USA Standard Express vol.124 -もう鎖しか回せない-

Kenta Hiroki

Reid

 皆さんこんにちは。

 プロツアー『ドミナリア』も終了し環境の全貌が明らかになっていきました。先週末もSCG Invitational Season Oneグランプリ・コペンハーゲン2018が開催されていたので今回の連載ではそれらのイベントで入賞していたデッキも一緒に見ていきたいと思います。

プロツアー『ドミナリア』
《ゴブリンの鎖回し》が支配する世界~

2018年6月3日

  • 1位 Mono Red
  • 2位 BR Aggro
  • 3位 BR Aggro
  • 4位 BR Aggro
  • 5位 BR Aggro
  • 6位 BR Aggro
  • 7位 Esper Control
  • 8位 Mono Red

トップ8のデッキリストはこちら

 グランプリ・バーミンガム2018の結果から、《ゴブリンの鎖回し》によって大幅に強化された赤いアグロデッキが環境のトップメタだったことは明らかでしたが、環境の研究が進んでもそれは変わらず、今大会では(バージョンによる差はありましたが)なんと7名が《ゴブリンの鎖回し》を採用した赤いアグロデッキでプレイオフに進出していました。

ゴブリンの鎖回し

 ここまで偏った結果は珍しく、スタンダード部門で優秀な成績を残していたプレイヤーの多くが赤黒を選択していたことからも、現環境のベストデッキと見て間違いないでしょう。

プロツアー『ドミナリア』 デッキ紹介

「Mono Red」「BR Aggro」「Esper Control」

Mono Red

 今大会で見事にプロツアーチャンピオンのタイトルを獲得したWyatt Darbyは、多くのプレイヤーが赤黒を選択する中、赤単色のバージョンを選択していました。

山

 赤単色にする理由の一つに安定したマナ基盤が挙げられます。土地の種類が多い現在のスタンダードでは24枚の《山》というマナベースは非常にシンプルですが、タップインランドを採用する必要がないので展開が遅れることがなく、コントロールやミッドレンジ寄りのBR Aggroなどに対して速さで有利が取れます。

☆注目ポイント

熱烈の神ハゾレト

 BR Aggroにとって対処が難しい《熱烈の神ハゾレト》がフル搭載されており、手札をできる限り速く消費できるように《ボーマットの急使》《損魂魔道士》といった軽い1マナのクリーチャーも多めに採用されています。

地揺すりのケンラ

 《地揺すりのケンラ》も4枚と速さを意識した構成になっています。相手の《ゴブリンの鎖回し》で損をしてしまうリスクはありますが、速攻持ちでブロッカーを制限する誘発型能力を持つためダメージを通しやすく、「永遠」によって中盤以降もプレッシャーとなります。

 《ボーマットの急使》は同型やBR Aggroなどクリーチャーデッキに対してはよくサイドアウトされますが、ブロッカーとなるクリーチャーが少ないEsper Controlなどとのマッチアップで強さを発揮します。

栄光をもたらすもの反逆の先導者、チャンドラ

 サイド後は《栄光をもたらすもの》《反逆の先導者、チャンドラ》も追加されてBig Red寄りに変形していきます。もちろん同型も意識していたようで、《チャンドラの敗北》も多めに採られており、同型の《栄光をもたらすもの》《反逆の先導者、チャンドラ》といったカードも対処しやすくなります。

火による戦い

 《火による戦い》《無許可の分解》が使えない単色であるこのデッキの天敵である《黎明をもたらす者ライラ》など高タフネスクリーチャー対策となります。

BR Aggro

 アメリカのプロプレイヤーでマジック・プロツアー殿堂選出プレイヤーのOwen Turtenwaldは今大会でもトップ4入賞と安定した成績を残していました。

 デッキはBR Aggroを選択していたようで、スタンダード部門を8-0-2という素晴らしい成績で終えています。同デッキをシェアされたReid Dukeも8-2でスタンダードラウンドを終えており、リストの完成度の高さが伺えます。

 グランプリ・バーミンガム2018で上位を支配して以来、環境のトップメタに君臨し続けていたBR Aggroはプロツアー『ドミナリア』でも変わらずプレイオフにも5名という驚異的な数字を残していました。

☆注目ポイント

 《ウルザの後継、カーン》よりも《反逆の先導者、チャンドラ》が優先されています。タフネス4のクリーチャーを処理する手段になるので、BG Constrictorなど緑系のミッドレンジとのマッチアップで有効です。《ウルザの後継、カーン》と同様に生き残ればアドバンテージも取れますが、同型とのマッチアップのサイド後は《チャンドラの敗北》で対処されやすくなります。

