週刊デッキウォッチング vol.151 -予言キキジキ御霊-

伊藤 敦

 マジックの華は、デッキリストだ。

 そのデッキに込められた意思を汲み取ろうとするとき、75枚の物言わぬ文字列はしかし、何よりも雄弁に製作者の心情を物語ってくれる。

 だから、デッキリストを見るということは。

 そのデッキを作った人物について、より深く知ろうとする行いに等しいのだ。

 この連載は晴れる屋のデッキ検索から毎週面白そうなデッキを見つけて、各フォーマットごとに紹介していく、というものだ。

 もし気に入ったデッキがあれば自分で作って試してみてもいいし、Magic Online用のtxtフォーマットでダウンロードすることも可能だ。

 それでは、それぞれのフォーマットで気になったデッキをご紹介しよう。

■ スタンダード: ローグ

魔学コンパス不敬の行進威厳あるカラカル

 ティムールエネルギーの弱体化は、除去スペルに対するエネルギー・テンポ戦略の瓦解を意味していた。《霊気との調和》《ならず者の精製屋》が消えたことで《逆毛ハイドラ》の使用価値が激減した今、除去スペルは本来の価値を取り戻し、スタンダード環境は《致命的な一押し》《ヴラスカの侮辱》を有する黒と《削剥》《蓄霊稲妻》《稲妻の一撃》を有する赤の支配率が増してきている。ならば従来青白で組まれることが多かった《副陽の接近》も、相方となる色を変えるべきときに来ているのかもしれない。

 白黒の《副陽の接近》デッキとなっているこのデッキは、従来青が担っていた手札の引き増しの役割を《宝物の地図》《魔学コンパス》という2種類の2マナアーティファクトに委ねている。黒絡みの《副陽の接近》が『イクサランの相克』で得たものとしては《首謀者の収得》が挙げられ、たとえばトークンデッキ相手のサイド後に《副陽の接近》の1枚をあらかじめサイドアウトしておくことで、以前はかわせなかった《失われた遺産》による即負けを防ぐことができるようになっている。

 また、《致命的な一押し》《ヴラスカの侮辱》《残骸の漂着》《燻蒸》という除去過多な構成にもかかわらずドロースペルを入れずに済んでいるのは《オラーズカの拱門》の加入が大きい。《宝物の地図》を変身させれば6ターン目には「昇殿」が達成できるほか、《不可解な終焉》《イクサランの束縛》といった白の追放エンチャントもパーマネント数のカウントの一助となる。《不敬の行進》は青黒や青黒赤では触ることができず、一旦着地すれば《再燃するフェニックス》だろうと《熱烈の神ハゾレト》だろうと《スカラベの神》だろうと問題にならない。

 相性差で不利が付きがちな赤単に対しても《威厳あるカラカル》4枚積みで対抗しており、スタンダード新環境初期の現状を的確に捉えつつ全方位に弱点を作らないという難題を見事に解決しているように見える、素晴らしい完成度のデッキだ。

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■ モダン: 青リビングエンド

予言により御霊の復讐鏡割りのキキジキ

 《死せる生》デッキの亜種、《予言により》コンボのメリットは「続唱」を使用していないことでデッキ構成に縛りがないという点にあった。そして縛りがないということは、他のどんなコンボとも共存しうるということを意味している。だがそれにしても、ここまで破天荒な形が成立するとは誰が想像しただろうか?

 このデッキは「《予言により》《死せる生》」コンボに「《御霊の復讐》《グリセルブランド》」コンボと「《詐欺師の総督》《鏡割りのキキジキ》」コンボをハイブリッドしたトリプルコンボデッキとなっている。どれも2枚コンボであり、クリーチャーを使うものもあればそうではないものもあり、あるいは墓地も使うものもあればやはりそうではないものもあるため、対戦相手からすればどのコンボをどのように止めればいいのかわからず、妨害しにくいのが特徴だ。

 さらにコンボパーツ同士の相補完性は特筆に値する。たとえば墓地に落とした《グリセルブランド》《御霊の復讐》ではなく《死せる生》で戦場に戻したっていいし、《鏡割りのキキジキ》もあらかじめ捨てておいて《御霊の復讐》で釣り上げることができる。《詐欺師の総督》《鏡割りのキキジキ》の両方を墓地に落としておいて《死せる生》で一気に勝ち、なんて動きも夢ではない。

