USA Legacy Express vol.145 -多色デッキは基本に帰れ-

Kenta Hiroki

 皆さんこんにちは。

 グランプリ・リッチモンド2018SCGO Baltimoreなど、レガシーの大規模な大会がリアルでも開催され、レガシーファンにとって充実した週末でした。新セットの『ラヴニカのギルド』のリリースも間近に迫ってきており、レガシーの環境にも影響を与えそうなカードも数枚見られます。

 さて、今回の連載では上記2つのイベントの入賞デッキを見ていきたいと思います。

グランプリ・リッチモンド2018
コントロールマスターがアメリカのレガシーGPを制する

2018年8月31日

  • 1位 Miracles
  • 2位 Lands
  • 3位 Miracles
  • 4位 UB Death’s Shadow
  • 5位 Temur Delver
  • 6位 UW Stoneblade
  • 7位 Eldrazi
  • 8位 Grixis Control
Andrew Cuneo

Andrew Cuneo

MAGIC: THE GATHERING



トップ8のデッキリストはこちら

 トップ16まで見渡すと、プロツアーでも最大勢力だったGrixis Controlが3名と安定した成績を残していました。

 UB ShadowやGrixis Delver、Temur DelverといったDelver系のデッキも、トップ16以内に多数の入賞者を出しており、コンボデッキにとっては全体的に厳しいメタだったようです。

 またMiraclesの名手として数多くの大会で結果を残し続けているJoe Lossetや、プロツアー殿堂プレイヤーのOwen Turtenwaldが、禁止改定後の環境で復権の兆しを見せている《石鍛冶の神秘家》デッキを使用していたのも印象的でした。

グランプリ・リッチモンド2018 デッキ紹介

「Temur Delver」「UW Stoneblade」「Miracles」

Temur Delver

 《死儀礼のシャーマン》が禁止になったことで、マナ否定戦略も本来の強さを取り戻し、「スレッショルド」が妨害されづらくなったことで、《敏捷なマングース》を再び使えることに喜んだプレイヤーも少なくなかったと思われます。

 サイズの大きいクリーチャーを処理する手段が限られているため、UB Shadowなどには苦戦を強いられますが、Grixis Controlなど多色のデッキに対しては、《もみ消し》《不毛の大地》といったマナ否定戦略が有効に機能します。

☆注目ポイント

敏捷なマングース真の名の宿敵

 《剣を鍬に》《致命的な一押し》といった単体除去や、《悪意の大梟》で容易に止められてしまうため、《タルモゴイフ》が2枚に減量されており、その枠には《真の名の宿敵》が採用されています。3マナとコストは重くなりますが、単体除去に耐性があり、特にGrixis Control、Miracles、Death and Taxesなどのフェアデッキとのマッチアップにおいて、信頼性のあるクロックとなります。

 Miraclesとのマッチアップでは、《敏捷なマングース》と共に《剣を鍬に》されないクロックとしてプレッシャーをかけていき、カウンターを《終末》などスイーパーに的を絞ることが可能になりました。

もみ消し方向転換

 《もみ消し》は相手のフェッチランドの起動を妨害する以外にも、Miraclesとのマッチアップでは「奇跡」の誘発を妨害することができるので、《終末》に対してカウンターのように機能します。Alex Chenのリストのメインデッキには、見慣れないカードが採用されています。《方向転換》は各種単体除去、《トーラックへの賛歌》《悪魔の布告》などのほかにも、カウンターされないスペルである《突然の衰微》に対しても効果があり、カウンター合戦の際は《呪文貫き》のように機能します。

UW Stoneblade

 Grixis Controlなど、マナ基盤を特殊地形に頼ったデッキに刺さる《基本に帰れ》を採用できる青白系のデッキは、優勝を果たしたMiraclesも含めて多数上位に勝ち残っていました。

 《師範の占い独楽》が、禁止カードになる前の環境でMiraclesを使い続けていたJoe Lossettは、過去に使用していたMiraclesと同様に《ヴェンディリオン三人衆》《造物の学者、ヴェンセール》など、伝説のクリーチャーを多数採用したコントロール寄りのUW Stonebladeでプレイオフ入賞を決めました。

☆注目ポイント

ヴェンディリオン三人衆カラカス造物の学者、ヴェンセール

 《ヴェンディリオン三人衆》《造物の学者、ヴェンセール》を、《カラカス》で使い回すことで相手をロック状態に持ち込むことも可能で、《魂の洞窟》があるのでカウンターされる心配もありません。Grixis Controlなど、《コラガンの命令》《殴打頭蓋》など装備品を対策してくる相手に対しては特に重要で、《精神を刻む者、ジェイス》以外でのロングゲームを制する手段としてフェアデッキとのマッチアップで強さを発揮します。