再燃するフェニックス

 《再燃するフェニックス》はクリーチャーのサイズと質で不利になりやすいMono GreenやBGとのマッチアップ、同型でも攻守に渡って活躍するのでメインでも良さそうですが、BR Aggroとのミラーマッチで有効な《熱烈の神ハゾレト》が優先されています。

 《栄光をもたらすもの》も同様に飛行持ちのクロックとして緑系のミッドレンジを中心に活躍します。相手のプレインズウォーカーを攻撃しつつクリーチャーも除去できるので、同型でも《チャンドラの敗北》が投入される前のメイン戦では最高のカードの1枚として活躍します。

無許可の分解強迫炎鎖のアングラス

 赤単色と異なり黒を使う利点は確定除去の《無許可の分解》や、ハンデスの《大災厄》《強迫》、このリストでは不採用ですがコントロールとのマッチアップで強さを発揮する《炎鎖のアングラス》などにもアクセス可能なことです。

 ただし、タップインランドの《泥濘の峡谷》などを採用することになり、黒マナを安定して確保するために《沼》を採用する必要があるので《ゴブリンの鎖回し》のように色拘束が強いスペルをキャストするのが遅れることもあります。特にこの点はMono Redとのマッチアップで致命的になりやすく、プレイオフでもMono Redを使うWyatt Darbyとのマッチアップを落としていました。

Esper Control

 今大会のプレイオフで唯一《ゴブリンの鎖回し》の入っていないデッキを選択していたErnest Lim Pei Jinは赤いデッキに完全に包囲されることとなりました。

 青黒コントロールに『ドミナリア』のトップレアの1枚である《ドミナリアの英雄、テフェリー》をタッチしたデッキで、カウンターと除去で脅威を捌きつつドロースペルでアドバンテージを取っていき、《奔流の機械巨人》など少数のフィニッシャーによってゲームを終わらせる古典的なコントロールデッキです。

ヴラスカの侮辱

 《ヴラスカの侮辱》という効率的なプレインズウォーカー対策がある分、UW Controlに有利が付きます。BR Aggroとのマッチアップはデッキのバージョンにもよりますが、今大会のプレイオフでトップ8に多数のプレイヤーを送り込んだ《ボーマットの急使》を採用したアグレッシブなバージョンに対しては不利が付きます。

☆注目ポイント

ドミナリアの英雄、テフェリー

 スタンダード以外にモダンやレガシーでも活躍している《ドミナリアの英雄、テフェリー》歴代のプレインズウォーカーの中でも最高クラスで、白を足す最大の理由です。特にコントロールミラーやミッドレンジとのマッチアップでは各種クリーチャー除去や《本質の散乱》に引っかからず、より信頼できるフィニッシャーとして活躍します。

 《俗物の放棄》《キランの真意号》《アズカンタの探索》《アルゲールの断血》《造命師の動物記》をはじめ各種機械巨人対策になり、追放するので《屑鉄場のたかり屋》に対するクリーンなアンサーになります。

俗物の放棄光袖会の収集者

 また、「サイクリング」スペルなので腐りにくく、序盤は土地や必要なスペルを引き当てるために「サイクリング」して中盤以降は《奔流の機械巨人》で再利用することもできます。メインから採用しても良さそうな1枚です。

 サイドにフル搭載されている《光袖会の収集者》《ゴブリンの鎖回し》を採用していないデッキに対する追加の勝ち手段兼アドバンテージ獲得手段となりますが、《ゴブリンの鎖回し》デッキがトップメタである現在はMono Redの序盤の猛攻を止める《悪意の騎士》の方がお勧めです。白い除去に耐性があるので、UW ControlやBW Vehiclesとのマッチアップに強いのもお勧めする理由の一つです。

SCG Invitational Season One
~コントロールが《ゴブリンの鎖回し》に対抗する~

2018年6月10日

  • 1位 Mono-Red Aggro
  • 2位 UW Gift
  • 3位 Esper Control
  • 4位 Mono-Red Aggro
  • 5位 RB Aggro
  • 6位 RB Aggro
  • 7位 Esper Control
  • 8位 UW Historic
Aaron Barich

Aaron Barich

StarCityGames.com

成績上位者のデッキリストはこちら

 SCG Invitational Season Oneは予選ラウンドはスタンダードとモダンの混合フォーマット、プレイオフはモダンで競われたので、最終順位よりも7-1以上の成績を残していたデッキを中心に見ていきたいと思います。

