皆さんこんにちは。
プロツアー『イクサラン』も終了し、環境もまとまってきました。そして、今週末からスタンダードのGPが世界中で開催されます。
今回の連載ではプロツアー『イクサラン』で優秀な成績を収めたデッキを見ていきます。
プロツアー『イクサラン』
2015年度の世界チャンピオンがプロツアータイトル獲得
2017年11月03日
- 1位 Sultai Energy
- 2位 UW God-Pharaoh’s Gift
- 3位 Ramunap Red
- 4位 Mardu Vehicles
- 5位 4C Energy
- 6位 Temur Energy
- 7位 Jeskai Approach
- 8位 4C Energy
Seth Manfield
トップ8のデッキリストはこちら
プロツアー『イクサラン』は今までのプロツアーと異なり、セットリリースから5週間後に開催されました。SCGOやMOPTQ、世界選手権2017やアメリカ選手権2017など、スタンダードの大規模なイベントが終了した後だったため、プロチームによるイノベーションよりも環境にすでに存在するデッキのチューニングやカード選択に注目が集まりました。
事前の予想通り、Temur Energyや4C Energy、Sultai Energyといったエネルギー系やRamunap Redがトップの使用率を誇り、その中でもTemur Energyは母数が多く、高い2日目進出率でスタンダード部門でも優秀な成績を残す安定したパフォーマンスでした。しかし、今大会のエネルギー系のデッキの中で最も高い勝率だったのは、Genesisのメンバーが持ち込みSeth Manfieldを優勝に導いたSultai Energyでした。《人質取り》によるテンポ、カードアドバンテージ、 《光袖会の収集者》や《巻きつき蛇》など、優秀な軽量クリーチャーにアクセスできるのがSultaiバージョンの魅力です。
優秀な成績を収めたデッキはエネルギー系だけでなく、プロツアー『破滅の刻』TOP8入賞の赤単マスター、Yam, Wing Chunや日本勢の山本 賢太郎選手、齋藤 友晴選手、井川 良彦選手らも選択しスタンダード部門で好成績を残していたRamunap Redや、コンボデッキのGod-Pharaoh’s Gift、UW Approach、プレイオフには残らなかったものの2日目進出率100パーセントのMono White Vampireにも注目です。
プロツアー『イクサラン』 デッキ紹介
「Sultai Energy」「UW God-Pharaoh’s Gift」「Mono White Vampire」「4C Energy」
Sultai Energy
4 《森》 2 《沼》 1 《島》 2 《異臭の池》 4 《霊気拠点》 4 《花盛りの湿地》 4 《植物の聖域》 -土地 (21)- 3 《歩行バリスタ》 4 《光袖会の収集者》 4 《牙長獣の仔》 4 《巻きつき蛇》 4 《ならず者の精製屋》 2 《ピーマの改革派、リシュカー》 3 《人質取り》 1 《スカラベの神》 -クリーチャー (25)- |
4 《霊気との調和》 4 《顕在的防御》 4 《致命的な一押し》 2 《ヴラスカの侮辱》 -呪文 (14)- |
3 《貪る死肉あさり》 3 《強迫》 2 《否認》 2 《短命》 2 《自然に仕える者、ニッサ》 1 《スカラベの神》 1 《人工物への興味》 1 《本質の散乱》 -サイドボード (15)- |
環境はTemur Energy(4色も含める)、Ramunap Red、UW Approach、UB Control、Mardu Vehicles、God-Pharaoh’s Giftといったデッキが中心でしたが、チームGenesisは『イクサラン』リリース直後に開催されたSCGO Dallasで優勝を収めていたSultai Energyに着目しました。
Sultai Energyは旧環境でも活躍したBG Constrictorに、『イクサラン』からの新カード《人質取り》などの青を足したデッキで、同じエネルギー系のデッキでもアグレッシブな構成になっています。
☆注目ポイント