石術師、ナヒリ基本に帰れ

 《石術師、ナヒリ》は面白いカードです。5マナと重めですが、自身を守りながら戦線を構築することが可能で、墓地に落ちた装備品を使い回せる「-2」能力も中々優秀です。フェアデッキとのマッチアップで強さを発揮するプレインズウォーカーで、《紅蓮破》で対処されないのも強みです。

 Miraclesと同様に、サイドには《基本に帰れ》が忍ばせてあります。Grixis Control、UB Death’s Shadow、Lands、Eldraziなど、特殊地形に頼った多くのデッキとのマッチアップで投入されます。相手をロックすることができるので、実質追加のフィニッシャーとして機能します。

 プロツアー殿堂プレイヤーのOwen Turtenwaldは、過去のレガシーGPでもStonebladeで優勝経験があり、今大会でも青白のStonebladeでトップ16という好成績を残していました。

 Owenのリストは他のStonebladeと異なり、《秘密を掘り下げる者》《不毛の大地》も採用されるなど、テンポ寄りの構成となっています。

☆注目ポイント

 グランプリ・ワシントンD.C.2013でも、Jeskai Delverで優勝経験のあるOwenは、今大会では青白の2色に絞ることで《基本に帰れ》を無理なく運用できるように調整を施しています。

剣を鍬に

 相手にライフを回復させてしまう《剣を鍬に》は、一見するとDelver系の方向性にはあまりマッチしていないように思われますが、わずか1マナで環境の多くのクリーチャーを除去できる効率的なカードで、現環境のトップメタの一角である《死の影》とのマッチアップでも必須となるので当然メインフル搭載です。

秘密を掘り下げる者不毛の大地呪文貫き目くらまし
瞬唱の魔道士精神を刻む者、ジェイス議会の採決

 《秘密を掘り下げる者》《不毛の大地》、ソフトカウンターの《呪文貫き》《目くらまし》を採用している一方で、《瞬唱の魔道士》《精神を刻む者、ジェイス》といったコントロール向きのカードが採用されており、ロングゲームにも対応ができる構成で、オールラウンドに振舞えるような調整がされています。コンボやフェアデッキなど、多くのデッキとのマッチアップにおいて安定した立ち回りができますが、全体除去がないので《真の名の宿敵》などは対処が厳しそうです。

Interview with Brad Bonin( @Brad_Bonin

 今回、《基本に帰れ》をメインから採用したMiraclesでトップ4に入賞を果たしたBrad Boninにお話しを聞くことができました。アメリカ、ニュージャージー州BernardsvilleにあるショップのThe Bearded Dragonがスポンサーするチーム(The Bearded Dragon)に所属するプレイヤーで、今大会で使用したMiraclesについて記事も書いています。

--「フルフォイルのMiraclesを使っているところを何度か見かけたけど、どれぐらいの期間Miraclesを使っているの?」

Brad「Miraclesを使うようになってもう4年になるかな。ほかのデッキも試してみたりした時期もあったから、デッキを触っていたトータルの期間は多分3年ぐらいだと思うね。」

--「今大会に向けてどのような準備をしてきた?」

BradMOのリーグが主な調整手段で、ほかにはチーム戦に参加して経験を積んだのが大きかったね。あとはローカルでの練習にもかなり時間をかけた。」

--「今大会ではどんなデッキと当たることを予想していたの?」

Brad「主にUB Death’s Shadow、Eldrazi、Grixis Delver、RUG Delver、Grixis Controlと当たることを予想していた。参考までにUB Death’s Shadowとは6回、Grixis Controlとは3回も当たったよ。Miraclesは、アドバンテージを稼いでロングゲームに持ち込める遅めの環境では、とても良いチョイスになると思うね。」

死の影コラガンの命令秘密を掘り下げる者

--「一番印象に残ったマッチはある?」

Brad「一番印象に残ったマッチは、スイスラウンド8回戦目のReid Dukeとの対戦で、《最後の望み、リリアナ》の忠誠心が7になるまでに完璧なドローによって対応する必要があった。良いドローと良いプレイングもあって、《ヴェンディリオン三人衆》から《僧院の導師》に繋げることができて逆転することに成功した。」

