週刊デッキウォッチング vol.180 -知性あふれるホモサピのためのトルガール・ドスン-

大久保 寛

 『マジックの華は、デッキリストだ』

 これはある人の言葉ですが、『デッキリストに込められた意思を汲み取ろうとするとき、75枚の物言わぬ文字列はしかし、何よりも雄弁に製作者の心情を物語ってくれる』のだと。

 であればデッキリストを見るという行為は。

 単なる”知識の探求”を超えて、より深い意味合いを伴った行いと言えるのかもしれません。

 この連載は晴れる屋のデッキ検索から毎週おもしろそうなデッキを見つけて、各フォーマットごとに紹介していく、というものです。

 気になるデッキがあれば実際に組んで遊んでみるもよし。Magic Online用のtxtフォーマットもダウンロードしていただけます。

 さっそく、それぞれのフォーマットで気になったデッキをご紹介していきましょう。

スタンダード: 「ローグ」

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飢饉の具現、トルガールドスンベルゼンロック典礼

 ホモ・サピエンス(以下ホモサピ)という生き物をご存知ですか? まぁ、僕ら現生人類のことなんですが。我々ホモサピは地球上に住む生物の中でも高い知性を持つ上に珍しい能力が複数あり、たとえば全身で大量に発汗して体温を調整したり、言語を話して意思疎通を取ったり、他にもいろいろな特徴があります。しかしながら、意外にもホモサピにしかできない最も特殊な技能の一つは投擲(とうてき)なのだそうですよ。ちなみにサルやゴリラにもちょっとした投擲はできるそうですが、ホモサピほど関節可動域が広くないので遠くへ正確にものを投げる能力はありません。

 つまり物を投げるという行為は非常にホモサピらしい≒知性あふれる行為と言えるわけですね。であれば《飢饉の具現、トルガール》を対戦相手に投げつけるのは? もちろんこれも知性がある――むしろ知性しかないコミュニケーションに他なりません。4ターン目《飢饉の具現、トルガール》でETB10点ルーズ!!そして《ドスン》、17点!! 断末魔に「知性!!」と叫ぶ対戦相手の顔が目に浮かぶようですね。ハァ~~知性!! 知性!!!(素振りをしながら)

 そんな《飢饉の具現、トルガール》を活かすべく、デッキには複数体のトークンを並べる《ゴブリンの扇動者》のようなクリーチャーや、《薄暮軍団の盲信者》のように生け贄に捧げた際のカードアドバンテージの損失を抑えられるクリーチャーが採用されています。他にも《ベルゼンロック典礼》などは珍しいカードですが、このデッキの方向性には非常にマッチしています。

 マジックにおいて知性を体現する色はとされているので、どうしてもドローしたり打ち消したりといった行動にはクレバーなイメージを抱きがちですが、原始時代から脈々と続く人間工学の系譜が本当にホモサピらしい知性のある行為とは物を投げて相手をシバくことであると証明しているのです。「我こそはすごい知性の持ち主である」という方は、ぜひ知性の限界にチャレンジしてみてください。

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スタンダード: 「ゴブリン」

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実験の狂乱闇住まいの神託者遁走する蒸気族

 現代に蘇った《未来予知》こと《実験の狂乱》。使ってみたことがある方ならすでにご存じかと思いますが、この《実験の狂乱》で1ターンに2枚以上のカードをプレイできたときに分泌されるアドレナリンの量たるや壮絶なものがあります。ライブラリートップに依存するためどうしてもランダム性に身を委ねることにはなるのですが、それゆえにプレイ可能なカードがめくれたときの快感が大きいんですよね。

 しかし人間の欲とは底が知れないもの。ライブラリートップから2枚カードをプレイすればその時点ですでにカードアドバンテージを得ていることになりますが、「もっとたくさん唱えたい!」という気持ちを抑えることができなくなっていくのです。そして、現行スタンダードのカードプールにはそんなワガママを可能にする《闇住まいの神託者》というカードがあるんですね。つまりライブラリートップが不要牌だった場合には戦場の適当なゴブリンを生け贄に捧げて追放してしまえばライブラリートップがリフレッシュされるという寸法です。

 しかし何度も呪文を唱えていればいつかマナがなくなってしまいます。そんなときには《スカークの探鉱者》《遁走する蒸気族》がマナを生み出し、ライブラリーの掘削作業をサポートしてくれるでしょう。しかも戦場に《ゴブリンの戦長》がいればさらにゴブリン呪文を唱えるためのハードルは下がり、最終的に速攻を持ったゴブリンの群れが戦場を埋め尽くして対戦相手に殴りかかっていくという寸法です。

 複数枚の《遁走する蒸気族》をプレイできていれば1ターンの間にライブラリーを唱え切ってしまうこともできるという環境随一の爆発力は他の追随を許しません。《実験の狂乱》フリークの方はぜひ一度試してみてはいかがでしょうか?

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モダン: 「ローグ」

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弧光のフェニックス氷の中の存在騒乱の歓楽者

 先週もお伝えした『ラヴニカのギルド』の新たな“ゼロ”こと《弧光のフェニックス》氏ですが、その性質上より軽い呪文が多く、墓地を肥やす手段も多彩なモダン以下の環境ではより凶悪性を増すことは明らかであり、実際さっそく《弧光のフェニックス》を採用した青赤のデッキが結果を残したようです。

 従来モダンで組まれる青黒のこの手のデッキは《秘密を掘り下げる者》《僧院の速槍》といった優秀な軽量クリーチャーでライフを詰めていくアグロデッキとしての側面が強かったですが、こちらのデッキは逆に速度を落としながらも《氷の中の存在》《騒乱の歓楽者》といったクリーチャーを採用しています。これによってシナジーがより強固になり、中~長期戦に強くなっていそうに見えます。

 また、《騒乱の歓楽者》《弧光のフェニックス》ともシナジーします。手札にダブついた《弧光のフェニックス》はこのデッキにも採用されている《信仰無き物あさり》《イゼットの魔除け》で捨てるのもいいですが、1ターンの間にそう多くのマナは使えそうにないこのデッキにおいてルーティング呪文でテンポアドバンテージを失うことは可能な限り避けたいようで、脅威の展開とディスカードを同時に行うことができる《騒乱の歓楽者》はこのデッキにぴったりな1枚です。

 ほかにも《瞬唱の魔道士》ではなく《ヴリンの神童、ジェイス》が採用されている点や最後の一押しに有効で墓地から唱えることもできる《嘲笑+負傷》の採用など、従来のデッキにはあまり見られなかったカード選択が光ります。しかし《弧光のフェニックス》の登場でこうも新しいデッキが生まれるとは、今後さらに研究が進むにつれて増えていくかもしれませんね。

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 いかがだったでしょうか。

 ある人は「すべてのデッキリストには意思が込められている」と言いました。

 75枚から製作者の意図を読み解くことができれば、自分でデッキを作るときにもきっと役に立つことでしょう。

 読者の皆さんも、ぜひいろいろとおもしろいデッキを探してみてください。

 また来週!

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