週刊デッキウォッチング vol.179 -研究仙人青単ドレッジ-

大久保 寛

 『マジックの華は、デッキリストだ』

 これはある人の言葉ですが、『デッキリストに込められた意思を汲み取ろうとするとき、75枚の物言わぬ文字列はしかし、何よりも雄弁に製作者の心情を物語ってくれる』のだと。

 であればデッキリストを見るという行為は。

 単なる”知識の探求”を超えて、より深い意味合いを伴った行いと言えるのかもしれません。

 この連載は晴れる屋のデッキ検索から毎週おもしろそうなデッキを見つけて、各フォーマットごとに紹介していく、というものです。

 気になるデッキがあれば実際に組んで遊んでみるもよし。Magic Online用のtxtフォーマットもダウンロードしていただけます。

 さっそく、それぞれのフォーマットで気になったデッキをご紹介していきましょう。

スタンダード: 「ローグ」

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這い寄る恐怖水没した秘密弧光のフェニックス

 この連載を引き継いでから、密かに望んでいたことがありました。それはこの連載を開始した先輩ライターであるまつがんさん(伊藤 敦)のデッキリストを紹介すること。存外早くその機会を得られたのは嬉しいような拍子抜けのような気もしますが、しかしデッキは十分狂気に満ちています。研究仙人にクラスチェンジしたことでさらに一皮剥けたのでしょうか。

 さて、まつがんさんといえば自身の記事でたびたび“ゼロ”という言葉を用いています(※参考)。そして『ラヴニカのギルド』環境の”ゼロ”といえば《ナルコメーバ》《這い寄る恐怖》《弧光のフェニックス》であることは皆さまもすでにご存知でしょう。そこで目下問題となるのはこれらのカードにアクセスする手段と対戦相手のライフを削り切るためのアプローチでしたが、このデッキでは《水没した秘密》《背骨のワンド》を用いて高速でライブラリーを発掘してこれらのゼロを探しつつ、その過程で墓地に落ちる「再活」呪文を活用することで《弧光のフェニックス》を釣り上げるというあらゆるアクションに無駄を生じさせない構成を実現しています。

 前述の2種類の置物と「諜報」によってライブラリーを掘り進め、《ナルコメーバ》をタダで出したり《這い寄る恐怖》でドレインして対戦相手のライフをちくちくと削り、「再活」呪文を何度も唱えることで《弧光のフェニックス》を復活させて攻撃。カードプールが最も狭い時期のスタンダードとは思えないこのアンフェアな動きについていくのは至難の業と言えるでしょう。

 ただ、メインボードの動きがまっすぐな反面でサイドボードは非常に難解です。《波濤牝馬》はなんとなく分かるような分からないような気がしますが、《睡眠》は何に対してサイドインし、どのカードをサイドアウトするのでしょうか? デッキと相性が良さそうに見える《悪意ある妨害》よりも《提督の命令》が採用されているのは《残骸の漂着》ケアができるから? だとしたらなぜ《呪文貫き》じゃないの? 《大嵐のジン》が入っているということは、一部の相手に対してはビートダウンデッキのように振る舞うことがあるようですが……うーん、謎が尽きないので本人降臨を待つとしましょう(思考放棄)。

「ローグ」でデッキを検索

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モダン: 「ローグアグロ」

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遁走する蒸気族弧光のフェニックス危険因子

 新セットが出るたびに少しずつ強化されていく人間ビートダウンやBG系デッキしかり、「既存のデッキに新たな追加カードが加わる」というのはよく見かける光景ですが、最近ではブリッジヴァインのように「数枚の新カードが既存のデッキの在り方やメタゲーム上の立ち位置を変える」ことも増えてきているような気がします。さて、今回ご紹介するのは『ラヴニカのギルド』によってデッキの内容が大幅に変化し、新たなデファクトスタンダード(事実上の新規格)となり得る(?)かもしれない「《遁走する蒸気族》入りバーン」です。