最後の望み、リリアナ

--「次にレガシーの大会に参加するとしたら何か変更したい箇所とかはある?」

Brad「今のところ現在のスタイルが一番好きだから、2枚目の《議会の採決》を加える以外では特に変更したい箇所は見当たらないけど、《蓄積した知識》を採用した型も試してみたいと思っている。《蓄積した知識》の枠を確保するために、《予報》の他にも2枚のカードを外す必要があるけど、どのカードを外すのかはまだ分からないね。」

蓄積した知識

--「なるほど。今回はインタビューに協力してくれてありがとう。改めてトップ4入賞おめでとう。」

 各マッチアップについてのサイドボードのガイドについても質問しましたが、Brad Bonin本人の記事にてサイドのインアウトも含めて詳しい解説がされています。

 また《蓄積した知識》を採用されているアップデートバージョンも、現在ツイッター上に載せられています。

 Miraclesは、《剣を鍬に》《至高の評決》、そして何よりも《基本に帰れ》によってUB Death’s Shadowを始めとしたDelver系のデッキとのマッチアップでは有利が取れるデッキで、今後も安定した選択肢の一つとしてGrixis Controlと共によく見られるデッキとなりそうです。

SCGO Baltimore
Aggro Loam、Dark Depths、Brainstormを使った青いフェアデッキ以外のデッキも大活躍

2018年9月22-23日

  • 1位 4C Loam
  • 2位 Grixis Control
  • 3位 Golgari Depths
  • 4位 Grixis Control
  • 5位 4C Loam
  • 6位 Mono-Blue Painter
  • 7位 Grixis Reanimator
  • 8位 Eldrazi Post
Matthew Vook

Matthew Vook

StarCityGames.com

トップ16のデッキリストはこちら

 Miraclesの勝利に終わったグランプリ・リッチモンド2018から数週間後に開催されたレガシーオープンのSCGO Baltimore。

 グランプリ・リッチモンド2018で猛威を振るった《基本に帰れ》を採用したデッキに対抗するために、Grixis Controlは基本地形を増やしたりするなど、各々が環境の変化に柔軟に対応していました。

 青いデッキがほぼ上位を独占していた前回と異なり、今大会では4C Loamなど青いフェアデッキ以外のデッキの活躍も目立ちました。《突然の衰微》や多色マナ基盤を支えつつマナ加速にもなる《モックス・ダイアモンド》など、多色ながら《基本に帰れ》に対する回答になるカードが多数用意されていたことも勝因です。

SCGO Baltimore デッキ紹介

「4C Loam」「Grixis Control」

4C Loam

 《罰する火》《壌土からの生命》エンジンによってアドバンテージを稼ぎ、最終的に墓地を肥やすことで強化された《聖遺の騎士》で勝負を決めるAggro Loamは、《死儀礼のシャーマン》禁止前から環境に存在していました。禁止改定後の環境では、MiraclesやGrixis Control、Death and Taxes、UB Death’s Shadowなど、相性の良いマッチアップが多く、このタイプのデッキが苦手とするSneak and ShowやANTなどコンボデッキが減少傾向にありポジション的に有利です。

 Grixis ControlやMiraclesなど青いフェアデッキと異なり、ドロー操作や打ち消しにアクセスできないため、各マッチアップにおいて柔軟に対応していくことを要求されるので難易度は高めです。

 コンボデッキなど相性の悪いマッチでも、《虚空の杯》によってドロースペルなど、多くのアクションをシャットアウトすることで著しく減速させることもできます。ヘイトベアーの《スレイベンの守護者、サリア》《虚空の力線》など、サイドボードで相性もある程度までは改善させることが可能です。

☆注目ポイント

復讐のアジャニ情け知らずのガラク最後の望み、リリアナ

 多くのフェアデッキとのマッチアップ用に、サイドには異なる軸の勝ち手段として《復讐のアジャニ》《情け知らずのガラク》《最後の望み、リリアナ》といったプレインズウォーカーが多数採用されています。多くの場合《緑の太陽の頂点》とクリーチャー数種類と入れ替わります。

突然の衰微虚空の杯モックス・ダイアモンド

 Miraclesの《相殺》《基本に帰れ》といったパーマネントに触れる《突然の衰微》が使えるのもこのデッキの強みです。そのほかにもドロースペルをシャットアウトする《虚空の杯》、マナ加速の《モックス・ダイアモンド》もあるので相手の《不毛の大地》にも耐性があり、逆にLoamエンジンにより《不毛の大地》を使い回すことで、多色のデッキに対して無類の強さを見せます。

