USA Standard Express vol.123 -スタンダード戦国時代-

Kenta Hiroki

 皆さんこんにちは。いよいよ今週末にはプロツアー『ドミナリア』が開催されます。今回の連載では、ここ2週間リアルとMOで開催されたスタンダードの大会の結果を追っていくので、皆さんが観戦する時の参考になれば幸いです。

 『ドミナリア』がリリースされて1か月以上経ちますが、果たして環境はどのように変わっていったのでしょうか。グランプリ・トロント2018Standard MOCS第11期スタンダード神挑戦者決定戦、そして先週末に開催されたMO PTQの入賞デッキを見ていきます。

グランプリ・トロント2018
~やはり強い機体アグロ~

2018年5月20日

  • 1位 WB Vehicles
  • 2位 UW Control
  • 3位 RB Vehicles
  • 4位 UW Control
Morgan McLaughlin/Chris Harabas/Lucas Siow

Morgan McLaughlin/Chris Harabas/Lucas Siow

マジック:ザ・ギャザリング公式ウェブサイト

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 春に開催されたグランプリ・京都2018と同様のスタンダード、モダン、レガシーのチーム構築戦で競われたグランプリ・トロント2018。スタンダードで一番人気のあったアーキタイプはグランプリ・バーミンガム2018でも猛威を振るったRB Vehiclesで、その次点でBW Vehiclesが多く、アグレッシブな戦略が中心だったようです。そんな今大会で優勝を果たしたのはBW Vehiclesでした。

 それらのアグロデッキを倒すために調整されたもUW Controlも勝ち残っていました。メインにクリーチャーが不採用で、除去・スイーパー・カウンターなど妨害要素が大量に積まれています。

グランプリ・トロント2018 デッキ紹介

「UW Control」

UW Control

 スタンダードを得意とするアメリカのプロプレイヤー・Brad Nelsonは今大会ではUW Controlを選択していました。

 グランプリ・バーミンガム2018でも準優勝という好成績を残していた『メインにクリーチャーを一切採用していないバージョン』で、カウンター、除去、ドロースペル、スイーパーでゲームをコントロールしていくことにフォーカスしており最終的に《ドミナリアの英雄、テフェリー》の奥義によって相手のパーマネントを全て追放して相手をロックします。

ドミナリアの英雄、テフェリー

☆注目ポイント

 メインのフィニッシャーは《ドミナリアの英雄、テフェリー》のみで、《試練に臨むギデオン》もサイドに落とされています。《ドミナリアの英雄、テフェリー》はモダンのJeskaiや青白でも採用されるほどのカードパワーで、カードアドバンテージ、マナアドバンテージ、パーマネント処理、そして奥義を発動させれば相手のパーマネントをドローする度に追放することで相手をロックします。アドバンテージ獲得手段にもなり自身も守ることも可能でフィニッシャーにもなるプレインズウォーカーは青白というアーキタイプをトップメタにまで押し上げるのに十分でした。

試練に臨むギデオン善意の騎士ベナリア史

 サイドには追加の勝ち手段として《試練に臨むギデオン》《善意の騎士》《ベナリア史》が見られ、必要ならば積極的に勝ちに行くことも選択肢として用意されています。特に《善意の騎士》はミラーマッチやBW Vehiclesとのマッチアップで強さを発揮します。

相手も除去を減らしてくることが予想されるのでクリーチャーが対処されにくく、序盤からクロックを展開することで相手の追加のカウンターなど対コントロール用のカードを腐らせることができます。アグレッシブなサイドボード戦略を採ることでこのタイプのデッキにありがちな時間切れによる引き分けも防止にもなります。

Standard MOCS
~スカラベの神の復活~

2018年5月20日

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 Magic Online Championship はMOで最高のプレイヤーを決める大会で、その予選はプロも参戦するためハイレベルな大会となるので注目が集まります。

 『ドミナリア』が加入して以来、RB VehiclesやUW Controlの陰に隠れてあまり見られなくなった《スカラベの神》でしたが、今大会では多数の青黒系のデッキが予選通過に必要な6-2以上の成績を残していました。

 アグロデッキは《ウルザの後継、カーン》《ゴブリンの鎖回し》、青白系も軽量除去の《封じ込め》や新たな5マナのフィニッシャークラスのプレインズウォーカーの《ドミナリアの英雄、テフェリー》を得た中、他のデッキほど『ドミナリア』からの新戦力を得られなかった青黒系のデッキでしたが、殿堂選出プレイヤーもこのデッキを選択して結果を残していたことから要注目です。

