皆さんこんにちは。先週末には世界選手権2017とチームシリーズが開催されました。初代チームシリーズを制したのは日本のプロチームであるチーム「Musashi」でした。
『イクサラン』がリリースされて早2週間が経ち、SCGOと世界選手権2017が開催され新環境のスタンダードのデータも集まってきました。
ローテーションによりスタンダードはどのように変化したのか、今回の連載ではSCGO Dallasと世界選手権2017の入賞デッキを見ながら考えていきたいと思います。
SCGO Dallas
新環境のスタンダードを定義する海賊クリーチャーの登場
2017年09月30日
- 1位 Sultai Energy
- 2位 Ramunap Red
- 3位 Sultai Energy
- 4位 U/W Approach
- 5位 U/W Approach
- 6位 Four-Color Energy
- 7位 Four-Color Energy
- 8位 Esper Gift
Andrew Jessup
トップ8のデッキリストはこちら
『イクサラン』がリリースされた直後に開催されたSCGO Dallasは、予想通りローテーションによる影響をあまり受けなかったRamunap RedとTemur Energyが人気でした。Temur Energyに《スカラベの神》をタッチしたFour-Color Energyも、プレイオフに2名送り込むなど安定したパフォーマンスを見せます。
『イクサラン』の中でも高い採用率だったカードは、リリース前から話題になっていた海賊クリーチャーの《人質取り》で、このクリーチャーを採用した新しい形のSultai Energyが今大会の勝者でした。
SCGO Dallas デッキ紹介
「Sultai Energy」「Esper Gift」
Sultai Energy
4 《森》 2 《沼》 1 《島》 4 《霊気拠点》 4 《花盛りの湿地》 4 《植物の聖域》 2 《異臭の池》 -土地 (21)- 4 《歩行バリスタ》 4 《光袖会の収集者》 4 《牙長獣の仔》 4 《巻きつき蛇》 4 《ならず者の精製屋》 2 《ピーマの改革派、リシュカー》 4 《人質取り》 1 《スカラベの神》 -クリーチャー (27)- |
4 《霊気との調和》 4 《顕在的防御》 4 《致命的な一押し》 -呪文 (12)- |
4 《貪る死肉あさり》 4 《強迫》 2 《否認》 2 《ヴラスカの侮辱》 1 《スカラベの神》 1 《呪文貫き》 1 《秘宝探究者、ヴラスカ》 -サイドボード (15)- |
緑黒はTemur Energyと比べるとローテーションによって失ったカードが多く、それほど注目は集めていなかったものの、《歩行バリスタ》、《ピーマの改革派、リシュカー》、《牙長獣の仔》といった「+1/+1」カウンターを使用するカードと《巻きつき蛇》は健在で、そこに新戦力を組み合わせることによって新環境のトップメタに上り詰めました。
旧環境の緑黒エネルギーに《ならず者の精製屋》や《スカラベの神》、《人質取り》、各種カウンターのために青を足したデッキで、『イクサラン』のカードが多数採用されています。
《人質取り》は『イクサラン』の新カードの中でもベストカードの一枚です。《悪鬼の狩人》 能力は多くの場合リミテッド、構築問わず強力とされていましたが、それに加えて追放したカードをプレイすることが可能で、《領事の旗艦、スカイソブリン》や《キランの真意号》、《王神の贈り物》といったアーティファクトに触れるのも強みです。
☆注目ポイント
青をタッチする理由の一つである新戦力の《人質取り》は、除去耐性はないもののテンポアドバンテージとカードアドバンテージの両面に優れ、単純にブロッカーを退かす動きも十分に強力です。着地してすぐに除去されてしまってはこのクリーチャーのせっかくの持ち味が半減してしまうので、対策として《顕在的防御》が採用されています。
《スカラベの神》はTemur Energyが同型対策のためにタッチするほどのカードパワーで、ロングゲームで強いカードです。《ならず者の精製屋》はTemur Energyでもお馴染みのアドバンテージを提供するクリーチャーであり、《不屈の追跡者》が抜けた3マナ域を埋めてくれます。