 プロツアーでも結果を残し、現環境のトップメタの一角として定着しているUB Death’s Shadowに対しても、《虚空の杯》とLoamエンジンが刺さり、《燃え柳の木立ち》によって《死の影》を対策できるのも地味ながら重要な要素です。このように環境に存在する多くのデッキに有利が付くので、良い選択肢となりえます。

暗殺者の戦利品

 『ラヴニカのギルド』から、《グルマグのアンコウ》《精神を刻む者、ジェイス》といった、《突然の衰微》では処理できないパーマネントに触れる《暗殺者の戦利品》が加入します。相手に追加の土地を与えてしまうというデメリットは、レガシーでは見た目以上に大きく、青いデッキが多いレガシーではカウンターされない《突然の衰微》と入れ替わることはなさそうですが、除去の選択肢が広がりそうです。

Grixis Control

 Miraclesとは異なり、ハンデスやカウンター、除去、プレインズウォーカーによって、1-1交換や2-1交換を繰り返していくことによってアドバンテージをコツコツ稼いでロングゲームを制する戦略で、レガシー版のJundとも形容されています。

 Death and Taxesなどクリーチャーデッキに強く、Sneak and Showなどコンボとのマッチアップも、ハンデスやカウンターなど妨害要素の多さで有利に立ち回ることができます。Landsや4C Loamのように、《不毛の大地》を使い回すことでロック状態に持ち込もうとするデッキに対しては不利が付きますが、環境の大抵のデッキと互角以上で、安定した勝率が望めるのがこのデッキの魅力です。

 Miraclesに対しては基本的に有利ですが、最近流行りの《蓄積した知識》を採用した型は、ハンデスによるアドバンテージを帳消しにされやすく、やや厳しいマッチアップとなります。

☆注目ポイント

悪意の大梟トーラックへの賛歌

 《悪意の大梟》は、クリーチャーで勝利を目指すデッキにとっては非常に厄介なクリーチャーです。コンボやコントロールに対しても《トーラックへの賛歌》など、容易に2-1交換が取れるカードが豊富なので、環境の多くのデッキと互角以上の勝負ができます。

コラガンの命令

 《コラガンの命令》は、Death and TaxesやStonebladeの装備品を対策しつつ、相手のクリーチャーを除去したり、墓地に落ちた《瞬唱の魔道士》《悪意の大梟》を使い回して更にアドバンテージを稼いだりと、ほぼ確実に2-1交換が取れる優秀なスペルです。他にもMono Red PrisonやEldrazi、Loamなどが使ってくる《虚空の杯》に対するアンサーにもなるのもポイントです。

血染めの月

 SCG Tourの強豪プレイヤーであるJonathan Rosumは、基本地形を4枚に増量することで、《基本に帰れ》などアンチ特殊地形カードへの耐性を上げています。逆にサイドに《血染めの月》を採用することで、特殊地形に頼ったデッキをシャットアウトすることも可能です。多色のこのデッキに《血染めの月》は、一見すると無茶なプランに思えますが、自分で出すタイミングを選択することが可能で、Eldrazi PostやLandsなどとのマッチアップでは、相手の方が被害が大きくなるので有効な戦略として機能します。

総括

 グランプリ・リッチモンド2018は、トップ16に《渦まく知識》を採用したデッキが13個と圧倒的多数で、非青デッキはEldraziとLandsのみでした。プロツアーを制したDeath and Taxesは、最大勢力のGrixis Controlとの相性が悪いこともあり、振るわなかったようです。

 SCGO Baltimoreでは、青いデッキが上位をほぼ独占状態だったメタと異なり、4C LoamやGolgari Depths、Eldraziなど、青いフェアデッキ以外のデッキも多数入賞していました。その中でも4C Loamは、Grixis ControlやUB Death’s Shadowなど、現環境のトップメタの青いデッキと相性が良いデッキで、環境最高の非青デッキの一つとして今後も見かけることになりそうです。

暗殺者の戦利品漂流自我ゴブリンのクレーター掘り

 『ラヴニカのギルド』では、《暗殺者の戦利品》以外にもコンボデッキやLoam系対策になりそうな《漂流自我》、Goblinsの新戦力となりそうな《ゴブリンのクレーター掘り》など、レガシーでも通用しそうなカードが数種類見られるので楽しみです。

 USA Legacy vol.145は以上となります。それでは次回の連載でまた会いましょう。楽しいレガシーライフを!

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