デッキ紹介

「UB Control」「Esper Control」

UB Control

 予想通りyaya3こと八十岡 翔太選手が選択したデッキはコントロールデッキでした。旧環境から活躍していたUB Controlですが『ドミナリア』からもわずかながら収穫があったようです。

 旧環境から存在したデッキなので、今回の連載では『ドミナリア』のカードを中心に見ていきたいと思います。

☆注目ポイント

 《検閲》《本質の散乱》の枠が『ドミナリア』の再録カードである《中略》に変わっています。環境には《奔流の機械巨人》《屑鉄場のたかり屋》《王神の贈り物》、各種「永遠」クリーチャーなど墓地を利用するカードが多いので、追放のテキストは極めて重要な意味を持ちます。

中略

 《喪心》はインスタントスピードの軽量除去で、《致命的な一押し》と共に序盤を支えます。ミッドレンジのクリーチャーの多くを対処できるのが利点ですが、《黎明をもたらす者ライラ》《キランの真意号》には触れないので注意が必要です。過去のスタンダードでも活躍した《破滅の刃》《究極の価格》といった2マナのインスタント除去とほぼ同じ感覚で使っていけます。《乱動への突入》の同型再録である《一瞬》もエンチャントやアーティファクト対策に貧しい青黒にとっては地味に嬉しい追加です。

一瞬最古再誕

 サイドの《悪意の騎士》は白からの呪禁なので青白や黒白などとのマッチアップで強さを発揮すると同時に、2ゲーム目以降は相手も除去を減らしてくることが予想されるので能動的に勝ちに行く手段として重宝します。《最古再誕》は青白など少数のフィニッシャーに頼ったデッキに有効で、コントロールミラーではアドバンテージが取れると同時に1章で生け贄に捧げさせた対戦相手の《ドミナリアの英雄、テフェリー》などを奪うことができ、勝利は目前です。ターンがかかるのがネックとなりますが、エンチャントなので対処法は限られています。

Esper Control

 beenaこと渡辺 雄也選手もコントロールデッキで参戦していました。青黒に《ドミナリアの英雄、テフェリー》をタッチしたバージョンです。

 『ドミナリア』の最高のカードの1枚である《ドミナリアの英雄、テフェリー》はマナベースに多少の負担が掛かっても採用する価値があるようです。

☆注目ポイント

 青白と異なる点は除去の選択肢で、《再燃するフェニックス》《ドミナリアの英雄、テフェリー》《ウルザの後継、カーン》《反逆の先導者、チャンドラ》《黎明をもたらす者ライラ》といった現環境の主力に触れる《ヴラスカの侮辱》が採用されています。

ヴラスカの侮辱

 メインから採用されている《魔術遠眼鏡》も各種プレインズウォーカーや《キランの真意号》、赤黒や白黒がコントロール対策としてサイドに忍ばせてある《アルゲールの断血》などの対策になります。

 サイドには《神聖の発動》でなく《俗物の放棄》が選択されていますが、「サイクリング」できるので手札で腐ることがなく、追放も《屑鉄場のたかり屋》対策になります。

第11期スタンダード神挑戦者決定戦
~白黒機体が安定した強さを見せる~

2018年5月27日

  • 1位 BW Vehicles
  • 2位 Esper Midrange
  • 3位 RB Vehicles
  • 4位 UB God-Pharaoh’s Gift
  • 5位 RB Vehicles
  • 6位 Mono Red
  • 7位 GB Aggro
  • 8位 GB Aggro
伊藤 大明

伊藤 大明

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 第11期スタンダード神挑戦者決定戦はプロツアー『ドミナリア』直前ということもあり注目が集まりました。

 結果の方はアグロデッキが幅を利かせている現環境らしく、BW Vehicles、RB Vehicles、GB Aggroなどが中心で、コントロールは上位には見られませんでした。《ドミナリアの英雄、テフェリー》を採用したミッドレンジ寄りのEsperは惜しくも優勝は逃したものの、準優勝という好成績を残していたのが印象的です。

