週刊デッキウォッチング vol.172 -バベルダークデプス-

大久保 寛

 『マジックの華は、デッキリストだ』

 これはある人の言葉ですが、『デッキリストに込められた意思を汲み取ろうとするとき、75枚の物言わぬ文字列はしかし、何よりも雄弁に製作者の心情を物語ってくれる』のだと。

 であればデッキリストを見るという行為は。

 単なる”知識の探求”を超えて、より深い意味合いを伴った行いと言えるのかもしれません。

 この連載は晴れる屋のデッキ検索から毎週おもしろそうなデッキを見つけて、各フォーマットごとに紹介していく、というものです。

 気になるデッキがあれば実際に組んで遊んでみるもよし。Magic Online用のtxtフォーマットもダウンロードしていただけます。

 さっそく、それぞれのフォーマットで気になったデッキをご紹介していきましょう。

スタンダード: 「ローグ」

Magic Online用txtフォーマット(右クリックで保存)

厄介なドラゴン焼けつく双陽吐炎

 マジックにはいくつかの“俗説”が存在します。有名なものだと「テキストが短いカードは強い」「『すべて』と書かれたカードは強い」などがありますが、中でも「対戦相手に選択権のあるカードは弱い」というものは引用されることも多く、聞いたことがあるという方も多いのではないでしょうか?

 たとえば『基本セット2019』で新たに追加されたドラゴンクリーチャーである《厄介なドラゴン》はそんな「対戦相手に選択権のあるカード」の一つと言えますが、今回ご紹介するこのデッキではそんな《厄介なドラゴン》が4枚フル投入されています。とはいえ呪文の枠に控える大量の除去呪文を見るに、どうやら「クリーチャーを生け贄に捧げる」という選択をさせる気はないようですが……。

 そう、《吐炎》《焼けつく双陽》で対戦相手のクリーチャーを一通り除去してしまえば《厄介なドラゴン》は5マナ5/5飛行に《溶岩の斧》がつくようなもの! 一見すると不安定に見える能力ですが、そもそも対戦相手に選択肢を与えないというアプローチによってカードの持つ弱点を補っているのは脱帽です。他にも飛行・速攻を持った《栄光をもたらすもの》なども採用されているので、対戦相手のライフを素早く削っていくことが可能です。

 また、《火の血脈、サルカン》《反逆の先導者、チャンドラ》といったマナ加速能力を持ったプレインズウォーカーもデッキと噛み合っています。不自由な二択を迫る、文字通り《厄介なドラゴン》。構築でも通用する最低限のスペックを持っているため、今後は赤いデッキのフィニッシャーとして見かけることが増えるかもしれません。

「ローグ」でデッキを検索

↑目次へ戻る

モダン: 「ローグ」

Magic Online用txtフォーマット(右クリックで保存)

縫い師への供給者怒れる腹音鳴らし壌土からの生命

 これまで《壌土からの生命》は数々のデッキのキーカードとなってきました。2マナで墓地の土地カードを3枚回収するというのは凄まじく効率的で、なおかつ「発掘3」を持つため能力が自己完結しているという優れもの。中でも手札に増えた土地を有効に利用できる《突撃の地鳴り》や「回顧」を持つ《カラスの罪》などと組み合わせるデッキが有名ですね。

 今回ご紹介するのは《突撃の地鳴り》こそ入っていないものの、それと近い起動型能力を持つクリーチャーである《怒れる腹音鳴らし》と、上述の《カラスの罪》、そしてリアニメイト戦略を複合したロームデッキです。そして、墓地利用という共通点で括られたこれらの戦略を繋ぎとめるのは『基本セット2019』でリリースされた《縫い師への供給者》最近話題の「ブリッジヴァイン」でも活躍している1枚ですね。

 コンボのキーパーツの脇を固めるのは「ドレッジ」のフィニッシュ手段としてもよく使われる《燃焼》や時間稼ぎのブロッカーを用意できる《未練ある魂》などのユーティリティーカードです。さらに釣り先は《怒れる腹音鳴らし》だけでなく《エメリアの盾、イオナ》《大修道士、エリシュ・ノーン》も散らされているため、《怒れる腹音鳴らし》を対策された場合でも勝ちに行けるようになっているのが印象的ですね。

 ちなみにこちらのSamuraifunn氏はTwitchで動画の配信も行っているようです。デッキの挙動が気になるという方は、ぜひ動画をチェックしてみてはいかがでしょうか?

「ローグ」でデッキを検索

↑目次へ戻る

レガシー: 「バベル」

  • CalebD
  • 「バベル」
  • Competitive Legacy Constructed League
  • (5-0)

Magic Online用txtフォーマット(右クリックで保存)

機知の戦い暗黒の深部原始のタイタン

 年に1~2回くらい見かけるタイプのデッキ、「バベル」。うずたかく積み上げられる200枚以上のカードの束はビジュアルのインパクトだけで対戦相手の度肝を抜きますし、高い確率で一笑い取れるのでファンの多いアーキタイプでもあります。まぁ、過去にまつがんさんも言っていましたが、カバレージ作業をしている際などは(多くの場合デッキリストの入力は手作業なので)見て見ぬふりをしたくなるのですが……。

 さて、レガシーでは《アカデミーの学長》などと組み合わせて《機知の戦い》へアクセスする形になっていることが多い(?)バベルですが、このデッキでは《アカデミーの学長》どころか白マナ自体不採用となっています。つまり、《牧歌的な教示者》《悟りの教示者》も入っていないということですね。

 代わりに土地絡みのサーチ呪文を多数採用されており、《暗黒の深部》コンボを搭載しています。というより、《機知の戦い》を探すことができるカードが《直観》(一応《生ける願い》でアクセスできるとはいえ)サイドボードの《アンデッドの大臣、シディシ》しかないことを見るに《暗黒の深部》コンボの方がメインなのでしょうか。言ったら負けだと思いつつも、「だったら《機知の戦い》要る?」というツッコミを禁じえません。

 あるいは、このデッキリストが体現しているものは我々現代社会に生きる人間に対する問いかけなのかもしれませんね――この世に無駄なものはなく、まったく意味がないものもない。型に嵌った物の捉え方しかできなくなっている我々の凝り固まった価値観を打ち壊す“創造の喜び”、その一端に触れた気がします。知らんけど。

「バベル」でデッキを検索

↑目次へ戻る


 いかがだったでしょうか。

 ある人は「すべてのデッキリストには意思が込められている」と言いました。

 75枚から製作者の意図を読み解くことができれば、自分でデッキを作るときにもきっと役に立つことでしょう。

 読者の皆さんも、ぜひいろいろとおもしろいデッキを探してみてください。

 また来週!

▼晴れる屋でデッキを検索する

この記事内で掲載されたカード

関連記事

このシリーズの過去記事