USA Legacy Express vol.144 -グリクシス・オブ・ザ・ワールド-

Kenta Hiroki

 みなさんこんにちは。

 Eternal Weekend Asiaが開催されましたが、みなさん参加されましたか? ヨーロッパやアメリカでは毎年恒例のエターナルの祭典でしたが、アジアで開催されたのは今年が初なのもあり、盛り上がりを見せていました。

 さて、今回の連載ではマジック25周年記念プロツアーSCGO DallasEternal Weekend Asiaの入賞デッキを見ていきたいと思います。

マジック25周年記念プロツアー
レガシーでも死の影がブレイクを果たす

2018年8月5日

  • 1位 Death & Taxes
  • 2位 UB Death’s Shadow
  • 3位 Death & Taxes
  • 4位 Eldrazi

トップ4のデッキリストはこちら

 マジックの25周年を記念して開催されたマジック25周年記念プロツアーはスペシャルなイベントらしくチーム戦で行われ、歴代のプロツアーでも最も盛り上がったイベントだったようです。

 チーム戦でプロツアーということで多くのチームはSCG TourやLegacy Challengeなどで結果を残していたGrixis ControlやDeath & Taxesなどを選択していました(※参考)

 《死儀礼のシャーマン》《ギタクシア派の調査》が禁止カードに指定されてからわずかひと月後の開催でしたが、その短い期間の中で完成されたUB Death’s Shadowは準優勝という好成績を残しており、今大会で大きな注目を集めていました。

マジック25周年記念プロツアー デッキ紹介

「Death & Taxes」「UB Death’s Shadow」

Death & Taxes

 今大会見事に優勝を果たしたチームのレガシー担当のAllen WuはDeath & Taxesを愛用しているプレイヤーです。Death & Taxesは今大会で結果を残していたUB Death’s Shadowを含めた多くのデッキに対して強いデッキで、プロツアーで結果を残したことと環境の多くのマッチアップで互角以上の勝負ができることで現環境のトップメタとされています。

 《渦まく知識》を使用していないデッキの中では最高のデッキの一つとされており、《スレイベンの守護者、サリア》を始めとした多数のヘイトベアーのおかげで打ち消しを使用していないデッキの中ではコンボ耐性もあり、特にSneak and Showなど遅めのコンボとのマッチアップに強いデッキです。

 ドロースペルの不在により青いデッキのようなフレキシブルさはないものの、《護衛募集員》によって状況に応じたクリーチャーをサーチしてくることが可能で、《石鍛冶の神秘家》パッケージなどアドバンテージを得る手段も豊富です。

☆注目ポイント

光異種ミラディンの十字軍

 最近のリストでよく見られるようになった《光異種》の採用は見送られ、《ミラディンの十字軍》が優先的に採用されています。スイーパーに耐性のある《光異種》はMiraclesとのマッチアップで特に強さを発揮しますが、今大会で最もポピュラーであったGrixis Controlや上位入賞を果たしたUB Death’s Shadowなどに対してはプロテクション(黒)による除去耐性、回避能力を持つ《ミラディンの十字軍》に軍配が上がります。

歩行バリスタ

 サイドには今までのDeath & Taxesではあまり見られなかったクリーチャーが採用されています。《歩行バリスタ》《悪意の大梟》擁するGrixis Controlやミラーマッチなどで活躍が期待できるクリーチャーで、《護衛募集員》でもサーチ可能なことも評価できるポイントです。白単のDeath & Taxesからダメージによる除去を想定していたプレイヤーも少なかったと思うので、今大会で活躍していたことが想像できます。

宮殿の看守レオニンの遺物囲い

 《宮殿の看守》はETB能力で相手のクリーチャーを追放しつつ「統治者」になれるというユニークな能力を持っており、このクリーチャー自体が除去されても追放したクリーチャーが戻ってこないのもこのカードの強みです。「統治者」になれば毎ターンアドバンテージも獲得することができるのでUB Death’s shadowやミラーマッチで使えるクリーチャーで、今後は枚数を追加することも検討する価値がありそうです。サイドボードの《レオニンの遺物囲い》《全知》《夜の戦慄》といったエンチャントにも触れるので便利です。