Sultai Energyはカードアドバンテージ、追加のフィニッシャー、除去、カウンター、ハンデス、ライフゲインと揃っているのが特徴です。《貪る死肉あさり》はローテーション後の環境で有力なデッキとされていたRamunap Red対策となり、ETB能力でライフゲインはあの《台所の嫌がらせ屋》を彷彿させます。地味に墓地対策にもなり、アタックする度に同様の能力が誘発するため必然的に除去もこのクリーチャーに向けられることが多くなるので、《人質取り》が生き残りやすくなるでしょう。
《ヴラスカの侮辱》は追放なので、「神」対策になりコストは重くなりますがインスタントなのが使いやすい所です。メインはビートダウンを著しく減速させる要素が多数取られている分、サイドには《秘宝探究者、ヴラスカ》、《強迫》、《否認》、《呪文貫き》といったコントロール対策に力を入れています。
Esper Gift
6 《島》 3 《沼》 1 《異臭の池》 4 《霊気拠点》 4 《秘密の中庭》 4 《水没した地下墓地》 1 《氷河の城砦》 -土地 (23)- 4 《歩行バリスタ》 4 《査問長官》 4 《探求者の従者》 4 《機知の勇者》 4 《人質取り》 4 《発明の天使》 2 《マガーンの鏖殺者、ヴォーナ》 -クリーチャー (26)- |
3 《致命的な一押し》 2 《航路の作成》 4 《来世への門》 2 《王神の贈り物》 -呪文 (11)- |
4 《強迫》 3 《否認》 3 《ヴラスカの侮辱》 2 《激変の機械巨人》 2 《スカラベの神》 1 《致命的な一押し》 -サイドボード (15)- |
前環境から活躍していた《王神の贈り物》 デッキは『イクサラン』から先ほどの《人質取り》を含めた新戦力が多数加入し、黒をタッチしたEsperカラーになり今大会で早速結果を残していました。
《王神の贈り物》と《来世への門》を軸に墓地をリソースとした戦略は依然と大きくは変わりません。《査問長官》は墓地を肥やしてくれるだけじゃなく、色拘束の強いこのデッキを支える《霊気拠点》のために、エネルギーカウンターも供給してくれます。青黒にすることにより、追加のフィニッシャーとして現環境最高のカードの1枚とされている《スカラベの神》にアクセスできるようになりました。
《人質取り》の他に、このデッキが得た新カードは墓地を肥やす手段とドロースペルである《探求者の従者》と《航路の作成》で共にデッキの方向性にフィットしたカードです。
☆注目ポイント
《機知の勇者》はデッキを掘り進みつつ墓地を肥やし、中盤以降も余ったマナを有効活用する手段となり、アドバンテージが取れるこのデッキのキーとなるクリーチャーで、デッキの動きをスムーズにしてくれます。
今回の連載で何度も取り挙げていますが、《人質取り》は『イクサラン』のベストカードの1枚で、除去としてはもちろんのこと、《王神の贈り物》を軸にしたこのデッキではクリーチャーであることも重要なファクターです。除去されたたとしても《王神の贈り物》でコピーすることができるので大した問題にならず、4/4になるので赤い除去に耐性が付きます。
《航路の作成》はカードアドバンテージを得ると同時に墓地を肥やす手段になり、このデッキにフィットしたスペルです。
《探求者の従者》はクリーチャーを墓地に送る手段になる「探検」持ちで、追加の土地もロングゲームになった際にクリーチャーをキャストするために必要になるので地味ながら中々優秀なクリーチャーです。《マガーンの鏖殺者、ヴォーナ》は7ライフという決して安くないコストですが、土地以外の対象のパーマネントを破壊する能力は強力であることに変わりなく絆魂持ちなので《王神の贈り物》の対象として最適です。
旧環境では青赤、青白、Jeskaiと様々なバリエーションが見られましたが、M10ランドの《水没した地下墓地》と《氷河の城砦》の再録によってマナベースの面も強化され、再録された妨害スペルの《強迫》の恩恵もあり、現環境ではカードパワーの高さからEsperカラーが中心になりそうです。
世界選手権2017
純正Temur Energyが栄冠
2017年10月06日
- 1位 Temur Energy
- 2位 Ramunap Red
- 3位 UB Control
- 4位 UB Control
William Jensen
トップ8のデッキリストはこちら