 カバレージによると、2日目進出を果たしたプレイヤーが選択していたスタンダードのデッキは《ゴブリンの鎖回し》デッキ(Mono-Red AggroとRB Aggro)がダントツで、次点でEsper Controlという予想通りの結果となりました。プロツアーの次週ということで、時間的に考えても多くのプレイヤーが無難な選択をした結果なのは明白です。

 7-1以上の成績を残していたデッキはEsper Controlや青黒ミッドレンジ系が多く、白黒のミッドレンジも見られました。《ゴブリンの鎖回し》というはっきりした仮想敵が存在する現環境では、それらのデッキを徹底的にメタったデッキも活躍しやすくなります。

SCG Invitational Season One デッキ紹介

「BW Midrange」

BW Midrange

 Raja Sulaimanは今大会では《ゴブリンの鎖回し》《ドミナリアの英雄、テフェリー》のどちらも含まれていない白黒のミッドレンジを選択し、スタンダードラウンドで7-1という好成績で終えてトップ16に入賞していました。

 日曜日に併催されていたSCG Classics Roanoke(Standard)でも同様のデッキで優勝を果たしており、今大会で一番の注目のデッキだと思います。

賞罰の天使貪欲なチュパカブラ

 白黒はとにかく除去の種類が豊富で、《賞罰の天使》《貪欲なチュパカブラ》といったETB能力で除去が可能なクリーチャーにアクセスできるのもこのデッキの魅力です。

☆注目ポイント

光袖会の収集者

 《ゴブリンの鎖回し》によって流れてしまうものの、《光袖会の収集者》は赤以外のデッキに対しては軽いコストでアドバンテージを提供しつつ回避能力付きのクロックとなる優秀なクリーチャーです。

 脅威を処理しつつアドバンテージが取れる《賞罰の天使》《貪欲なチュパカブラ》は汎用性も高く、このデッキの主力となります。特に《賞罰の天使》はコストは重いもののタフネスが4と固く、除去されても「不朽」によって再利用することが可能なのでカウンターにも強く、コントロールやミッドレンジとのマッチアップで特に活躍が期待できます。

 そしてプロツアー『ドミナリア』を制したMono Redも顧慮し、《黎明をもたらす者ライラ》もメインから採用されています。赤黒バージョンは《無許可の分解》という対策をメインから採用していますが、赤単色のバージョンはメインからの対処法はほぼ皆無で、十分なライフを保ちながら《黎明をもたらす者ライラ》を出すことができれば勝利は目前でしょう。

霊気圏の収集艇不敬の行進

 《霊気圏の収集艇》はタフネス5という固さもあり、エネルギーを支払うことで絆魂を得ることができるのでMono Redに強く、エネルギーカウンターも《光袖会の収集者》から補充できます。

 サイドの《不敬の行進》はマナは掛かるもののミッドレンジミラー用のカードとしてはおもしろいチョイスです。《熱烈の神ハゾレト》《再燃するフェニックス》《スカラベの神》、各種「永遠」クリーチャーなどが存在する現環境では、追放除去は無視できない要素です。

 《ベナリア史》やサイドの《死の権威、リリアナ》を含めたプレインズウォーカーとハンデスによって、コントロールとのマッチアップでも遅れを取ることは少なくなりそうです。《ゴブリンの鎖回し》《ドミナリアの英雄、テフェリー》を採用したデッキの2強状態だった週末の大会で好成績を残していたので、赤系のアグロや青白系やEsper Control以外のデッキも使ってみたいという方にもお勧めのデッキです。

グランプリ・コペンハーゲン2018
《ゴブリンの鎖回し》祭り~

2018年6月10日

  • 1位 Mono Red
  • 2位 BR Aggro
  • 3位 Mono Red
  • 4位 UW Control
  • 5位 Mono Red
  • 6位 BR Aggro
  • 7位 BR Aggro
  • 8位 UW Control

トップ8のデッキリストはこちら

 プロツアー『ドミナリア』の翌週に開催されたことを考慮しても、Mono Red、BR Aggroというバージョンの差はあれど《ゴブリンの鎖回し》を採用した赤系のアグロがプレイオフに5名残っています。

 Joakim Stahle-Nilssonを除く残る2名は《ドミナリアの英雄、テフェリー》を採用したUW Controlを使用しており、《ゴブリンの鎖回し》を使うか《ドミナリアの英雄、テフェリー》を使うかという環境のようです。

グランプリ・コペンハーゲン2018 デッキ紹介

「UW Control」「Mono Red」

UW Control

 メインは4枚の《ドミナリアの英雄、テフェリー》《副陽の接近》を加えたヘビーコントロールとなっており、その他のカードはカウンター、除去、カードアドバンテージ獲得にフォーカスしています。

