USA Standard Express vol.125 -王神デッキやコントロールの台頭-

Kenta Hiroki

 みなさんこんにちは。

 来月リリース予定の『基本セット2019』の情報も公開され、デッキのアイディアを練るのが楽しい時期ですが、みなさんいかがお過ごしですか?

 今回の連載では、先週末に開催された2つのグランプリの結果を追っていきたいと思います。

グランプリ・シンガポール2018
~日本人入賞者多数、王神がアジアのグランプリを制する~

2018年6月24日

  • 1位 WU Gift
  • 2位 Esper Control
  • 3位 Mono Red
  • 4位 Mono Red
  • 5位 Jeskai Control
  • 6位 BR Aggro
  • 7位 UB Control
  • 8位 BR Aggro

トップ8のデッキリストはこちら

 多数の日本人プレイヤーが入賞を果たした今大会《ゴブリンの鎖回し》《ドミナリアの英雄、テフェリー》を採用したデッキが多数を占めており、BR AggroとMono Redが最も多く、次点でEsper Controlというメタだったようです。

 そんな中優勝を飾ったのは、日本人プロの市川 ユウキ選手が操るWU Giftでした。リストの細部は異なるものの、WU GiftはSCG Invitational Season Oneで準優勝していたZac Elsikも選択しており、MOのリーグでも結果を残していたりと密かに注目を集めていたデッキでした。

グランプリ・シンガポール2018 デッキ紹介

「WU Gift」「Jeskai Control」

WU Gift

 《王神の贈り物》はしばらく見られませんでしたが、SCG Invitational Season OneのファイナリストであるZac Elsikも使っていました。MOでも結果を残すなど復権の兆しを見せていたデッキで、同週末にアメリカで開催されていたグランプリ・ピッツバーグ2018の上位でも見られました。《屍肉あさりの地》のような墓地対策を採用したデッキが少数で、マークが薄かったのも勝因の一つだと思われます。

王神の贈り物

 青白バージョンは《王神の贈り物》のコストを踏み倒す手段になる《復元》が使えることもあり、青赤バージョンよりもコンボ寄りです。また、サイドボードの選択肢が豊富なことも白を使う理由の一つとなります。

☆注目ポイント

 上でも述べた通り2色目に白を選択したことでサイドボードの選択肢が増えており、赤いアグロデッキに特に有効な《領事の権限》やスイーパーの《燻蒸》が採用されています。他にも《発明の天使》を素でキャストすることも可能です。

領事の権限燻蒸発明の天使

 Mono RedやBR Aggroといった赤いアグロデッキがトップメタである現環境に対応して、《陽光鞭の勇者》もメインから採用されています。追加コストはあるものの「永遠」のコストは比較的軽く、ライフを安全圏まで戻しつつ4/4が残るので、赤いデッキとのマッチアップではかなりの時間を稼いでくれます。

陽光鞭の勇者

 《削剥》などのアーティファクト対策がメインから当たり前のように取られているため、サイドには追加のフィニッシャーとして《ドミナリアの英雄、テフェリー》《黎明をもたらす者ライラ》が採用されており、WU Midrange寄りにシフトしていく選択肢も用意されています。

Jeskai Control

 Jeskai系のデッキを得意とする玉田選手は、今大会でもJeskai Controlで見事にプレイオフ進出を果たしました。

つむじ風の巨匠蓄霊稲妻

 青白軸から青赤軸に変更されたことで、プレインズウォーカーを守るのに一役買ってくれる《つむじ風の巨匠》や、軽い除去である《蓄霊稲妻》《マグマのしぶき》を使えるようになっています。除去が軽いというのは特に赤いデッキとのマッチアップで重要な要素です。

☆注目ポイント

 《霊気拠点》《つむじ風の巨匠》《蓄霊稲妻》《天才の片鱗》などでエネルギーメカニズムを利用するJeskai Controlは『カラデシュ』リリース当初から見られましたが、現在はコントロールにとって最高のカードである《ドミナリアの英雄、テフェリー》も加わっており、大幅に強化されています。

