》
4 《裏切り者の都》

-土地 (22)-

4 《スレイベンの守護者、サリア》
3 《石鍛冶の神秘家》
2 《ファイレクシアの破棄者》
4 《ヴリンの翼馬》
3 《異端聖戦士、サリア》
2 《護衛募集員》
2 《折れた刃、ギセラ》
1 《宮殿の看守》
1 《霊体の先達》
4 《賛美されし天使》

-クリーチャー (26)-
4 《虚空の杯》
4 《金属モックス》
1 《火と氷の剣》
1 《梅澤の十手》
1 《殴打頭蓋》
1 《太陽の勇者、エルズペス》

-呪文 (12)-
2 《レオニンの裁き人》
2 《修復の天使》
2 《風生まれの詩神》
2 《解呪》
2 《安らかなる眠り》
2 《三なる宝球》
1 《封じ込める僧侶》
1 《万力鎖》
1 《光と影の剣》

-サイドボード (15)-
hareruya

虚空の杯賛美されし天使スレイベンの守護者、サリア

 《古えの墳墓》《裏切り者の都》から《虚空の杯》を設置し、1マナ除去を封殺しつつ高速でデカブツを出すいわゆる「ストンピィ」戦略は、《虚空の杯》と同様の目的を達成するための代用品として《血染めの月》が採用されがちなことから、赤単色の「ドラゴンストンピィ」が主流だが、基本的にはどの色であろうと成立するはずであり、この《賛美されし天使》をフィニッシャーにした「エンジェルストンピィ」も、そういった思想を中核に据えたデッキの一つだ。

 《スレイベンの守護者、サリア》《ヴリンの翼馬》と呪文にコスト制限をかけながら自分は《石鍛冶の神秘家》の能力でそれらをすり抜けていく動きは「デス&タックス」に近いが、土地を攻めない代わりに《虚空の杯》《渦まく知識》への耐性をつけられているのは大きな違いと言えるだろう。

 《虚空の杯》デッキでありながらライフ回復能力を持つ天使が6枚に装備品まで入っているので、真っ向からの殴り合いならば大抵のデッキには後れをとらず、引きムラはありそうなものの、コンボとそれを見据えたクロックパーミ相手に対等以上に戦えそうな構成が魅力だ。

 《師範の占い独楽》が禁止になったことで、レガシーは既存の強いデッキ・これまで押さえつけられていたデッキ・新規のデッキが入り混じる、かつてないほど面白い環境となっている。いよいよ今週末に迫った第9期レガシー神挑戦者決定戦ではどんなデッキが勝利するのか、プレイヤーたちのアイデアに期待したい。

「エンジェルストンピィ」でデッキを検索

 いかがだっただろうか。

 すべてのデッキリストには意思が込められている。

 75枚から製作者の意図を読み解くことができれば、自分でデッキを作るときにもきっと役に立つだろう。

 読者の皆さんも、ぜひ色々と面白いデッキを探してみて欲しい。

 また来週!

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