今年も世界選手権が開催されました。プロツアー優勝などシーズン中優秀な成績を収め続けていた24名のみが参加できる特別なイベントです。そんな中、今年度の世界チャンピオンの座を掴み取ったのはアメリカの殿堂プレイヤー、William “Huey” Jensenでした。今大会が開催されたアメリカ、ボストンは彼のホームなのもあり彼の家族やチームメイトでアメリカのトッププロであるReid DukeとOwen Turtenwaldを含めた多くのマジックコミュニテイーのメンバーに祝福されていたのが印象的でした。
Jensenが選択したのは《スカラベの神》対策を多数用意した純正のTemur Energyでした。《本質の散乱》や《暗記+記憶》がメインから採用され、サイドには《奔流の機械巨人》が見られるなど革新的なリストに仕上がっていました。
惜しくも優勝は逃したもののJosh Utter-Leyton、Kelvin Chew、Sam Black、Gerry Thompsonが持ち込んだUB Controlは今大会で素晴らしい成績を残したデッキとして注目を集めていました。今大会最大勢力だったRamunap Red はHareruya ProsのJavier Dominguezが決勝戦まで残ったものの全体の37.5%と母数に反して勝率は低く、今大会の勝ち組はTemur EnergyとUB Controlと見て間違いありません。
世界選手権2017 デッキ紹介
「Temur Energy」「UB Control」
Temur Energy
4 《森》 2 《山》 1 《島》 4 《霊気拠点》 4 《植物の聖域》 4 《根縛りの岩山》 3 《尖塔断の運河》 -土地 (22)- 4 《牙長獣の仔》 4 《導路の召使い》 4 《ならず者の精製屋》 4 《つむじ風の巨匠》 3 《逆毛ハイドラ》 4 《栄光をもたらすもの》 -クリーチャー (23)- |
4 《霊気との調和》 2 《マグマのしぶき》 4 《蓄霊稲妻》 2 《本質の散乱》 1 《削剥》 1 《慮外な押収》 1 《暗記+記憶》 -呪文 (15)- |
4 《否認》 2 《奔流の機械巨人》 2 《人工物への興味》 1 《チャンドラの敗北》 1 《削剥》 1 《至高の意志》 1 《天才の片鱗》 1 《慮外な押収》 1 《霊気圏の収集艇》 1 《反逆の先導者、チャンドラ》 -サイドボード (15)- |
《根縛りの岩山》以外は『イクサラン』からの新カードは不採用で、基本的なところは旧環境と変わらないTemur Energyですが、世界王者の座を勝ち取ったWilliam “Huey” Jensen のリストは環境の変化に合わせてしっかり調整されています。
《慮外な押収》, 《暗記+記憶》, 《本質の散乱》といったスペルをメインから採用した革新的なリストで、Temur Energyによって対処が困難な《スカラベの神》や《熱烈の神ハゾレト》に対する回答が多数用意されています。
インスタントが多数採用されているのでサイドの《奔流の機械巨人》プランも活きてきます。
☆注目ポイント
《暗記+記憶》はスペルとパーマネントの両方に対応できるインスタントで、《スカラベの神》や《熱烈の神ハゾレト》に対する回答になります。
クリーチャースペル専用カウンターの《本質の散乱》とクリーチャー、アーティファクト奪取スペルの《慮外な押収》は《スカラベの神》や《熱烈の神ハゾレト》対策になるので同型だけでなくRamunap Redにも有効です。
サイドの《奔流の機械巨人》はミラーマッチを含めたミッドレンジとのマッチアップで輝くクリーチャーで、《蓄霊稲妻》、《暗記+記憶》、《本質の散乱》、サイドに《天才の片鱗》、《至高の意志》などインスタントスペルが多数採用されているのでアドバンテージが取りやすく、瞬速持ちなので今大会で活躍していた青黒コントロールとのマッチアップでも強さを発揮します。
UB Control
6 《島》 5 《沼》 4 《異臭の池》 4 《水没した地下墓地》 4 《進化する未開地》 3 《廃墟の地》 -土地 (26)- 2 《スカラベの神》 3 《奔流の機械巨人》 -クリーチャー (5)- |
4 《致命的な一押し》 4 《検閲》 4 《本質の散乱》 4 《不許可》 2 《本質の摘出》 4 《ヒエログリフの輝き》 3 《ヴラスカの侮辱》 1 《天才の片鱗》 3 《アズカンタの探索》 -呪文 (29)- |
4 《強迫》 3 《禁制品の黒幕》 2 《多面相の侍臣》 2 《否認》 1 《廃墟の地》 1 《本質の摘出》 1 《アルゲールの断血》 1 《宝物の地図》 -サイドボード (15)- |