UB Death’s Shadow

 モダンでも見られる《死の影》はレガシーでも通用する逸材だということが証明されました。モダンの《死の影》デッキはGrixisカラーのバージョンがポピュラーですが、レガシーでは青黒の2色が主流です。

死の影

 Josh Utter-LeytonをはじめとしたChannel Fireballの面々が持ち込み、今大会では(少ないシェアながら)トータルでは優秀な成績を残しており、レガシー部門において最も注目を集めていたデッキでした。

 Delver系のバリエーションらしく《不毛の大地》で相手のマナベースを崩しつつクロックをかけていき、ハンデスとカウンターでバックアップしていきます。《死の影》を高速で強化するために《Underground Sea》よりもショックランドの《湿った墓》が多く含まれているのも特徴です。

☆注目ポイント

 《死の影》《タルモゴイフ》《グルマグのアンコウ》よりもサイズが大きくなる上に、1マナという軽さもありDelver系のフィニッシャーとしては最適なクリーチャーとなります。

再活性通りの悪霊

 このデッキのメインデッキで特に印象に残ったのは2枚採用されている《再活性》です。1ターン目に「サイクリング」した《通りの悪霊》《再活性》する動きはこのデッキで最も強力なアクションの一つで、《湿った墓》をフェッチしてからキャストすることでライフが10まで減るので《死の影》も2ターン目から展開しやすくなります。

 「沼渡り」はGrixis ControlやGrixis Delverなどに対して強く、《致命的な一押し》《稲妻》《突然の衰微》といった除去にも耐性があり、白いデッキ以外には信頼性の高いクロックになります。除去された《死の影》を再利用することも可能で、《思考囲い》などで落とした相手のクリーチャーを利用したりとデッキの内の脅威の密度を上げることにも貢献します。メインからReanimatorを対策する手段にもなり、墓地に落とした《グリセルブランド》を逆に利用することも可能です。

ゲスの玉座

 サイドの《ゲスの玉座》は今大会で一番のイノベーションの一つで、「増殖」によってX=1で置かれた《虚空の杯》を対策します。蓄積カウンターを2個にすることで1マナのスペルをキャスト可能にすると同時に相手の2マナのスペルをロックします。

夜の戦慄最後の望み、リリアナ

 Death & Taxesを選択してくるチームが多くなることも想定していたようで、サイドボードは《夜の戦慄》が3枚と多めで、《最後の望み、リリアナ》も2枚取られています。サイド後はミッドレンジ寄りにシフトしていくようで、追加のハンデスの《トーラックへの賛歌》も見られます。特に白いデッキに対しては《剣を鍬に》されると《死の影》で勝つのは厳しくなるので《トーラックへの賛歌》《最後の望み、リリアナ》など異なる種類の妨害要素を追加することで対応していきます。

SCGO Dallas
やはり強いDelver

2018年8月18日

  • 1位 UB Death’s Shadow
  • 2位 Grixis Delver
  • 3位 Grixis Delver
  • 4位 Sneak and Show
  • 5位 Grixis Delver
  • 6位 UB Death’s Shadow
  • 7位 Grixis Delver
  • 8位 Infect
Thomas/Basoco/Job

Thomas/Basoco/Job

StarCityGames.com

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 マジック25周年記念プロツアーと同様のチーム戦で競われたSCG Dallasのレガシー部門はGrixis Delverが最もポピュラーなアーキタイプで、《死儀礼のシャーマン》《ギタクシア派の調査》が禁止カードに指定されてもその強さは変わらず、安定した成績を残しています。

 優勝を果たしたのはマジック25周年記念プロツアーでJosh Utter-Leytonが使用していたUB Death’s Shadowとほぼ同様のリストで、デッキの完成度の高さがうかがえます。

SCGO Dallas デッキ紹介

「Grixis Delver」

Grixis Delver

 《死儀礼のシャーマン》《ギタクシア派の調査》が禁止カードに指定されてもGrixis Delverの地力の高さは変わらず、今大会で多数のチームを上位に送り込みました。中でもこちらはアメリカのレガシースペシャリストであるBob Huangが調整を続けているバージョンで、《若き紅蓮術士》を採用した古典的なGrixis Delverです。