ドミナリアの英雄、テフェリー副陽の接近

 クリーチャーを全く採用していないので相手のクリーチャー除去は実質不要牌と化し、実質的にアドバンテージを得ることができるためBR Aggroとのマッチアップはメインでは有利となります。逆にMono Redは除去を火力に頼っているため本体へのダメージを蓄積されやすく、ゲームスピードもBRより速いのでその分厳しくなります。

 UB MidrangeやBG Constrictorといったミッドレンジとのマッチアップは、メインで相手の除去を腐らせることができることと、クロックがそれほど速くないこともあり比較的有利と言えます。

☆注目ポイント

 《副陽の接近》は7マナと重いソーサリーですが、カウンターとハンデスを積んだEsper Control以外のミッドレンジデッキに対して時間を稼ぎつつ追加のエンドカードとして機能します。

奔流の機械巨人歩行バリスタ魔術遠眼鏡

 ノンクリーチャーのメインボードとは打って変わってサイドにはクリーチャーが多数採られています。《奔流の機械巨人》はドロースペルやカウンターを使い回すことでアドバンテージを獲得でき、インスタントスピードで現れる5/6は特に除去が減らされているサイド後は強力です。

 《歩行バリスタ》はミッドレンジでは良く見られますが、コントロールで見かけるのは珍しく、相手も青白とのマッチアップで戦闘以外でライフが削られることを想定していないので奇襲性もあり、プレインズウォーカーも牽制できるので活躍したことでしょう。起動型能力は余ったマナの使い道としても最適です。

 《魔術遠眼鏡》はスタンダードだけでなくモダンやレガシーでも見られるアーティファクトで、このデッキにとって厄介な《ウルザの後継、カーン》《反逆の先導者、チャンドラ》といったプレインズウォーカーや《キランの真意号》などを止めます。

Mono Red

 Joakim Stahle-Nilssonのリストは赤いアグロでありながら《ゴブリンの鎖回し》が見られず《ボーマットの急使》を始めとした1マナクリーチャーを合計16枚採用した非常にアグレッシブな構成で、土地も20枚と少なめのスライのような構成です。

☆注目ポイント

ギトゥの溶岩走り損魂魔道士魔術師の稲妻

 《ギトゥの溶岩走り》《損魂魔道士》は火力を積極的にキャストしていくことでクロックを強化していくことが可能で、両クリーチャーともウィザード/Wizardなので《魔術師の稲妻》のコストダウンにも貢献します。

ケルドの炎

 このデッキで注目すべきカードは《ケルドの炎》です。この「英雄譚」を活かすために、このデッキは可能な限り軽い構成になっています。Ⅰの能力で手札を全て捨てることになるので、これを張る前に可能な限りクリーチャーを戦場に並べておきたいところです。

 Ⅱの能力でカードを引ける他、手札は《ボーマットの急使》を起動することによっても補充可能なのであまり問題になることはなく、Ⅲの能力は《狂信的扇動者》《航空船を強襲する者、カーリ・ゼヴ》といったクリーチャーと相性が良いです。《魔術師の稲妻》などの直接火力も《ギトゥの溶岩走り》《損魂魔道士》などWizardをコントロールしていれば1マナ5点という高効率の火力になります。

削剥マグマのしぶき

 《ケルドの炎》を軸にしている関係で手札を可能な限り早く消費したいので、メインの火力は《魔術師の稲妻》《稲妻の一撃》《ショック》といった本体にもプレイできる火力スペルで占められており、《削剥》《マグマのしぶき》といった火力除去はサイドに落とされています。サイド後は《霊気圏の収集艇》《反逆の先導者、チャンドラ》が投入され、少し遅い構成に変形するようです。

総括

 《ゴブリンの鎖回し》プロツアー『ドミナリア』後も変わらず支配的で、グランプリ・コペンハーゲン2018プレイオフの半数以上が赤いアグロという偏った結果が続いています。

ゴブリンの鎖回し

 《ゴブリンの鎖回し》によって現在デッキの構築には大きな制限が課されており、このクリーチャーのおかげで《光袖会の収集者》を始めとしたタフネス1のクリーチャーは価値が大きく下がっています。

 各デッキはタフネスが1のクリーチャーを厳選して採用しており、《ゴブリンの鎖回し》を使うかそれに有利なデッキを使うかという環境です。果たしてグランプリ・ピッツバーグ2018とグランプリ・シンガポール2018はどのような結果になるのか?

 以上USA Standard Express vol.124でした。

 それでは次回の連載でまた会いましょう。楽しいスタンダードライフを!

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