 さて、こちらのデッキでは上述の通り《遁走する蒸気族》が4枚採用されています。スタンダードでも赤単デッキで多くの場合4枚採用されている注目の新戦力ですが、より軽いカードの多いモダン環境での《遁走する蒸気族》の強さはスタンダードの比ではありません。3つの「+1/+1」カウンターを取り除かなくてはならないという性質上能力を起動できるタイミングは実質的に制限されるものの、そのマナ能力によって1マナの呪文は実質的に0マナ呪文と同程度の効率で唱えることができるようになり、《魔力変》《はらわた撃ち》はさながらマナ加速のように機能します。

 また、1ターンに何度も呪文を唱えるデッキなので《弧光のフェニックス》も採用されています。過去のフェニックス系クリーチャーの中でも復活の条件が非常に緩いのが特徴で、《危険因子》の「再活」コストに充てるのにも適しています。《遁走する蒸気族》のマナ加速があれば4マナというコストもそれほど重く感じずにプレイできるでしょうし、バーンデッキの弱点だった「息切れが早い」「《タルモゴイフ》などに地上を止められるとライフを削りにくい」といった弱点を克服しています。

 通常は《溶岩の撃ち込み》が採用されている1マナ3点火力枠には《癇しゃく》が採用されており、実質的に《稲妻》8枚体制となっているのもポイント。ルーティング呪文で高速で手札を入れ替えて《危険因子》《弧光のフェニックス》を探すこのデッキならではのカード選択となっており、通常のバーンよりもトリッキーな動きが楽しめることでしょう。

「ローグアグロ」でデッキを検索

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レガシー: 「ランドスティル」

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行き詰まりイゼット副長、ラルミシュラの工廠

 《行き詰まり》というカードをご存知でしょうか? 今でこそ「なんか見たことはある」程度の認識しかないプレイヤーの方も増えてきているかと思いますが、少し前(10年くらい)にレガシーのトップメタデッキの一つだった「ランドスティル」のキーカードだったんですよ。

 1ターン目に土地を置いて、2ターン目に《行き詰まり》。3ターン目からは《ミシュラの工廠》で攻撃して、対戦相手が呪文を唱えたら3枚ドロー……その中に《意志の力》があれば打ち消しもでき、噛み合ったときに分泌されるドーパミンの量が凄い(※個人差があります)ことに定評があるとても脳にいいデッキです。しかも《行き詰まり》の「ま、ごゆっくりな。」というフレイバーテキストもまた煽り値が高くていいんですよね。

 《行き詰まり》をプレイした後は自分自身は呪文を唱えずにゲームを続けることが重要で、プレインズウォーカーのような呪文を唱えることなくリソースを拡充できるカードはそんな《行き詰まり》と非常に相性がいいです。このデッキでは青いデッキの定番プレインズウォーカーである《精神を刻む者、ジェイス》に加えて新カードの《イゼット副長、ラル》が採用されていますね。

 もちろん「《イゼット副長、ラル》のおかげでランドスティルが復権!」というわけではないとは思いますが、《蓄積した知識》《嘘か真か》といった懐かしのカードも採用されており、ベテランプレイヤーは思わず目頭を押さえてしまいそう。他にも『ラヴニカのギルド』からは《ゴブリンのクレーター掘り》も採用されていて、青赤コントロールの苦手とするエルドラージ系のデッキへのサイドカードも手に入れました。こうしたオールディーなデッキに新カードが採用されているのは興味深いですね。

「ランドスティル」でデッキを検索

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 いかがだったでしょうか。

 ある人は「すべてのデッキリストには意思が込められている」と言いました。

 75枚から製作者の意図を読み解くことができれば、自分でデッキを作るときにもきっと役に立つことでしょう。

 読者の皆さんも、ぜひいろいろとおもしろいデッキを探してみてください。

 また来週!

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