カバレージによると今大会では16.7%と少数でしたがJosh Utter-Leyton, Sam Black, Gerry Thompsonの3人のアメリカのトッププロと、今大会でトップ4入賞を果たしたKalvin Chewが青黒コントロールを持ち込み勝率62.5%というパフォーマンスを見せました。
古典的な青黒パーミッションスタイルのコントロールデッキで、優秀なインスタント除去の《闇の掌握》をローテーションによって失ったのは残念でしたが《検閲》 や《本質の散乱》といった2マナの優秀なカウンターに恵まれています。フィニッシャーはメインでは《スカラベの神》 と《奔流の機械巨人》のみですが、対策が困難で速やかにゲームを終わらせることを可能にします。しかしこのデッキの真のキーカードは『イクサラン』からの新カードである《アズカンタの探索》で、Sam Blackはデッキテクでこれまでで最高のコントロール用のカードと評価していました。
メインはほとんどノンクリーチャーで、《本質の散乱》など軽いカウンターが多めに採用されているのでTemur Energyなど緑のミッドレンジに強いですが、軽い除去が少ないのでRamunap Redなどアグロデッキに対してはやや不利が付きます。
☆注目ポイント
《アズカンタの探索》はこのデッキにとって一番の収穫で、早い段階で変身させることでマナ加速にもなり、カウンターのためにマナを立てておくことが多いので、変身後の能力を起動することでカードアドバンテージを得られます。カウンターや除去により自然と変身の条件を満たせるのも大きく、クリーチャー以外のスペルを多数採用したこのデッキでは毎ターン《衝動》と同様の効果が期待できます。
『イクサラン』からの新カードの《ヴラスカの侮辱》は《英雄の破滅》が1マナ重くなった代わりに、追放除去できるようになり、ライフゲインも付いた強力なインスタントです。《奔流の機械巨人》で再利用することが可能で、カウンターを掻い潜った《熱烈の神ハゾレト》や《スカラベの神》などに対する回答になります。『イクサラン』からのもうひとつの新カードである《廃墟の地》は《幽霊街》の亜種で《ラムナプの遺跡》や同型の《アズカンタの探索》対策になります。M10ランドの再録によりマナベースも強化されています。
Ramunap Redとのマッチアップを少しでも有利に進めるために《本質の摘出》をメインから採用しています。このデッキは他にエネルギーカウンターの使い道がなく、占術より墓地を肥やせるサイクリングの方が重要なため《ヒエログリフの輝き》が優先されています。サイドの《禁制品の黒幕》は2マナで1/4Lifelinkと固く、赤いアグロデッキの攻撃をきっちりと受け止めます。
《多面相の侍臣》は《逆毛ハイドラ》や《殺戮の暴君》といった青黒にとって対処の難しいクリーチャーを採用した緑のミッドレンジやミラーマッチで相手の《奔流の機械巨人》をコピーするためにサイドインされます。
今大会でのパフォーマンスから、青黒コントロールは今後のスタンダードでも活躍し続けることが予想されます。
総括
世界選手権2017が終了し、スタンダードの環境が徐々に明らかになってきました。予想通り旧環境からローテーションによって失ったカードが少なかったTemur EnergyやRamunap Red は人気があります。Ramunap Redが高い使用率に反してトータル面での成績は振るわず、Temur Energyはミラーマッチのために調整されたリストが勝ち残りました。
『イクサラン』から最も多く収穫があった青黒コントロールはTemur Energyと相性が良かったこともあり、少数ながらプレイオフに2人送り込むなど素晴らしい成績を残しました。
今大会を制したTemur Energyは同時期に開催されていたMOのPTQで優勝しており、その存在感を示しています。マナベースに負担のかかる4色バージョンを使用することなくミラーマッチを有利に進められるように調整を施したThe Peach Garden Oathには脱帽です。
今週末にはいよいよアメリカ選手権2017が開催されます。日本選手権と同様にハイレベルな大会となることが予想されるのでスタンダードが好きな方は要注目です。
以上USA Standard Express vol.107でした。
それでは次回の連載でまた会いましょう。楽しいスタンダードライフを!
この記事内で掲載されたカード
Twitterでつぶやく
Facebookでシェアする