若き紅蓮術士

 《ギタクシア派の調査》を失ったことで爆発力は落ちたものの、エレメンタル・トークンによる横に並ぶ戦略は《死の影》をブロックしつつ、《真の名の宿敵》のような回避能力のあるクリーチャーでクロックをかけることができます。

☆注目ポイント

 《ギタクシア派の調査》だった枠は1マナのハンデスと《定業》に差し替えられ、《死儀礼のシャーマン》だった枠は追加の《若き紅蓮術士》《グルマグのアンコウ》、19枚目の土地になっています。《死儀礼のシャーマン》を失い、0マナでキャストできるキャントリップスペルも不在なので、19枚目の土地を追加することは理に適っています。

定業若き紅蓮術士グルマグのアンコウ

 基本地形の《島》を19枚目の土地として選択することにより、わずかながら《不毛の大地》《血染めの月》にも耐性ができました。例え《血染めの月》を張られたとしても最低限の青マナを確保できるので、《若き紅蓮術士》を展開してキャントリップスペルからトークンを並べることで逆転を狙うチャンスもできます。

思考囲いコジレックの審問

 1マナ域にも調整が施されています。上述の《定業》をはじめ、「探査」をスムーズに実行するために能動的に使える1マナのハンデスである《思考囲い》《コジレックの審問》もメインから見られ、これらは《陰謀団式療法》よりも優先されており、ハンデスは《死儀礼のシャーマン》に代わる1ターン目のアクションとなります。《グルマグのアンコウ》は5/5というサイズとマナコストによって《突然の衰微》《致命的な一押し》《稲妻》といった現環境の主要な除去の多くに耐性を持ち、《死儀礼のシャーマン》のように墓地のカードを追放してくるカードもメインでは見られなくなったので最も信頼できるフィニッシャーの一つとして扱えます。

無のロッド

 《無のロッド》1枚で複数の異なるアーキタイプを対策できる便利なサイドボードカードで、ANTの《ライオンの瞳のダイアモンド》《水蓮の花びら》、Death & Taxesの《霊気の薬瓶》や装備品などをシャットアウトします。

Eternal Weekend Asia
ストームがアジアのレガシー選手権を制する

2018年8月19日

  • 1位 ANT
  • 2位 Grixis Delver
  • 3位 Lands
  • 4位 Grixis Death’s Shadow
  • 5位 UR Delver
  • 6位 Infect
  • 7位 Show and Tell
  • 8位 Miracles

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 アジアで初めて開催されたEternal Weekend Asiaのレガシー選手権は参加者600人を超える大規模なイベントとなり、日本国外からの遠征者も見られ盛り上がりを見せていました。

 これまでご紹介してきたイベントはチーム戦がほとんどで、新環境のレガシーの大規模な個人戦のイベントは久しぶりです。今大会の結果は、今後のレガシーの環境を考えるうえで参考になりそうです。

Eternal Weekend Asia デッキ紹介

「Grixis Delver」「Grixis Control」

Grixis Delver

 マジック25周年記念プロツアーで7位に入賞していたJonathan Sukenikが使用していたバージョンと似たリストで、メインから採用されている《苦花》や多めに採られた《真の名の宿敵》など他のGrixis Delverと比べると特徴のあるリストです。

苦花真の名の宿敵

 先程ご紹介させていただいた《若き紅蓮術士》を採用したバージョンと比較するとサイドの《瞬唱の魔道士》などがサイドボードに含まれており、ミッドレンジ寄りの構成です。

☆注目ポイント

 メインから採用されている《苦花》《若き紅蓮術士》と比べると遅くなりますが、エンチャントなので対策されにくく、スイーパーを搭載したMiraclesや《悪意の大梟》のようなブロッカーや軽い除去を多用するGrixis Control、ミラーマッチなどで特に強さを発揮します。《苦花》《真の名の宿敵》といった2~3マナの脅威を積んでいるので他のDelver系と比べると《虚空の杯》「X=1」にもいくらか耐性があります。