 もちろん重なったり不要になったら《信仰無き物あさり》《イゼットの魔除け》《ヴリンの神童、ジェイス》で捨ててしまえばいい。デッキ1つで3種類以上のコンボが味わえる、実にお得なデッキだ。

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■ レガシー: 騙し討ち

血染めの太陽血染めの月騙し討ち

 『イクサランの相克』で登場した、《血染めの月》の亜種である《血染めの太陽》。レガシーの主要な土地である青系のフェッチランドを事実上封殺できる点に変わりはないが、《血染めの太陽》の方が優れている点もある。それは《血染めの太陽》を置くための加速材である《古えの墳墓》《裏切り者の都》と相性が良いという点だ。

 《血染めの太陽》を置いてもマナが減らないので、1ターン目にまず《血染めの太陽》を置き、2ターン目にそのまま《血染めの月》を置くこともできる。また《血染めの太陽》は手札が減らないので、《金属モックス》の激しい手札消費を緩和してくれる点もありがたい。

 《アゾールの門口》は赤単色では貴重な継続的ドローソースとなるほか、うっかり変身すれば《引き裂かれし永劫、エムラクール》《グリセルブランド》の素プレイもありうるという夢のあるカードだ。

 《月の大魔術師》では《罰する火》などに焼かれてしまうリスクもあったところ、そのような心配がない《血染めの太陽》の加入によって赤単ストンピィ系デッキは大幅に強化されたと言っていい。速度・妨害力ともに申し分なく、今後も活躍の幅を広げていきそうだ。

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■ ヴィンテージ: オース

  • brianpk80
  • 「オース」
  • Competitive Vintage Constructed League
  • (5-0)
ドルイドの誓いダク・フェイデン神秘の回復

 ヴィンテージには独自のメタゲームがあり、他のフォーマットのプレイヤーには想像もつかないようなカードが想像もつかない形で活躍することがある。最近《ドルイドの誓い》デッキによく採用されている《業火のタイタン》《僧院の導師》や対戦相手のプレインズウォーカーに強い点が魅力だが、しかし今日紹介するこのデッキはそれだけにとどまらず、ヴィンテージの流行とはまた違った独自の思想が反映された構成となっている。

 多すぎる1枚差しを一旦脇にどけて複数枚搭載されているカードから読み取れる思想としては、《ダク・フェイデン》の強みを最大限生かそうとしているということだろう。Moxenと《Mishra's Workshop》の環境であるヴィンテージにおいて《ダク・フェイデン》は最強クラスのプレインズウォーカーだが、「+1」を活用してカウンター合戦に勝てるだけの手札内容を用意するためには、手札の枚数そのものを増やす必要がある。だが《噴出》が再び制限カードとなったことで、手札の枚数を増やす別のアクションが求められるようになった。

 《森の知恵》はライフプレッシャーのない相手に対しては《Ancestral Recall》にも匹敵する性能を誇るほか、《神秘の回復》は「フラッシュバック」で手札を補充できる。さらに《けちな贈り物》《Ancestral Recall》《噴出》といったテンポの良いドロースペルを探しにいく際のお供にもなる。

 《定業》《渦まく知識》《吸血の教示者》などに頼らないこうした構成は、ナチュラルに《精神的つまづき》をケアしつつ、ゲーム後半でも《Library of Alexandria》を機能させやすくなる。《ドルイドの誓い》《禁忌の果樹園》も3枚ずつにまで減らされており、コンボよりもまずは初動のドローを優先させたドロー重視型の《ドルイドの誓い》コンボには、ヴィンテージ環境で他者と差を付けるための多くのテクニックが詰まっているように思われる。

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 いかがだっただろうか。

 すべてのデッキリストには意思が込められている。

 75枚から製作者の意図を読み解くことができれば、自分でデッキを作るときにもきっと役に立つだろう。

 読者の皆さんも、ぜひ色々と面白いデッキを探してみて欲しい。

 また来週!

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