《霊気拠点》や《霊気との調和》といったカードの恩恵で緑黒に青を足すことも比較的容易です。Temur Energyの主力である《牙長獣の仔》に加え、《巻きつき蛇》や《光袖会の収集者》といった2マナ域の層が厚いのが特徴です。
《巻きつき蛇》はこのデッキのキーとなるクリーチャーで、緑黒というデッキが常に環境のトップメタの一角として存在した理由の一つでもあります。《光袖会の収集者》は、このデッキなら毎ターン追加のドローができ、相手にとってはマスト除去となります。このように軽い強力なクリーチャーが多いSultai Energyは、ロングゲームに強いTemur EnergyやUW ApproachやUB Controlといったコントロールに対してもスピードで勝負することができるのです。
青を足したことで《ならず者の精製屋》や《スカラベの神》、《人質取り》といったアドバンテージを稼ぐカードにアクセスができるようになりました。特に《人質取り》は相手にとっては絶対に除去したいクリーチャーです。しかし、先ほどの《巻きつき蛇》や《光袖会の収集者》などマスト除去がこのデッキには多数採用されているため生き残りやすく、《顕在的防御》で簡単に守ることもできます。
4C Energyなどを相手にした際は、《スカラベの神》などを奪うことでゲームを大きく有利に進めることができます。《スカラベの神》や《熱烈の神ハゾレト》など各種神、プレインズウォーカーに対するクリーンなアンサーとなる《ヴラスカの侮辱》もメインから採用されています。環境に多数存在するRamunap Redも意識していたことが分かりますね。
God-Pharaoh’s GiftやApproachといったコンボやコントロールとのマッチアップ用に《強迫》や、カウンターもサイドに採用されています。《短命》はエネルギーカウンターを使う除去で、ソーサリースピードなので《蓄霊稲妻》にはやや劣るものの、マイナス修正なので処理が難しい《熱烈の神ハゾレト》を簡単に対処できます。
《自然に仕える者、ニッサ》はコントロールとのマッチアップ用にTemur Energyも採用しているプレインズウォーカーで、最速3ターン目にプレイした後は占術でドローの質を高め、カードアドバンテージを稼いでくれます。《本質の散乱》をメインから採用したTemur Energyも存在するので、それを掻い潜って場にでるこのカードは、マナが余る中盤以降にキャストすれば即奥義でゲームを終わらせることができる強さを秘めています。
《巻きつき蛇》の登場以来、緑黒は形を変えつつ結果を残し続けており、ローテーション後も『イクサラン』からの新戦力を獲得し、《スカラベの神》と蛇のコンビネーションはプロツアーでも優勝するほどの強さを手に入れました。
UW God-Pharaoh’s Gift
7 《島》 6 《平地》 3 《灌漑農地》 4 《氷河の城砦》 2 《イプヌの細流》 -土地 (22)- 4 《査問長官》 4 《聖なる猫》 4 《機知の勇者》 4 《発明の天使》 -クリーチャー (16)- |
2 《選択》 4 《航路の作成》 4 《巧みな軍略》 4 《復元》 2 《アズカンタの探索》 2 《排斥》 4 《王神の贈り物》 -呪文 (22)- |
4 《博覧会場の警備員》 3 《賞罰の天使》 2 《ジェイスの敗北》 2 《否認》 1 《敵意ある砂漠》 1 《燻蒸》 1 《領事の権限》 1 《領事の旗艦、スカイソブリン》 -サイドボード (15)- |
God-Pharaoh’s Giftコンボは、ローテーション後も『イクサラン』からの新戦略を得て生き残り、MOのPTQなどで結果を残し続けています。
最も結果を残していたバージョンは、今大会で準優勝という好成績を残した《復元》で《王神の贈り物》をリアニメイトする青白バージョンでした。《アズカンタの探索》など墓地をリソースとするこのデッキにフィットした新カードの登場により強化されました。
コンボの要素を持った青白のコントロールデッキで、高いポテンシャルを見せていたものの、Temur EnergyやRamunap Redといったすでに第一線で活躍していたデッキと比べると知名度のあったデッキとは言えず、あまり注目されていなかったことも今大会の活躍の原動力となったことでしょう。
☆注目ポイント