デッキ紹介

「Esper Midrange」

Esper Midrange

 MOCSの予選でも結果を残していたEsper Controlではなく、《歩行バリスタ》《光袖会の収集者》も入ったミッドレンジ寄りの構成です。

歩行バリスタ光袖会の収集者

 カウンターも少なめで、デッキに積まれた多数の軽量除去のサポートによって《ドミナリアの英雄、テフェリー》を含めた3種類のプレインズウォーカーを守りつつアドバンテージを稼いでいきます。

☆注目ポイント

 トークンを生み出す《ベナリア史》もあるので《ドミナリアの英雄、テフェリー》を守る手段が豊富で、コントロールと異なり積極的に勝ちに行くこともできます。《ゴブリンの鎖回し》による被害を最小限に抑えるため《機知の勇者》などの採用は見送られタフネス1のクリーチャーは《光袖会の収集者》のみです。

ベナリア史機知の勇者菌類感染

 サイドの中で目を引くのは《菌類感染》です。トップ8プロフィールでも挙げられていましたが、相手の《大災厄》にレスポンスして《菌類感染》をキャストしてトークンを生み出して主力のクリーチャーを生け贄にすることを回避するなど活躍したそうです。《艦の魔道士、ラフ・キャパシェン》はデッキのほとんどのカードをインスタントスピードで出せるようになり、Esper Flashに変形します。コントロールのようにカウンターを多用するデッキに対して活躍しそうです。

MO PTQ
~青白が予選通過、珍しいデッキも複数入賞~

2018年5月27日

  • 1位 UW Control
  • 2位 BG Aggro
  • 3位 BG Aggro
  • 4位 RB Vehicles
  • 5位 Mono Red
  • 6位 RB Aggro
  • 7位 Wizard
  • 8位 Cycling Combo

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 先週末にMOで開催されたPTQは優勝こそトップメタの一角であるUW Controlでしたが、WizardやCyclingといったローグデッキも勝ち残っていました。

 赤黒アグロはコンスタントに勝ち続けており、MOCS予選でも全勝していた機体を採用していない赤黒アグロも見られました。

デッキ紹介

「RB Aggro」「Wizard」「Cycling Combo」

RB Aggro

 《キランの真意号》も不採用で《ボーマットの急使》《地揺すりのケンラ》といったタフネス1クリーチャーも多数起用されるなど、赤単タッチ黒といった構成になっています。

 《ゴブリンの鎖回し》の存在によってタフネス1のクリーチャーを多数展開することはアドバンテージを失うリスクがあり、最近では多くのデッキはタフネス1クリーチャーは減量していましたが、赤黒同型に有効なフィニッシャーとなる《熱烈の神ハゾレト》を運用するためには手札を消費しやすく構築する必要があります。構成を軽くしたことによりUW Controlなどに対しても速さと物量で押していくこともできるようになりました。

☆注目ポイント

 《ボーマットの急使》などタフネス1のクリーチャーを採用することで《ゴブリンの鎖回し》には弱くなりますが、《熱烈の神ハゾレト》が赤黒に強く、同型対策では赤黒が重めの構成になるのに対して軽いクリーチャーでライフを削っていきながら《熱烈の神ハゾレト》で止めを刺すという赤単のような戦略は現在有効な戦略として再評価され始めています。

熱烈の神ハゾレト航空船を強襲する者、カーリ・ゼヴ

 《航空船を強襲する者、カーリ・ゼヴ》は回避能力持ちな上にタフネス3と《マグマのしぶき》への耐性があり、《致命的な一押し》のような軽量除去を採用していないRB Vehiclesに対して強いクリーチャーです。MOCS予選のリストには《イフニルの死界》が1枚だけ入っていましたが、ほとんどの場合《竜髑髏の山頂》をサポートしない《沼》で、《ゴブリンの鎖回し》をキャストするデッキでは赤マナが出ない土地はなるべくなら避けたいので3枚目の《泥濘の峡谷》にしたのは正解だと思います。

 《栄光の刻》は4マナと重いカードですが、同型の《熱烈の神ハゾレト》や青黒の《スカラベの神》に対するアンサーになります。《熱烈の神ハゾレト》を使ったデッキに対しては少し遅いスペルですが、サイド後はお互いに重めの構成になる傾向にあるので問題はなさそうです。

栄光の刻

 UB Controlでも採用されていた《最古再誕》はこのデッキでもコントロールとのマッチアップ用にサイドに採られています。一応同型の《熱烈の神ハゾレト》も除去できますが、あまり現実的ではないのでほぼコントロール専用と見て間違いありません。MOCS予選から引き続いて結果を残しているリストなので、プロツアーでも見られるかもしれません。