ドミナリアの英雄、テフェリー

 《検閲》《中略》のスプリットは興味深い選択です。ソフトカウンターとしては《中略》の方が汎用性が高いことは確かですが、このタイプのデッキにとっては「サイクリング」によって土地を探して《ドミナリアの英雄、テフェリー》に繋げていくことができることも重要ですし、《アズカンタの探索》の「変身」にも貢献します。

 《マグマのしぶき》はBR Aggroの《屑鉄場のたかり屋》を手軽に対策する手段になります。他にも最近増加傾向にある「永遠」持ちのクリーチャーや《王神の贈り物》《スカラベの神》を使用するデッキにも有効なので、今後も主力の除去スペルの1枚として赤いデッキには高い確率で採用されることが予想されます。

マグマのしぶき

 Jeskaiカラーの弱点として、《ヴラスカの侮辱》がある黒と異なり、赤はプレインズウォーカーに触る手段に貧しいですが、玉田選手は赤系デッキとのマッチアップで強力な《チャンドラの敗北》と青いコントロール同型用に《ジェイスの敗北》を採用しています。

グランプリ・ピッツバーグ2018
~コントロールデッキの躍進~

2018年6月24日

  • 1位 Mono Red
  • 2位 UB Midrange
  • 3位 BR Aggro
  • 4位 WU Gift
  • 5位 UB Control
  • 6位 Esper Control
  • 7位 WU Control
  • 8位 BR Aggro

トップ8のデッキリストはこちら

 デッキ分布によれば、大方の予想通り《ゴブリンの鎖回し》を採用したBR、Mono Redが多数を占めており、その次点でUB Midrange、Esper Controlと続いていました。最大勢力だったBRの中にもバリエーションがあり、《ボーマットの急使》を採用したアグレッシブな構成《ヴラスカの侮辱》やプレインズウォーカーを多めに採用したミッドレンジ寄りの構成の2種類が存在します。

 グランプリ・シンガポール2018でも結果を残していたWU Giftも見られました。2つの異なる大会で結果を残していることからも要注目のアーキタイプです。

グランプリ・ピッツバーグ2018 デッキ紹介

「UB Midrange」「Esper Control」

UB Midrange

 前環境でトップメタの一角として活躍していたUB Midrange。『ドミナリア』がリリースされた直後はメタゲーム上でその数を減らしていましたが、《スカラベの神》のカードパワーは健在で、特に赤いデッキにとっては対策が限られているのもあり最近は復権の兆しを見せています。

 元々アドバンテージを取る手段が豊富な上に優秀な除去が揃っているので、メインではアグロデッキに強く、コントロールに対してもハンデスの《強迫》や追加のカウンターの《否認》、プレインズウォーカー(主に《ドミナリアの英雄、テフェリー》)対策になる《魔術遠眼鏡》などがサイドインされる2戦目以降はコントロールとの相性も改善されます。

☆注目ポイント

 《ゴブリンの鎖回し》の影響でタフネス1のクリーチャーの採用率は減っているものの、《光袖会の収集者》《機知の勇者》は依然としてアドバンテージを稼いでくれる優秀なクリーチャーです。《貪欲なチュパカブラ》は1 : 2交換を狙えるクリーチャーで、墓地に落ちても《スカラベの神》《死の権威、リリアナ》を再利用することでさらにアドバンテージを稼ぐことができます。

 軽くてテンポが取りやすい《致命的な一押し》はメインに4枚採用されており、プレインズウォーカーも対策できる《ヴラスカの侮辱》も欠かせない除去です。ハンデスとしても除去としても使えるフレキシブルな《大災厄》もメインから採用されています。