《復元》は《王神の贈り物》のコストを踏み倒すことのできる手段で、《航路の作成》や 《巧みな軍略》、 《査問長官》といったカードで墓地に送り込みます。特に《査問長官》は1マナと軽く、1度起動する毎に3枚ものカードを墓地に落とせるこのデッキのエンジンとなるクリーチャーです。《機知の勇者》はこのデッキで重要なクリーチャーの1枚で、デッキを掘り進みつつ墓地を肥やします。《発明の天使》は墓地からの釣り対象として最適なクリーチャーで全体強化により横に並べる戦略も強力で、このデッキのプランBとなります。
《アズカンタの探索》はドローの質を高めつつ、墓地を肥やせるカードです。1ターン目《査問長官》、2ターン目《アズカンタの探索》と展開することで最速3ターン目に変身することが可能で、マナ加速兼キーカードを探すカードとなります。
このデッキが『イクサラン』から得たカードは1マナキャントリップスペルの《選択》です。デッキを掘り進め、《アズカンタの探索》を変身させやすくしてくれます。サイド後はコンボから《賞罰の天使》や除去が加わり青白コントロールへとシフトしていきます。《王神の贈り物》のカードパワーは高く、構成次第ではコンボだけでなくミッドレンジとしても戦うことができ、フレキシブルに対応できるのです。
Mono White Vampire
15 《平地》 4 《シェフェトの砂丘》 3 《屍肉あさりの地》 -土地 (22)- 2 《薄暮まといの空渡り》 4 《アダントの先兵》 4 《格納庫の整備士》 4 《金属ミミック》 4 《軍団の征服者》 3 《薄暮の使徒、マーブレン・フェイン》 3 《発明の天使》 -クリーチャー (24)- |
4 《軍団の上陸》 3 《イクサランの束縛》 2 《排斥》 1 《飛行機械による拘束》 4 《オケチラの碑》 -呪文 (14)- |
4 《栄光半ばの修練者》 4 《黄昏+払暁》 2 《断片化》 2 《飛行機械による拘束》 1 《賞罰の天使》 1 《ギデオンの介入》 1 《霊気圏の収集艇》 -サイドボード (15)- |
Hunter WilsonとPhillip Bravermanによって誕生した、《軍団の上陸》を軸に組まれたトークン戦略に、吸血鬼シナジーを搭載したデッキで、今大会で最も異彩を放つデッキの一つでありながら、メタを巧く付いた構成で使用者全員が二日目に残りスイスラウンドのスタンダード部門で優秀な成績を収めていました。
軽いクリーチャーが多く、トークンによって横に並べる戦略と全体強化はTemur Energyに対して効果的で、絆魂持ちのクリーチャーも多く、今大会でも高い使用率だったTemur EnergyとRamunap Redに強い構成です。しかし、白単色で妨害要素が少ないためGod-Pharaoh’s Giftなどコンボやコントロールを苦手とします。
Temur EnergyやRamunap Red、青黒コントロール、God-Pharaoh’s Gift、Approachなど主要なデッキが出そろい、環境はほぼ解明されていた印象がありましたが、Mono White Vampireは今大会で最も革新的なデッキとして注目を集めていました。
☆注目ポイント
《軍団の上陸》はトークン系の戦略ではお馴染みのカードで、このデッキで最も1ターン目にプレイしたいカードです。横に並べる戦略であるこのデッキなら変身させることは容易で、土地も増えるので《軍団の征服者》を一気に展開することが可能になります。《軍団の征服者》は《戦隊の鷹》などと同様に同名のカードをサーチするETB能力を持ち、カードアドバンテージを提供し息切れ防止になります。《オケチラの碑》とも相性が良く、横に並べる戦略であるこのデッキにフィットしています。
《薄暮の使徒、マーブレン・フェイン》は3マナ2/2と平凡なスペックですが、《薄暮まといの空渡り》など回避能力を持った吸血鬼クリーチャーでアタックしていくことで自軍の戦力を増加できます。《金属ミミック》や《発明の天使》といった全体強化と相性が良く、ゲームを速やかに終わらせます。
サイドの《黄昏+払暁》や特定のスペルのキャストを禁止する《ギデオンの介入》は面白いチョイスです。苦手なコントロール対策に加え、《王神の贈り物》対策に《断片化》や《飛行機械による拘束》といったアーテイファクト対策も採られています。