 ハンデスは《苦花》によるライフロスを考慮してか《思考囲い》よりも《コジレックの審問》が優先されています。

最後の望み、リリアナ紅蓮破瞬唱の魔道士

 サイド後は《最後の望み、リリアナ》《紅蓮破》《赤霊破》《瞬唱の魔道士》といったカードが投入され、Grixis Controlに近い構成にシフトしていきます。プロツアーでこのバージョンのDelverを使用していたJonathan Sukenikによれば、Grixis Controlのように除去を多用してくるデッキに対しては《秘密を掘り下げる者》をサイドアウトして相手の《致命的な一押し》《稲妻》といった除去を腐らせるというプランもあるそうです。

 個人戦で大規模なレガシーのイベントで準優勝という好成績を残したリストなこともあり、Legacy Challengeでも結果を残していたのでお勧めのデッキの一つです。

Grixis Control

 4C Leovoldの後釜とされているGrixis Controlはマジック25周年記念プロツアーで最も高い使用率を誇ったデッキで、禁止改定後の環境でコンスタントに結果を残していることからも現環境のトップメタの一角として扱われています。《死儀礼のシャーマン》を失い《トレストの使者、レオヴォルド》《突然の衰微》以外では特に緑を使うメリットがあまり見当たらないため、緑がカットされ3色に絞られています。

 Grixis Delverと比べるとクロックが遅くなりますが、ハンデスの《トーラックへの賛歌》などで相手のプランを崩壊させることができるのでANTやSneak and showといったコンボとのマッチアップはかなり良い方になります。

 《致命的な一押し》《稲妻》といった多種類の軽い除去が使えるのがこのデッキの強みで、《霊気の薬瓶》や装備品など置物も《コラガンの命令》で対策することが可能です。《瞬唱の魔道士》によるアドバンテージもあり《グルマグのアンコウ》《精神を刻む者、ジェイス》とフィニッシャーにも恵まれているので、環境の多くのデッキと互角以上の勝負ができます。

☆注目ポイント

 《反逆の先導者、チャンドラ》はアドバンテージ面でこそ《精神を刻む者、ジェイス》に軍配が上がりますが、タフネス4以下のクリーチャーに対する除去にもなり、サイド後に《紅蓮破》されないプレインズウォーカーとしてコントロールとのマッチアップで使えそうです。

反逆の先導者、チャンドラ

 《悪魔の布告》はUB Death’s Shadowのように1-2体のクリーチャーで勝負してくるデッキや《真の名の宿敵》《グルマグのアンコウ》のように単体除去に耐性のあるクリーチャーが主流の現環境では良く機能します。

悪魔の布告高山の月

 自身が3色で特殊地形を多用しているのでLandsやDark Depths、Loamといったデッキへの対策カードである《血染めの月》《基本に帰れ》といったカードが使いにくいですが、1マナと軽く自分の土地には被害が全くない《高山の月》が採用されています。

 また、このデッキにも《苦花》が採用されています。ミラーマッチやMiraclesとのマッチアップで処理され難い追加の勝ち手段として機能し、プレインズウォーカーを守る手段としても使えるのでライフを高速で攻めてこないフェアデッキとのマッチアップでサイドインされることが多くなりそうです。

総括

 《死儀礼のシャーマン》《ギタクシア派の調査》が禁止カードに指定され、UB Death’s Shadowのような新しいデッキも登場し、コンボデッキも復権してくるなど環境に大きな動きがありました。Death & TaxesやEldraziなど非青デッキの活躍も著しく、プレイしていて楽しい環境です。

 当初はTemur DelverやStonebladeなどが復権してくることが考えられていましたが、蓋を開けてみれば《死儀礼のシャーマン》のようなメインから入る墓地対策がなくなったことで以前よりも早い段階からキャストしやすくなった《グルマグのアンコウ》や、優秀な低マナ除去やハンデスなど豊富な妨害手段、全体的に対策され難い《苦花》などが使え、新環境でもGrixisカラーが最高の組み合わせのようです。

 今週末はアメリカのRichmondでレガシーのGPが開催されます。新環境になってから初となる個人戦のレガシーのGPなので楽しみです。

 以上USA Legacy Express vol.144でした。それでは次回の連載でまた会いましょう。楽しいレガシーライフを!

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