Wizard

 RB VehiclesやUW Controlだけでなく現環境には未だ見ぬ強力なデッキが存在します。

燃えがらの風、エイデリズ

 今大会でトップ8にまで勝ち残った青赤のWizardは《燃えがらの風、エイデリズ》などWizardのシナジーと果敢クリーチャーを軽量スペルでバックアップしていくアグロデッキです。

☆注目ポイント

 過去のスタンダードやモダン、レガシーでも見られるUR Prowessと似たスタイルのデッキですが、《燃えがらの風、エイデリズ》による全体強化もあり部族アグロ的な要素も含まれています。《燃えがらの風、エイデリズ》が生き残れば果敢持ちのwizardクリーチャーに全体強化による上乗せがされ速やかにゲームを終わらせます。

ギトゥの溶岩走り損魂魔道士

 《粉骨+砕身》はあまり見かけなかったため存在を忘れかけられていたスペルですが、このデッキのようにクロックを展開していくデッキでは優秀なスペルとなります。果敢クリーチャーを強化しつつ相手の除去をカウンターしたり、相手のスイーパーやプレインズウォーカーといった決定的なスペルを妨害したりとクロックパーミッション的な動きをサポートします。

 《魔術師の稲妻》はプレビューでも話題になっていたスペルで、ウィザードクリーチャーを多数採用したこのデッキでは多くの場合《稲妻》として扱っていけます。《大将軍の憤怒》は果敢クリーチャーを強化しつつドローを進めるためのスペルで、多くの場合先制攻撃はおまけみたいなものです。

 このデッキのおもしろいところはサイド後に追加で2枚の《熱烈の神ハゾレト》《ゴブリンの鎖回し》が4枚投入されることで、赤単寄りの構成にシフトしていく選択肢があります。また、赤黒でもお馴染みの《損魂魔道士》《ゴブリンの鎖回し》の組み合わせも健在で、このデッキでも使われている辺りいかに《ゴブリンの鎖回し》というカードが強力かが伺えます。

Cycling Combo

 最後にご紹介するデッキは《新たな視点》を軸にした「サイクリング」コンボです。

新たな視点

 このターンに「サイクリング」した「サイクリング」カードを墓地から手札に戻す《葬送の影》《新たな視点》エンジンを活用したSultaiカラーのデッキで、《信者の確信》で相手のライフをドレインするか《ドレイクの安息地》でトークンを大量に生み出すことが主な勝ち手段となります。

☆注目ポイント

 《楽園の贈り物》《新たな地平》といったスペルでマナを伸ばしていき、それらの土地を《砂時計の侍臣》でアンタップさせることによってマナ加速していきます。《新たな視点》は「サイクリング」のコストを踏み倒す以外にもドロースペルとしても中々の性能です。

楽園の贈り物新たな地平砂時計の侍臣

 《新たな視点》《葬送の影》によってライブラリーのカードを全て引き切ることが可能で、サーチスペルの《ラザケシュの儀式》もあるので勝ち手段の《信者の確信》は1枚でも十分です。このエンチャントを貼ることができれば、あとは相手のライフを削るまで「サイクリング」を繰り返すだけです。

 メインはほぼノンクリーチャーなのでUW Controlと同様に相手の除去は無駄カードとなるのもこのデッキの強みで、相手の除去の多くがサイドアウトされる2ゲーム目以降は《ドレイクの安息地》《周到の神ケフネト》が投入されます。

総括

 プロツアー直前ということでリアルとMOの両方の大会の結果を見ていきましたが、BW Vehicles、RB Vehiclesといったアグロデッキやそれらのデッキの対抗馬としてクリーチャーレスのUW Control、復権の兆しを見せるUB Controlなど様々なデッキが活躍しています。

ドミナリアの英雄、テフェリー

 《ドミナリアの英雄、テフェリー》はコントロールの新たな定番のフィニッシャーとして定着しており、《ゴブリンの鎖回し》は赤いアグロの新たな主力として活躍すると同時に各デッキがタフネス1のクリーチャーを減量するなど環境のクリーチャーの評価にも大きな影響を与えています。

 以上USA Standard vol.123でした。それでは次回の連載でまた会いましょう。楽しいスタンダードライフを!

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