今大会ではTemur EnergyとRamunap Redが多数派になると予想されて選択されたメタデッキなので、コントロールや《王神の贈り物》デッキが多いメタでは厳しくなりそうです。このデッキを使用する際は環境をしっかりと見極めることが重要となるでしょう。
4C Energy
2 《沼》 2 《森》 1 《島》 1 《山》 2 《泥濘の峡谷》 4 《霊気拠点》 4 《花盛りの湿地》 4 《植物の聖域》 2 《竜髑髏の山頂》 -土地 (22)- 4 《光袖会の収集者》 4 《導路の召使い》 4 《ならず者の精製屋》 4 《つむじ風の巨匠》 3 《豪華の王、ゴンティ》 3 《スカラベの神》 -クリーチャー (22)- |
4 《霊気との調和》 4 《致命的な一押し》 4 《蓄霊稲妻》 2 《ヴラスカの侮辱》 2 《秘宝探究者、ヴラスカ》 -呪文 (16)- |
3 《貪る死肉あさり》 3 《強迫》 3 《否認》 2 《チャンドラの敗北》 2 《自然に仕える者、ニッサ》 1 《削剥》 1 《人工物への興味》 -サイドボード (15)- |
今大会の裏番組として開催されていたMOのリーグで結果を残していた4C Energyは、プロツアー殿堂プレイヤーの津村 健志選手も使用し、スタンダードのスイスラウンドを7-3で終える好成績を残していました。
Temur Energy同型で少しでも有利を得られるように《豪華の王、ゴンティ》や《ヴラスカの侮辱》をメインから採用するなど全体的に黒を濃くし、《栄光をもたらすもの》 が不採用となるためTemur BlackというよりはSultai Energyタッチ赤という構成です。
《牙長獣の仔》が《光袖会の収集者》に差し替えられており、カードアドバンテージを稼ぐことでTemur Energyとのロングゲームに備えます。このようにTemur Energyを始めとしたエネルギー系のデッキとの同型対決に有利な構成になっているので、現環境のようにTemur Energyなどエネルギー系のデッキが幅を利かせている環境では良いチョイスとなりそうです。
☆注目ポイント
《豪華の王、ゴンティ》はカードアドバンテージを取れるだけでなく、接死持ちなので処理が難しい《逆毛ハイドラ》や 《殺戮の暴君》といったクリーチャーも止めることができます。ミラーマッチではライブラリーからカードを奪うETB能力は強力です。《スカラベの神》などフィニッシャー級のカードを奪い取ることができれば有利にゲームが進むことでしょう。
《ヴラスカの侮辱》はミラーマッチなどでキーとなる《スカラベの神》やRamunap Redの《熱烈の神ハゾレト》に対する回答になる優秀な除去で、黒を使うならほぼマストとなるスペルです。ライフゲインもRamunap Redなど、アグロデッキに対しては時間を稼ぐことができるので、他のエネルギー系のデッキと比べて遅めのこのデッキでは無視できない要素です。
赤を使う理由の一つに現環境で最高のインスタント除去のである《蓄霊稲妻》が挙げられます。十分なエネルギーカウンターがあればTemur Energyの《栄光をもたらすもの》なども2マナで落とすことができます。黒を濃くすることで《強迫》が使えるようになり、サイド後はハンデスとカウンターを追加することでメインでは苦手なコントロールとのマッチアップに備えます。
総括
これまでのスケジュールと大きく異なり、『イクサラン』リリースから5週間後の開催となったプロツアー。すでに大規模なスタンダードのイベントもいくつか終了していたこともあり、プロチームによる新しいデッキの開発よりも、カード選択やプレイングに重点が置かれていた印象でした。
白単吸血鬼など新しいデッキも登場しましたが、Temur EnergyやRamunap Redといったデッキが環境の中心でしたね。Temur Energy 、4C Energy、Sultaiなど全てのデッキを合わせるとフィールドの半数近くが《霊気との調和》を採用したデッキで、『カラデシュ』ブロックのカードパワーの高さが分かる結果となりました。プロツアーは終了しましたが、今週末からスタンダードのGPラッシュがスタートするのでこの環境はもうしばらく続きます。
以上USA Standard Express vol.109でした。
それでは次回の連載でまた会いましょう。楽しいスタンダードライフを!