致命的な一押しヴラスカの侮辱大災厄

 除去が豊富なUB Midrangeですが、Oliver Tiuはメインから《本質の散乱》も採用しています。赤いアグロデッキの《熱烈の神ハゾレト》《再燃するフェニックス》といった中堅クリーチャーに対処でき、コントロールデッキも《奔流の機械巨人》《スカラベの神》といったクリーチャーをフィニッシャーとして採用していることが多いので腐りにくく、現環境ではメインでも十分な活躍が期待できます。

アルゲールの断血アクロゾズの神殿

 《アルゲールの断血》はコントロールとのマッチアップ用にサイドでよく見られるカードでしたが、《アクロゾズの神殿》に変身することでライフを回復することが可能になるのでアグロデッキ相手にも意外と有効な場面があり、メインに採用されています。《アルゲールの断血》で生け贄に捧げたクリーチャーを《スカラベの神》で再利用するという動きも強力です。

Esper Control

 モダンでも使われている《ドミナリアの英雄、テフェリー》《ゴブリンの鎖回し》と並んで現環境最高のカードの1枚です。

否認暗記+記憶

 《中略》などのソフトカウンターよりも《否認》《暗記+記憶》といった確定カウンターが優先されており、コントロール同型やミッドレンジを意識した構成です。《ゴブリンの鎖回し》の影響でMono Red以外はタフネス1のクリーチャーの採用率が下がり、赤いアグロの同型対策のためにミッドレンジ寄りにシフトしてきたのもあってカウンターが強い環境です。

 黒が入っているため軽い除去に恵まれており、Mono RedやBR Aggroとの相性もよく、特に《ボーマットの急使》を採用していないミッドレンジ寄りのバージョンとのマッチアップは有利です。WU Controlなどコントロールとのマッチアップも追加の軽い勝ち手段やハンデス、カウンターがあるためマッチ全体では有利と言えるでしょう。

☆注目ポイント

 Zach Allenのリストで最も注目すべき点はサイドボードのカード選択にあります。《電招の塔》はしばらくぶりに見かけるカードですが、インスタントかソーサリーを多用するこのデッキではエネルギーを溜めるのも容易で、コントロールミラーにおいてはプレインズウォーカーを牽制する手段として機能します。

電招の塔本質の摘出

 《本質の摘出》は(黒)(黒)と色拘束が強く、3マナとやや重い除去ですが、《渇望の時》と異なり《航空船を強襲する者、カーリ・ゼヴ》《ゴブリンの鎖回し》といったタフネス3のクリーチャーにも対応できます。

光袖会の収集者強迫

 他のコントロールと同様、サイド後は軽い追加の勝ち手段として《光袖会の収集者》やハンデスの《強迫》、ドローエンジンの《アルゲールの断血》などが投入され、プロアクティブな戦略にシフトしていきます。さきほどの《電招の塔》とともに積極的に勝ちに行けるように工夫されていますが、この環境のコントロールミラーは長引きやすく、引き分けには注意が必要です。実際、このデッキを使用していたZach Allenも2度引き分けているようです。

総括

 2つのスタンダードのグランプリの結果を見てみると、Mono RedやBR Aggroは入賞率が高いですがその背景にはそもそもの母数の多さもあり、前環境でも活躍していたUB Midrangeなどの復権が目立ちます。

王神の贈り物

 先週末の2つのスタンダードの大会結果の中で最も印象に残ったのは《王神の贈り物》デッキの復権です。グランプリ・シンガポール2018では優勝、グランプリ・ピッツバーグ2018でもプレイオフ進出という好成績を残しており、《陽光鞭の勇者》がメインから採用されているなど、赤いデッキが強い現在のメタに合わせて入念な調整がされていました。

 今週末にはアメリカ選手権2018が開催されますが、メタがどのようにシフトしていくのか目が離せません。

 以上USA Standard Express vol.125でした。

 それでは次回の連載でまた会いましょう。楽しいスタンダードライフを!

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